タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/10/21

【Views on China】習近平政権下の中国外交の方向性

早稲田大学 教育・総合科学学術院
教授 青山瑠妙

1.習近平政権の国内政策

 改革開放政策が採択されて30年あまり、中国は、その経済成長パターン、社会の構造など様々な意味で曲がり角を迎えようとしている。なによりも、社会的なひずみが大きくなり、国民の不満が高まっている。習近平体制にとって前体制から引き継いだ政策課題は山積しているが、だからこそ国内からは、既得権益を取り払い、改革をさらに推し進めていってほしいという新政権に対する期待も高かった。中国の今後10年間の政策はどのような方向性を有するのか、という問題が注目されているゆえんである。
 実際に、習近平体制に移行してから、すでに様々な政策展開が見られる。なかでも大きな取り組みとしては、「シャドーバンキング(影の銀行)」問題、汚職撲滅運動、そしてメディアをはじめとする世論に対する規制強化などがある。
 まず、中国では、銀行を介さない金融取引である「シャドーバンキング」が拡大している。中国政府は規制強化を通して、不良債権による金融危機を未然に回避しようとしている。それと同時に、中国政府は、投資主導の経済成長様式からの転換を図ろうとしている。不良債権をめぐる懸念が高まり、好調だった経済が減速しているなか、中国経済に対する不安の声が高まっているが、「リコノミクス」と呼ばれる李首相の経済政策が中国経済を軟着陸に導けるか、注目されている。
 新指導部による汚職撲滅の決意も固い。中央政府は地方や業種別に十以上の巡視グループを立ち上げ、70歳未満で、第1線から退いた元省長レベルの幹部をグループの責任者に据えた。司法に依拠するのではなく、社会主義時代の大衆路線を踏襲した反腐敗キャンペーンを通じて、政権の安定と正当性を確保する狙いがそこにはあるが、その効果にはおのずと限界があるかもしれない。
 共産党の自浄能力の向上に加え、社会に対する統制も強化されている。「民主化」、「人権」、「普遍的価値」といった表現は問題視されるようになっており*1、メディアに対する規制も厳しさを増してきている。

2.習近平政権の外交活動

 習近平が国家主席に就任した後の最初の外遊先として、ロシアが選ばれた。ロシア訪問に合わせて、習近平は南アフリカで開催されるBRICSの第5回首脳会議に出席したが、その機会をとらえ、タンザニア、コンゴ共和国も訪問した。中国の国内報道は、タンザニア、南アフリカ、コンゴの三カ国を「中国の良い兄弟であり、良い友であり、良いパートナー」と讃えた。特にタンザニアについては、「中国は苦楽を共にした古い友人を忘れることはない」と称している*2。そして「真珠の首飾り」の一環と取りざたされている、インド洋に面する大型港湾、バガモヨ港の整備に関する契約をタンザニア政府と結んだ。
 習近平の外遊に続き、李克強首相は2013年5月に、インド、パキスタン、スイス、そしてドイツを訪問した。李克強首相のインド訪問の約3週間前に、カシミール東部で人民解放軍とインド軍が対峙し、国境地域の緊張が高まっていた。両国の高官レベルの協議を通じて、李克強首相訪印の前に両国の軍隊が同時に撤退し、一応の解決を見た。そして、李首相のインド訪問中に中印共同声明が出され、35項目にわたる、国境や通商問題に関する合意事項が発表された。
 アメリカのアジア復帰政策が前面に打ち出されてから、中国では、パキスタンとの関係は「鉄のように固」く、パキスタンは中国の「政治的盟友、安全保障の遮蔽、経済の市場」と高く称えられるようになった*3。李克強の訪問中に発表された中パ共同声明には、東トルキスタンイスラム運動は両国の共通の脅威であることが明記された。
 スイス訪問中に、李克強首相はノイエ・チュルヒァー・ツァイトゥング紙に寄稿し、中国は「なぜスイスを選択したのか」について説明した。その理由は、スイスは中国を市場経済国として承認した最初のヨーロッパ国家であり、中国と自由貿易協定(FTA)を締結した最初のヨーロッパ国家であるという。
 李克強首相がドイツを訪問した時は、ちょうど中国製太陽光パネルに対する制裁課税が欧州連合(EU)各国の間で議論されていた時期にあたったが*4、李克強首相はメルケル首相からは課税回避の努力を行うとの言葉を引き出したという。
 2013年5月31日から6月初めにかけて、習近平国家主席は就任後2度目の外国訪問を行った。現在中国と国交を締結していない国家は23ヵ国であるが、その半数ほどはラテンアメリカ国家である。2008年に中国政府は「対ラテンアメリカおよびカリブ海地域政策文書」を発表し、同地域に対する重視姿勢を鮮明に打ち出した。そして今回、習近平国家主席はまず、カリブ地域に位置するトリニダード・トバゴを訪問した。トリニダード・トバゴでは、習近平主席はカリブ海地域の8ヵ国の国家指導者との会談を実現した。
 コスタリカは中国と国交を締結してからまだ6年しかたっていないが、中央アメリカ地域で唯一中国と国交を結んでいる国家である。そして2010年に中国とFTAを結んでいる。
 中国の外交政策において、G20の一員であるメキシコは重要な位置を占めている。習近平国家主席訪問中に、中国とメキシコの間で33項目を盛り込んだ共同声明が出された。
 トリニダード・トバゴ、コスタリカ、そしてメキシコが訪問先に選ばれた理由について、中国国内のメディアは、この3ヵ国はともに中国が提唱する中国ラテンアメリカ協力メカニズムの設立に賛成しているという。
 習近平国家主席の2度目の外遊の終着駅はアメリカである。8時間にわたる米中首脳会談は、特に注目の的となった。サイバー攻撃、北朝鮮の核問題、地球温暖化など両国の間には多くの問題が横たわっているにもかかわらず、最終的に両国が発表したのは、エアコンや冷蔵庫の冷媒として使われる代替フロンのハイドロフルオロカーボン(HFC)削減に向けた合意だけであった。
 米中首脳会談に関して、中国のメディアもアメリカのメディアも言葉こそ異なるが、ほぼ同じよう内容の報道を行っており、結局のところ、首脳会談の具体的なやり取りについては不明なままとなっている。中国からの「手土産」がなく、米中首脳会談の成果は乏しかったというのが一般的な見方であるが、中国の公式メディアによれば、米中首脳会談は「新しいタイプの大国関係」構築の模索であり*5、「両国の対立を管理する」ことに主眼が置かれているという。確かに両国間の意見の分岐と対立は一朝一夕に解決できそうなものではなく、一回の首脳会談で合意に到達できるものでもない。米中両国の間にはすでに90余りの政府間の対話チャンネルが構築されており、日中間の対話チャンネルよりはるかに多い。今後こうしたチャンネルを通じた米中の協議が実効を上げて、両国の対立を確実に管理できるならば、オバマ大統領と習近平国家主席の長時間の会合の意味は大きいといえるかもしれない。

3.習近平政権下の外交政策の方向性

 以上のように、習近平政権は社会の安定維持に尽力しつつ、政権の安定の確保、そして経済および産業構造の転換に取り組んでいる。国内の政策課題が重く、かつ山積しているなか、平和でなおかつ安定した国際環境を構築することは中国の外交政策にとって喫緊の課題となっている。
 近年、海洋問題をめぐり中国と一部の周辺諸国の関係が悪化し、またアメリカのアジア復帰政策により、問題が一層深刻化している。中国を取り巻く国際環境が変化しているなか、先述した習近平と李克強の外交活動からもわかるように、習近平政権の対外政策は以下のような特徴を有している。
(1) 安定した国際環境の維持が重要視されるようになった。こうした姿勢を反映した形で、中国はアメリカとの協調を最重要視しており、習近平とオバマの首脳会談に対する中国の公式評価にもみられるように、「米中の対立を管理する」よう努力を払っている。
 また、2013年7月、習近平国家主席は初めて中国の海洋政策について安定の維持も政策課題として提起したのである。この習近平発言は重要な意味を持つ*6。つまり、海洋主権問題について中国が譲歩する可能性は低いが、協調姿勢が台頭する可能性は大きいと考えられる。
(2) アメリカのアジア復帰政策が鮮明に打ち出されてから、中国は「井戸を掘った古い友人」を大切にする姿勢を全面に打ち出している。国家指導者の外遊先について、中国のメディア報道からもわかるように、それぞれの国が中国の利益を擁護していることを高く評価している。こうした中国のアプローチに対する海外の反応には温度差があり、必ずしも中国の意図した形で中国の対外関係が進んでいるわけではない。だが、アジア復帰政策を展開するアメリカに対する強いメッセージという意味では、成功しているかもしれない。
(3) 国家指導者の外遊先からもわかるように、アジア、アフリカそしていまではカリブ海地域やラテンアメリカまで、中国の影響力がグローバルに浸透し始めている。台頭する中国は、インド、メキシコ、南アフリカをはじめ、G20、BRICSなどの国際舞台における新興勢力との関係を強化している。また、エネルギー供給地域との関係強化も新政権にとっての重要な政策課題となっているようである。
 以上のように、習近平政権はいまのところ国内の政策難題に精力を費やしている。国内問題を優先している政権にとっては、安定した国際環境を維持するために対外政策において協調的な姿勢をとる可能性が高いが、他方において強硬姿勢を示して国内の団結と支持を図る手段に出ることも十分にありうる。現在、習近平政権は胡錦涛政権体制の対外政策を引き継ぎ、国際秩序における発言権と影響力の拡大に尽力しながらも、安定した国際環境の維持にも一層留意するようになっている。

*1“China Takes Aim at Western Ideas”, The New York Times, http://www.nytimes.com/2013/08/20/world/asia/chinas-new-leadership-takes-hard-line-in-secret-memo.html?pagewanted=all&_r=1&(2013年8月20日アクセス)。
*2「新春新旅伝新意――国家主席習近平訪問俄羅斯和非洲三国並出席金磚国家領導人会晤前蟾」、新華ネット、http://news.xinhuanet.com/world/2013-03/18/c_115067812.htm(2013年6月19日アクセス)。
*3羅照輝(当時の外交部部長補佐)「2011年中国的亜洲外交」、http://fangtan.people.com.cn/GB/147553/237748/index.html(2012年1月5日アクセス)。
*42013年7月に、中国とEUの間で、最低価格を設けることで妥協した。
*5米中の新しいタイプの大国関係に関する議論については、小原凡司「米中接近の意味」、http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1165(2013年8月8日アクセス)を参照。
*6M. Taylor Fravel, “Xin Jinping’s Overlooked Revelation on China’s Maritime Disputes”, The Diplomat, http://thediplomat.com/2013/08/15/xi-jinpings-overlooked-revelation-on-chinas-maritime-disputes/(2013年8月20日アクセス)。

青山瑠妙
慶応義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。法学博士。
2005~2006年、スタンフォード大学客員研究員。現在、早稲田大学教育・総合科学学術院教授。専攻は現代中国外交。近著に、『現代中国の外交』、2007年、慶応義塾大学出版会。『中国のアジア外交』(近刊)、東京大学出版会。