タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/7/20

【Views on China】成功だった米中戦略経済対話



東京財団 研究員

小原凡司

中国が戦略経済対話に求めるもの

2014年7月9日及び10日、北京において開催された「米中戦略経済対話」(以下、「対話」)の成果について、日本では否定的な報道が多い。確かに、9日の開幕式で習近平主席が「対立を避け、協調すべきだ」と演説した*1にもかかわらず、多くの分野で米中の対立姿勢が鮮明になった。

2014年5月、米国司法省は、サイバー攻撃によって企業のシステムに不正侵入し企業情報を盗んだとして中国人民解放軍の将校5人を起訴したが、中国側は容疑を否定し、猛反発した。新たに米司法省がアクターとして登場したことにより、米中サイバー戦は新たな段階に入ったとも言われる*2。しかし、中国は、米国の批判を受け入れないどころか、「対話」において、中国も被害者であると主張し、「この問題を他国の利益に損害を与える道具にすべきでない」と米国の態度を批判した*3

また、東シナ海や南シナ海における中国の行動に対して、米国は厳しく非難するとともに「国際法とルールを守るよう」求めたが、中国は「領土主権と海洋権益を断固として守る」と反発し、反対に、米国に対して「客観的で公正な立場を取るよう」求めた*4。当事国間での解決にこだわる中国が、米国に「手を出すな」と言っているのだ。 しかし、こうした厳しい対立の情況を以って「成果がなかった」というのは、米国側に立った見方であり、中国側の見方ではない。中国が「戦略経済対話」に求めているものは、米国のそれとは異なっている。

中国は、「対話」を、単純に「問題解決の場」或いは「緊張緩和の場」とは認識していない。むしろ、現在の中国は、「対話」を「対立を強調する場」として利用しているのではないか、そして、それだけ厳しい対立があっても米中は衝突しないのだということを示したいのではないかと考えられる。

分割から対立的共存へ

上記のような中国の認識は、中国の言う「新型大国関係」の説明に現れている。中国によれば、「新型大国関係」とは、「大国同士が対抗を繰り返してきた伝統を破る、新しいモデル」である。釣魚台国賓館で始まった「対話」での演説で、習主席は、「新型大国関係」に9回も言及した*5。これは、中国が「対話」において「新型大国関係」の構築を主張することに固執していることを示している。

「新型大国関係」とは、米中間に対立がある状態を認めた上で、それでも軍事力を以ってではなく、議論を通じて問題解決を図る関係を言う。また、協力できる部分は協力し、全面的な対立を避けるものでもある。ケリー米国務長官は、「歴史上、台頭する大国と既存の大国は戦略的な敵対関係となってきたが、それは避けられないことではなく、選択の問題だ」と述べ*6、部分的に中国のアプローチを受け入れた。

ここで問題になるのは2点だ。1点目は、「対立があっても議論で解決を図る(武力行使しない)」という点だ。中国にとって最も欲しいのは、中国が権益拡大のために行動しても、米国が中国に対して武力行使しないという保証である。

「対話」の開幕式における演説の中で、習主席は、「広大な太平洋は米中両国を受け入れられる」と述べた*7。これは、2013年6月8日の米中首脳会談において、習主席がオバマ大統領に述べた「太平洋は二つの大国にとって十分な空間がある」*8という表現と同様である。しかし、これらの表現は、2007年5月にキーティング太平洋軍司令官(当時)が訪中した際に中国側から提案された「太平洋分割管理」とは異なるものだ。

現在、中国が目指しているのは、米国との「共存」である。中国は、特定の地域から米軍の活動を排除できないことを理解している。もちろん、中国は現在でも、中国の影響力が及ぶと考えている地域、特に東アジア及び東南アジアから米軍を排除したいと考えている。しかし、現在の中国にはその実力がない。中国は、このことを理解しているという意味である。 2013年3月頃に日中関係改善に見切りをつけた中国は、4月から米国との直接対話に力を入れ始めるが、6月の米中首脳会談では、米中の協調的共存は難しいことが明らかになった。米中関係は、双方の価値観・権益が衝突する対立基調なのだ。それでも、米国を排除する実力がない以上、共存しなければならない。対立的共存である。

中国が、「太平洋には二つの大国にとって十分な空間がある」と述べるのは、「アジア太平洋地域において、米中二大国は自由に行動してかまわない。中国は米国の邪魔をしないから、米国も中国を邪魔するな」という呼びかけでもある。

中国が「大国」を強調する意味

2点目は、米中が「大国関係」を議論している点である。中国がライバルとして意識するのは米国のみだ。中国は、アジア太平洋地域における安全保障環境を、米中という二大国が決めていくのだと考えている。こうした中国の大国意識は、2014年5月30日~6月1日の間、シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」の中でも見られた。中国人民解放軍副総参謀長・王冠中中将が演説の最後で「アジア太平洋の安全保障について大国が主たる責任を有する」と述べたのである*9

ケリー国務長官が、米中関係を過去の大国間の対立と比較したことで、少なくとも米国が、米中関係が大国同士の関係であることを認めたことになった。しかし、問題なのは、米中で「大国の関係」に込める意味が異なることである。中国は、「大国間での対立を避ける」と述べているのであり、「全ての国との対立を避ける」とは述べていないのだ。中国と、中国が言う「小国」との間での対立は、中国にとって、アジア太平洋の安全保障環境を語る上で問題にはならないということを示唆する表現である。

米国は、この中国の意図を理解しているように見える。「新型大国関係」に対して、非常に慎重に対応しているのだ。7月8日に発表されたオバマ大統領のステートメントは、「二大国」という表現を一度用いただけで、後は、「我々二つの国」及び「我々の国」という表現を用いて、「大国」という表現を避けている。また、中国が言う「新型大国関係」についても、「中国との新たなモデルの関係」と表現し、「中国が目指す世界」構築の議論に米国が乗っていないことを示すための配慮が見える*10

中国にとっては成果があった「対話」

しかし、実際には、米中軍事衝突を避けたいのは中国だけではない。米国としても、中国との戦争は避けたい。自国及び世界経済に与える影響が大きいからだ。米国は、対話を通じて、中国が国際法及びルールに則って行動するよう要求している。一方の中国は、東シナ海や南シナ海の問題は二国間の問題であるとして、米国に手を出すなと言う。

中国は、こうした根本的な対立があっても米中が軍事衝突しないということを確認したかったのだ。そして、少なくとも、米国は議論によって問題を解決すること、及び協力できる部分は協力することに同意を示した。 さらに、「対話」における厳しい対立は、中国国内に向けても、中国指導部が弱腰ではないことを示すものだ。それどころか、米国と正面から堂々と渡り合っているという印象を与えることにもなる。

今回の「米中戦略経済対話」は、中国にとって、必ずしも得るものがなかった会議ではない。むしろ、中国が当面の間追求しなければならない、米国との対立的共存について、自信を深めた一面もあると考えられる。

*1「習主席「対立避け協調を」米中対話が開幕」『日本経済新聞』2014年7月9日、http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM09012_Z00C14A7MM0000/
*2「米中、仁義なき「サイバー戦」に突入」『日本経済新聞』2014年5月23日、http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2103V_R20C14A5000000/
*3「米中戦略・経済対話 重要問題で前進なく閉幕」『産経ニュース』2014年7月10日、http://sankei.jp.msn.com/world/news/140710/amr14071022350009-n1.htm
*4「米中戦略・経済対話 重要問題で前進なく閉幕」『産経ニュース』前出
*5「米中戦略・経済対話、「新型大国関係」への道筋不鮮明」『朝日新聞DIGITAL』2014年7月9日、http://www.asahi.com/articles/ASG795J60G79UHBI01N.html
*6「習主席、対米関係の改善を訴え-戦略・経済対話」“The Wall Street Journal”2014年7月10日、http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303379504580019901449358726
*7「習主席「対立避け協調を」米中対話が開幕」『日本経済新聞』前出
*8「米中、ひざ詰め8時間」『朝日新聞』2014年6月11日
*9“Major Power Perspectives on Peace and Security in the Asia-Pacific:Lieutenant General Wang Guanzhong”、Shangri-la Dialogue – The IISS Asia Security Summit、01 June 2014、http://www.iiss.org/en/events/shangri%20la%20dialogue/archive/2014-c20c/plenary-4-a239/wang-guanzhong-2e5e
*10“Statement by the President to the U.S.-China Strategic and Economic Dialogue”、The White House Office of the Press Secretary、July 08, 2014 、http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2014/07/08/statement-president-us-china-strategic-and-economic-dialogue