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【Views on China】中国の軍事活動2015(2) -米中「新型大国関係」を追求する中国-

February 22, 2016


東京財団
小原 凡司

機能しない米中「新型大国関係」

しかし、当の米中関係は、中国の思いどおりに進展していない。米国は5月、南シナ海における中国の活動をCNNに報道させ、中国が力を以て国際規範を変更し、国際社会に挑戦していることを世界に知らしめた [i] 。中国にとっては衝撃だ。米国と水面下で落としどころを探せると考えていたからだ。米国は、少なくとも南シナ海について、中国と水面下で交渉することを拒んだ。中国が求める米中「新型大国関係」の否定でもある。さらに中国に圧力をかけたのは、米国防総省スポークスマン・ウォレン大佐の、「ポセイドン(P-8A哨戒機)は中国が主張する人工島周辺12海里の領空に進入していない。しかしそれは、将来、起こり得る」という発言だった [ii]

中国は、米国の態度に反発し、強硬な発言にも及んだ。5月31日、中国の孫建国副総参謀長が、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で講演し、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で中国が進める岩礁の埋め立てについて、「完全に主権の範囲内であり、合法で道理にかなったものだ」と主張した。カーター国防長官が30日に要求した埋め立ての即時中止に応じない考えを示したのである。さらに、中国が埋め立てによって建設を進める「人工島」は「軍事防衛の需要を満たすため」と説明した [iii] 。中国の軍人が、人工島建設の目的が軍事的なものであると認めたのは初めてである。

米中の圧力と中国の譲歩

米中が強い姿勢を示し合った形になった後、中国は譲歩の姿勢を見せ始めた。中国外交部が6月16日、南沙(スプラトリー)諸島で進める暗礁等の埋め立てについて、「既定の作業計画に基づき、埋め立て作業は近く完了する」と発表したのである [iv] 。直後の6月23日からワシントンで開催される米中戦略・経済対話(SED)の前に、米国との摩擦を避ける狙いがあったと言われる。

しかし、中国の譲歩の姿勢は、米国に一蹴される。ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)が、6月18日、南沙(スプラトリー)諸島での岩礁埋め立てと軍事拠点化の中止と、「航行と飛行の自由」の尊重を中国側に求める考えを示した [v] 。ラッセル国務次官補は、「南シナ海における海洋の領有権問題では両国に非常に重大な相違がある」と述べ、中国が埋め立てた土地に軍事施設の建設を続けようとしていることについて、「米国だけではなく周辺諸国が懸念している」と批判した。

その結果、戦略・経済対話において、リベラルで知られる米国のバイデン副大統領でさえ、強い口調で 「海上交通路が開かれ、守られていることがこれまで以上に重要になっている」と述べることになった。米国として、中国による南シナ海での一方的な行動を牽制する姿勢を見せ、ケリー国務長官も、「南シナ海や東シナ海の緊張を緩める必要性についても議論する」として、中国に圧力をかけた [vi]

米国の対中圧力ステージアップ

米国から批判され、防戦一方に見える中国であるが、米国が納得する譲歩をした訳ではない。その結果、米国は、軍事的圧力を一段高めることになった。2015年10月27日早朝、米海軍イージス駆逐艦「USS82ラッセン」が、南沙(スプラトリー)諸島のスビ礁から12海里以内の海域を航行した。「航行の自由」作戦である。スビ礁は、中国が暗礁を埋め立てた人工島だ。同日、上院軍事委員会の公聴会でカーター国防長官は、当該海軍作戦の実施を認めた上で、艦艇派遣を繰り返す考えを示唆した [vii]

米国防総省の思惑通りに対中圧力の段階が上げられているとは言え、これだけ進展が遅いのは、「航行の自由」作戦にオバマ大統領の承認が必要だからである。国防総省は、オバマ大統領が対中認識を変え、作戦を承認する機会を待たなければならなかった。9月25日の米中首脳会談である。

話せばわかると考えるオバマ大統領がついに怒り、中国との対話に見切りをつけたのは、9月24日の夕食における習近平主席の態度であった。ごく少人数なら本音で話してくれると考えたオバマ大統領は、晩さん会とは別に、側近だけの私的な会食を用意した。オバマ大統領が取り上げたかったことの一つが、中国の人工島建設及びその軍事施設化だった。

ところが、複数の米政府筋によると、オバマ大統領はかなりの時間を割いて、軍事施設の建設をやめるよう求めたにもかかわらず、習近平主席はまったく取りあわなかった。その夕食会の直後、憤ったオバマ氏は側近に命じ、ただちにハリー・ハリス米太平洋軍司令官に連絡させ、「南シナ海での作戦を承認する」と指示したという [viii]

中国指導部の危険な綱渡り

中国が完全に譲歩しないのは、ホワイトハウスと国防総省の間に溝があるのを理解し、様子を見ているからだ。しかし、中国にとっては、米軍が、中国が主権を主張する海空域で行動することは極めて重大な問題である。中国人民解放軍の乙暁光副総参謀長が、中国の人工島周辺に米軍艦が再度進入した場合、「一切の必要な措置を取り、国家主権と海洋権益を守る」と対抗措置を辞さない姿勢を示したのは [ix] 、中国指導部の危機感の裏返しである。

中国指導部が危機感を募らせるのは、米海軍の「航行の自由」作戦に対して、中国が強硬に米艦艇を排除しても、抑制された対処をしても、中国指導部が権威を失い、共産党の一党統治が危機に陥る可能性があるからである。12海里以内の海域への進入が1回だけであれば、中国指導部も「中国海軍艦艇が米海軍艦艇を追尾、監視し、米海軍艦艇は、中国海軍艦艇の警告に従って12海里外の海域に出た」と言える。しかし、これを繰り返されると、中国国内から「指導部は、米海軍の行動に対して何の手も打てない」という批判が起こる。

それは、二重の意味で、中国が自らの首を絞めているからでもある。国連海洋法条約は、海軍艦艇にも無害通航権を認めている。中国は、国連海洋法条約に加盟しているが、1992年に制定した国内法である「領海法」を優先し、中国領海における外国海軍艦艇の無害通航権を認めていない。

本来は、中国が領海と主張する海域に米海軍艦艇が進入しても、「無害通航だから対処しない」と言えば済む話だったのだ。さらに、中国は国内で、「航行の自由」作戦を強く非難する報道を流し、国民に知らしめてしまった。中国は、米国に対抗する能力を誇示してきた手前、今更、米海軍の作戦に何の対処もできませんとは言えない状況になっているのだ。

一方で、批判を避けるために、中国が米海軍艦艇に対して、より強硬な対応を採れば、予期せぬ衝突が生起する可能性がある。これがエスカレートすれば、米中軍事衝突に発展する。そして中国は、現段階で、米国との戦闘に勝利できる見込みがないのだ。小規模の戦闘であっても、米軍に敗北を喫することになれば、中国共産党の威信は地に落ちる。

2015年10月に、中国国防大学政治委員の劉亜州上将が発表した論文は、「日中が戦争状態になれば、中国は勝利する以外に選択肢がなく、退路が断たれる。一方の日本には、勝利して莫大な利益を得る、敗北しても損失は小さい、講和して部分的な利益を得る、という三種類の結果が考えられる。米国には、さらに多くの選択肢がある。日本は敗北を恐れず、中国は敗北する訳にはいかない。もし敗北すれば、国内問題は国際化し、国際問題は国内化する」と主張する [x]

劉亜州上将が述べるのは、尖閣諸島をめぐる日中関係であるが、その記述は、中国が日本の背後に米国を見ていることを窺わせる。また、戦闘における敗北が中国共産党の統治を危うくするという危機感を滲ませている。

米海軍艦艇との衝突に備える中国海警局

中国は、米海軍を排除するために強硬な手段を採る場合には、海警局の巡視船を使用する可能性が高い。海軍同士が接触すると、事態がエスカレートする可能性がより高くなるからだ。南シナ海に展開する中国艦船の数は、米海軍のそれを圧倒的に上回っている。中国は、米海軍艦艇の行動を妨害するために、巡視船を並べて、12海里以内への進入を阻止したり、米海軍艦艇を取り囲んだりすることも出来る。

こうした行動が採られれば、双方の船体が衝突する可能性が高くなる。2014年1月に北京で開催された国家海洋局主催の「全国海洋工作会議」は、海警局の巡視船を新たに20隻建造することを決定した。当時の中国メディアは、1000トン以上の巡視船について2015年までに現在の約2倍に相当する50隻以上の保有を目指していると報道した。20年前後には世界最強の米国沿岸警備隊に匹敵する規模に達するとの見方を伝えている [xi]

実際に、2015年5月には、76ミリ速射砲という軍艦が搭載するのと同様の艦砲を搭載した、1万トン級の「海警2901」が航海試験を実施していることが確認された [xii] 。船体を大型化するのは、相手の艦船に体当たりして排除することを想定しているためだという。そして、衝突によって、米海軍艦艇側に損害が出れば、周辺に展開している米海軍艦艇が現場に急行する。米国にしてみれば、公海で発生した米海軍の被害であるから、捜索救難は自らの手で行わなければならない。一方で、中国にとっては、現場は自国の主権を主張する海域である。他国軍に自由に活動させる訳にはいかない。

そして、2016年1月には、新たに5000トン級の巡視船が4隻建造され、2隻が東シナ海に配備されたと報じられた。また、中国海軍フリゲート3隻が改造を終えて、巡視船として海警局に配備され、すでに尖閣諸島周辺海域に出没している。「海警31239」と番号を表示したこの巡視船は、37ミリ連装機銃と思われる装備を4基とも残したままだ。さらに、中国は、海軍の駆逐艦を2隻改造中である [xiii]

中国は、米海軍及び海上自衛隊艦艇に対する強硬な手段の準備として、海警局の巡視船を増強しているのだ。

実際の戦闘では中国海軍は米海軍に及ばない

しかし、実際に衝突が起これば、米中共に、以後の状況は計算できない。米海軍艦隊が高速で近接してくれば、中国海軍も海警局も緊張する。恐怖は、エスカレーションの引き金になる。ここで問題になるのは、巡視船乗員の練度である。海警局は、最近急速に巡視船の隻数を増加させ、例え海軍からの移籍があっても、乗員の教育訓練が間に合っていない。艦船の乗員は、一朝一夕に養成できる訳ではない。巡視船の1隻が、恐怖をコントロールできずに発砲すれば、米国は躊躇なく軍事力を行使する。

例え中国海軍が出てきても、ネットワーク化された米海軍の艦艇や航空機と、バラバラの中国海軍では、その戦闘能力に大きな差がある。平時では、数に勝る中国が優勢を保てるかもしれないが、ひとたび戦闘になれば、その優位は吹き飛んでしまう。

もう一つの衝突の可能性は、航空機同士の接触事故に端を発するものである。航空機同士の接触事故は、可能性は艦艇の衝突より低くとも、生起すれば事態が容易にエスカレートする。

海上での問題なら警察力での対応が可能だが、対領空侵犯措置は、最初から空軍の任務だからだ。米国は、中国の譲歩に満足しなければ、「航行の自由」作戦のステージを上げる。より緊張を強いる、航空機による12海里進入もその一つである。米軍が航空機による活動を始めたら、中国は空軍で対処せざるを得なくなる。

米中緊張の更なる高まり

そして実際に、米軍機が中国人工島から12海里以内の空域を飛行した。2015年12月18日、米国防総省は、「米軍のB-52戦略爆撃機が、中国の人工島から2海里上空を飛行した」ことを明らかにした。中国は、外交ルートを通じて正式に抗議したが、米国は、今回の飛行は、「航行の自由」作戦ではなく、意図されたものではなかったとしている [xiv]

米軍機が、誤って進入したということには疑問も残るが、中国にとってそれよりも重要なことは、中国が何の対処もできないということである。米国防総省のスポークスマンは、ご丁寧にも「中国がスクランブル等の対応をした形跡はない」とも話している。中国は何もできなかった、と言ったのだ。米国がいくら誤りだと釈明しようと、中国は、米国の軍事的圧力を強く感じたはずである。

メンツを潰された中国空軍の心理としては、より強硬な手段をとってでも、米軍機を排除して成果を上げたいだろう。心理状態は操縦にも影響を与える。また、空中にある航空機は、完全に操縦士の意のままに運動する訳ではない。機体と機体の間隔が小さくなれば衝突の可能性は高くなる。

さらに、日本が南シナ海における継続的パトロール等に参加することになれば、中国は、東シナ海において日本に対するけん制を強めることになる。南シナ海における事象と東シナ海が連動する可能性もあるのだ。

中国にとっての南シナ海の重要性

表面化した米中対立の様相は、米中両国の、南シナ海に対する重要性の認識を示している。まず、中国にとって、南シナ海のコントロールは死活的に重要である。その理由は、大きく3つある。

第一は、海底資源である。第二は、海上輸送路の安全の確保である。中国は、マラッカ海峡等のチョーク・ポイントで米海軍が中国の海上輸送を妨害する可能性を恐れ、パキスタンのグワダル港から新疆ウィグルへ、ミャンマーのチャウピュー港から昆明へのガスと石油のパイプライン及び鉄道や高速道路等の複数の代替ルートを建設している。しかし、国境を跨がずに大量の物資を輸送できる海上輸送をあきらめることはない。海上輸送を維持しつつ、マラッカ海峡通峡を回避するため、タイのクラ運河建設を進めたいのだ [xv]

そして、第三が軍事的な理由である。中国は、米国が中国の経済発展を妨害することを恐れている。そして、米国が採りうる手段の中には、軍事力が含まれる。中国は、米国が中国本土に対して核攻撃を含む軍事攻撃をしかける可能性も検討する。

中国は、現状では米国との戦争に勝利することが難しいことから、軍事衝突を回避することが重要であると認識している。そのために核抑止は不可欠である。核抑止を確実にするためには、米国の核先制攻撃を生き残る核兵器が必要である。

最終的な核報復攻撃の保証たり得るのが、核弾頭搭載弾道ミサイルを発射可能な原子力潜水艦、戦略原潜である。中国の戦略原潜が搭載する弾道ミサイルJL-2の射程は8000キロメートル前後であるとされ、戦略原潜が太平洋に展開しなければ米国全土を射程に収めることはできない。

そのため、中国海軍は太平洋において戦略原潜の戦略パトロールを実施しなければならない。中国海軍は、以前は戦略原潜を北海艦隊に配備していたが、海上自衛隊及び米海軍に探知されるため、隠密裏に東シナ海から太平洋に入ることは難しい。いったん探知されてしまえば、核報復攻撃の保証にはならない。米海軍の攻撃型原潜に追尾されてしまうからである。2000年代半ば、中国海軍は、南海艦隊に属する海南島の海軍基地を拡大し、094型「晋」級戦略原潜及び093型「商」級攻撃型原潜を配備している。

さらに、地中海沿岸地域等で米国と軍事プレゼンス競争を展開するに当たり、中国自身の軍事力が米軍に及ばないため、米軍の影響力を低下させて対等の影響力を維持したいと考え、南シナ海において米海軍にコストを強要するのである。


[i] “Exclusive: China warns U.S. surveillance plane”CNN, May 21, 2015, http://edition.cnn.com/2015/05/20/politics/south-china-sea-navy-flight/index.html
[ii] “China says U.S. South China Sea actions 'irresponsible, dangerous'” Reuters , May 22, 2015, http://www.reuters.com/article/2015/05/22/us-usa-china-southchinasea-idUSKBN0O70MO20150522
[iii] 「南沙埋め立ては「軍事目的」…中国軍幹部が明言」『読売ONLINE』2015年6月1日、 http://www.yomiuri.co.jp/world/20150531-OYT1T50096.html
[iv] 「中国外務省、南シナ海「埋め立て近く完了」 米との摩擦回避か」『日本経済新聞』2015年6月16日、 http://www.nikkei.com/article/DGXLZO88122440W5A610C1EAF000/
[v] 「中国の南シナ海軍事拠点化を批判 米国務次官補「航行や飛行の自由に脅威」」『産経ニュース』2015年6月19日、 http://www.sankei.com/world/news/150619/wor1506190031-n1.html
[vi] 「米中、南シナ海巡り応酬 戦略・経済対話始まる」『日本経済新聞』2015年6月24日、 http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM23H8I_T20C15A6FF2000/
[vii] 「米、南シナ海で作戦継続=対中関係は「極めて重要」-米国防長官」『時事通信』2015年10月27日、 http://www.jiji.com/jc/zc?k=201510/2015102800051
[viii] 「オバマ氏、ついに怒る」『日本経済新聞』2015年10月25日、 http://www.nikkei.com/article/DGKKZO93226400V21C15A0PE8000/
[ix] 「【南シナ海緊迫】中国軍幹部、米軍艦再進入なら「一切の必要措置を取る」『産経ニュース』2015年11月3日、 http://www.sankei.com/world/news/151103/wor1511030036-n1.html
[x] “劉亜州上将:従釣魚等問題看中日関係”≪人民網≫2015年10月9日、 http://military.people.com.cn/n/2015/1009/c1011-27677571.html
[xi] 「中国海警局「2020年には世界最大」 中国紙、来年1千トン超巡視船50隻以上保有へ」『産経ニュース』2014年1月22日、 http://www.sankei.com/world/news/140122/wor1401220028-n1.html
[xii] “中国万?海警船:撞??船自己不吃?”≪?事?条≫2015年8月6日、 http://m.toutiaojunshi.com/Home/ArtDetailed/147743
[xiii] 「中国、海軍艦改造し尖閣海域投入 機関砲を搭載」『神戸新聞』2016年1月5日、 http://www.kobe-np.co.jp/news/zenkoku/compact/201601/0008696606.shtml
[xiv] “U.S. Bomber Flies Over Waters Claimed by China” The Wall Street Journal , Dec. 18, 2015, http://www.wsj.com/articles/u-s-jet-flies-over-waters-claimed-by-china-1450466358
[xv] 「中国がタイで「クラ地峡」運河を建設? 実現可能性はあるのか」『マイナビニュース』2015年6月23日、 http://news.mynavi.jp/news/2015/06/23/455/
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