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中国18全大会を受けて ―政治状況に関して

December 5, 2012

中国18全大会を受けて ―政治状況に関して


慶應義塾大学法学部准教授
小嶋華津子


中国共産党第18回党大会(11月8日~14日)、第18期中央委員会第一回全体会議(11月15日)を経て、中国では国家を率いる党指導部が交代した。

大会の日程が通例に比して1カ月も遅れる事態に、新指導部のポストをめぐる胡錦濤グループ(共青団派)と江沢民グループの熾烈な確執が取りざたされたが、ふたを開ければ7名の政治局常務委員のほとんどが、江沢民に近い指導者で占められ、一時は常務委員会入りが報じられていた李源潮や汪洋は政治局員にとどまる結果となった。胡錦濤自身、中央軍事委員会主席ポストを含む全てのポストからの完全引退が決まった。胡錦濤は、完全引退にあたり、周囲にも「長老政治」の終結を求めたが、中国の政治がこれを以て「長老」の介入から解放されるとは考えにくい。今後も、党内の人脈が政治に与える影響を見定めていかねばならないだろう。

18全大会における胡錦濤の報告および習近平の所信表明からは、格差の拡大や汚職の蔓延により社会不安が極まっている現状に対する指導部の強い危機意識が感じとれた。重慶市で毛沢東賛美を煽り、「共同富裕」、「やくざ組織の打倒」、「汚職取り締まり」を強行した薄熙来(元党委書記)は失脚に追いやられたものの、一部の国民の間に極左志向が広がりつつあることは、尖閣諸島国有化に端を発する反日デモに、毛沢東の肖像画を掲げた多くの毛沢東支持者が参加した事実からも明らかである。年間18万件とも伝えられる集団抗争事件は、格差や汚職に対する国民の怒りが臨界点に達しつつある現実を、指導部に突き付けている。胡錦濤の報告、習近平の所信表明はいずれも、国民の所得倍増、格差の是正、汚職の取締り、権力に対する監督の強化という方向に貫かれたものであった。習近平の所信表明に繰り返し登場した「中華民族の偉大な復興」という勇ましい文言も、怒れる国民をナショナリズムの下に結集させんとする対内的配慮の現れと理解できる。

格差の是正、汚職の予防・取締りのいずれも、胡錦濤政権が最重要課題としてとりくんできたことである。それにもかかわらず深刻化の一途をたどる情勢を前にして、もはやこれまでのやり方で事態の打開が見込めないことは指導部の目にも明らかであろう。やらなければならないことは、国有企業ばかりが優遇される経済メカニズムの打破、税制度の抜本的な改革、司法の独立、そして多様な利益をくみとれるような政治制度の構築である。胡錦濤の報告が「政治体制改革」に一章を割いたことに注目すべきだとする見解もある。しかし、その公表された内容は、人民代表大会制度や政治協商会議制度の充実、基層民主制度の整備、法治国家の建設、権力に対する監督制度の整備など、従来の漸進的な改良の域を超えるものとは思われない。また、「公有制経済の強化と発展は不変である」、「閉鎖的で硬直化した古いやり方を踏襲せず、旗幟を改める誤った道を進むこともしない」などの表現をみても、抜本的な変革への意向は感じとれない。

これまで目立つことを避け、周囲との協調を重視してきたといわれる習近平は、自らの最大のリソースである人脈を生かして、政治改革を推し進めることができるだろうか。あるいは人脈に縛られるがゆえに、既得権益にメスを入れられずに終わるのか。経済通の王岐山の中央規律検査委員会書記就任が決まるなか、実質的に政策を遂行する李克強以下国務院の陣容がどのような布陣になるのか、ひきつづき注目していきたい。

    • 慶應義塾大学法学部准教授
    • 小嶋 華津子
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