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中国18全大会を受けて ―外交・国防の領域に関して

December 5, 2012

中国18全大会を受けて ―外交・国防の領域に関して


東京大学大学院情報学環教授
松田 康博


中国共産党第18回全国代表大会(18全大会。以下、類似の大会は同様に記す)で行われた胡錦濤総書記の報告(以下、胡錦濤報告)の外交部分では、近年緊張する局面が増えた日本、米国および東南アジア諸国との関係を緩和するための「工夫」が散見された。「われわれは先進諸国との関係を改善し、発展させる」とあるのは日本および米国を示唆しているものと考えられる。17全大会の報告に「改善」という用語は見られなかった。

また、胡錦濤報告で、焦点の「核心利益」という用語は使用されなかった。2011年の『中国的和平発展』白書で正式に使われた用語が今回使用されなかったのは、南シナ海問題や尖閣諸島問題などに関して、「武力を使うのではないか」という疑念を引き起こしたくなかったためであろう。また、「国の海洋権益を断固守り、海洋強国作りに取り組む」の一文は、国防や外交ではなく、「生態文明建設を大きく推進する」の節に配置された。全体として、「和平発展」の大戦略に大きな変更はないと見なすことができる。

胡錦濤報告の国防部分では、17全大会に続き、「富国と強軍の統一を堅持」するという表現を用いて、経済建設と軍事力強化を同時に進める意思表示をあらためて明らかにした。また、党大会の報告としては初めて「2020年までに機械化の建設がほぼ実現し、情報化の建設には大きな進展がみられるよう努めなければならない」として、達成目標が具体的に記された。全体として、17全大会に比べて具体的な表現が増えたものの、これまで国防白書等で述べられてきた近代化路線の方向に変化は見られない。

むしろ、今回は中央軍事委員会人事において、異変が起きた。通例では党大会の後の第1回中央委員会全体会議(1中全会。以下、類似の大会は同様に記す)で、党の中央軍事委員会人事が決められる。彼等は軍の主要ポスト(国務院国防部長を含む)に内定し、おおむねその後に、4総部のトップ、海空軍および第二砲兵のトップが正式に任命され、翌年3月の全人代で正式に国家の中央軍事委員会人事(メンバーは党のそれと全く同じ)および国防部長の任命がなされる。

ところが、今回、10月末に4総部トップ人事が国防部で公表され、11月4日の17期7中全会で范長龍(前済南軍区司令員)と許其亮(前空軍司令員)が「増補」され、18期1中全会で前任者が退任するまでの10日あまり、副主席は異例の4人体制だったのである。しかも筆頭副主席は、ほぼ確実視されていた常万全ではなく、范長龍となったが、彼は中央軍事委員でさえなく、筆頭副主席としては異例の大抜擢である。

こうした異例の人事異動は、恐らく同時進行していた中央政治局常務委員人事をめぐる一連の権力闘争と関連があるものと考えられるが、その分析をするにはいまだ情報不足である。取りあえず注目すべきは、中央軍事委員会副主席2名が、それぞれ陸軍と空軍の作戦系統出身者となったことであろう。これまでの政治委員出身者の「指定席」だった次席副主席ポストは、空軍出身者に移ったのである。

これ以外の異例な人事としては、呉勝利海軍司令員の留任がある。推測の域を出ないが、呉勝利自身は年齢制限で無理だと思われるが、海軍の後継者が5年後の19前大会後に副主席に昇任する可能性がある。そうなると、軍出身の筆頭副主席は陸が10年、次席の副主席を海空出身者が5年毎に輪番する可能性が出てきた。政治委員系統の地位低下と、魏鳳和が初めて生え抜きとして第二砲兵司令員になったこととを合わせて考えると、解放軍が、今後海空・第二砲兵重視の近代化の方向に合わせた人事改革をしたことを示唆しているのかもしれない。

    • 政治外交検証研究会メンバー/東京大学東洋文化研究所教授
    • 松田 康博
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