第6回 新しい地域再生政策研究会報告 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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第6回 新しい地域再生政策研究会報告

January 4, 2010

研究会概要

○日 時:2009年12月9日(水)18:30-21:00
○場 所:東京財団A会議室
○出席者:
梅川 智也  ((財)日本交通公社調査部長)
小田切 徳美 (明治大学農学部教授)
木村 忠夫  (21世紀中小企業振興ネット代表幹事)
西尾 祥之  ((財)地域総合整備財団調査役)
守屋 邦彦  ((財)日本交通公社主任研究員)
関係省庁政策担当者

(東京財団)
赤川 貴大  (東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
井上 健二  (東京財団政策研究部研究員兼政策プロデューサー)
斉藤 弘   (東京財団政策研究部上席研究員) 他

議事次第

1.開会
○第5回研究会での議論等のレビュー
2.ゲストスピーカー報告
演 題:『農山村の再生』
報告者:小田切徳美氏(明治大学農学部教授)
3.報告を踏まえた質疑、意見交換
4.今後の研究会の予定等について
5.閉会


前回研究会の議論等のレビューを行った後、ゲストスピーカーの小田切徳美氏(明治大学農学部教授)から、都市と農村の共生のあり方を求め全国各地をつぶさに見て歩かれているご経験を踏まえ、農山村の現状・課題、これに対応した農山村政策の実体と課題及び今後の農山村の再生に向けた展望等についてご報告を頂き、その報告をもとに意見交換を行った。以下は主な内容である。

【ゲストスピーカー報告要旨】

○農山村地域の空洞化がいよいよ本格化している。人、土地、ムラの3つの空洞化が段階的に農山村に押し寄せている。この基層には、その地域に住み続けることに価値・意義を見出すということが徐々に空洞化する「誇りの空洞化」現象が起こっている。こうした「誇りの空洞化」に対抗していくことが本当の意味での「農山村の再生」。
○空洞化の現象は、今や中山間地域だけではなく、里にものすごい勢いで下ってきており、平場農村地域、さらには中小都市まで空洞化が押し寄せてきている。今や中小都市が空洞化のフロンティアとなっている。
○人口3-5万人の市の2008年の人口減少率は1%超で、これは過疎法の人口減少定義にあてはめると「過疎法」対象の真ん中に当たる数字。
○2000年以降顕著な傾向が見られる「東京一極集中期」だが、高度経済成長期、バブル期に次ぐ戦後第3番目の「東京一極集中期」と言われている。今回の特徴は、「戻ろうと思っても田舎に戻れない」ということにあり、むしろ「東京一極滞留」と言う方が正確。
○「住みたいまちで暮らせる」社会を実現するためには、かつて人口のダムとして機能した中小都市の再建とともに、その背後の中山間地域を一体的に振興すべきで、「定住自立圏構想」のコンセプトは大変良い。
○過疎化が進む前半期には人口が急減するが、この段階では、集落内で役回りを変えるといった工夫をすることで集落機能はびくともしない。しかし、ある段階から集落機能は徐々に低下していくムラの空洞化が起こり、これがある段階(臨界点)まで来ると、一気に集落機能が低下する傾向にある。臨界点を超えてからの対策は極めて困難なので、限界集落対策は臨界点に至らないようにする限界化防止策をとることが大切。その防止策は、行政あるいは若い集落支援員がこうした地域をしっかり見つめること。
○「集落が消滅して何が問題か」といった声もあるが、集落が脆弱化すると、ゴミ・産廃の不法投棄の増加、「災害に弱い山」が顕著となり下流部に影響を及ぼすといった実態もある。(一種の「集落限界化の外部不経済」の発生)こうしたことが、行き止まり集落や水源の里といった最上流の集落を維持する必要性と言えよう。
○1998年~2003年の5年間で農家所得は約12%減少、さらに所得区分でみると農外所得が約2割も減っている。農山村の世帯所得の減少は確実に発生しており、農山村における貧困問題が発生している可能性もある。
○平成の大合併の結果、都市と中山間地が合併した場合の中山間地の政策課題が中心部にある市で見えづらくなっているといった実態が発生している。
○分権改革や事業仕分けによって補助金が削減されることで、補助金と逆ルートで霞が関にこれまで流れていた地域の情報が寸断、情報過疎化が起こる恐れがある。分権改革の下で、地域情報を集め、それに基づき霞が関が的確な政策課題を認識する仕組みをいかに作るのかが分権改革の隠された論点。
○国政レベルでもコミュニティの再建が課題となっているが、農山村で先発して新しいコミュニティが生まれている。その特徴は、「夢未来-」や「きらり-」といった新しいタイプの名称づけがされていること、地域的に西高東低型となっていること、地域範囲が昭和合併の旧村や小学校区の範囲(世帯数でいうと上限400世帯)であること。
○農山村の新しいコミュニティには4つの性格がある。1つは、「小さな自治」、「小さな役場」(or「もう1つの役場」)と呼ばれていること、(2)自治組織でありながら経済組織でもあるという二面性をもっていること、(3)従来の集落が環境保全などの「守りの自治」を担うのに対して、経済活動などの「攻めの自治」は新しいコミュニティ(「手作り自治区」)が担っており、両者は補完関係にあること、(4)集落の意思決定の仕組みを、「1戸1票制」を基本としたものから役員の数を男女同数とするなど新しい意思決定の仕組みを導入するなどの革新性をもっていること、の4つである。住民が当事者意識をもって、地域の仲間とともに手作りで自らの未来を切り開くという積極的な展開と評価し、「手作り自治区」と呼んでいる。
○この「手作り自治区」の代表例といえる広島県安芸高田市(旧高宮町)の川根振興協議会を例に見てみると、地域防災など「安全に暮らす」という機能を担うところからスタートし、イベントの開催など「楽しく暮らす」→地域福祉など「安心して暮らす」→コミュニティビジネスなど「豊かに暮らす」、というように段階的に機能を付加し発展してきている。
○「慌てず、力まず、諦めず」という言葉が当てはまる「コミュニティ振興」に数値目標などを掲げてはいけない。
○「新しいコミュニティ」の法人化が進んでおり、その多くがNPO法人となっているが、これは緊急避難的な形態で、水平的結合、財産保有、経済事業といった求められる要件を勘案すると、適合的な法人としては協同組合組織。
○新しい地域産業構造として、(1)第6次産業型経済、(2)交流産業型経済、(3)地域資源保全型経済、(4)小さな経済の「4つの経済」を提案。
○第6次産業型経済(農商工連携)は地域振興の必須の条件。2000年の産業連関表を見ると、国内食用農水産物が12兆円、最終食料消費額が80兆円、生鮮での輸入が3兆円なので、15兆円を原料として80兆円まで膨れ上がっている。そのすき間65兆円に付加価値と加工段階での原材料があるので、その付加価値をとりに行ったり、原材料を農山村が自ら供給することが第6次産業型経済。その究極の姿が「農村レストラン」
○交流産業型経済は、グリーンツーリズムや農家民泊などが典型例だが、所得形成機会であると同時にホストもゲストも成長する社会教育的側面がある産業。ゲストは都市的ではないライフスタイル、農家の方の「手しごと」や田舎料理に感激するなど訪ねる度に新しい発見がある、一方、ホストの方も、「交流の鏡効果」で、都市から来る人が感動や驚きを語ってくれることで、その地域を再発見することができ成長するというもの。「交流産業」という産業の区分を考えるべき。多くの所でリピーター率が高いという特徴があり、パイの縮小の下でも産業としての成立可能性が高い。
○農村地域では、地域の資源を保全し磨いている、というストーリーを商品の中にきっちりと埋め込み、物語化する物語マーケティングの手法を積極的に取り入れるといった地域資源保全型(or 共感形成型)経済の振興が先発的に図られており、単なる地域資源の活用は一周遅れの発想。低価格化が一般化した今の消費行動の中でも、比較的価格が下がりにくい「こだわり消費」を維持していく1つの手法。「物語」があってはじめて「商品」が動く、というのは農山村地域でも当てはまること。
○アンケート調査によってある村の経済実態を調べてみると、月単位で3万円~5万円程度の追加所得が必要という回答が女性高齢者のモード層、男性でも10万円以上というのは少数派ということから考えると、年間60万~120万円の小さな経済をどれだけ地域の中で作っていけるか、仮に年間60万円とすると直売所や農村レストラン等で頑張れば得られる所得規模。小さな経済を地域の中でどれだけ多くつくることができるのかがポイント。この累積の上に、年間所得300万円ぐらいの「中程度の産業」をつくっていくこと、例えば、政府の新しい支援制度を上手に活用し、「集落支援員」や「地域おこし協力隊」等による「小さな経済」のコーディネーションやマーケティング事業をビジネスとして定着させることで若者の定住を図っていくということが重要。
○きちっとした地域の戦略をもって活動している地域の取組を体系化すると、「参加の場」(「手作り自治区」)づくり、「カネとその循環」(「4つの経済」)づくり、「暮らしのものさし(経済という単一化したものさし→文化・景観等多様なものさしの再獲得)」づくりの3つの取組が見られる。これを最もシステム化し表現しているのが長野県飯田市の実践例。地元から出て行ってもまた戻ってこれる人材サイクルづくりを目指し、(1)住み続けたいと感じる地域づくり((「手作り自治区」)づくり)、(2)帰ってこられる産業づくり(「外貨獲得・財貨循環」)、(3)帰ってくる人材づくり(暮らしのものさしづくりを小中学校で形成、いつまでも保持し、それを基準に出身地に戻ってくる「地育力」)を進めている。
○近年、これまでになかったような地域再生に関する新しい施策が出てきている。最近の各省の施策の特徴は、公募型で、かつ、支援対象となった場合には、マネージャー、アドバイザー派遣や人件費の手当てなど徹底的な人材支援を行うこと。集落支援員の仕組みが皮切りになった。こうした地域マネージャーを職業として社会的に認知することが今後不可欠。また、省庁間連携も特徴の1つ。省庁間の人的交流も生まれている。
○そのような中、新しい傾向として出てきているのが、若者と農山村のマッチング。国内に500人以上の若者が地域で活動しているとの話もある。その代表例がNPOかみえちご山里ファンクラブ。(財)中越震災復興デザインセンターでは5年間60人、うち半分以上は若者を集落単位の復興デザインのために雇用。NPO地球緑化センターでは、都市の若者を月5万円の給与で1年間農山村に派遣する「ふるさと協力隊」を実施、毎年40名程度の派遣実績があり、10年以上継続されている事業で、その派遣規模は400人以上、そのうち4割が派遣された自治体に定住している。「支援」から「定住」という動きがこの取組の中で形づくられていった。地域で活動する若者のタイプには3つある。自分探し派、仕事探し派、荒れる農村山で何かできないかという義憤派。こうした地域マネージャーとして活動する若者の動きとソフト事業をマッチングする取組が色んなところで出てきている。
○都市の高齢化が今後本格化、東京圏では毎年数十万人規模の高齢者が増加、農山村支援どころではなく、都市の高齢化対策の方が問題という声も出てきており、ともすると都市と農山村の対立激化という可能性もある。また、新政権によって直接給付型の政策が推進されているが、相当の説明がないと給付される側(農林水産業)とそうでない側(例えば中小企業)との分断・対立を生んでしまう恐れあり。都市と農山村の共生を政策の根源に位置付けるような対応、都市と農山村の共生のためのビジョンづくりが必要。
○国際的にも資源・環境問題が激化する中、食料、エネルギー、水、二酸化炭素吸収源は国際戦略物資化している。日本では、これらは農山村が供給しており、農山村を「国内戦略地域」と位置づけ、都市と農山村の共生・共存というビジョンをはっきりと示さない限り不毛な対立が続くことになりかねない。

【意見交換ポイント】

○事業仕分けでは、「事業の重複」が問題となっていたが、「重複を恐れるあまり、漏れを作ってはいけない」と思っている。ソフト事業自体は大きな金額ではないので、1~2割の小さな重複はそんなに大きな問題ではなく、むしろ重複を恐れるあまり、ぽっかり穴があいて、対象分野としてカバーされずなくなってしまう方が問題。現場からみれば、提案型の交付金を農業からアプローチしたり、福祉からアプローチしたりといったように、重なり合いながら多様な「登り口」があった方が地域にとっては使いやすい。
○一括交付金という仕組みが具体的な制度設計がされる前の段階では、各省庁が重複しながら色んなメニューを持っているというのは、無駄というよりは、正しいやり方ではないか。一括交付金化するには、制度移行のための十分な準備期間が必要。
○農村に貧困が堆積しなかったのは兼業化によるもので、「兼業スタビライザー」と呼んでいるが、このスタビライザーがいよいよ崩壊し、豊かだった農村が豊かでなくなってきている。
○集落崩壊のドミノ現象が水源の里のある最上流から発生しはじめている。そこがつぶれると手前の集落が行き止まり集落になるが、上流の集落の崩壊で、鳥獣被害などが発生、バタバタと集落が崩壊したり、その被害が下流部に押し寄せくることになる。
○よく集落の維持に金をかけるなら、そのお金を他に回して、国土保全に必要な要員を派遣すればいいのでは、との意見もあるが、農山村の最上流部の集落には新規の投資はほとんど必要なく、地域の人が道普請などを行い維持するなど人々が住むことによって実質上そこを防衛している。これはコストミニマムなやり方。
○集落支援員という若者が入り、声掛け運動や集落調査をしたり、ワークショップをしたりすることで、地域がもう一度なんとかしよう、と元気になる、こうした「地域をみつめる」活動はそれほど費用がかからない。コストレスで限界集落に対してアクションを起こすことができる取組の1つ。
○「手作り自治区」の成立要因として、かつてはカリスマ的なリーダーの存在が大きかったが、最近では図抜けたリーダーのいない一種の集団指導体制型のものも出てきているのが特徴。最近のリーダーには5つのタイプがみられる。会計型リーダー、何でも屋型リーダー(すぐに行動するおっちょこちょいタイプ)、知恵袋型リーダー(役場の職員やOB)、調整型リーダー、少しっぽい性格を持つカリスマ型リーダー(定年で戻ってきた元校長先生)などの5つのタイプがうまく機能を分担するケースが増えている。こうしたリーダーは特別な人というよりは、1人1人を見てみるとどこにでもいる人たちで、行政の力も借りながら発掘していくことが大切。逆に、絶対的なタイプのカリスマ型リーダーがいる地域では必ず後継者問題が出てくる。リーダーのタイプもだんだん変わりつつあると実感。
○外の人が地域の人の適性を見て、役割分担を示してあげるということも大切。
○財政的に厳しくなると、やる気のある地域を選択と集中で支援していこうという傾向が続いているが、これは逆に地域の格差を広げることになっていないかとの懸念もある。薄く広くばらまくタイプのものと厚く狭くまくタイプのものとの組み合わせが必要。100%国費の事業は、ピカピカの超モデル事業という位置づけで、周りの地域はそこに行って教えてもらいなさい、というメッセージも含まれていると考えるべき。一方、中山間地域の直接支払いはほぼすべての中山間地域が受け取れる薄い支援。これをうまく組み合わせるということがなければ格差が広がってしまう。
○「金の支援」から「人の支援」へという流れの中で、地域が外部の人を受け入れる際に、外から入った人が地域となじめないということができるだけないような、軋轢が起こらないような受入れ方法も考えていく必要がある。高野山では集落支援員を決める際に、集落とお見合いをさせて、「この人だったら受け入れよう」という人を派遣するような方法をとっている。「補助金」から「補助人」へという流れは始まったばかりで、地域に人を派遣する際のノウハウなどは大至急蓄積していかなければいけない。地球緑化センターの学生派遣事業についても、センターの副理事長が、学生一人一人の性格と受け入れ担当者の性格を全部把握して、誰がどこに行くと上手くいくかを判断している。
○カリスマ型といわれるリーダーは、Uターン組が多い。東京で活躍し、東京に幻滅し、戻って地域で活躍する、といった人材のサイクルがかつてはあった。35才ぐらいで地域に戻ってくるかどうかという切れ間があった。過去2回の東京一極集中期では、20代前半までは東京への流入超過だが、20代後半からは流出超過だった。最近の統計では35才でも流入超過で、だらだらと東京流入が続いている。35才の戻るか、戻らないかの決断の時期に、戻れない、それどころか地域から出てこざるを得えない、という構造になっている。今までは地域にそれなりに戻る人がいて、東京の弱点も知っていて、「暮らしのものさし」も満載の立派なリーダーになっていた、それが止まってしまっている状態。その意味では、地域の本当の疲弊はこれから本格化するといえる。
○都道府県の性格が分かれてきている。広域自治体として市町村ができないことだけをやる、地域振興にかかわりを持つべきではないというスタンスの県と、逆に、県庁職員約60名を地域支援企画員として地域に派遣、張り付けるような取組をするなど、地域振興に積極的にかかわりを持とうとする、きちんと市町村をサポートする役割を積極的に打って出ようとする県と、大きく2つに分かれる傾向にある。

以上

文責:井上

〔参考:研究会配布資料〕
Nousanson saisei■ゲストスピーカー報告資料:『農山村の再生』

    • 元東京財団研究員
    • 井上 健二
    • 井上 健二

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