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企業調査を始めます:社会的課題へのインパクトから見た日本のCSR

July 24, 2013

政府の仕組みから抜け落ちていく深刻な社会課題

雇用、教育、医療、福祉、財政、外交――人々が直面する課題の多くは、長らく主として政府部門が取り組むものとされてきた。それぞれの問題ごとに担当する官庁があり、どこが担当するかが決まれば、たいていの問題は解決へ向けて動いていたし、そうなるように期待されてもいた。

しかし、昨今の問題は、そうした枠組みの内だけで解決できるほど単純ではなく、また多様化しており、それらが国境を超えて広がることで、さらに複雑化している。政府部門のどこが担当するかすら容易には決められないし、決めたところでそれだけでは、解決が望めなくなってきた。さらに大規模災害対応やコミュニティ特有の課題は、行政の枠組みだけでは対応できないことが、東日本大震災の経験からも明白だ(図参照)。

◇行政の機能と社会における課題の広がり(概念図) ≪拡大はこちら≫

一方、グローバル経済の進展により、企業のビジネス活動が及ぼす影響の範囲も急速に拡大している。これまで株主や消費者など比較的狭義に捉えられていた責任の範囲が、サプライチェーンの先の先にある、自国から遠く離れた地域の環境や雇用、人権をも包含するようになり、民間部門も多様な社会的課題に対して無関心ではいられなくなっている。

社会的な課題が、つまるところ、日常を生きる市井の人々が抱える多様な悩みの複合体であることからすれば、当然その解決にも、社会のあらゆる分野のあらゆる階層が、それぞれに全力で取り組むよりほかはない。中でも組織力と資金力を持つ企業セクターへの期待は、以前にも増して高まっている。

こうした「CSR(Corporate Social Responsibility)」の概念は近年日本でも広く浸透し、CSRレポートやウェブサイトで実績を紹介する企業も増えてきた。しかしながら、多くの場合、事例紹介にとどまっているのが現状で、もう少し積極的な場合でも、国際的なCSRレポーティング認証に準拠した情報開示ができている程度である。これでは、せっかくのCSR活動でありながら、各社が持つ高い問題解決能力が社会に認識されず、そのためにノウハウの共有や連携などのシナジー効果も見込めないという、極めて「もったいない」状態が続いている。

また、企業経営の観点からも、そのCSR活動は「もったいない」状態にあるケースが多いのではないだろうか。CSR活動に自社の高い問題解決能力を活かし、率先して社会的な課題に取り組んでいる企業は、新しいビジネスチャンスの獲得、技術やサービスのさらなる研鑽、優れた人材の育成・確保など、経営的にも競合優位性を獲得している。つまりビジネス面でも大いに果実を得て、厳しい競争を勝ち抜いているのである。

「公益」の分野で高まる民間部門への期待

このように本来、民間企業には社会のニーズを的確に捉え、それに応えるサービスや商品を提供することで、さらに大きな社会ニーズに応え、自らも発展していくという使命と能力が備わっている。CSRという概念をまつまでもなく、これまでにも多くの日本企業が、その事業を通して経済的発展や様々な社会問題の解決に貢献している。

そのような企業セクターが持つ強みを戦略的に活かして社会課題を解決するというアプローチを、日本にももっと広げられないだろうか―。緊縮財政の中、政府部門だけの取り組みに硬直化することなく、広く民間部門を巻き込んだ公益活動を日本に醸成していくことを目指し、このほど東京財団では、下記の有識者による委員会のもと、「CSR研究プロジェクト」をスタートさせた。

東京財団CSR委員会(50音順)

秋山 昌廣/公益財団法人東京財団理事長
有馬 利男/国連グローバル・コンパクトボードメンバー
岩井 克人(座長代理)/東京大学名誉教授、国際基督教大学客員教授、東京財団名誉研究員
川口 順子/明治大学客員教授、元外務大臣
小宮山 宏(座長)/株式会社三菱総合研究所理事長、前東京大学総長
笹川 陽平/公益財団法人日本財団会長
高 巖/麗澤大学大学院経済研究科教授

まずは実態調査から

日本のCSRの実態については、各社が「CSRレポート」や「サステナビリティ報告書」でそれぞれに公表しているほか、企業間の比較についても、東洋経済新報社や日本経済新聞など専門誌(紙)による包括的な調査が行われてもいる。しかし、社会的な課題の解決という観点に絞って、日本のCSRがどのような状況にあるのかについては、まだそれほど実態がつかめていない。

われわれの予測では、おそらくエピソードとしては各社にいくつも良い事例が存在し、関係者の間で語り継がれているのだろうが、いまのところはそれらの「いい話」が点在しているのみで、企業価値創出のプロセスや主事業との関係性、企業戦略との相関などを分析・検証するということは、あまり進んでいないと思われる。

そこで、本プロジェクト最初の研究活動として、全国の約2000社(一部上場企業、主要非上場企業、主要外資系企業)に対して、日本社会や国際社会が抱える課題とCSRの関係性に焦点を当てたアンケート調査を実施することにした。

企業トップとして、研究者として、あるいは市民セクターとして、多くの企業活動をつぶさに見てきたCSR委員と、プロジェクトメンバーによる第1回CSR委員会では、この調査項目についてさらに興味深い論点が指摘された。すなわち、「自社の利益のみならず社会全体の利益を増進させるようなCSRは、企業内部でどのように誕生していくのか」「社会的課題といってもその射程は幅広い。企業セクターはそれらをどう捉えているのだろうか」「自社のサプライチェーンとCSRの対象を、各社はどう定義しているのだろうか」などなど。

そのような問題意識を踏まえ、アンケートでは、日本企業は何を「社会的課題」と見ているのか、そしてそれらを自社のCSR活動をどのように関連付けているのか、また、自社のCSR活動の成果目標をどのように設定し、どのように評価しているのか、他社やNGOなど市民社会との連携や協働は行われているのか、先駆的な取り組みや成功事例をどのように蓄積しているのか――などを問いかけている。

「社会的課題」のイメージ

また、ここで問われている「社会的課題」をどのようにイメージするか、あるいは定義するかについても議論が分かれるところだろう。「社会的課題」という言葉は、ひとつの専門用語として定着しているわけではなく、おおよそsocial problems、social issues、social challengesなどの英語を表わしていると言える。それらの中には、国内や地域に特有のものもあれば、国境を超えるものもあるだろうし、途上国特有の問題と先進国が抱える問題では、かなり性質が異なってもいよう。一口に「貧困問題」といっても、1日1ドル以下で生活する人のベーシック・ヒューマン・ニーズ(BHN )をどうやって満たすかということが途上国の喫緊の課題だとすれば、日本においてはむしろ失業保険や生活保護などのセーフティーネットの脆弱性や子どもたちへの福祉が先進国の中で相対的に衰退していることなどが思い浮かぶ。

そこで、わたしたちはアンケート用紙に解説のための別冊を添えることにした。まずは、「国連グローバルコンパクト」において提起されている問題を例示し、さらにサプライチェーンがグローバル化していることを前提に「国連ミレニアム開発目標」で取り上げられている課題も紹介した(表参照)。

◇行動基準とすべき社会的課題<国連グローバル・コンパクト(UNGC)> ≪拡大はこちら≫

◇解決すべき社会的課題の目標<国連のミレニアム開発目標(MDGs)> ≪拡大はこちら≫

その上で、先にあげた貧困問題のように、いくつかの課題分野について、日本ではどのような個別課題が顕著か、あるいは国際社会ではどんなことが懸念されているかについて示した。これらの例が、アンケートへの回答にあたって、自社のCSR活動を社会的課題の解決という観点から概念的に整理する一助となればと願っている。また、「女性」「貧困」「疾病」などの例示カテゴリーにこだわることなく、各社ならではの取り組みを紹介していただけるよう、回答には自由記入欄も追加した。

企業と政策シンクタンクが作る新しいCSRのフロンティア

これから、時間を割いて調査に協力していただいた企業からの回答をいかに読み解き、多くの情報を引き出し、事例研究につなげ、それを日本や世界の人々に知らせていくかは、本プロジェクトの次なる大きなチャレンジであり、腕の見せどころとなろう。

各社から寄せられた回答は、非営利・中立の立場で公共政策を作るシンクタンクならではの観点で分析と検証を行う。さらに個別インタビューを行って集めた各社の先駆的な事例や、専門家による論考も添えて、CSRと社会的課題との関係を総合的にまとめ、「日本CSR白書」(仮称)のような形で発表していきたいと考えている。

調査に参加することで、少しでも多くの企業がシンクタンク「東京財団」とつながり、ともにアイデアを創出し協働することによって、少しずつ社会の課題を減らしていく――そんな新たなフロンティアを開いていけたらと考えている。



食料、住居、衣服など、生活するうえで必要最低限の物資や安全な飲み水、衛生設備、保健、教育など人間としての基本的なニーズ。



調査依頼がなくとも、本件にご興味、ご関心をお持ちの企業のご参加をお待ちしております。詳細については下記をご参照ください。


◎「CSR企業調査実施について」はこちら

◎ 東京財団「CSR研究」プロジェクトの詳細はこちら

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