タイプ
論考
プロジェクト
日付
2016/9/14

あらためて「統合」の意義の確認を――SDGsの導入は日本企業をどう変えるのか

東京財団研究員、CSR研究プロジェクト・リーダー

亀井善太郎

2016年はSDGs元年

 持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、2016年1月1日から開始し2030年を期限とする17の目標(169のターゲットを含む)からなる国境を越えた人類共通の行動計画である[1]。2015年までの目標であったミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)の成果と課題をふまえ、3年に及ぶ議論や対話を経て、2015年9月25日の第70回国連総会において全会一致で採択された。

 国際機関、各国政府だけでなく、Social Responsibility(社会に応える力[2])を求められるすべての企業や市民にも、アジェンダ(行動すべき課題)として共有し、その解決に向けて活動することが求められている。

 SDGsは、MDGsの理念「人間の安全保障」を引き続き根幹に据える一方、途上国の課題が中心で先進国の日本や日本企業には実感として当事者意識をもちにくいと指摘されてきた[3] MDGsの弱点を補い、日本や日本企業としても取り組むべき17の目標が具体的に示されているのが特徴だ。

 

図1:SDGsの17の目標(邦訳)

  • 目標1(貧困):あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる。
  • 目標2(飢餓):飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する。
  • 目標3(保健):あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。
  • 目標4(教育):すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する。
  • 目標5(ジェンダー):ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う。
  • 目標6(水・衛生):すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する。
  • 目標7(エネルギー):すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する。
  • 目標8(経済成長と雇用):包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する。
  • 目標9(インフラ、産業化、イノベーション):強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る。
  • 目標10(不平等):各国内及び各国間の不平等を是正する。
  • 目標11(持続可能な都市):包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する。
  • 目標12(持続可能な生産と消費):持続可能な生産消費形態を確保する。
  • 目標13(気候変動):気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。
  • 目標14(海洋資源):持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する。
  • 目標15(陸上資源):陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する。
  • 目標16(平和):持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
  • 目標17(実施手段):持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。

 

出所:SDGsに関する外務省仮訳、日本政府における持続可能な開発目標(SDGs)推進本部第一回会合提出資料(2016年5月20日)(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/dai1/sankou3.pdf

 

 一方で、17の目標をみてみれば、各国・地域が直面する課題は、その現れ方は異なるとしても共通しており、先進国と途上国の二項対立でとらえるべきではないことにも気づかされる。これはSDGsに限ったことではない。あらゆる企業や組織が用いるSocial Responsibilityのガイドライン(手引書)の一つ、ISO26000[4]をみても同様に感じることができるであろう。ISO26000がSocial Responsibilityを対象としたガイドラインであるのに対し、SDGsは現代社会が向かい合うべき社会課題を明示する。自分自身が直面していなくとも、存在するであろう社会課題や弱者の存在を具体的に想像するきっかけとして、企業やあらゆる組織が活用できるのではないだろうか。

CSRにおいて不可欠な「統合」のプロセス

 こうしたSDGsやISO26000の国際的な文書やガイドラインを使って社会課題を知ろうとする営為は、CSRを考えるときに重要な「統合」のプロセスに通じるものでもある。

 企業は、自社の製品やサービス、あるいは事業プロセスを通じて、社会との関わりをもち、この社会との関わりそのものが、企業経営においては、事業機会の獲得と事業リスクの回避・低減の二つの意義をもつ。ひいては、企業の社会における存在価値を具現化することにもつながる。「CSRは経営そのもの」と考える企業もあるように、企業を人になぞらえると、CSRとは社会からの全人格評価といえるのかもしれない。

 社会からすれば、企業のもつ技術力や組織力、国境を越えたフィールド等のリソースを使って社会が抱える課題を小さなものにしていくことができるし、新しい付加価値を生み出すことも可能となる。このことは企業には政府や市民とは異なる貢献が可能であることを意味している。

 

図2:企業における社会課題と事業運営の「統合」

出所:東京財団

 

 このように、企業にとって、何より社会にとっても不可欠なCSRだが、この実現に不可欠なのが「統合」の考え方であり、そのプロセスである。これは、社会にとっての利益(社会課題解決への貢献)と会社にとっての利益(事業活動への貢献)の二つのモノサシ(図2の縦軸と横軸)を用いて、また、短期の事業活動への貢献のみを志向するのではなく、より長期の事業の持続性を考えることによって、社会と会社、双方にとっての利益を実現する経営や事業を進めていくことを意味する。図2でいえば、いかにして、右上のゾーンに、企業経営全体、個々の事業運営、さらには、一人ひとりの日々の活動をシフトさせていくかが重要なのだ。

 すでに『CSR白書2014』、『CSR白書2015』において、「統合」に成功している複数の企業事例を分析した。そのやり方はさまざまであった。経営のフレームワークとして導入する事例、組織づくりで進める事例、また、一人ひとりの役員や社員の意識を変えていく人材育成の事例もあった。どの成功事例にも共通するのは、「社会の視点」(図2の縦軸)を取り入れていることであった。

 SDGsが導入されたことをふまえれば、この縦軸に相当するのがSDGsだ。SDGsが示す17の目標を社会の要請として捉え、自らの事業活動との関係性において位置づけ、取り込み、自分たちの企業経営や日々の行動を考え直すツールとして活用できるかどうかが問われているのだ。

日本企業の初動は何か

 東京財団では、2016年がSDGs元年であることをふまえ、国連総会で採択される前の2015年7月に、SDGs作成の中心を担ったコロンビア大学地球研究所所長ジェフリー・サックス氏を招き、SDGsを中心とした今後の社会のあり方を探る公開フォーラムを開催した[5]。また、2015年秋から2016年春にかけては、これまで『CSR白書』で取り上げた事例企業を中心に声掛けし、SDGsが企業経営に与える影響、また、CSR担当部署が直面する課題に関する研究会を組成し[6]、対話を進めてきた。SDGsの内容を検討するとともに、SDGs導入をふまえた各社の対応、その際に直面する課題を共有した。

 各社で行われていることの共通項として、①SDGs導入をきっかけとした人材育成、②統合の再設計・自社CSRの捉え直しの動きをみることができた。

 多くの企業が、「SDGsとは何か、わが社の経営や事業活動にどのような影響があるのか」をテーマに、経営トップへの個別のレクチャーから、役員や社員を対象にした研修プログラムなどを実施している。17の目標にはそれぞれどのような具体的な意味があるのか、社会の要請の変化をどのように認識すべきか、事業機会の獲得やリスクマネジメントの観点から、それぞれの立場でいかなる対応が求められるようになるのか等について、外部講師を招いた座学だけではなく、社会起業家やNGO・NPOを交えたグループ・ワークショップも行われている。単に知識を習得するだけではなく、日々の実践に活かされるよう意識改革にまで及ぶ企画が実践されている。役員や社員にとっては、CSRを経営や日々の事業プロセスに活かす視点は希薄になりがちだ。社会課題解決にまい進する社外の当事者との対話によって、自分たちの技術力や組織力の活かし方を考え、社会課題が自分たちのリスクにもなりうることを実感できるようにすることが人材育成プログラムの目的だ。

 人材育成において特に重要なのは、経営トップの役員層の意識改革だ。日本におけるCSRの変遷を振り返れば、メセナや社会貢献が中心であった時代の経験もあり、「CSRは経営そのもの」という意識をもちにくい世代の役員もいる。特に、営業成績や生産のコスト・品質・納期管理等、具体的な目標を短期的に投資家等にコミットしている担当役員からすれば、CSRは他人事にもなりかねない。

 役員層の意識改革として有効な対応の一つとして挙げられたのが、ダボス会議等の国際会議への参加だ。それにより、自分自身がマーケットとし、また、調達や生産プロセスを担っている地域では、どのような社会課題が生じているのか、あるいはこれから生じそうなのか、政府やNGO、企業はどのような対応をしてきているのか、そもそも社会は企業に何を求めているのかを実感できる。社会をめぐる問題への意識は、担当者のレクチャーによる知識だけで身に付くものではない。国際会議のようなさまざまな当事者、利害や関心の異なるステークホルダーが一堂に会する場は、世界の一つの断面である。一つのテーマに対して異なる観方があり、いずれの言い分にも一理あるもので、その対立構造こそが社会課題そのものである場合もある。会議という断面を通じて国際社会の現実に直に触れることにより、参加した経営者自身が直感したことこそ、大切なことなのかもしれない。社会課題をめぐる対話に慣れていくことが経営者にも社員にも必要である。対話に最も必要な「相手の考えることを思いやる想像力」は、こうした対話の経験を積み重ねることによって培われるものであり、それこそが、自らの関心と社会の関心を「統合」できる人材となっていくプロセスであるからだ。

統合の再設計・自社CSRの捉え直しは道半ば

 人材育成に続く、もう一つの対応に「統合の再設計・自社CSRの捉え直しの動き」がある。CSRの世界でいう「マテリアリティ(重要分野の特定、優先順位づけ)」に至るものであり、社会からの要請と企業としての利益をいかに統合させるかが問われるプロセスでもある。ここでは、社会からの要請を受けとめるためにステークホルダーとの対話等が行われ、社会の関心と事業の関心のすり合わせが、経営の枠組みから個々の人材育成のレベルまで、さまざまな方法で進められる[7]

 統合のプロセスは時間がかかるものである。また、CSRの捉え直しともなれば、しかるべき段階を踏まなければならない。そのため、現時点での各社の対応は「初めの一歩」のレベルにとどまっている。具体的には、SDGsで示された17の目標を、現行のマテリアリティにあてはめる作業、言い換えれば、社会の縦軸と会社の横軸の図表に落とし込む作業が行われたにすぎない。さらにいえば、こうしたことだけを続けているようでは、すでに指摘してきたように[8]、「課題設定よりも実際のプログラムがはじめにありき(社会課題の実態やその変化への着目よりも自らの社会貢献プログラムを実施していることを重んじる現状追認)」という日本企業特有のCSRの問題にもつながりかねない。

 

図3:「統合」におけるSDGsの各目標のあてはめの例(概念図)[9]

出所:各社の取り組みを参考に東京財団作成

 

 これらの作業は、現在、自社が取り組んでいるCSR、つまり、製品およびサービス、事業プロセスを通じた社会との関わりを、17の目標の該当する箇所にあてはめただけの作業である。1~17のうち、自社ではどれが該当したかをみているにすぎない。つまり、現状追認にすぎないのだ。

 SDGsは、しかるべき国際的な対話のプロセスをふまえ、持続可能な社会の構築のためにさらに取り組まねばならないさまざまな視点を私たちに提供している。みるべきは、自分たちに足りない視点はどこなのか、従来の取り組みではカバーできない社会課題は何かを知るところにある。

 もちろん、すべての社会課題に網羅的に向き合える企業が優れた企業というわけではない。しかし、事業機会からみるにせよ、リスクマネジメントからみるにせよ、企業価値を保全し、さらに高めていく視点において、社会からの要請の変容をいかに受けとめることができるかは、企業の存在意義としてはもちろんのこと、企業経営の持続性にとっても極めて重要な視点である。自らの技術力や組織力を何に役立てることができるか、従来見落としていた視点を考えるためのガイドラインとして、SDGsを位置づけることが不可欠なのである。

 また、17の目標にしても、それぞれが独立したテーマである一方、それぞれが密接に関わることも多い。地域によって差はあるが、貧困と飢餓、貧困と保健衛生、貧困と気候変動、働きがいのある仕事(ディーセント・ワーク)と持続可能な生産・消費と持続可能なインフラなどはそれぞれ深く関係し合って、問題を複雑化・深刻化させているのが実態だ。だとすれば、17の目標についても、それぞれを別々にあてはめるのではなく、「統合」して考えていくことが求められるのではないだろうか。これまでのISO26000やグローバルコンパクトと同様、社会の要請をどう受けとめるかがSDGsにおいても同じように問われているのだ。

SDGsと企業経営のこれから

 SDGsは先進国と途上国というこれまでの一つの分断を乗り越えて合意された持続可能な社会を構築するための「統合」の象徴なのかもしれない。であればこそ、企業経営としては、SDGs導入を契機に、社会の声を改めて受けとめ直す必要がある。これまでの『CSR白書』でも指摘してきたとおり、日本企業のCSRの強みは、具体的な課題解決のフェーズにおける技術力・組織力の発揮にある。しかしその一方、社会との設定づくりでもある「社会課題の発見」や組織にミッションとして落とし込む「組織への内包化」は依然として弱いのが現状だ[10]

 

図4:日本企業のCSRの強みと弱み(概念図)

出所:東京財団

 

 CSRのリーディングカンパニーが進む方向性は確かなものだ。一人ひとりの人材、そして組織にとっても、変化する社会の要請をしっかりと受けとめる「統合」を進めるためにSDGsを活かし始めている。これからやらねばならないことも明らかだ。SDGsのスタートをきっかけに、日本企業の強みがさらに活かされ、社会がよりよいものになる、そこに日本企業が貢献し、競争力が高まる――そうした正の循環をもたらすためにも、社会の視点と会社の視点のさらなる「統合」が求められている。

 

[1] SDGsが掲げられている文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の前文冒頭では、「このアジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画である。これはまた、より大きな自由における普遍的な平和の強化を追求するものでもある。我々は、極端な貧困を含む、あらゆる形態と側面の貧困を撲滅することが最大の地球規模の課題であり、持続可能な開発のための不可欠な必要条件であると認識する」と謳われている(国連文書A/70/L.1をもとにした外務省による邦訳文より)。

[2] Social Responsibilityは「社会的責任」と邦訳されるのが一般的だが、その本質的な意義をふまえ、筆者は『CSR白書2014』(東京財団、2014年)以来、「社会に応える力」や「社会の要請への応答能力」、「社会の変化に応ずる力」と記してきた。その趣旨については同書等を参照されたい。

[3] 実際、これまでの東京財団の調査でも、日本企業の社会課題に対する関心と実践において、貧困や飢餓、保健等は相対的に低いことが明らかになっている。

[4] ISO26000では7つの中核主題(組織統治、人権、労働慣行、環境、適正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画・コミュニティの発展)が挙げられ、これらに対するResponsibilityを果たすための7つの原則(説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重)が示されている。

[5] 本フォーラムにおける講演内容の詳細は、第96回フォーラム「『東京財団CSR白書2015』出版記念 ―ジェフリー・サックス氏と考える持続可能な開発と企業の社会的責任」を参照されたい。

[6] 参加企業・団体は以下のとおり。曙ブレーキ工業、味の素、伊藤忠商事、キッコーマン、キリン、資生堂、損保ジャパン日本興和、武田薬品工業、デンソー、電通、ファンケル、富士ゼロックス、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン、東京財団。

[7] 「統合」の方法には、広く社会に聞くプロセスを尽くし有識者の積極的活用を進める「損保ジャパン日本興亜」、社員が社会課題を見出しボトムアップで進める「伊藤忠商事」、国際会議やグローバルNGOとの対話を通じて次なる社会の声を受けとめる「武田薬品工業」、ステークホルダーとの対話の実践を通じて個々の社会課題に注力する「資生堂」、現場の実践や気づき、人材育成を通じて統合を日々実現させる「電通」や「ファンケル」、定量的な目標設定の落とし込みと愚直な継続で統合を実現する「富士ゼロックス」等、さまざまな方法があり、正解はない。詳細は『CSR白書2014』『CSR白書2015』を参照されたい。また、中小企業や業界団体における進め方については、『CSR白書2016』第4部(140-166頁)を参照されたい。

[8] 『CSR白書2014』(東京財団、2014年)等。

[9] あてはめの具体を共有するための想定例であり、特定の企業の事例ではない。

[10] 亀井善太郎「社会に応える『しなやかな』会社のつくり方」『CSR白書2015』東京財団、2015年)