タイプ
論考
日付
2013/1/24

韓国次期政権の外交安保政策はどうなるか

東京財団「日本外交の指針」プロジェクト・メンバー
防衛研究所主任研究官
阿久津 博康


2012年12月19日、韓国では第18代大統領選挙が行われ、保守派セヌリ党の朴槿恵氏が当選した。同氏は本年1月6日に大統領職継承委員会を立ち上げ、2月25日の政権の正式発足に向けて組閣人事を含む政策構想に着手した。1月15日には新政権では外交安保分野を含む4つの司令塔を創設する方針を打ち出すとともに、16日には現政権の官庁別業務報告を終了している。新政権がどのような外交安保政策を打ち出すかは日本にとっても大きな関心事項であるが、朴槿恵氏は既に選挙前に政策公約を発表している。そこには対北朝鮮政策、対東アジア政策、そして国防政策が外交安保政策として括られている。ここではそれを簡単にレビューすることで、朴次期政権の外交安保政策の方向性を明らかにしたい。

朴次期政権は「保守版北東アジアのバランサー」を目指すのか

朴次期政権は李明博現政権に比べて柔軟な対北朝鮮政策を展開すると予想されてきたが、朴氏の公約を見る限り、対北朝鮮政策だけでなく、外交政策全体として、対米同盟を堅持しつつも、中国への配慮が顕著である。まず、北朝鮮に対しては、「北朝鮮の挑発を抑止するために韓米連合抑止力を含む包括的防衛力の強化」と「2015年戦時作戦統制権の円滑な移管のための準備」を筆頭に、「多様な国家的危機に効果的に対応するための仮称「国家安保室」設置」が掲げられている。おそらく、この「国家安保室」が先に触れた外交安保分野における司令塔となるであろう。大統領府国家安保会議内に設置すると思われる。

また、国防面では、「多様な安保脅威に対する実質的対応能力の拡充(NLLおよび休戦ライン付近での北朝鮮の挑発に対する抑止力を強化、済州海軍基地や戦力増強に関する事業の推進)」、「能動的・先制的抑止戦略を通した積極的に防衛能力の実現(長距離ミサイルの早期戦力化)」、「韓国軍の精神的戦力とサイバー戦対応能力の強化(中央および地方自治体間の連携および業務遂行体制の確立)」、「軍事専用衛星、無人偵察機など必要な能力の段階的確保」、などが盛り込まれている。対米同盟については、「韓米同盟を基盤とした域内国家との多国間安保協力の強化および安全保障上の紛争予防と国防協力の強化」、「韓米同盟を基盤とした域内国家と二国間・多国間防衛協力の強化」、「韓米連合の核拡大抑止能力の強化」が盛り込まれている。また、特に2015年の戦時統制権移管について、「戦時作戦統制権の円滑な推進および韓国軍主導の新しい韓・米連合防衛体制の安定的な定着」、「戦時作戦統制権の移管過程に関する韓米間の定期的な評価・検証の充実」、「韓主導-米支援」の指揮関係を持つ新しい連合防衛体制の構築」などが記されており、2015年以降の韓国の自主的な能力の強化へ向けた準備の重要性が強調されている。

しかし、他方で、北朝鮮に対する融和的な項目は相当数ある。例えば、「南北関係発展と東北アジア協力をとも推進させるためのより大きな枠組みの構築、「南北間で核問題解決ための実質的協議の推進」、信頼と非核化進展に伴う朝鮮半島経済共同体建設のための「ビジョン・コリアプロジェクト」の推進(北朝鮮の自活力向上ための電力・交通・通信インフラの拡充、国際金融機構加入支援・経済特区進出の摸索を始めとする国際投資誘致の努力、南北朝鮮と中国、南北朝鮮とロシアなどの3ヵ国協力強化による朝鮮半島と東北アジアの共同利益創出)」、「南北間互恵的経済協力および社会文化交流のアップグレード」、「ソウルと平壌に「南北交流協力事務所」の相互設置」などが挙げられる。

さらに、中国に対する配慮も顕著である。「韓米中3者戦略対話の開始および国連、EUなど国際社会との協力の拡大」、「米国および中国と調和がとれた協力関係を維持」、「韓米関係を包括的戦略同盟として深化・発展させ、韓中関係を戦略的協力パートナー関係に相応しい形にアップグレード」など、米中間での立ち位置に配慮せざるをえない韓国の立場が表れている。ちなみに、朴氏は既に日本を含む周辺4強国(米中日ロ)への特使団派遣の意向を表明しているが、朴氏が最初の派遣先として選んだのは中国であると報じられている。

日本は「共通の価値」よりも「共通の戦略目標」を強調すべき

公約の中で日本関連の項目について見ると、「東北アジア歴史葛藤に対して国益観点で断固として対処、私たちの主権が侵害される状況を受け入れない」「韓中日政府と市民社会が和解・協力の未来をともに協議(正しい歴史認識定着)」との記述があり、こうした問題は今後も残存するであろう。同氏は既に「韓日間の対立に賢明に対処する」「過去を乗り越え未来を志向する幅広い思考が重要だ」などと述べ、対日関係改善にも前向きな姿勢を示しているが、次期政権の外交政策は今後も韓国世論の動向に左右されるであろう。また、李明博政権で基本合意されたGSOMIAやACSAなどの進展もすぐには望めないであろう。しかし、昨年12月12日の北朝鮮の弾道ミサイル発射は、日韓安全保障協力の必要性を再認識させるものであった。さらに、北朝鮮による3回目の核実験の可能性もある。韓国が好むと好まざるとに関わらず、北朝鮮の動向は、韓国の外交安保政策上の最大の関心事とならざるをえない。なお、現在、大統領職継承委員会は2月25日の政権発足に向けて議論を続けており、その過程で政権公約が調整される可能性もある。

日韓が民主主義、市場経済、人権などの共通の価値を有することは既に確認済である。日本としては、今後もプラグマティックな態度で臨むとともに、日韓の共通の戦略目標の必要性を働きかけるべきであろう。

本稿はNIDSコメンタリー1月号を若干改訂したものである。