タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/3/14

障がいのある学生の修学支援の創造 <page2>

アメリカの事情と日本の政策動向


5 日本における導入可能性の一考察

障害者の自立を支えることで社会の担い手を増やす考え方については、すべての障害者を「一方的に支援を受ける社会的弱者」と見なしがちな日本とは大きく異なる点であり、大いに参考になると思われる。一方、細かい線引きや基準づくりに慣れた日本の行政機関や大学にとって、合理的配慮はなじみにくい概念かもしれない。確かに、日本のスタイルは第三者からわかりやすいかもしれないが、個々人のもつ多種多様なニーズや個性が取捨される危険性があり、その結果として制度の適用から除外されて「制度のはざま」で支援を受けられない人が必ず出て来る。言い換えれば、制度を運用する人の立場に基づく考え方である。

これに対し、合理的配慮は当事者同士の調整・合意を通じて支援の可否や内容、水準を決定している点で、制度の利用者を中心に据えた考え方である。言い換えれば、障害の種別や程度にかかわらず、個々人に合った支援を提供しやすくなるため、「制度のはざま」に落ちる障害者が少なくなることを意味する。合理的配慮の提供を怠った場合に障害者差別と見なす法律(差別禁止法)の制定に積極的だった民主党が野党になったのを受けて、今後の議論がどうなるか読みにくい情勢だが、障害者の能力が最大限発揮できるよう、その他の学生との競争条件を平準化するための方法を当事者間で調整・合意する考え方やアプローチが重要であることに変わりはない。

6 日本の政策動向

では、日本の状況はどうか。日本学生支援機構の調査によると、図1に掲げたとおり、障害学生の在籍者数は年々増えているとはいえ、全体の〇.三%にすぎず、一割を超すアメリカに比べると少なさが際立つ。義務教育や雇用などと比べても取り組みが遅れており、民主党政権期の見直し論議を経て二〇一一年八月に改正された障害者基本法でも、高等学校以下までを対象とした「児童・生徒」への支援に言及しているが、大学生を意味する「学生」は想定されていない。


◇図1 障害学生の在籍者数推移 ≪拡大はこちら≫

(出所)日本学生支援機構『大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査』各年度版から筆者作成。


現場の支援レベルを見ても、一部の先進的な大学を除けば充実しているとは言えない。相談をワンストップで受け付ける「支援室」と呼ばれる部署に支援担当職員が詰めて、ノートテイクや移動介助といった実際の支援業務は有償学生ボランティアに頼るケースが一般的だが、支援担当職員の身分保障が十分ではないことが多い。例えば、図2は日常業務のうち、障害学生支援が七割以上を占めている職員と、七割以下の職員で年間給与を比べた結果である。これを見ると、給与額が上がるほど七割以下が増加する一方、七割以上の群では百三十万円以下が最も多い。七割以下の群には人事ローテーションで異動を繰り返す事務局スタッフや支援担当教員が含まれている半面、支援にあたる業務のウエートが高い人ほど非常勤職員として低い待遇を余儀なくされていることがわかる。こうした状況で専門的なノウハウや知見が学内に蓄積しないのは当然であり、障害学生支援に対して「特定の学生だけが恩恵を受ける付加サービス」「非常勤職員やボランティアに任せれば十分」と見る空気が大学内で根強い表れと思われる。


◇図2 障害学生を支援する担当職員の給与分布 ≪拡大はこちら≫

(出所)大学および短期大学における障害学生支援担当者の業務内容・専門性に関する実態調査報告書編集グループ編『大学および短期大学における障害学生支援担当者の業務内容・専門性に関する実態調査報告書』から作成。


しかし、わが国でも政策が二〇一二年から少しずつ動き始めている。まず、文部科学省高等教育局長の私的諮問機関として、有識者で構成する「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」が六月に発足し、年末に報告書をまとめた。報告書は高等教育分野における合理的配慮を「機会確保」「情報公開」「決定過程」「教育方法等」「支援体制」「施設・設備」に類型化したうえで、大学の情報発信や相談窓口の設置を短期的課題、大学入試の改善や高校との接続強化、就職支援、教材確保、専門人材の育成などを中長期的課題に位置づけて、国や各大学に体制強化を要請した。これを踏まえて文部科学省は昨年末、大学向けに通知を出している。

さらに、二〇一三年度概算要求では、先進的な取り組みを実施する高等教育機関を対象に、修学支援環境を整備する「障がい学生修学支援拠点形成事業」として、四億四千万円を新たに計上。障害者の相談窓口などを設置する際に必要な経費を国立大学運営費交付金の一般経費に計上するとともに、障害学生の受け入れに取り組む私立大学に対する一般補助を増額する要求も盛り込んでいる。

障害学生支援は大学改革の文脈でも位置づけられており、二〇一二年六月に公表された「大学改革実行プラン」では、大学評価を強化する場合に採用する指標のイメージとして、障害学生・教職員の人数や割合を例示。大学に関する教育情報の活用・公表に向けて、二〇一四年度の本格稼働を目指している「大学ポートレート」(仮称)でも障害学生支援や入試特別措置などを記載する考えが示されている。

今年度末に期限が切れる教育振興基本計画の改定に関しても、二〇一二年八月に中央教育審議会で決まった審議経過報告では、特別なニーズに対応した教育を推進する観点から、高等教育での障害学生支援の必要性をうたうとともに、政策の効果を測定する指標の一例として「多様な学生(社会人、障がいのある学生等)の増加」を挙げている。さらに、内閣府の障害者政策委員会では、障害者政策の全般的な見直し論議の中で、高等教育が議論の俎上に上っている。

しかし、制度的な基盤が整備されたとしても、教育現場が機能しなければ画竜点睛を欠く結果になる。意欲と能力をもつ障害者が希望する大学を受験・進学し、能力を最大限に発揮しながら活躍できる社会の実現に向けて、各大学の意識改革と取り組みが求められる。


『大学時報』2013年1月号から転載。なお、概算要求に計上された「障がい学生修学支援拠点形成事業」は2013年度予算での制度化が見送られた。