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スペインから学べ

November 13, 2012

発電の4割が再生エネ 気象予測活用し発電管理


東京財団研究員兼政策プロデューサー
平沼 光


日本のエネルギー政策再構築の見通しが立たない中、再生可能エネルギー(以下、再生エネ)の積極的な導入を進めエネルギーの多元化を実現している国がある。それはスペインだ。スペインは太陽光発電の普及に失敗したというイメージがあるが、現在はどのようなことを行っているのか。筆者が今年9月に行ったスペイン現地調査を踏まえ、同国のエネルギー事情を紹介する。

風力発電が最大の電力供給源

日本が福島原発事故に見舞われた2011年3月、スペインの送電管理会社レッド・エレクトリカ社(以下、REE社)から、われわれ日本人にとってたいへん興味深いニュースがリリースされた。なんとスペインの3月の電力供給のうち、風力発電が占める割合が他の火力、原子力を超えて最大の電力供給源になったというのだ。

スペインの11年3月の電力供給割合は、風力21%、原子力19%、水力17.3%、石炭火力12.9%、太陽光2.6%、その他コンバインドサイクル発電やコジェネレーション発電となっている。再生エネだけで発電の4割以上を賄っている。


そもそもスペインはなぜ再生エネの大規模導入に取り組んだのか。筆者は9月にスペインのエネルギー事情を現地調査したが、スペイン政府のエネルギー機関であるエネルギー多様化・省エネルギー研究所(IDEA)によると、第一の理由はエネルギー安全保障にあるという。

日本と同じく化石燃料資源に乏しいスペインはエネルギー自給率が低く、石油、天然ガス、ウランなどを海外に依存しているため価格変動や供給途絶のリスクを抱えている。

それを解消するため可能なかぎり国内の資源、すなわち風力をはじめとする再生エネの導入による多元化を進めるという道を選んだというわけだ。

スペインでは1970年代から主な発電事業者を3社とし、対する送電会社は集中的に送電管理が行えるようREE社1社とする体制がとられている。

本格的に再生エネの導入を始めたのは97年頃からで、電力市場の自由化のための法制度を整備し再生エネ事業者の参入を促すとともに、02年には発電事業者が持つ送電線をREE社に売却するよう指示。これにより、REE社はスペイン国内唯一の送電会社として国内全域の送電網を管理する体制に移行している。

さらに、REE社は06年6月にマドリード北部近郊に再生エネコントロールセンター(CECRE)という再生エネの管理組織を設立した。

再生エネはお天気まかせ、風まかせであるため電力が安定しないという弱点がある。これを克服するべく、REE社のCECREでは風力を主として、太陽光、水力などスペイン全土の再生エネと天然ガスコジェネレーション発電の監視・制御を行う。設備容量1万キロワット以上の再生エネ発電所はCECREに管理下とされている。

CECREは、中堅・大手の発電事業者などが情報収集センターとしスペイン全土におよそ30ヵ所設置したジェネレーションコントロールセンター(GCC)とリンクしている。GCCがスペイン全土の風力発電所やメガソーラー発電所の発電電力量や運用パラメーター情報を12秒ごとに吸い上げ、CECREに伝えるとともに、CECREからの各発電所への制御指令を15分以内に実行するという役割を果たしている。

さらに、特徴的なのは気象予測システムを活用しているという点だ。気象予測システムについてごく簡単に説明すると、天気予報を見ながら翌日に風力、太陽光など再生エネでどのくらい発電できるかを計算する。発電量が多ければ火力の発電を抑え、少なければ火力などの発電量を増やすといったコントロールを、CECREと中央給電指令所となるCECOEL/CECOREを通して行う。これによって、風まかせ、天気まかせといった気象条件に左右される弱点を克服しているのだ。気象予測も取り入れながらの制御とは注目に値する。

発電を巧みにコントロールする

注目すべきは送電会社のREE社だけではない。スペインの発電会社も高い技術を持って自社の発電をコントロールし、電力を安定させて送電網へと供給している。

イベルドローラ社は、原子力、石炭、天然ガスのほか風力をはじめとする再生エネ発電まで手がけるスペインの大手電力企業だ。同社の欧州における再生エネ設備容量は、11年8月時点で既に8,000メガキロワットを超え、同社は再生エネで欧州にて400万人に電力を供給する規模にまで成長している。

同社では自社の風力発電、小水力発電といった再生エネ発電の最適化を行うべく、再生エネオペレーションセンター(CORE)という集中コントロールセンターを03年に設置している。

このCOREはスペインの首都マドリッドから南西へ約70キロメートルの古都トレドに存在する。ここでは、スペイン全土に展開されている再生エネ発電設備のメンテナンス、運転管理を24時間365日いながらにしてリモートコントロール(遠隔操作)で行っている。

COREによると、たとえ遠隔地の発電所でメーカーの異なる複数の風力発電機による発電を行っていたとしても、メンテナンスに必要なオイル残量情報や部品交換情報などを現地に赴かずとも一括して把握することができ、必要な作業指令を出すことができるという。

また、運転効率を上げるための風力発電機のブレード(風車羽根)の角度調整やロータースピードの調整も遠隔操作が可能だ。

さらに、COREではREE社が行っているような気象予測を活用した発電予測まで行っている。こうしたきめの細かい監視・制御により、火力をはじめとする自社の在来型の発電とのバランスをとり最適な発電を実現している。

イベルドローラ社はこうした発電管理技術を武器に欧州のみならず米国、メキシコ、ブラジルにまでビジネスを展開している。

欧州で再生エネの普及が進んでいるのは、欧州各国間での電力国際連係により再生エネ発電の不安定さを解消できるからと言われている。現状、電力の国際連係ができない島国日本では欧州のような普及は難しいというのが通説だ。

しかし、スペインはそれらの通説とは異なる状況にある。スペインはフランスなどと電力国際連係をしているが、他国と比べてその容量は小さく、その役割も買電よりも売電が主となっている。そのため、自らを「わが国は電力孤島」と称しているスペインの電力関係者も多い。その意味でスペインは島国日本と似たような状況にあるともいえる。

エネルギー政策の再構築を急がれる日本にとって、電力孤島スペインから学べるべきものは多い。

『週刊 東洋経済』(臨時増刊) 「『原発ゼロ』は正しいのか」 掲載記事より転載

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