タイプ
その他
プロジェクト
日付
2013/2/25

再生可能エネルギー普及を後押しする“産業観光”という視点

東京財団研究員兼政策プロデューサー
平沼光


本格化する国立公園内での地熱開発調査
 日本のエネルギー政策の再構築が急がれる中、北海道上川町の大雪山国立公園内で今春にも地熱発電所の建設のための地表調査が開始される見込みとなった。報道(読売新聞2013年2月22日)によると26日に開かれる環境省や地元自治体、事業化を検討する総合商社・丸紅などによる協議会で、調査実施が合意に達する見通しとのことだ。
 これまで規制により国立・国定公園内での地熱発電開発は難しい状況にあったが、3.11の福島原子力発電事故以降、規制緩和の動きが進み2012年3月には地熱開発に係る新たな通知「国立・国定公園内における地熱開発の取扱い」が発出されるなど、規制が厳しかった「特別地域」の一部でも開発が可能になった。
 こうした背景をもとに秋田県の栗駒国定公園では先行して地表調査が進んでおり、今後各地で地熱発電の開発が本格化する様相だ。
 これまで資源エネルギーに乏しいとされてきた日本であるが、福島原子力発電事故以降関係各所から風力、地熱、太陽光など日本の再生可能エネルギーの豊富なポテンシャルが報告されたほか、そのコストも原子力、石炭、石油といった在来型発電のコストとの差が縮まりつつある。
 政策的にも、昨年12月に公表された自民党と公明党の連立政権合意文書において再生可能エネルギーの加速的な導入を目指すことが記されているため、国立・国定公園内での地熱発電開発など今後様々な再生可能エネルギーの導入が促進されることになるだろう。



普及における根本的な課題
 本格普及に向けた加速的な動きが見込まれる再生可能エネルギーであるが、その普及にあたって今後注視すべき課題には何があるだろうか。
 前述したとおり、3.11の原発事故以降、日本の再生可能エネルギーについて様々な関係機関からその豊富なポテンシャルについての報告が公表されているほか、技術面でも風力、地熱、太陽光など様々な分野において日進月歩で開発が進められている。
また、コストについても3.11以降に政府が公表した試算では原子力、石炭、石油といった在来型発電のコストとの差が縮まりつつある。
そうした中で忘れてはならないのが再生可能エネルギーはその地域の風、日照、地熱などを利用する地域由来のエネルギーであるという点だ。すなわち、その利用にあたっては地域の理解と協力といったものが欠かせない。
 例えば、環境省の報告によれば16億キロワット(発電設備容量)という膨大なポテンシャルが見込まれている洋上風力発電であるが、その利用にあたっては海を生業の場としている漁業関係者の理解と協力が欠かせない。
 世界3位の資源量とされている地熱についてもその利用にあっては近隣の温泉事業者の理解が必要だろう。
 再生可能エネルギーの普及にあたってはそのエネルギーポテンシャルや技術開発、コストといった視点とともに、如何にして地域の理解と協力を得るかという根本的な課題があることを忘れてはならない。 
 
普及を後押しする“産業観光”という視点
 ではどのようにして地域を巻き込んでいくか。一つの切り口として“産業観光”という視点がある。
 産業観光とは、観光地巡りやスキー、海水浴といったレジャーを主目的とした従来の伝統的な観光ではなく、その地に根付いた産業や製品といった地域由来の産業活動にふれることを目的にした観光だ。
 再生可能エネルギーを利用した発電はその地域の風や日照、地熱などの特色を活かして電気エネルギーを作り出すことから地域に密着した地場産業といえ、産業観光の視点から再生可能エネルギーによる発電の現場を観光資源としたり、地域の名所などの伝統的な観光資源と結びつけることで集客を促すことは十分に考えられる。
 実際、世界的な再生可能エネルギーブームといえる現状では、再生可能エネルギー先進国といわれているドイツやスペインには各国から多くの視察団が訪れている実態がある。
 日本においても再生可能エネルギーの発電設備が観光資源となり多くの観光客を集めている例として、福島の「郡山布引(ぬのびき)風の高原」などが挙げられる。
 「郡山布引風の高原」は、猪苗代湖の南に位置する標高約1,000mの布引高原に33機の風力発電機を設置した総出力65,980kwの国内最大のウィンドファームで、高原から猪苗代湖と磐梯山が一望できる一大観光地となっている。平成21年度は18万人もの観光客を集めており、発電と観光という両面から地域の活性化に貢献している。
 従来、地域における再生可能エネルギーの導入は、その地域の電力自給が主たる目的とされてきたが、それだけではなく産業観光資源化という視点を盛込むことでより多くの地域住民の利益に結びつけることができ、地域の理解を促すものとなるだろう。
  しかし、ただでさえこれから本格普及が始まる再生可能エネルギーについてさらに観光資源化するなどということは地域住民からすればなかなか想像し難いものであろう。
そこで、再生可能エネルギーの産業観光資源化を促進させるには一つでも多くの成功例を導き出し、社会に周知していくことが必要になる。
特に、温泉事業者との利害調整が重要となる地熱発電所の開発においては、地熱発電が温泉事業へもたらす具体的なメリットをモデルを構築して示していくことは効果的だ。

福島を再生可能エネルギーの産業観光メッカに
筆者は、昨年2月に福島県会津合同庁舎にて行われた県主催の復興支援・地域連携セミナー「再生可能エネルギーによる会津復興について」に講師として招かれた際に、同地域にある柳津西山地熱発電所を訪れる見学者を近隣の西山温泉に誘導し産業観光化することで温泉地活性化につなげる事を提案した。
 柳津西山地熱発電所のPR館を訪れる見学者は多いときで年間およそ4.3万人もあるという。 PR館は年末から3月末までは冬季休館となることから限られた期間でこれだけの集客があることは注目される。 柳津西山地熱発電所から西山温泉まではおよそ4Km程度であるから十分見学者を誘導できる距離にあるが、現状は地熱発電所の見学者を温泉地まで回遊させる仕掛けが十分とは言えずそのメリットを活かし切れていない。
 柳津西山地熱発電所は発電所1機あたりの出力日本一を誇る発電所であることから、宣伝活動をより充実させることで更なる見学者の集客が見込める。 
地熱発電所を見に来る多くの見学者を温泉地に引き込むことが出来れば温泉地の活性化に大いに繋がるであろう。
 本提案は本年1月に経済産業省より公表された平成25年度予算案の東日本大震災復興特別会計の中にあらたに「福島県市民交流型再生可能エネルギー導入促進補助金(5億円)」という項目で盛込まれるに至っており今後の実現が期待される。
 筆者は前述をはじめ福島全体を再生可能エネルギーの産業観光メッカにすることも提案している。
 福島では磐梯朝日国立公園での地熱発電計画、福島沖で予定されている大規模な浮体式洋上風力発電の実証実験など産業観光化できる可能性の高い再生可能エネルギー導入計画がある。また、会津では地熱、中通は太陽光とバイオマス、浜通りは風力などと福島県全般に見ても再生可能エネルギーに恵まれた土地柄となっている。
 福島県は産業観光の伸びという点でも期待が持てる。福島県の観光種目別観光客入込状況を見てみると、ここ数年スポーツ・レクリエーション、温泉といった伝統的な観光目的の伸び率は減少傾向である一方、産業観光は規模はまだ小さいながらもその伸び率は上昇傾向にある。



 再生可能エネルギー資源に恵まれ、産業観光の伸びも今後期待が持てる福島であるが、再生可能エネルギーの弱点として天気や風量によって発電が左右されるという電力変動の問題がある。
 再生可能エネルギーの導入を進める多くの国がこの問題で四苦八苦しているのだが、この問題にうまく対処している国がある。それはスペインだ。
 スペインは半島にあるという地理条件上、日本と同様に電力の国際連携に頼れないという状況にある。
 そのような状況の中、スペインでは送電網を送電網会社1社に集中管理させると共に、送電会社の中に再生可能エネルギーコントロールセンターを設け、気象予測システムを活用しながら、原子力、石油、天然ガスといった在来型の発電との最適バランシングをリアルタイムに行うことで、蓄電池にも頼らず気象の変化による再生可能エネルギーの電力変動の問題に対応している。 その結果2011年3月のスペインの電力供給における風力発電の割合は、火力、原子力を超えて発電構成1位となる21%にまで達したという。
 スペインが行っているこの手法は発電側のスマートグリッド化と言えるもので、世界各国が注目しており、2011年1月には中国の次世代リーダーと目される李克強副首相がスペインの送電会社Red Eléctrica 社を訪問。 同社の再生可能エネルギーコントロールセンターなどを視察し、同年3月にはスペインの送電会社Red Eléctrica 社と中国国家電網が再生可能エネルギー普及のための技術協力に合意するに至っている。(スペインの発送電管理体制の詳細は論考「スペインから学べ」を参照)  
 日本ではまだ馴染みの無い発電側のスマートグリッド化という発想だが、再生可能エネルギーに恵まれる福島にて、スペインが行っているような発電側のスマートグリッド化の実証実験を日本の高い技術を活用して行い、再生可能エネルギーの電力変動に対応しつつ在来型の発電とバランスをとるモデルを構築できれば、福島全体が再生可能エネルギーを活用した電力多元化都市として世界から注目されることになるだろう。
 それは多くの視察団などを呼び込むことになり福島全体が再生可能エネルギーの一大産業観光地として活性化することが期待できる。

 再生可能エネルギーの普及に当たっては、机上の議論とともに如何に実際の成功モデルを示せるかということが地域住民の理解に繋がる。
 その意味で、産業観光は再生可能エネルギーの普及を今後考えていく上の一つのキーワードといえる。