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日露原子力協定締結は わが国の原子力政策の国際化に向けた第一歩 (2)

May 14, 2009

日露は原子力分野で相互補完関係

一方、ロシア側にも、日本の原子力企業との協力関係の構築を進めたい具体的な動機がある。ロシア政府は、その電力改革の一環として、国内の総電力に占める原子力発電の割合を、現在の15.4%から2030年までには25%まで引き上げる計画を打ち出している。ところが、ロシアは、ソ連邦崩壊後、長く国家の財政難が続いた結果、ウラン濃縮部門など一部を除いて、原子力産業の製造基盤を著しく弱体化させており、外国企業との提携関係の構築は不可欠な状況にある。

そんなロシアにとって、東芝をはじめとする日本企業との提携関係の構築は、原子力発電所建設に関するエンジニアリング技術やタービンなど周辺機器の製造技術を吸収する絶好の機会である。また、世界一の供給能力を有するウラン濃縮サービスのアジア・太平洋市場への売り込みを拡大できるというメリットもある。ここに原子力分野で日露の相互補完関係が成立する可能性がある。

国際化へと向かうわが国の原子力政策

いずれにせよ、東芝はこれを皮切りに、核燃料サイクル部分の弱点を補うべく、積極的に国際提携を構築する戦略をとり続けるだろう。そして、日本政府はそれを積極支援していく可能性が高い。優れた技術を擁する日本の原子力関連産業全体の活性化にも繋がるからだ。日本の原子力政策は事実上、東芝の世界戦略と一体化しつつあるといえる。

それは即ち、自国のエネルギー安全保障を最重要視する立場から、自国内での核燃料サイクル技術の確立を国是とし、それでも足りない部分は海外から調達するという内向きの発想で策定されてきた従来の原子力政策からの脱皮を意味する。従来の原子力政策を閉鎖型と呼ぶとすれば、米WHの買収によって、一大グルーバル企業へと変貌を遂げた東芝の国際戦略はまさに開放型だからだ。

東芝の国際戦略に強く後押しされた日露原子力協定の締結とは、わが国の原子力政策それ自体の国際化に向けた第一歩なのである。

イラン核開発問題での米露接近

なお、わが国の原子力政策が国際化に向かい始めている背景には、東芝の国際戦略との一体化の動きと共に、より大きな国際安全保障上の背景があったと見る。それが冒頭に述べた2. の「核拡散問題の深刻化を受けた国際原子力機関(IAEA)+米露を中心とした新たな核不拡散体制(=核燃料サイクル技術の国際管理体制)構築の動き」である。

前述の通り、ここ数年、世界的に原子力回帰の動きがある一方で、イランや北朝鮮の核開発問題に象徴される世界的な核拡散問題が顕在化している。アメリカをはじめとする国際社会が、特に懸念しているのは、世界の火薬庫・中東地域に位置するイランの核開発問題である。

95年、ロシアはイラン南部のブシェール原発発電所のプラント建設支援に関する契約に調印する。一方、アメリカやイスラエルは、イランの核兵器開発に繋がるとしてこれに反対した。

ところが、02年8月、イランがブシェール原発とは全く別ルートで、独自にウラン濃縮技術の獲得に着手していたことが明らかになると、米露の立場は徐々に接近し始める。

核燃料サイクル技術は多国間管理の方向へ

そんな中、03年10月、エルバラダイIAEA事務総長が英エコノミスト誌への寄稿記事の中で、核燃料サイクル技術の多国間管理構想を発表。「核の平和利用の拡大」と「核拡散の防止」を両立させるには、ウラン濃縮技術や使用済み核燃料の再処理技術といった核兵器開発に直結する核燃料サイクル技術は移転させない代わり、核燃料供給を保証し、また、使用済み核燃料の中間貯蔵・再処理といったバックエンドも管理する多国間の枠組みの構築が不可欠と主張した。

そして、04年8月、これを検討すべく、エルバラダイIAEA事務総長の諮問機関として、国際専門家グループが指名される。 その国際専門家グループが、05年2月22日に発表したのが、『核燃料サイクルの多国間アプローチ』報告書(以下、IAEA報告書)だった。

核燃料リース方式

すると、その5日後の2月27日、ロシアはイランとの間で、自らがブシェールで建設支援する軽水炉型原子力発電所向けの核燃料供給協定を、使用済み核燃料の返還条項付きで締結する。これは、ロシアが建設支援するブシェール原発で使用する核燃料は必ずロシアから調達し、使用済み核燃料もロシアに返還するというもの。これこそは、IAEA報告書の中で言及された核燃料リース方式に基づく核燃料供給契約である。

因みに、その3日前の2月24日には、当時のブッシュ米大統領とプーチン露大統領が、スロバキアの首都ブラチスラバで首脳会談を行い、核安全保障協力に関する米露共同宣言に調印している。

2月22日の『核燃料サイクルの多国間アプローチ』報告書公表、24日の米露首脳会談、そして27日のロシアとイランの核燃料供給協定締結。この流れを見ると、ロシアはIAEA並びに米ブッシュ政権との緊密な連携の下でイランとの核燃料供給協定の締結に踏み切ったと見て間違いないだろう。

注目すべきは、この直後の3月9日付 英FT紙に、クリントン政権一期目に国家安全保障会議(NSC)の大統領特別補佐官並びに不拡散・輸出管理担当シニアディレクターを務めるなど、米核不拡散サークルのキーパーソンの一人であるダニエル・パネマンが、父ブッシュ政権時の国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたブレント・スコウクロフトとの連名で、このロシアとイランとの使用済み核燃料引き取り条項付き核燃料供給協定の締結を高く評価するOp-Ed記事を寄稿している点だろう。

ただし、核不拡散体制の再構築に関するIAEA並びに米露の連携が具体的に表面化するのは同年秋以降のことだった。まず、9月26日、ボドマン米エネルギー長官が第49回IAEA総会でのビデオ・スピーチで、「米エネルギー省は、17メートル・トンの高濃縮ウランをIAEAの核燃料供給に関する取り決めに用意する」と表明。また11月7日、エルバラダイIAEA事務総長が米カーネギー国際平和財団主催の不拡散問題に関する国際会議に出席。国際核燃料銀行構想を発表し、「既に、米露からの支持を得ている」と述べた。

そして、同年11月18日、韓国・釜山で行われた米露首脳会談において、ブッシュ大統領が、ロシアによるブシェール原発の建設支援と使用済み核燃料返還条項付き核燃料供給協定への支持をはじめて正式に表明する。ロシアがイランに対して、核燃料の供給を保障する代わりに、ウラン濃縮技術活動を停止するように表立った説得工作を開始するのはその直後のことだった。

新たな核不拡散体制の構築に不可欠なロシア

また、翌06年1~2月にかけて、露プーチン大統領が国際核燃料サイクルセンター構想を、米ブッシュ大統領もこれと類似したグローバル・ニュークリア・エナジー・パートナーシップ(GNEP)構想をそれぞれ発表。ロシアは国際核燃料サイクルセンター構想の一環として、全ての参加メンバーに対し、ウラン濃縮サービスへの市場価格でのアクセス権を保証する国際ウラン濃縮センターの設立構想を発表し、独自のウラン濃縮技術の獲得を目指すイランに対して、同構想への参加を呼び掛けた。そして、06年7月、米露は、上記2構想を統合すべく、遂に二国間の原子力協力協定の締結交渉開始で合意した。

なお、国際核燃料サイクルセンター構想の将来ビジョンの中には、ロシア国内に使用済み核燃料を貯蔵・管理する国際センターを設立する計画も含まれている。ロシアは世界最大のウラン濃縮能力を持つだけではなく、イランとの核燃料リース契約への調印からも明らかなように、将来的な再処理を前提とした中間貯蔵という形ながら、他国から使用済み核燃料を引き受ける可能性を有する唯一の国なのだ。

アメリカをはじめとする国際社会が、今後、「原子力の平和利用」と「核拡散の防止」を両立させるべく、新たな不拡散体制の構築に着手する場合、ここにどうしてもロシアを関与させなくてはならない理由の一つはここにある。

原子力で日米露の戦略的関係の構築の必要性

前述の通り、核燃料サイクル分野での国際提携を目指す東芝に後押しを受けて、我が国が、ロシアとの原子力協力に乗り出すべく、日露原子力協定の締結交渉開始で合意したのは07年2月のこと。だが、そこには、以上のようなイラン核開発問題を契機とした核不拡散問題での米露接近、またこれと連動したIAEAを軸にした新たな核不拡散体制の構築=核燃料サイクル技術の国際管理下の動きという国際安全保障上の背景もあったと見るべきだろう。

とすれば、今後、我が国が、ロシアと核燃料サイクルを含む原子力協力を更に深化させるには、核不拡散での協力を軸にした米露関係の安定化が大前提となる。

問題は、昨年8月のグルジア紛争の勃発に見られるように、今後とも、米露関係は複雑に揺れ動く可能性が十分にあるという点だ。実際、グルジア紛争の結果、昨年5月6日に正式調印された米露原子力協定の議会承認申請の取り下げを余儀なくされ、同協定の取り扱いは、オバマ新政権に委ねられている。

さて、ブッシュ前政権下で悪化した米露関係に「リセットボタン」を押すと宣言。その第一歩として、今年末に期限の切れる戦略核削減条約(START-1)の再交渉から入る意向だ。

09年4月5日、オバマ大統領はチェコ共和国の首都・プラハで行った演説の中で、「アメリカは核兵器のない平和で安全な世界を追求することを誓う」と高らかに宣言した。これに先立つ4月1日には、アメリカと並ぶ核大国・ロシアのメドベージェフ大統領との初めての米露首脳会議をロンドンで行い、新たな戦略核管理条約に関する交渉を開始することで合意している。

問題は、米露間には、依然として、NATO東方拡大や東欧へのMDシステム配備問題といった対立の火種がくすぶり続けており、今後とも揺れ動く可能性があることだ。よって、自国のエネルギー戦略の柱の一つにロシアとの原子力協力を置いた我が国は、今後、核不拡散を軸にした米露関係の安定化に向け、自ら積極的に関与していくことが否が応でも求められる。

濃縮ウランの備蓄施設建設構想に秘められた潜在的可能性

ここで注目すべきは、日露原子力協定締結直後に発表された東芝と露アトムエネルゴプロムによる濃縮ウランの備蓄施設の共同建設構想である。この濃縮ウラン備蓄を文字通り理解すれば、東芝の国際ビジネス展開に活用されるものとなろうが、もしこのプロジェクトに、東京電力をはじめとする電力事業者が参加すれば、これは即ち国家の濃縮ウラン備蓄となる。またそこにアメリカや他のアジア諸国が参加すれば、IAEAが提唱するいわゆる国際核燃料銀行へと発展する。日露による濃縮ウラン備蓄施設の共同検討構想には、ここまでの潜在的な可能性が秘められているのだ。

その為にも、まずは原子力の平和利用を軸にした日米露の戦略的パートナーシップ関係の構築を目指すべきだろう。原子力政策の国際化を目指すわが国にとって、日露原子力協定の締結はゴールではなく、ここからが本当の始まりなのだ。



関連記事: 政策提言「日本の資源・エネルギー外交の優先課題~米露・原子力と中国・レアアース~」

    • 畔蒜泰助
    • 元東京財団政策研究所研究員
    • 畔蒜 泰助
    • 畔蒜 泰助
    研究分野・主な関心領域
    • ロシア外交
    • ロシア国内政治
    • 日露関係
    • ユーラシア地政学

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