タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/6/4

東日本大震災後の電力需給(1)


東京財団研究員
染野憲治

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻
中谷 隼

1.はじめに



東日本大震災の発生とそれに伴う福島第1原子力発電所の事故により、2011年3月14日から4月8日まで、東京電力は電力需給の圧迫により計画停電を実施した。計画停電が行われていた3月下旬から4月下旬にかけて行われたあるアンケート調査では、「震災前と震災後では節電に対してあなたの意識は変わりましたか」との問いに対し、約9割の人が変わった(「大きく変わった」46.4%、「少し変わった」42.4%)と回答している。また、停電になって思ったことなどを尋ねる自由回答では、電気の大切さへの気づき、便利になりすぎた世の中や電気の無駄遣いへの反省、電力供給回復後でも節電を続けることの必要性などが挙げられている[1]

このような市民意識と政府による一連の電力制限措置により、東京電力管内をはじめとした2011年度の夏期の電力危機は、事前の懸念[2, 3]を覆し、過去3年と比較して約15%の電力需要の減少となり、結果的に計画停電など大きな混乱もなく乗り切ることができた。

他方、今般の福島第一原発事故により原子力発電に対する安全神話が崩壊した。各地の原子力発電所で定期検査からの再稼働が見送られ、2012年5月には54基全ての原子力発電の稼働が停止する事態に至った。このため全国的に夏期や冬期のピーク時間帯における電力供給不足(需給ギャップ)の可能性が懸念されており、特に2012年度の夏期は、原子力発電への依存度が高かった関西電力や九州電力、北海道電力の管内において需給ギャップの可能性が指摘されている。

本稿では、まず、政府や電力事業者から公表されたデータをもとに、東京電力管内における2011年度の夏期の電力需要を過去3年と比較し、その減少幅を要因別・部門別に推計した。推計にあたっては、特に、家庭や業務・産業における自主的な節電対策、電力使用制限令に対応するための半強制的なピークカット対策による減少幅を区別することを目指した。

次に、全国9電力(沖縄電力を除く一般電気事業者)の管内における電力需給構造を明らかにし、それぞれの部門別の電力需要に東京電力管内における自主的な節電対策による削減幅の推計結果を当てはめることで、各電力管内における2012年度の夏期のピーク日・時間帯の節電ポテンシャルを試算した。


2.2011年度の夏期の電力需給(東京電力管内)


東京電力管内における東日本大震災後(2011年度)の夏期の電力需要減少に関しては、どういった部門・要因の寄与が大きかったのか、その視点や精度にはバラつきがあるものの、既に様々な機関から分析結果が公表されている[4-7]。東京財団環境政策プロジェクトでは中谷メンバーにより、政府や電力事業者から公表された情報に基づき夏期及び冬期の電力需要について解析を行った。その結論は以下のとおりである。

①夏期の最大電力需要は4,922万kWにとどまり、過去3年と比べて500~1,200万kW程度の減少があった。他方、冬期の最大電力需要は4,966万kWであり、過去3年と比較して50~250万kW程度の減少に留まった。

②気象条件を考慮すると、平日の日中の電力需要は過去3年と比較して、春・秋期は500~550万kW程度、夏期は900~1,000万kW程度、冬期は250~300万kW程度の減少が見られた。

③家庭部門では、7、8月の電力需要量の減少率(冷房度日によって補正)は9~12%となり、気温差を考慮しても電力需要量は削減されたと言える。ただし、9月の減少率は2%に過ぎないことから、8月中旬以降、節電意識が希薄になった可能性もある。

④業務部門及び産業部門では、夏期の電力需要量が大幅に減少した。他方、ピーク時間帯の節電が強く求められていない春期や秋期でも、一定の電力需要の減少があった。ただし、活動量の回復などに伴って、冬期以降は過去3年と同等の水準まで電力需要の回復が見られた。

⑤夏期のピーク時間帯における減少幅の部門別の内訳は、家庭部門125万kW程度、業務部門450万kW程度、産業部門375万kW程度と見積もられる。そのうち大口需要家の寄与は、時間・曜日シフトなどのピークカット対策を含め525万kW程度と考えられる。

⑥その要因別の内訳は、春期から秋期に共通する減少要因が525万kW程度、夏期(電力使用制限の期間中)に固有の減少要因として、冷房需要の抑制などが225万kW程度、電力需要の曜日・時間シフトなどピークカット対策が200万kW程度と見積もられる。

3. 2012年度の夏期の電力需給(全国9電力管内)


全国9電力管内における節電対策による電力需要の減少幅に関しては、「電力需給検証委員会」においても電力事業者による見積もりの妥当性が疑問視されているが[8]、確かに、その予測は前提条件や仮定に大きく依存するため必ずしも容易ではない。しかし、電力需給に関する検討の前提として欠かせない数値でもあり、節電対策によって最大限に削減可能な電力需要(節電ポテンシャル)を、できるだけ客観的に試算することが求められる。ここでは、全国9電力の電力需給構造に2の要因分析の結果を当てはめることによって、夏期の節電ポテンシャルに関する結論を得た。その結論は以下のとおりである。

①仮に原子力発電の再稼働なしに2008年度や2010年度並みの猛暑になった場合、節電による電力需要の削減がないとすると、ピーク日・時間帯には全国的に需要超過になる可能性がある。

②北海道・関西・四国・九州電力の管内で需給ギャップが発生する可能性があり、2010年度の夏期の最大電力需要と比較すると、それぞれ4%程度、18%程度、2%程度、10%程度の需要超過となる。

③東京電力管内における部門別・要因別の電力需要減少のうち、自主的な節電対策による減少幅は、家庭部門7%程度、業務部門16%程度、産業部門4%程度であったと見積もられる。

④以上の分析の結果、東京電力管内における2011年度の夏期と同程度の自主的な節電対策が実施されれば、各電力管内で9~10%程度の節電ポテンシャルは期待できるものと試算された。





■分析結果の詳細は下記参照


「東京電力管内における震災後の電力需要減少の要因分析(1)」
(1.東京電力管内の夏期の電力需要/2.夏期の気温と電力需要の関係/3.どの時間帯で電力需要が減少した?)

「東京電力管内における震災後の電力需要減少の要因分析(2)」
(4.夏期以外でも電力需要は減少した?/5.どの部門で電力需要が減少した?/6.ピーク日・時間帯の電力需要減少の内訳)

「各電力管内における夏期の節電ポテンシャルの試算(1)」
(7.全国的な需給ギャップの可能性/8.どの電力管内で需給ギャップが発生する?)

「各電力管内における夏期の節電ポテンシャルの試算(2)」
(9.各電力管内における電力需要の内訳/10.各電力管内における節電ポテンシャル)