タイプ
レポート
日付
2013/8/23

日欧協力の新時代?(1)

鶴岡路人 研究員

2012年12月の安倍晋三政権発足以降、日本外交の動きが活発である。そのなかで欧州との関係強化は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国重視と並び、注目すべき特徴の一つである。そこで強調されているのが、政治・安全保障面での協力の強化である。

本稿では、日欧間の政治・安保関係の新たな展開を概観しつつ、欧州との関係が日本に有する意義、そして今後の可能性について、全3回で考えてみたい。今回の(1)では、2013年のさまざまな動き、及びすでに進んでいる日欧協力の実態を取り上げる。次回(2)では、日欧協力の新たな展開の実例に触れた上で、日本外交における欧州との関係の意味について、改めてその基盤を検討したい。(3)では、今後の方向性、課題を考える。

「地球儀を俯瞰する外交」における欧州

安倍政権の外交について、大きな原則のようなものはまだ示されていないが、首相自身は、「地球儀を俯瞰する外交」だと表現している(例えば2013年7月27日、マニラでの共同記者会見)。「世界地図を俯瞰する外交」と置き換えられることもあるようだが(例えば同年6月26日、官邸記者会見)、意味は同じであり、その狙いについて、今年1月の所信表明演説では、「単に周辺諸国との二国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった、基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していく」と説明している。さまざまな地域、諸国との関係を、日本の対外戦略という大枠のなかで、異なる要素を連携させながら、いかに「活用」していくかとの視点ともいえる。

パートナーとしての欧州の意義も、その文脈で浮かび上がってくる。なお、前回の安倍政権の際に麻生太郎外相が唱えた「自由と繁栄の弧」の狙いの一つも、価値を共有する欧州との関係強化にあった。北大西洋条約機構(NATO)との関係もその時代に大きく進展した。今回、「自由と繁栄の弧」という言葉は使われていないが、基本的な考え方は同じだといわれている。

その主要な柱の一つは、価値の共有、すなわち「価値観外交」である。世界地図を俯瞰して基本的価値と利益を共有する信頼できるパートナーを探せば、少なくとも数の上では、欧州に多数のそのような諸国が存在することが明らかである。さらに言えば、北米とアジア太平洋の一部を除けば、安定した先進民主主義国家の多くは欧州にある。したがって、価値の共有という軸で世界を見る限り、意図するか否かを問わず、また、好むと好まざるとにかかわらず、自ずと欧州にたどり着く。実際、欧州との関係においては、価値の共有が前面に打ち出される機会が増えている。日本にとって欧州は、本来まさに自然なパートナーであり、安倍外交において、これが再発見されているのである。

2013年、欧州の季節

欧州との関係については、2013年春以降だけを見てみても、すでに下記のような出来事があった。首脳レベルでの出来事が多いのが特徴であり、欧州の季節が到来したかのようである。
  • 3月:欧州連合(EU)との間での自由貿易協定・経済連携協定(FTA/EPA)と政治協定の交渉開始が合意された。――東京で予定された日・EU定期首脳協議は、EU側の事情により延期になったが、首脳間の電話会談が実施され、2つの協定の交渉開始で合意した。実際、両協定の交渉は順次実施中。延期になった首脳協議は今年11月の予定で調整中と報じられている。
  • 4月:ラスムセンNATO事務総長が訪日し、「日NATO共同政治宣言」が発出された。――同宣言は、日NATO間の協力を規定する初めての公式文書。NATOにとって類似の文書の作成は豪州に次いで2番目。今後の具体的協力の基礎となるもの。
  • 6月:オランド仏大統領が国賓として訪日し、日仏首脳間で、「日仏共同声明」、「日仏協力のためのロードマップ(2013-2018年)」が発出された。――日仏間の「特別なパートナーシップ」の構築が謡われた。「共同声明」及び「ロードマップ」の筆頭項目は政治・安全保障分野の協力。双方の外相・防衛相による会合の開催を調整することでも合意された。
  • 6月:安倍総理がポーランド訪問。その際にヴィシェグラード諸国(V4:ポーランド、チェコ、ハンガリー、スロヴァキア)との間での「ヴィシェグラード+日本」首脳会議を開催し、「共同声明」が発出された。――同声明の最初の項目は価値の共有であり、これに政治・安全保障協力が続く。
  • 6月:英・北アイルランドで開催のG8時の日英首脳会談で、日英間の「情報保護協定」、「防衛装備品等の共同研究・開発、製造に関する枠組み協定」に合意。2つの協定は7月にロンドンで署名された。――前年5月のキャメロン英首相訪日時に合意された防衛装備品分野での実質的協力が開始へ。
  • 7月:防衛省と英国防省の間で「化学・生物防護技術に係る共同研究に関する取決め」が締結された。

NATO事務総長の訪日は、安倍政権発足前から計画され、たびたび延期されていたものだった。そのため、この時期になったのは偶然だったが、結果として非常によいタイミングになった。ラスムセン事務総長は、防衛省訪問の際、北朝鮮によるミサイル発射に備えて防衛省敷地内に展開されていた迎撃ミサイルのPAC-3も見学しており、緊迫する北東アジア情勢を肌で感じる機会になった模様である。日NATO間では、共同政治宣言の採択を受け、サイバー防衛や災害救援等の分野で、対話や具体的協力に向けた準備が進められている。

EUとの間では、長らく懸案であったFTA・EPAの交渉が開始された。日本の産業界の視点としては、EU・韓国間のFTA発効により、EU市場で日本からの輸出が相対的に不利益を被っている状況を是正することが、最も直接的な関心である。しかし、合わせて世界のGDPの3割以上を占める経済パワーである日本とEUがFTA・EPAを締結するからには、世界に誇れる先端的なものを作り出す必要がある。日米を包含する環太平洋パートナーシップ(TTP)、米EU間の大西洋貿易・投資パートナーシップ(TTIP)と合わせて、日EU間のFTA・EPAがどのようなダイナミズムを作り出せるか、注目される。なお、こうした大規模な経済アクター間のFTAは、一定の政治的意味合いを不可避的に伴うものであり、その観点からも、日EU関係の将来を占うものになるといえる。

日EU間では、加えて政治分野を含む包括的な協定の交渉が開始されたことが注目される。同協定は、その後、仮の名称として「戦略的パートナーシップ協定(SPA)」と呼ばれることになった。EUとの関係の大枠を規定することが想定されている。

英仏との間では従来から、政治・安保協力が進められていたが、それらが拡大していることに加え、新たな展開として、その他の諸国との関係強化が挙げられる。例えば、東中欧のヴィシェグラード諸国との間で、政治・安全保障面の協力が前面に打ち出されるようになった。欧州との関係は、従来、経済関係中心だと考えられてきたが――そして今日においても経済関係が重要であることはいうまでもないものの――、政治・安保分野の比重が徐々に増大している。

欧州の側におけるアジアへの関心の拡大は、政治・経済両面でのアジア諸国の台頭に対応したものであるが、なかでも特に、アジアの政治・安全保障情勢が、欧州に影響を及ぼす度合いが高まっているとの認識がある。アジアで武力紛争が発生したような場合には、(紛争自体に直接関与しない場合でも)欧州経済が打撃を受けることは避けられない。また、欧州の最大の同盟国である米国がアジア太平洋「リバランス」を進める中で、その影響を注視せざるを得ないとの背景もある。

現場で進む協力

上述のような新たな展開は、しかし、外交・安保の専門家の間でも必ずしも共有されていないのが実情である。端的にいって、欧州との協力の重要性は見落とされるか、過小評価されがちである。日本にとっての最優先課題である北東アジア、及びアジア太平洋地域における欧州の役割が限定的である、ないしそのように見えることが、その最大の原因になっているのは明らかである。この問題については本稿次回(2)で改めて触れたい。

ここでまず指摘したいのは、現場での協力の進展が、一部の当事者以外にはなかなか知られていない事実が、日欧関係への過小評価につながっているとの側面である。「日欧協力など実体がない」、「安全保障分野で、日欧はまだ実際の協力を行う段階にない」との現状認識が日欧双方で根強く、それらは、日欧協力への無関心と懐疑的な見方につながりがちである。しかし、実際には、一般に認識されている以上に、安全保障面における日欧協力は進んでいるのである。しかも、それは今年になって急に浮上したものでもない。これらへの認知度を引き上げる努力をすることが、日欧双方の関係者にはまず求められている。

現場で進む協力として顕著なのは、自衛隊による海外での活動の文脈である。自衛隊の派遣先の多くでは欧州諸国の部隊が活動しており、自衛隊が国際活動を続ける限り、好むと好まざるとにかかわらず、現地では欧州諸国と協力することになる。これこそ、2001年の9.11テロを受けて開始されたインド洋での補給活動、2003年のイラク戦争後の同国での復興支援活動、2009年からのソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動等、過去10年あまりの経験から日本が得た教訓だといえる。

イラクへの自衛隊派遣を決断した当時の小泉政権は、日米協力の側面を強調したが、派遣先のサマーワで治安を担当していたのは英国軍であり、それはオランダ軍にとって代わられた(さらにその後、豪州に交代した)。そのため、政治的な意義付けは疑問の余地なく日米協力だったものの、現地での実態は日英協力であり日蘭協力(そして日豪協力)だったのである。

現在実施中のソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動においても、日欧(日EU)協力の要素が大きい。2009年に自衛隊が活動を開始した際は、海賊対処法が間に合わなかったため、法的にも日本関連船舶の安全確保として説明する以外になく、結果として、国際協力の側面はある意味意図的に背後に留め置かれた。しかし、哨戒機(P-3C)を派遣し、恒常的に哨戒活動をするようになって以降、その情報は同地域で活動する各国と共有されており、各国にとって貴重な存在になっている。

哨戒機が拠点とするジブチの空港は、米軍に加え、EU部隊(アタランタ作戦)が使用しており、派遣部隊間の調整の舞台となっている。本国から遠く離れた地域で哨戒活動を継続する能力を有する諸国は少なく、結果として先進諸国の部隊の役割となる。そのような場合に、日本と欧州が同じ場所に居合わせることは、単なる偶然ではない。

さらに、日本防衛以外の文脈での自衛隊による戦闘への従事が想定されない以上、国際任務において米軍と実際に共同作戦を実施する可能性は、実は構造的に低い点にも留意する必要がある。災害救援は数少ない例外かもしれないが、例えばイラクにおいても、米軍と自衛隊の役割は大きく異なったのである。

その結果、(戦闘任務に加えて)非戦闘任務に従事する機会の多い欧州諸国が、自衛隊の国際任務におけるより蓋然性の高いパートナーになる。これまでもそうであったし、今後もその構図が大きく変わることはないだろう。これが意味することは、日米関係の重要性の低下ではなく、日米協力のためにも、(多くが米国の同盟国でもある)欧州諸国との協力がしばしば必要になるとの現実である。

次回、(2)では、すでに動き出している協力の実例として、さらに、情報保護協定と防衛装備品協力を取り上げる。そのうえで、そうした日欧協力を日本外交においてどのように意義付けるか、いわば、日欧協力の知的な基盤について考えてみたい。

以下、(2)に続く。