タイプ
レポート
日付
2013/9/25

中国とシリア情勢

[特別投稿]川中敬一氏/東京財団上席アソシエイト
 

中国のシリア問題への対応

中国のメディアは、本年の4月頃から、一貫してシリア情勢に一定の重点を置いて注目していた。ほぼ毎日実施される外交部定例記者会見において、シリア情勢に関する記者質問が報道官に対して発せられていた。また、人民解放軍の機関紙である『解放軍報』も、自紙論評記事を何度も掲載してシリア問題への関心を示していた。

2011年のシリア内戦勃発以来、中国は、一貫してシリアのバッシャール・アル=アサド大統領が率いる現政権を打倒ないし排除する動向に反対してきた。2011年1月から始まったシリア内戦に関連して、中国はロシアと共に、201年10月4日、2012年2月4日、同年7月19日と過去3度、国連安全保障理事会に提出されたシリアに対する制裁決議に対して全て拒否権を発動(*1)した。そうした中国のシリア情勢に対する姿勢は、本年8月以降におけるシリア情勢をめぐる緊迫度が増した後も変わることはなかった。9月17日から20日まで開催された国連安全保障理事会常任理事国会議に参加するために渡米した際、中国の外交部長である王毅は9月19日、アメリカ国務長官ケリーと会談した。その会談において王毅は、以下のように中国側の見解を述べた。

「中国側はいかなる国家、いかなる人が化学兵器を使用することにも断固反対しており、米ロがシリア化学兵器問題で枠組協議に到達したことを歓迎する。現在求められていることは、国際社会が素早く共通認識を形成しなければならないということである。そのためには化学兵器禁止組織と国連安保理の2方面の機能が十分に発揮されなければならない。シリア問題は最終的には依然として政治手段を通じて処理解決される必要があり、中国は継続してこれが建設的機能を発揮されることを希望している。」(*2)

この王毅の発言は、従来の中国政府のシリア問題解決方針の原則を確認しつつ、アサド政権への軍事的制裁を牽制していると理解されよう。

中国とシリアとの関係とは?

そもそも、中国とシリアとの関係は、どのような状況なのであろうか。
  上表から、中国の貿易活動の実態から、シリアとの経済的関係は希薄であることが理解できよう。換言するならば、中国にとってのシリアの経済的価値は、ほとんど無視し得るほどの存在と言っても過言ではないのである。

外交活動において、中国とシリアの要人の往来に関して特筆する事象は認められない。

 軍事的にも、シリア軍の装備のほとんどはロシア製であり、中国との関係は極めて希薄であると見なせる。唯一、1993年と96年に、中国がシリアのミサイル研究に協力した程度である。したがって、軍事分野においても、中国とシリアとの関係は希薄である。

 このように経済的にも政治・軍事的にも関係が希薄で、中国にとりさほど重要ではないシリアの内戦に関わるアメリカ等の強硬姿勢に対する中国の強い反対姿勢は、いかなる思考様式から導かれているのであろうか。

“覇権主義・強権政治”への反対という原則

1988年9月以降、?小平は「世界政治経済新秩序」の建立という構想を内外に提唱し、それは江沢民体制に継承された。また、2005年4月以降、胡錦濤が「和諧世界」の建立という国際的構想を提唱した。これら2つの構想の内容は、中国の国家建設目標と目標達成を阻害するであろう脅威対象をはじめとする世界認識を端的に示している。

 世界政治新秩序の含義が整理されたのは、江沢民体制になってからである。江沢民体制時代における中国の世界情勢認識は、「冷戦思考は依然として存在し、覇権主義と強権政治(*4)は依然として世界の平和と安定を脅かす主要な根源である」(*5)、というものである。したがって、「覇権主義に反対し、世界平和を維持擁護」(*6)しなければならない。それゆえ、「他国が彼らの社会制度とイデオロギーを我々に強要することを絶対に認めない」(*7)ことを意味しているのである。ようするに中国語で表現される「西化」や「分裂」(*8)を阻止することが、国家の目標に至る中国の対内・対外政治活動の全過程における必要要件となるのである。

この必要条件を満たしながら、「中共があってこそ中国人民は民族の独立、人民の解放そして社会主義の勝利を獲得することができたのであり、中国の特色を有する社会主義の道の建設を創始し、民族の振興、国家の富強そして人民の幸福を実現する」(*9)ことを目指すことができる、という論理的帰結に達するのである。 江沢民体制後の胡錦濤体制においても、和諧世界の建立を提唱しながら、その目指す目標と方向に大きな変化は生じなかった。畢竟、世界政治経済新秩序の建立という概念は、?小平と以後の指導者が皆こうした思想と主張を堅持している(*10)のである。

中国の原則とシリア問題

 上述した中国共産党ないし中国の対外行為の原則に照らすならば、可視的そして実際的利益に乏しいシリアのアサド政権といえども、アメリカを中心とするフランス、イギリスをはじめとする先進諸国によって転覆させられることは絶対に容認できないことになる。こうした中国の思考は、上海共産党機関紙『解放日報』が用いた「戦術レベルから言えば、出兵には口実が必須である。現在の最も重要な口実こそがシリア政府が化学兵器を使用したということ」(*11)であり、「外部の“政権更迭”というやり方は通用しない」(*12)との記述に代弁されていると言えよう。

ようするに、今回のシリア情勢をめぐるアメリカやフランス、イギリスの動向は、イラクのフセイン政権に続いて、アサド政権が化学兵器を使用したことを口実とした自らの利益や価値観に照らして好ましくない外国政権の武力干渉転覆行動として中国は感得したものと推察されるのである。それゆえに、内戦勃発後の早い段階でシリア停戦監視員として6名の軍人を急派したのであろう。(*13)

また、ウイグル族の独立過激派やチベット独立勢力、国民の広範な鬱積感そして何よりも、台湾の国民党と独立派を包摂する中国にとり、アメリカ覇権主義とシリア反政府勢力との結託という動向は、外部世界の事象として看過できる問題ではなかったと強く推察されるところである。

したがって、上述してきたような中国の対外活動の原則に従い、中国国内の統一を維持して「中華民族の偉大な復興」を阻害する要素を除去するために、シリアのアサド政権への武力制裁をも辞さないアメリカ等の主張に中国が強硬な反対を続けなければならなかった根本的理由を見出すことができるのである。

中国の対外活動とは、単なる資源獲得や経済的、政治的・軍事的野心の発露ではない。それは、近代中国革命の理念を成就する過程における原則に従っていることを理解せねば、中国の意図や動機を見誤ることになることを今回のシリア問題は示唆していると言える。

  • (*1)畔蒜泰助「シリア情勢と米露関係(1)」東京財団 ユーラシア情報ネットワーク(2013年9月5日)http://www.tkfd.or.jp/eurasia/report.php?id=403 (2013年9月17日閲覧)。
  • (*2)「王毅輿美国国務卿克里挙行会談」(中華人民共和国外交部、2013年9月20日)  http://www.mfa.gov.cn/mfa_chn/zyxw_602251/t1078553.shtml (2013年9月20日閲覧)。
  • (*3)中華人民共和国国家統計局『中国統計年鑑-2012』(中国統計出版社、2012年)242頁。
  • (*4)覇権主義とはアメリカを指し、強権主義とは西側先進国(G7加盟国)を指す。(張妍「浅析当前地縁政治的幾個特点」楚樹龍主編『世界、美国和中国』(精華大学出版社、2003年)128頁。)
  • (*5)江沢民「高挙?小平理論偉大旗幟,把建設中国特色社会主義事業全面推向二十一世紀(一九九七年九月一二日)」中共中央文献編纂委員会『江沢民文選 第二巻』(人民出版社、2006年)39頁。
  • (*6)同上「高挙?小平理論偉大旗幟,把建設中国特色社会主義事業全面推向二十一世紀(一九九七年九月一二日)」40頁。
  • (*7)同上「高挙?小平理論偉大旗幟,把建設中国特色社会主義事業全面推向二十一世紀(一九九七年九月一二日)」40頁。
  • (*8)言語的には「西化」は西洋化する、「分化」は分裂させる、という意味である。ただし、政治的には、「西化・分化」は“欧米的民主主義観を強要することにより、国内の意識を分裂させて政権転覆を画策する”という意味で使用される。特に、1989年6月の第2次天安門事件直後のアメリカや西側諸国の対中制裁以降、この用語は政治的意味合いを強く包含することとなった。
  • (*9)前掲「高挙?小平理論偉大旗幟,把建設中国特色社会主義事業全面推向二十一世紀(一九九七年九月一二日)」3頁。
  • (*10)楚樹龍『国際関係基本理論』(精華大学出版社、2003年)176頁。
  • (*11)「専家:美国出兵真“打”叙利亜併不容易(外交部前政策研究室主任 裴遠穎)」『解放日報』2013年8月28日。
  • (*12)「関注叙利亜:中国立場経得往考験」『解放日報』2013年4月8日。
  • (*13)「為了和平 緊急出征――我国赴叙利亜軍事観察員選抜出征記」『解放軍報』2012年5月14日。このときの中国軍事停戦監視員は、総部から3名、瀋陽軍区から1名、蘭州軍区から2名の6名が選抜された。なお、中国人民解放軍には「平和維持軍事監視員人材センター」が設立されており、各総部および各軍区から事前に適切な人材が登録され、中央の決定後に直ちに出動可能な状態が維持されている。