タイプ
レポート
日付
2014/8/27

朴槿恵政府の統一構想と信頼外交

[特別投稿]黄洗姫氏/海洋政策研究財団 研究員
 

1.朴政権の統一構想と韓国人の統一意識の低下

 就任以来、朴槿恵大統領は「韓半島信頼プロセス(朝鮮半島信頼プロセス)」、「ドレスデン宣言」を発表し、朝鮮半島統一への備えを国家の主要目標として訴えてきた。そして7月15日、大統領を委員長とする「統一準備委員会」を発足させた。大統領を委員長とし、50名の委員や専門委員と諮問団を含め150名が参加する巨大な委員会である。8月8日、同委員会の第一次会議が開催され、韓国社会における統一論議を活発させ、統一に対する社会のコンセンサスを形成する作業が始まった。

 このような朴政権の積極的な統一政策の推進の背景には、分断状況の長期化や、近年の経済不況により朝鮮半島統一の必要性に対する共感が年々衰えつつある韓国社会の状況がある。ソウル大学平和統一研究院が毎年実施する『統一意識調査』によると、ここ数年統一の必要性に同意する韓国国民は50パーセント前後にとどまっている※1 。また、韓国国民の57%が統一は必要だと答えた2013年の調査では、その理由が「同じ民族だから」(民族意識、40.3%)、「戦争脅威の防止のため」(軍事安全保障目的、30.8%)、「先進国になるため」(経済的目的、14.3%)の順で挙げられた※2 。民族意識の低下と安全保障・経済的な効果への注目は、分断状態の解消という規範的な当為性よりも現実的な利益から統一を理解する韓国社会の意識変化を反映している。

 このように民族意識が低下するにつれ、韓国社会は北朝鮮を統一の対象として認識するより、軍事的脅威や体制崩壊による混乱を招き得る存在とみなし、それへの対応を国政の主要課題としている。そのため、究極的な目標として統一に向けた政策を策定するよりは、危機管理および当面の脅威対処という観点からの対北政策が独り歩きする傾向が見られた。朴大統領が今年の新年記者会見で発表した「統一大当り論」は、このような統一問題に消極的な国内の雰囲気を一新し、統一がもたらす効果を喚起させようとしたと評価できる。この発言に対する韓国社会の反応も肯定的であり、記者会見直後の世論調査では支持率が54.5%に達し、前の週の48.5%から急上昇した※3 。また記者会見内容に対しては、「統一は大当たりである」という朴大統領発言が最も印象的であったと答えた人が一番多く(28%)、統一に対する国民の関心を集めることに成功している※4 。

2.信頼外交と「韓半島信頼プロセス」

 朴槿恵政権は、韓国の外交戦略として信頼外交(Trustpolitik)を提示した。尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官によれば、信頼外交とは朝鮮半島および北東アジアの持続可能な平和と協力を構築するための戦略であり、「韓半島信頼プロセス」と「北東アジア平和協力構想」を推進し、南北韓の信頼醸成による平和構築と域内諸国間の不信、領土紛争による軍事的衝突の防止を試みるものである※5 。

 とりわけ朝鮮半島の平和と安定を作り、統一への期待を高揚させようとする朴政権の統一構想は、朴大統領が2011年にForeign Affairsに寄稿した論文からも読み取ることができる。この論文において、朴大統領は朝鮮半島における信頼外交(Trustpolitik)に言及しており、これを、国際的な規範に基づき、信頼によって南北間の行動を相互に拘束することを図る政策だと定めた※6 。そして朝鮮半島の信頼醸成のために均衡政策(Alignment Policy)の必要性を指摘した。均衡政策は、韓国の歴代政権の対北政策が一方的な関与および支援か、強硬な抑止のいずれかに偏った政策であったことを批判し、これら両方の併用を国民的なコンセンサスに基づいて行使することを提示したのである。

 「韓半島信頼プロセス」に対して、国内の保守派からは対北政策の甘さを、進歩派からは現実性の欠如が指摘されている※7 。また統一費用の負担を理由に統一を回避しようとする近年の雰囲気の転換を図る「統一大当たり論」は、統一の正当性を現実的な利益に求めており、依然として従来の統一認識に基づく構想の域を出ていない 。以上のような限界を認識した上で、 今回発足した「統一準備委員会」は、 具体性を欠如し経済主義的な統一理解に陥っていた従来の統一論議から脱却し、統一へのコンセンサスを模索しなければならない。

3.実現可能性への疑問

 以上のように、 南北間の信頼および朝鮮半島周辺の平和定着を図る朴政権の統一構想は、国内における統一論議を活発化させた。しかしながら、政策実行の対象となる北朝鮮はもちろん、周辺国外交において未だ実質的な成果を得るには至っていない。北朝鮮の核問題を解決するための具体的な方策が不在であり、その端緒となり得る六者協議の再開も目処が立っていない。軍事安全保障政策との円滑な運用も疑わしく、推進中である韓国型ミサイルシステムの開発に関しては、従来の戦略的な曖昧性(strategic ambiguity)を放棄したことで中国の警戒心を刺激したため、信頼プロセスの構築と背馳するとの批判もあった※8 。統一への過程として信頼構築を訴えながらも、実質的な信頼醸成への方策が見当たらないのである。

  素早くアジェンダを設定することには慣れているが、政策を実行する主管省庁に権限を委任するには消極的な朴政権の国政スタイルでは、現在の統一構想が効果的な形となって現れるまでには更なる時間が必要となる。そのような意味から、朴政権の信頼外交の実現可能性に疑問を投げかける意見も多い。チョ・チョンゴンは朴政権の統一構想に対して、鳩山政権のシーズン2になる可能性を提起した。彼は、鳩山政権の「東アジア共同体構想」は友愛を通じてアジア諸国との関係改善と信頼構築を図るものであったが、国家間の友愛増進がいかにして関係改善の原理として働くかを提示できなかったと指摘する。信頼に基づく朴政権の統一構想と北東アジア平和協力構想も、ソフトイシューでの協力がハードイシューへの協力を導くためのメカニズムを創出できなければ、構想の域に留まる危険性がある※9 とする彼の指摘は注目に値するだろう。

  • ※1 チョン・ウンミ「南北韓住民の統一意識変化−2011~2013年世論調査分析を中心に」『統一と平和』第5巻2号、2013年、79−81頁。同調査によると、統一が必要だと思う韓国人は2011年53.7%、2012年57%、2013年54.8%であった。一方、北朝鮮人は90%以上が必要だと答えた(2011年95.2%、2012年93.7%、2013年93.3%)。
  • ※2 キム・ビョンロ「統一環境と統一議論の地形変化—政府の統一方案を中心に」『北韓研究学会統計学術発表論文集』2013年、43頁。
  • ※3 朝鮮日報、2014年1月7日。
  • ※4韓国ギャロップ、『デイリー・オピニオン』第98号(2014年1月2週)。http://www.gallup.co.kr/gallupdb/reportContent.asp?seqNo=517&pagePos=4&selectYear=2014&search=0&searchKeyword=%BD%C5%B3%E2
  • ※5尹炳世「信頼外交と韓国の外交地平の拡張」2013年世界記者大会演説、2013年4月15日。全文は、http://www.mofa.go.kr/news/pressinformation/index.jsp?mofat=001&menu=m_20_30&sp=/webmodule/htsboard/template/read/korboardread.jsp%3FtypeID=6%26boardid=235%26tableName=TYPE_DATABOARD%26seqno=345874。
  • ※6 Park Geun-hye, “A New Kind of Korea: Building Trust Between Seoul and Pyongyang,” Foreign Affairs, Vol.90, No.5(September/October 2011). http://www.foreignaffairs.com/articles/68136/park-geun-hye/a-new-kind-of-korea。なお、この論文においてTrustpolitikは北朝鮮政策が中心となるため、信頼外交より信頼政策として使われている。 
  • ※7ソン・キヨン「朴槿恵政府の対北政策の成功可能性—北朝鮮の行動変数と米中関係の展望によるシナリオ分析」『統一研究』第17巻第2号、2013年、11頁。
  • ※8 チェ・チョンゴン「朴槿恵政府の北東アジア平和協力構想に対する批判的な観点および成功のための提言」『統一戦略フォーラム報告書』第54巻、2014年、31−33頁。
  • ※9 チェ・チョンゴン、前掲、34頁。