タイプ
レポート
日付
2014/9/8

オバマ政権の欧州・中東からの撤退モードとアジア重視が結果的に中ロ接近をもたらした

渡部 恒雄 上席研究員

 

中ロ接近への米国の見方

 今年5月の中ロ首脳会談において、年380億立方メートルの天然ガスを30年間供給するという、総額4000億ドルの中国とロシアの合意がなされた。米国の世界の影響力低下による世界の多極化の動きと、それを望んでいる中ロの接近が、米国においても懸念されている。大きくみれば、米中接近による地政学上の対米同盟的な動きを懸念する声と、中ロの地政学上の対立構造を踏まえての限界を指摘する声の双方である。

 5月23日にワシントンポスト電子版に掲載されたAP発信の分析記事「Analysis: US plays down warming China-Russia ties」(分析:米国は中ロ連携を過少評価している)では、中ロ接近について、ケリー国務長官のコメントを引用している。(1)「プーチン大統領と中国については、これまで中ロで10年間交渉してきたガスの交渉以上のことはないとみている。」「これは新しいことではない。これは現在起こっていることへの急激な反応でもない。世界がこれでよくなれば、それでいい。これは緊急の事態ではない。」

 この記事が、懸念派の代表として取り上げるのが、外交問題評議会のレスリー・ゲルブとセンター・フォー・ナショナルインタレストのドミトリー・シムズの見方だ。かれらは、「現在、モスクワと北京は、米国の国益にダメージを与えかねない相互協力の基礎と策略の可能性を共有している」という警告を発している。  2013年の中ロの関係は、民主化や人権などが必ず良い結果をもたらすというような西側の思い込みによる米国や他の問題が引き起こした意図せぬ結果より、協力することになったが、今後は、ウクライナ、バルト三国のロシア語勢力やフィリピンでのゲリラへの支持などのような、意図的な協力と脅しがありうることに注意すべきだと指摘している。

 5月21付のニューヨークタイムズ電子版は、「China and Russia Fail to Reach Deal on Gas Plan」(中ロはガス合意に失敗)というタイトルで分析を載せたが、中ロのエネルギー合意成立後は、タイトルを変え、背景説明として、「Ukraine Crisis Pushing Putin Toward China」(ウクライナ危機がプーチンを中国寄りにした)というタイトルに替えて掲載している。(2)

 その中で、中国の人民大学の教授の「中国はロシアのウクライナの姿勢については、公式には中立の立場をとってきていたが、米中の関係が悪化したことで、ロシア寄りの姿勢が始まった」という見方を紹介している。また他の専門家の見方として、今回の中ロの合意は、中国は特に無理をする必要がなかったが、南シナ海などをめぐる米国へのけん制を考えて、ロシアとのディールに乗り、ロシアは、ウクライナ問題等で孤立してきているため、中国寄りの合意をしたとみる見方を示している。

 まとめれば、中ロ合意はかなり戦術的なものであり、世界秩序を変えるほどの戦略的なものではないが、だからといって、無視できるような動きではないため、注意が必要というのが、5月末における米国のコンセンサスであった。

米国の欧州・中東からの撤退モードの外交の問題点

 しかし、その後、オバマ政権のウクライナおよび対ロ政策、およびシリア、イラク政策についての影響力の低下が強く懸念される中で、中ロ接近への警戒感も高まってきている。さらに国内の党派対立も反映して、オバマ政権への批判も高まっている。ウクライナでの内戦状況については、ロシアがウクライナの親ロシア派への支援の態度を強め、それに対して米国と欧州の制裁も段階に強化されている。

 オバマ政権への最も辛辣な批判者である、保守派のコラムニスト、チャールズ・クラウトハマーは、7月24日付のワシントンポスト紙の寄稿、「Vacant Presidency」(空白の大統領)で、「ウクライナ問題に関しても、大統領の、棒読みの気のない発言による彼の距離の置き方は、問題への無関心(detachment)に近い」と指摘している。(3)

 クラウトハマーはオバマ外交の本質は「理念からくる受動性」だと指摘する。「オバマ大統領が、『プーチン大統領は歴史の間違った側にいる』と話したとき、彼は実際にそれを心から信じているのだろう。彼は、結局、リアルポリティークは、19世紀の原始的な考え方で、その結果は自滅をもたらすだけだとして、その考え方を軽蔑している」と続ける。

 しかし現在の現実の世界は、リアルポリティークに則ったレーガン大統領のようなリーダーを求めているとクラウトハマーは指摘し、本来の米国の指導者なら、ウクライナ政府に必要な武器を与え、ロシアへのより深刻な制裁をかけ、中欧でのミサイル防衛を強め、レーガン大統領のような強いスピーチで、その理由を米国民と世界に説明するだろう。オバマ大統領がそのどれも行わない理由は「彼は歴史の正しい側にいる」と信じているからだと結論づけている。

 これに対して、同じワシントンポスト紙で、これまでもオバマ大統領の擁護者であるファリード・ザカリアは、7月24日付で、「EUは世界の最大の欠席者」(The E.U. is the world’s great no-show)として、ウクライナでの混乱の本質は、欧州諸国の動きの低下にあるという議論を展開している。(4)ザカリアは、米国はウクライナ問題をリードすべきだが、欧州ぬきには何も前に進まないと指摘する。欧州諸国はロシアの大きな経済パートナーであり、オバマを批判する人たちは、オバマにプーチンを叱ってほしいと考えているようだが、欧州が行うのが効果的だと指摘する。

 ザカリアのこれまでの議論には、傾聴すべき点も多かったが、今回の欧州の行動の弱さとまとまりの悪さという指摘は、米国の指導力と影響力の不足にも起因するものであり、その議論は、クラウトハマーが指摘する「無関心(detachment)」というオバマ大統領の心理と近いものを感じさせる。とはいえ、クラウトハマーの提案する「タカ派」の政策は、むしろプーチンの歩み寄りの機会を奪い、状況を混乱させるリスクが高い。

 ワシントンポスト紙の論説委員長のフレッド・ハイアットは7月27日付の、「Obama’s foreign policy reveals the effects of disengagement」(オバマの外交は米国の撤退の影響を明らかにしている)という記事で、ともすれば党派対立的な前述の二人とは距離を置き、本質的なオバマ外交批判を試みている。(5) ハイアットは、「オバマ政権は米国の世界の指導的立場から、慎重に調整した撤退を図っていると考えているようだが、我々がそれによって得られるものは、より危険になった世界である」と結論づけている。

 例えば、「オバマは国家の中のネイション・ビルディングを行うべき、とか、世界で最も繁栄するアジア地域に軸足を置く」と語っているのがその一端だと指摘する。エジプト等で起こった「アラブの春」のときも、オバマ大統領は千載一遇の機会だとは捉えずに、むしろ、否定的な態度をとった。これは、第二次世界大戦後やベルリンの壁崩壊後に、米国が貿易や経済の面でイニシアティブをとったこととは対照的だ。  筆者が考えるに、おそらく、このような米国の撤退モードの腰の据わらない状況を見て、ロシアや中国は、米国の覇権に挑戦するというレベルではないが、多極化に向かう緩んだ世界で、自国の利益を拡大しようと動いていると考えられる。

 問題は、ハイアットが指摘するように、米国の指導者がどれだけ、自らの指導力低下が世界に混乱をもたらしているのかを自覚し、適切な行動をとれるかという点になろう。その意味で、本質的にリベラルな世界観を持つ、オバマ大統領とスタッフには、価値観の転換は難しいかもしれない。特に外交・安全保障政策の中心であるスーザン・ライス国家安全保障担当補佐官とジョン・ケリー国務長官の能力や意識が変わることはあまり期待できない。

 オバマ政権の論理からすれば、長期的に衰退傾向にあるロシアは、地政学的な脅威ではなく、むしろ、戦略的には中国の台頭に備えるべきであるというものだろう。この論理自体は間違っていないと思うが、現実にはシリア・ウクライナでみせたオバマ政権の世界からの撤退モードの姿勢は、ロシアがウクライナに対して、力の行使をさせる結果を招いている。

 一方で、米国のアジア回帰政策という中国の台頭に備えたリソース整備というリアルポリティーク的な戦略は、チャック・ヘーゲル国防長官と太平洋軍の主導のもと、着実に進んでいる。おそらく、中国の南シナ海などでの強権的な姿勢は、米国の力の低下という要素よりは、むしろ外に向けて弱腰をみせられないという国内の権力闘争の要因と、アジアで中国への対抗手段を強化している米国への反発によるものといえる。このようなオバマ政権の欧州・中東とアジアにおける戦略のバランスの悪さは、結果的に、米国を警戒する中国と、米国を甘く見ているロシアが、皮肉にも戦術的にタッグを組むインセンティブを与えている。

 日本としては、同盟国米国に対して、アジア回帰政策の継続を望むことは当然のことだが、米ロ対立と中ロ接近は、日本のエネルギー政策においても、アジアの地政学戦略においても、長期的利益に反する。その意味で、オバマ大統領とプーチン大統領に対して、ウクライナ問題において対立を弱め、中国の台頭への対抗という戦略的なリアルポリティークを意識して、政治的な解決への対話を促すことが、容易ではないが、日本の戦略的方向性といえよう。リアルポリティークとはクラウトハマーの提言するような強硬姿勢ばかりではない。

  • (1) Matthew Lee, ”Analysis: US plays down warming China-Russia ties” Associate Press, May 23, 2014. http://news.yahoo.com/analysis-us-plays-down-warming-china-russia-ties-042703015.html
  • (2) Neil MacFarquhar and David M. Herszenhorn “Ukraine Crisis Pushing Putin Toward China” The New York Times, May 19, 2014. http://www.nytimes.com/2014/05/20/world/europe/ukraine-crisis-pushing-putin-toward-china.html
  • (3) Charles Krauthammer “Vacant Presidency” The Washington Post, July 24, 2014. http://www.washingtonpost.com/opinions/charles-krauthammer-the-vacant-presidency/2014/07/24/0b110fdc-1363-11e4-9285-4243a40ddc97_story.html
  • (4) Fareed Zakaria “The E.U. is the world’s greatno-show” The Washington Post, July 24, 2014. http://www.washingtonpost.com/opinions/fareed-zakaria-the-european-union-is-the-worlds-great-no-show/2014/07/24/f92ee906-1367-11e4-8936-26932bcfd6ed_story.html
  • (5) Fred Hiatt “Obama’s foreign policy reveals the effects of disengagement” The Washington Post, July 27, 2014. http://www.washingtonpost.com/opinions/fred-hiatt-obamas-foreign-policy-reveals-the-effects-of-disengagement/2014/07/27/4c0f9452-1284-11e4-8936-26932bcfd6ed_story.html