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レポート
日付
2014/10/2

モディ首相、日中米豪と相次ぐ首脳会談で全方位外交を展開

[特別投稿]竹内幸史氏/東京財団アソシエイト

8月末から9月にかけて、インドのナレンドラ・モディ首相が主要国首脳との間で全方位外交を展開し、国際舞台で強い存在感を見せた。訪問した日本で安倍晋三首相との首脳会談を開いたのに続き、中国の習近平国家主席やオーストラリアのトニー・アボット首相のインド訪問を受けた。さらに9月下旬にはモディ首相が訪米し、オバマ大統領と会談。豪腕宰相によるインド経済立て直しの予感が各国首脳を引き付けた。

「Make in India」を強調

来日したモディ首相は9月2日、東京で開かれた講演会で「パワー全開」だった。「ハードウェアに強い日本と、ソフトウェアに強いインドは互いに必要としている。国内生産が割高になった日本企業はインドで生産してほしい。そのために規制緩和を進め、ビジネスをしやすい環境作りをしていく」。こう明言したうえで、製造業の強化を図る政策スローガン「Make in India」を強調した。

モディ首相は1950年生まれの64歳。前グジャラート州首相だ。インド史上で初めての「独立後世代」の首相であり、州首相の経験を持つ初めての首相である。日本の経済界への発信に力を入れたのは、過去数年、インドの経済改革が遅れ、成長が減速し、外国からの投資も低迷していたからだ。首相は、商売が盛んで国際的な実業家を多く輩出しているグジャラート州出身であることを誇り、「私の体には商売という血液が流れている」と述べた。こうしてビジネス重視をアピールし、インド経済への日本の信頼回復に努めた。

州政府時代に積極的な企業誘致を進め、国内随一の躍進州にした実績に基づく経済政策は、「モディノミクス」と呼ばれる。講演会場にはマンモハン・シン前首相の来日時には全くなかった熱気がみなぎっていた。メモも見ずにヒンディー語で改革のビジョンを力説する様子に、同席した飯島彰己・三井物産社長は「企業の社長のような政治家だ」と評価した。

日米印3国間の対話を外相間で開催へ

モディ首相は今回、8月30日に関西から入り、安倍首相の出迎えを受けた。安倍首相は京都市とインドの聖地、バラナシ市の友好提携式に立ち会ったり、自ら寺の案内をしたりする異例の歓迎ぶりだった。 9月1日の首脳会談後に発表した共同宣言も「異例」だった。名称は「特別戦略的グローバル・パートナーシップのための東京宣言」とされ、「特別」の表記が加えられた。モディ首相率いるインドの重要性を格上げするものだった。

その中で、日本は今後5年間にインドへの直接投資と日系の進出企業数を倍増させる目標を示すとともに、インドに計3兆5000億円にのぼる官民投融資をする方針を表した。この数年、インドへの円借款が年2,000~3,000億円であることを考えると、破格の支援を進める意気込みがうかがえる。詳細な内訳は明らかでないが、新幹線をはじめとするインフラ建設を中心に考えられている。

一方、昨年から始まった防衛装備の技術協力では、日本の救難飛行艇US-2をめぐる協議の進展を評価したが、最終合意には達しなかった。だが、日本政府は大量破壊兵器の開発などの懸念がある企業・組織を記載した経産省の「外国ユーザーリスト(EUL)」からインドの宇宙・防衛産業6社を削除する決定をした。これは、1998年のインド核実験で発動された対印規制を解除し、ハイテク分野の貿易と協力を拡大する姿勢を明確にしたものだ。

外交分野では2011年に始まった日米印の3国間対話を外相間で開催する道筋がついた。しかも、この対話は「適切な時期に地域の他国も含めて拡大する可能性を探っていく」と宣言に記された。これは国名の名指しを避けたが、主にオーストラリアを示唆したとみられる。安倍首相は、日米豪印の4カ国対話の枠組み構築に強い思い入れを抱いているが、前回の安倍政権時代の2007年、当時のライス米国務長官が「中国に対して予期しないシグナルを送る可能性もある。慎重に進める必要がある」と述べ、時期尚早とされた。だが、7年をへて中国の台頭が本格化するなか、実現の可能性が増してきたと言える。

中国、豪州とは原子力協力を促進

懸案になっていた日印間の原子力協力については、協定の早期妥結に向けた交渉を加速させることを確認しただけだった。日本では福島県知事選が10月にあるし、原発の再稼働問題も抱えている。それだけに政府・与党の間では、核不拡散条約(NPT)非加盟のインドに対する原子力協力に踏み切るには慎重論がある。インド側も首脳会談後、外務省のアクバルディン報道官が「原子力協力は今回、大きなアジェンダではなかった」と語り、大きな進展がないことは織り込み済みだった。

これについて、日本政府幹部は「日本国内の原発情勢より以前の問題として、日印両国の核問題をめぐる基本的な考え方に隔たりがある。協定の締結にあと1年はかかるだろう」と述べた。詳細な争点は明らかでないが、日本がインドに求めている核実験停止のコミットメントの明記や、インドが求めている使用済み核燃料の再処理を認めることなどに見解の対立があると思われる。

だが、核軍縮と不拡散をめぐる日本の頑固な態度にインド政府がしびれを切らせているのも確かだ。インドは日本以外の各国とは原子力協力を着々と進めている。 

モディ首相の帰国後の9月4-5日、オーストラリアのトニー・アボット首相がインドを訪問し、オーストラリアのウラン燃料をインドに輸出するための原子力協定を締結した。オーストラリアは伝統的な反核政策のなかで、NPT非加盟のインドに対するウラン禁輸の方針を堅持していたが、米国の圧力も受け、原発市場の拡大が期待されるインドへの輸出解禁に転じた。

さらに17日にインドを訪問した中国の習近平国家主席との首脳会談でも、原子力協力が進展した。昨年5月に李克強首相が訪印した際に提案があり、今回は両国の原子力当局の実務者レベルの交流を進めることに合意した。

協調と警戒のアンビバレントな印中関係

実は両国には過去、核燃料の取引実績がある。1974年にインドが実施した核実験後、米国が制裁を発動し、米国の協力で建設したインド・タラプール原発への核燃料供給をストップさせた。インドの核燃料不足が深刻化したのに対応し、中国は1995年に30トンの低濃縮ウランを提供した。だが、それも1998年のインドの再度の核実験で中止になった。(*1)

インドと中国は核兵器を保有して対峙している。今回、原発の実務者レベルとは言え、交流を進めることになったのは実に大胆な決定である。インドと中国は「協調と警戒のアンビバレントな関係」といわれる。(*2) 両国は国境問題を抱え、パキスタン問題もあり、仮想敵国同士だ。ところが、国際社会で急速に台頭している新興国であり、気候変動問題や多国間貿易交渉などでは利害が共通し、共同歩調をとることが多い。エネルギー問題でも原発堅持の方針で共通しており、分野を限定した協力関係を築く狙いがあるようだ。

中国はインドで他のインフラ建設でも協力する構えだ。首脳会談では今後5年間でインドに200億ドルの投融資を進める方針を表明した。グジャラート州とマハラシュトラ州に計2カ所の工業団地を建設するほか、鉄道分野でも在来線(チェンナイ~マイソール間)の高速化やインドでの鉄道大学の開設など人材育成の協力を掲げている。中国は明らかにインドを巡る外交で、日本と競う施策を仕掛けている。

インドもこの数年、中国との関係改善を進め、シン前首相と胡錦濤・前国家主席は在任中の10年間に約30回も会っている。モディ首相は今回、習主席の最初の訪問先であるグジャラート州で歓待し、信頼関係の構築に努めた。だが、そのさなかにもカシミールにおける未確定国境地域で中国軍の越境行為があったとされ、首脳会談でもモディ首相が習主席に懸念を伝える場面があった。

インドは過去、港湾や空港など治安上の要衝であるインフラ事業では中国企業の参加を認めず、警戒の構えを解いていない。中国との首脳会談でインフラ協力の方向性は打ち出されたが、果たして現実にどれだけ具体化するか、まだ見通しにくい。

  • (*1) The Diplomat, “Can Strategic Nuclear Competition and Cooperation Coexist?” http://thediplomat.com/2014/09/can-strategic-nuclear-competition-and-cooperation-coexist/
  • (*2) 西原正、堀本武功編『軍事大国化するインド』、亜紀書房、2010年