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イスラム国の特徴(1) ~アルカイダとの比較考察から~

February 9, 2015

[特別投稿]和田大樹氏/東京財団アシスタント

周知のように、1月上旬に仏左派系新聞シャルリエブド社に対する襲撃事件が発生した矢先、今度はIS(イスラム国)に人質として捕らわれていた日本人2名が殺害されるという悲劇が日本国内を震撼させた。これまで多くの日本人にとっては対岸の火事かのような存在であったISが、この事件において日本を直接の標的とすると宣言したことから、今後我々はこのISに対してより真剣に対峙していかなければならない。  ここではシリア内戦が激化していく中でそれを巧みに利用し、軍事的・組織的・財政的に強大化する事に成功したISの特徴について、国際テロ分野の先行研究をもとにいくつか挙げてみたい。

1.“組織”としてだけでなく、“ブランド”、“イデオロギー”として機能するIS

ISは現在社会のグローバル化の流れを巧みに利用することで、勢力を維持し、拡大している。シリアとイラクで一定の領域を支配する形で活動する“組織”としてのISは、無料で使用できるフェイスブックやツイッター、ユーチューブなどを使用し、ハリウッド映画さながらの画像や動画を発信するなどして、それに魅了されシリアへやってくる者を主に外国人戦闘員として歓迎し、また南アジアやアフリカなどの地域を拠点とするイスラム過激派組織からも、ISへの忠誠を宣言する動きがみられるようになっている。

IS のメンバーがシリア・イラクから欧米やアジア、アフリカの各国へ移動し、そこで組織的なテロ活動を開始することは国際テロ対策上も難しいことから、グローバル化した通信技術やサイバー空間を巧みに利用し、ISを“組織”としてだけでなく、一種の“ブランド”、“イデオロギー”として影響力を高めることで勢力の維持・拡大を狙っている。

先行研究上、これはパキスタンにあるアルカイダコアも採っていた戦略で、アルカイダコアが米軍による掃討作戦で組織的に弱体化する一方、サイバー空間を巧みに利用する事でAQAPやAQIM,ソマリアのアルシャバブやシリアのアルヌスラなどアルカイダコアへの忠誠を誓う組織が台頭し、またその宣伝活動に感化され個別的にテロを行うホームグローンの増加に繋がった。

今日ISがアルカイダと同じように、グローバル化の“深化”を利用し、ブランドやイデオロギーとして機能していることで、“イスラム国のシナイ州”(前はアンサール・ベイト・アル・マクディス)、“イスラム国のトリポリ州”などを名乗る組織が台頭し、またアルジェリアのカリフの兵団(AQIMの分派とされる)、アブサヤフ、パキスタンタリバンの一派などがイスラム国への忠誠を表明するなどISの影響力は拡大している。米国サイトインテリジェンス社の情報によると、今日ISへ忠誠を誓ったり支持を表明している組織は、世界15か国で少なくとも29組織に達しているとされる。

2.“イスラム国家”建設におけるISとアルカイダのアプローチの違い

アルカイダの目的は、イスラム世界から欧米諸国の影響力を排除し、欧米諸国と協力してきた背教者(要はイスラム各国の政権)を打倒することによりカリフ国家を設立することである。一方ISの目的もカリフ国家を設立することであるが(現在のISからすれば、それは既に完成している)、欧米諸国への攻撃をアルカイダほどは重視せず、自らの力でカリフ国家を創設しようという、“より直線的なアプローチ”を採るところにアルカイダとの違いがある。

国際テロ研究の中では、アルカイダにとっての敵を”Far Enemy”(欧米諸国)と”Near Enemy”(イスラム各国の政権)という言葉で議論する場合があるが、アルカイダがまずFar Enemyを重視する一方、ISが目的を達成するために採るアプローチは、”Far Enemy”より”Near Enemy”により重点を置いたものとなる。

そしてこのアプローチの違いが、組織の影響力拡大において大きな差を出すことになっている。繰り返しになるが、アルカイダコアは米軍による掃討作戦で弱体化したことがきっかけとなり、イデオロギー、ブランドとして機能することで“アルカイダの拡散化”を狙い、一定の成果を出すことには成功した。しかしより詳細を述べるなら、アルカイダコアのビンラディンは、AQAPやAQIM, AQIに自らのアプローチ方法によりカリフ国家を建設するよう期待したが、それはこれらのアルカイダ支部グループに第一に欧米諸国への攻撃を求めることを意味した。しかしAQAPやAQIM,AQIなどはそれぞれの地域性、独自性を持っており、また自らの存続のためには第一に地盤を固める必要性があったため、ビンラディンが望むような行動をとってきたとは言えない。周知のとおりISのルーツはAQIで、またAQIMも一般犯罪的な要素が濃い組織であることから、今日AQAPだけが主として欧米へのジハードに強い意志を持っており、それは昨今発生した仏シャルリーエブド社襲撃事件におけるAQAPの対応からも観て取れる。

一方アルカイダほど欧米へのジハードを重視しておらず(去年米国を中心とする有志連合によるISへの空爆が始まったことで、欧米への敵対心はより強まっているが)、それぞれの地域でカリフ国家の樹立を純粋に推奨するISは、そのような目標を持つボコハラムなどのイスラム過激派にとっては忠誠を誓いやすい。また近年においては、アルカイダを中心とするグローバルジハードネットワークの“停滞”とでも表現される状態が続いてきたことから、ISのようにカリフ国家のモデルといえる程度に一定の領域をコントロールする存在が実際に台頭したことも、ISへの忠誠を誓う組織が増加した要因になったと考えられる。

    • 元東京財団アシスタント
    • 和田 大樹
    • 和田 大樹

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