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レポート
日付
2015/2/27

最近のインド事情-モディ政権早くも国民の支持失う?

[特別投稿]秋山昌廣氏/東京財団理事長

 昨年4、5月にインドで行われた下院選挙で、ナレンドラ・モディ率いる人民党(BJP)は全議席数543中336議席を獲得し大勝利をおさめた。与党単独で過半数を確保したのは実は30年ぶりのことであった。しかも過半数を大幅に超えている。モディ首相がグジャラード州首相時期に同州が大きな経済発展をしたこともあり、国民からは低迷したインド経済の回復・発展に大きな期待が寄せられたのである。

 また、首相就任以来、主要国訪問では真っ先に日本に来訪したほか、米国や豪州への訪問、習近平中国国家主席やオバマ米大統領の訪印などもあり、外交的に華々しいデビューを飾った。特に、安倍首相とモディ首相の親密な関係、モディ首相の並ではない親日本の姿勢から、日本ではモディ首相、そしてインドに対する関心が大きく高まった。

 昨年5月にモディ政権が発足してからそろそろ10か月が経とうとしている。この間、株価が大幅に上昇しバブル状態、GDP成長率も最近の四半期をみれば8.2%で中国よりも高く世界一という状況である。IMFや世界銀行の予想では、経済成長率は来年中国を超える。このような状態が出現したのは、モディの経済改革に国民及び国際社会から大きな期待が寄せられたからだ。これらは安倍首相の就任時に酷似しているといってもいい。

 インドの著名な政治学者の言が面白い。「モディ首相は安倍首相のとても仲のよい友達で、ダイナミックな夢を前面に出すアイデアマン、エネルギッシュなところ、外交重視でとくに中国に対する強い態度をとるなど、2人はよく似ている。違いがあるとすれば、安部首相は政治家の家に生まれたプリンスだが、モディは非常に貧しい家に生まれた、たたき上げだといったところだ。」しかし、安倍首相とモディ首相の違いはまだほかにあるのだ。

 実のところ、モディ首相はここにきて政治的に困難な状況に陥っている。そもそも、選挙で大勝利したとはいえそれは下院のことで、実は上院はBJPのみならず連立与党も少数党のままで、政治的にはいわゆるねじれ構造なのである。衆議院のみならず参議院選挙でも勝利した安倍首相の場合と、政治的にはここが大きく違う。インドでは、上院の議員は全国30の州における州議会から間接的に選ばれるため州議会選挙に勝利して多数を確保しないとねじれが解消されない。現在、BJPは上院では4分の1程度の少数勢力である。すでにBJPは多くの州で多数派となっているが、上院の議席は、2年に1度、全体の3分の1の議席が選挙で変わるシステムだから、これに基づくとBJPが上院で多数派を確保するには、州議会で勝ち続けても今から4年はかかることとなる。

 悪いことに、今月行われた首都直下のデリー州選挙で突然異変が起きた。70議席中BJPはなんとたったの3議席、庶民党(AAP)が67議席を確保し大勝した。因みに国民議会派は議席0であった。汚職反対を掲げるAAPに国民の期待が高まった結果だが、同時に、モディ政権は約束ばかりして実行が伴わず、生活もよくならない、何も変わらない、腐敗は相変わらずはびこったままである、という庶民の評価が極端に出たと言えよう。

 今後1年間に迎える2つの大きな州選挙、ビハール州とウッタープラデシュ州の選挙結果に注目が集まっている。両州とも人口が大きく、上院への議員割り当ても大きいからだ。

 経済活性化にとって1つの重要な法律が、新労働法だ。労働者の雇用と解雇をもう少し頻繁に行えるようにするものだが、上院が少数なので成立の見通しが立たない。現行制度では被雇用者を辞めさせることにきわめて厳しいルールがある。保険分野への外国からの投資を緩和する法律も成立していない。現在外国人に対する資本制限が29%であるが、これを49%に緩和する政策だ。土地の売買制度の変更も法改正が必要。インド経済の活性化に必要ないくつかの構造改革が手付かずなのだ。モディ政権は、法改正の代替手段として、大統領への申請に基づく大統領令に依存しようとする。これは、法律改正が行われるまで6か月ほどの間、大統領令で改正事項を実施できるという制度である。しかし、期限中に法律が改正されなければ、6か月で失効する。

 法改正以外の分野でモディ政権にとってカギとなるのは今月末にも発表される新年度予算だ。予算を通じていかなる経済政策が打ち出されるかが、関心の的である。

 モディの外交はどうか。前述のとおり、主要国では日本を最初に訪問したことなどにより、日本ではモディ首相に大きな関心と期待が寄せられている。ジャワハラルネルー大学の教授だった専門家曰く、「インドはルックイースト政策を保持し、アセアン諸国、日本、韓国、中国、豪州との関係を重視している。韓国については、最近インドからの企業引上げといった現象もあるが、インドは韓国からの投資を期待している。実は、モディがグジャラート州首相時代に韓国を何度も訪問していて、比較的好きな国である。モディはインドの首相として28年ぶりに豪州を訪問した。他方、中国は、印中間に深刻な国境問題があり、また、中国が18,19世紀におけるのと同じように力で状況を変えようとしており、他国と同じように付き合うことは難しい。」

 アジアにおいては、日本以外ではベトナムとシンガポールとの関係を、経済のみなら安全保障の面からも重視している。インドネシアとの関係は、強化の方向に向かっており、潜在性のある国という認識である。  先月のオバマ大統領の訪印は、米印関係では画期的なことであった。インドと米国の戦略的パートナーシップを確認した。インドにとっての旧友好国ロシアとの関係が薄くなっていく中で、これは大きな方向転換である。米印サミットを通じ、成果を出すのに難航していた民生原子力協定の実効性を上げることができた。核実験、核兵器、核拡散という困難な問題がある中で、米国と実効性の高い民生原子力開発の協力が進められることは、インドにとって大きな前進だ。防衛協力、貿易投資分野でも進展があった。さらに、米印間にはビザ問題があった。米国で働くインド人がグリーンカードを取得するのはなかなか難しい。こういった分野で前進があり、米印間の人的交流が進展する。

 スリランカとアフガニスタンについてみると、以下の通りである。  スリランカの前大統領ラジャパクサ大統領は、インドでは人気がなかった。彼は(インドにも多く住む)タミル人のことが嫌いで、タミル人に対する人権問題が多数起こり、結果、中国との接近が顕著となり、中国の潜水艦がコロンボ港を使うことを許した。インドはこの件を外交ルートで抗議したが、その後も潜水艦を受け入れた。1月の大統領選挙で当選したシリセナ新大統領は、タミル人へもよい政策を進めており来月モディ首相もスリランカへ訪問することが決まった。今後はインドとスリランカの関係は改善に向かうだろう。

 アフガニスタンにおける状況は、インドの安全保障上重大な関心事である。しかし、パキスタンの影響が強いアフガニスタンにおいては、インドの影響力は限られたものだ。アメリカが撤退する環境においても、インドがあまり表だって関与することには慎重である。

 インドとしては、アフガニスタン対策では軍事力を使う代わりに、経済支援や農業などの向上に貢献する施策の展開が重要であると考えられている。その意味では、この分野では日印が連携する余地が大いにある。

 歴史的にみれば、アフガニスタンは英領インドとのつながりがあったが、1979年にソ連がアフガニスタンへ侵攻した時、大きな変化があった。インドはソ連との緊密な同盟国であったため、当時インドはソ連を批判することができなかった、という経緯がある。ゲリラを支援する拠点としてのパキスタンの重要性が高まり、結果、これがタリバン化していったのだ。

 ところで、モディの外交全体の評価はどうであろうか。上述の著名な政治学者は次のように言う。

 「全体としては最も成功している分野だ。リスクをとって新しいアプローチをしている。ただ中国に対しては少しナイーブである。モディは政治的にはグジャラート州首相の経歴しかなく、安全保障問題については経験不足だ。グジャラート州では同州にビジネスの投資を呼び込むことが重要な仕事だった。しかし、首相になると国家の戦略的な視点が求められる。この点では、安部首相の方が上手だ。モディ首相はすべての相手に対して友好的な姿勢をとっている。中国に対しては経済的なパートナーとし、安全保障問題をわきに置いている。もっと中国に対して強硬でいいと思う。」

 モディ首相は、より戦略的な問題や安全保障問題へ関心を持っているが、経済政策との連携が取れていないのが懸念事項だ。例えば、モディはアフリカにおけるエネルギー分野の投資などにも関心があるが、これを安全保障政策の一部であると認識しているかは疑わしく、国家の指導者としての資質が問われ続けられよう。(完)