タイプ
レポート
日付
2011/5/10

第5回「介護現場の声を聴く!」

 第5回のインタビューでは、介護サービスの紹介や小規模通所介護事業所などを手掛ける「株式会社エヌ・ティー・ワークス」代表取締役の荒井直人さん、介護事業者のホームページやパンフレットを作成している「株式会社スカイヤーズ」代表取締役CEOの佐伯隆光さん、全国各地で在宅介護サービスを手掛ける「株式会社日本介護福祉グループ」経営企画室の広仲信太郎さんに対し、東日本大震災の対応や現場が直面する課題などを聞いた。

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インタビューの概要
<インタビュイー>(画面左から)
広仲信太郎さん(株式会社日本介護福祉グループ経営企画室)
佐伯隆光さん(株式会社スカイヤーズ代表取締役CEO)
荒井直人さん(株式会社エヌ・ティー・ワークス代表取締役)
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年5月9日に収録されたものです。


要 旨

低賃金に周囲が心配

 3月11日に発生した東日本大震災。これまでも今シリーズでは、ガソリンの不足や計画停電が介護分野に与えた影響を聞いて来たが、インタビューは今回も東日本大震災の影響から始まった。

 荒井さんは「西日本エリアの事業者が放射能の影響を恐れて東京に進出するのを嫌がっており、事業がストップしている」と話した。震災から2カ月近くが経ち、被災地以外の地域では事態が平穏さを取り戻しつつあるのに併せて、最近は介護分野以外の事業者から「何かできることはないか」という問い合わせが来始めているという。しかし、原発事故の影響を忌避する傾向に加え、株価低迷によって資金繰りが難しくなり、新規参入の動きが鈍ったといい、震災が介護事業の拡大に冷や水を掛けた面があることを明らかにした。

 「震災直後は情報の断絶に苦労した」と振り返るのは広仲さん。デイサービスや訪問介護など日常の業務連絡は携帯電話に頼っており、震災直後は情報伝達に難渋したという。一方、ブログや掲示板などインターネット系の情報が役立ったため、震災を機にインターネット系ツールの使用を徹底したほか、本部の指示がない場合でも現場で個々人が状況を判断する意識付けの必要性も認識したという。ガソリン不足や交通機関の乱れ、計画停電による鉄道の運休などを通じて、高齢者の送迎に支障が出たことにも言及した。

 また、佐伯さんは「(介護業界に限らず、全体的に)広告系の仕事が全部止まった」と語った。震災復興に伴う需要で資材が高騰して家を建てられなくなり、不動産業者からの契約がストップしたという。

 続いてインタビューは介護業界の課題に移った。

 佐伯さんは「(業界全体として)ネット化が遅れている」と指摘する。最新機器を導入することで仕事が効率化する余地があり、「ホームページを作ったユーザーから『やって良かった』という反応があった時、やり甲斐を感じる」と話す。さらに、佐伯さんは「外部の人は(老人ホームなどの)事業所で日常的に起きている事が分からない。(施設の魅力を)世に発信していかないと、差別化できない」と指摘した。

 一方、「(別の業界の人と会ったら)『介護?エッ?』という顔をされた」という経験を披露したのは荒井さん。荒井さんによると、世間全体が介護業界に「腫れ物を触るような目がある」という。「世の中が介護(の仕事)を誤解しているのは悔しい。逆に(介護事業に)参入した人から『素晴らしい仕事だ』と言って貰えると嬉しい」と話す。

 広仲さんは業界の課題として、長期的なライフプランを立てにくい点を挙げた。広仲さんが結婚した頃、手取り収入は15万円程度。結婚、子育て、キャリアアップなどのことを考えると不安が残り、「ボランティアに毛が生えたぐらい(の収入)。周りからは『将来的に大丈夫なの?』と言われた」という。結局、広仲さんは「将来性があるし、自分の信じた道」というスタンスを貫き、最後は周囲に理解して貰ったが、専門学校の同期は5年ぐらいで1割程度しか残っておらず、結婚などを契機に金銭的な理由から、別の業界に転職してしまったという。

 「人に喜んで貰えることを目一杯やって、給料を貰える。利用者に心から泣いて喜んで貰える瞬間は得るものが大きい。こんなに素晴らしい仕事はない」―。介護職の楽しさを力説する広仲さんだが、「(介護職の楽しさを)目に見える形で伝えるのは難しい」と悩みを打ち明ける。

 しかし、「それでも事業所の所長に就任するなどマネジメントの業務を身に付ければ、十分に食べていける」と強調。介護職を志す後輩に対しては、「3年間、頑張って見よう。『(利用者の心と)繋がった』と思う瞬間は必ず来る」と指導しているという。

プラス面の報道を

 最後に、話題は介護業界を巡る新聞、テレビ、雑誌の報道ぶりに移った。読者や視聴者の関心を惹き付けるため、メディアの報道は「介護地獄」「介護現場の悲鳴」などセンセーショナルな見出しを付けがち。

 しかし、こうした報道のスタンスに対し、荒井さんは「介護業界は悪いことばっかりじゃない。公平にスポットを当てた方が良い。介護のプラス面も報道してほしい」と注文を付けた。

 一方、広仲さんは「学校や教育で介護の世界が語られていない」という問題意識を披露した。広仲さんによると、メディアのセンセーショナルな報道とは裏腹に、逆にCMやインターネットでは爽やかな部分や良いイメージがクローズアップされており、「人の死に近い部分が語られにくい」と話す。

 このため、オムツ交換などにショックを受けて辞めてしまう人も少なくないとのこと。しかも、「(介護職の)良さが分かる前に辞めて、(業務のハードぶりだけを)周りに話されると、(悪い)イメージが伝わってしまう」という。

 しかし、教育で介護のカリキュラムを増やすことを通じて、仕事を選ぶ時に介護の魅力を分かって貰えるとともに、介護職の実情に対する理解が深まり、「介護=3K(きつい、汚い、危険)」というイメージの定着を防げる可能性に言及した。同時に、「一般大衆的に飛び付きやすいところから(報道ぶりに)偏りが出るのは仕方がないが、良さの部分を広く発信していければ、判断する際の知識を増やせる」と述べた。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】