タイプ
レポート
日付
2011/6/1

第8回「介護現場の声を聴く!」

 第8回のインタビューでは、「株式会社ニッソーネット」で介護資格講師として勤務しつつ、介護業界の地位向上などを目指す「介護維新会」副代表を務める坂井雅子さん、介護資格講師や介護事業のコンサルタント業務に携わっている平山玲子さんに対し、介護現場が直面する課題などを聞いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>(画面左から)
平山玲子さん=介護資格講師、介護コンサルタント
坂井雅子さん=「株式会社ニッソーネット」介護資格講師、介護維新会副代表

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年5月9日に収録されたものです。


要 旨


不景気で男性希望者が増加

 3月11日に発生した東日本大震災。今も地震の影響は東北地方を中心に続いているが、第8回も震災の話題でスタートした。

 震災当日の模様を「川崎校で介護実技の授業中で、(約20人の)生徒がパニックになった」と振り返った坂井さん。古い建物だったので、講師・生徒は建物の外に避難し、「結局は解散になった」とのこと。

 しかし、その後に電車が止まっていることが分かり、坂井さんは他の講師や生徒とファミリーレストランで時間を潰していたが、既に周辺のビジネスホテルや漫画喫茶は満室。最後は何処にも行けなかったため、女性同士でモーテルに泊まったという。

 さらに、震災直後は講座が2日間も中止に。ツイッターやブログで中止することを生徒に伝えられたため、大勢に影響は出なかったものの、業務への影響は避けられなかったようだ。さらに、地震で受け持っている生徒の奥さんが妊娠で仙台に帰省していたため、「クラス一丸となって情報を集めようと、ブログとツイッターで安否確認した」という。

 一方、平山さんは震災当日、偶然に休暇を取っていたため、震災の影響は余り受けなかったようだ。

 その後、話題は受講者の性別・年齢層に移った。

 坂井さんは「下は17歳、上は78歳まで受け持った」との経験を披露。さらに、「講師を始めた3年前は1クラスに男性1人ぐらいだったが、最近は30~40歳代の男性が増えており、どのクラスでも男性が半分程度。24人のうち、18人が男性だったクラスを受け持った」と話すと、平山さんも「(直近の)1年ぐらいで男性(の受講者)が増えた」と応じた。

 その背景にあると想定されるのは不景気の影響。リーマン・ショック以来の企業倒産やリストラに伴って、失業した男性の介護職希望者が増えているようだ。

 しかし、人手不足が指摘されているにもかかわらず、その解消には程遠いようだ。坂井さんによると、「資格を取って仕事に就いているかと言うと、実習で現場を見て『ちょっと難しいな』と言って断念する人もいる」と話した。

介護現場はプロ意識を

 さらに、話題は介護職を志した動機に及んだ。離婚経験のある平山さんは2人の子供を育てており、「『手に職がない』と思って福祉の仕事を始めた」という。訪問介護事業所の登録ヘルパーを手始めに介護の世界に足を踏み入れたが、「魅力があり、楽しくなって来て辞められなくなった」と語る。

 その後、介護現場はデイサービス、訪問介護、施設介護を一通り経験し、今年2月まで特別養護老人ホームで相談員・ケアマネージャーとして勤務。「それぞれ魅力があって楽しい」と話す。

 具体的な魅力としては、「高齢者は全く弱くない。むしろ、我々の方が色々と教え頂いて助けられる」という点を挙げた。介護と言えば、世間一般的に「高齢者をお世話する」というイメージが根強いが、平山さんは「仕事を始めた頃、昔ながらの煮付けの料理方法を教わった。そんなこと(=お世話するというイメージ)はない」と強調する。

 一方、23歳から介護職に入った坂井さんも「お世話してあげているというよりも、お手伝いさせて頂いていると考えている」という。「介護は大変、大変と言うが、どの仕事も大変。友達から『介護なんて大変な仕事できない』と言われるが、偉いわけではない」と述べつつ、「一度介護職を離れたことがあったが、結局は忘れられなくて戻って来た」と振り返った。

 その後、インタビューは介護現場の待遇や従事者の意識に移った。介護現場と言えば、「3K(=きつい、汚い、危険)」というイメージが強く、離職率も他の産業に比べて高い。

 しかし、平山さんは「どの仕事であっても初任給は安い。それなりに年数を積んで、資格を取れば一般企業と変わらないぐらいの給料を貰える」と強調する。

 その反面、平山さんは介護現場の課題として、「会社員としての(プロ)意識が余りない人もいる」と話す。平山さんによると、意欲を持って高い志を持って仕事に従事している人は少なくない半面、自分は「このままでいいんだ」と思って自己啓発しない人も多いという。

 しかし、平山さんは「人に使われるだけならば面白くない」と指摘。その上で、「専門職としての誇りやプライドを持たないと、なかなか社会でも認められない。せっかく資格を取ったのだから、『介護の専門職種としてプロなんだ』という意識を持って仕事して欲しい」と強調し、「幾らでも殻を破れば収入も(上がるし)、やりたいこともできる。介護業界は変わるし、自然と給料も変わって来る」と話す。実際、介護資格講師として受講生に対し、「介護職の専門職としてプライドと責任感を持って仕事しなければならない」と話しているという。

 一般企業での勤務経験がある坂井さんも介護現場の問題点として、「(職員同士の)競争意識がない」と指摘する。坂井さんによると、前の会社ではリストラが実施されて女性は坂井さん以外全員首を切られたが、「介護の現場に入ったら(競争意識が)ない。ライバルという意識ではなく、仲間という意識」だったため、最初はギャップを感じたようだ。

 しかし、平山さんは今後、介護現場での競争は避けられないと話す。その背景としては団塊世代の高齢化が考えられるという。国立社会保障・人口問題研究所の人口動態調査によると、1947~1949年に生まれた「団塊世代」の高齢化が進み、2035年には介護保険第1号保険者(65歳以上)は全人口の33.7%を占めるとされている。

 その時の状況について、平山さんは「今の介護を受けている80~90歳代は(戦争などの)大変な時代を生きて来たので、『お世話してもらえる』『食事が摂れる』『清潔で安全な所で生活できる』というだけで満足できる」と指摘。その反面、「(団塊世代には趣味などの)好きなことが個人個人にあり、団塊世代が介護保険制度を利用するようになったら、今のサービスでは満足しない。やり方を変えなければ事業所は残っていかない」と話す。

 実際、比較的若い年齢で介護保険を利用する人の中には、日常と余り変わらない生活を送っている人もいる。平山さんによると、若い利用者はデイサービスに携帯電話を持って来ているほか、言語障害を持っているために携帯電話の画面でコミュニケーションを取っている利用者や、インターネットを部屋に引いてネットショッピングを楽しむ特別養護老人ホーム入居者も。平山さんは「今後、施設や事業所の形が変わって来る」と予想する。

認知症対応はケア次第

 最後に、認知症患者への対応に話題が移った。認知症と言えば、「呆け」という言葉に代表される通り、高齢者による不規則な行動によって周囲が翻弄されるイメージが強い。

 しかし、坂井さんは「何も分からなくなるという特別なイメージがあるが、心の部分は残っている」と強調。平山さんも「感受性が豊かになり、見たことのある職員と、見たことがない職員は分かっている」と話す。

 その上で、坂井さんは「ケアの仕方一つでその人らしさを保てる。何も分からないわけではないし、逆に本能が残っているので、好きな職員、好きじゃない職員が(すぐに外から)分かる」、平山さんは「全部心を読まれている。認知症の人は心が敏感なので、(こちらの考えは)全て見抜かれている」と話した。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】