タイプ
レポート
日付
2011/7/13

第14回「介護現場の声を聴く!」

 第14回目のインタビューでは、介護業界を中心にシステム開発を手掛けている「株式会社ウガトリア」代表取締役CEOの河野敦さん、デイサービス事業などを手掛けている「株式会社日本介護福祉グループ」直営事業部エリアマネージャーの高橋萌さん、同社茶話本舗デイサービス中村八幡施設長兼エリアリーダーの丸長朗さんに対し、介護保険法改正など介護業界の課題を聴いた。


__
インタビューの概要
<インタビュイー>(画面左から)
河野敦さん=「株式会社ウガトリア」代表取締役CEO
高橋萌さん=「株式会社日本介護福祉グループ」直営事業部エリアマネージャー
丸長朗さん=「株式会社日本介護福祉グループ」茶話本舗デイサービス中村八幡施設長兼エリアリーダー

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年7月4日に収録されたものです。


要 旨


医療・介護業界の両立を

インタビューでは、今年6月に成立した改正介護保険法が話題となった。

2000年4月に創設された介護保険制度は3~5年に1回の頻度で見直されており、今回の改正では高齢者を切れ目なく支援する「地域包括ケアシステム」の確立に加え、▽訪問看護・訪問介護による「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を24時間体制で提供▽小規模多機能型居宅介護と訪問介護などを組み合わせた「複合型サービス」の創設▽市町村の判断で介護予防サービスや日常生活支援サービスを提供する「介護予防・日常生活支援総合事業」の新設―などが盛り込まれた。

さらに、▽介護保険料の急激な上昇を抑えるため、都道府県による財政安定化基金(本来は急激な給付費増に対し、市町村に交付・融資する基金)の一部取り崩しを容認▽介護療養病床の廃止期限を2012年3月末から6年間延長▽介護福祉士と一定の研修を受けた介護職員に対し、診療の補助として痰(たん)の吸引や経管栄養を容認―といった見直しも実施され、今回のインタビューでは痰の吸引が話題となった。

痰の吸引は従来、「医療行為」として位置付けられており、医師や看護師しか認められておらず、介護現場からは規制緩和を求める声が上がっていた。このため、来年4月から施行される改正法では事業の一部として痰吸引などを実施する場合、介護職員に痰の吸引を認めるとともに、都道府県に事業所を登録する仕組みが創設された。

丸さんはインタビューで、「吸引のやり方一つで肺が潰れたり、喉を傷つけたりするリスクがある」と述べつつ、「医療行為をしなければいけない人を(介護施設で)引き受けていることが、その人のためにならないことをやっている。きちんと(受け入れ施設を)判断できていない点で、もし亡くなったとしたら悪い言葉で言えば人殺し(になる)」との見方を披露してくれた。しかし、介護現場の声として、「(食べ物などが喉に詰まるような)急を要する時に(介護現場でも)できた方が良い」と強調した。

さらに、丸さんは褥瘡(=床ずれ)対策などに関しても、診療サイドと介護業界が意見対立しているとした上で、「お互いがすり寄って行けば良いものになれば(いい)。ケア(=介護)とキュア(=治療)の両方がないといけない」と指摘。今後の介護業界に関しても、「専門的な知識やスキルがないと(痰の吸引などが)できないのならば、的確に対応しなければならない」と語った。

これに対し、高橋さんも「(医療・介護業界が)対立する必要はない。一人(の利用者)を対応するには変わりがない。介護だけでも限界があるし、医療だけでも限界がある。話し合って分かり合って、一緒に双方からのケアが出来れば一番いい」と応じた。

インタビューは離職率の高さも話題となった。

介護現場の離職率は他の産業よりも高く、厚生労働省の集計によると、2009年度現在の常勤労働者離職率は全産業平均が12・9%に対し、介護業界は17・2%に及ぶ。インタビューシリーズでも人材不足の実態が頻繁に話題になっており、「1日で辞めた人がいる。心配になって電話を掛けたら電話が繋がらなかった」「業界全体でみれば常に人手は不足している」などの声が出ている。

今回のインタビュイーである丸さんも、以前に勤めていた通常規模のデイサービス事業所では頻繁に人が入れ替わっていたと発言。その上で、「どうして離職率が高いのか?」「毎週求人を出しているところが良い所なのか?」といった点を見極める必要があると話し、離職率の高い事業所には問題が内在していると強調した。さらに、「職員の意識改革を行えば、全部が良い方向に回る。職員が(課題に)向き合って、管理者がトップダウンで(方向性の)ベクトルを決めるべきだ」と語った。

一方、職員の採用面接に当たる高橋さんは離職率の高い原因として、職員サイドの原因を挙げた。高橋さんによると、受験者には「介護ならできる」「この業務をこなせば良い」などと軽い気持ちの人も散見されるという。高橋さんは「(採用後に)楽しさを見付けて、やり甲斐を見付ければ良いのだが、利用者を人として見られず、オムツ交換、食事介助など一つの業務としか考えられない(人がいる)」と指摘しつつ、「人の立場に立って考えられない(人は介護職に)根本的に向かない。誰でも良い訳ではない」と語った。

採用面接に立ち会う機会もある丸さんも、受験者に40~50歳代の人が多いと紹介しつつ、「高齢化時代を迎えて将来が安定している」「介護だったらできるんじゃないか」といった動機の希望者も散見される点を披露してくれた。


介護業界のIT化とは?

「約10年前から考えていることを漸く事業化できた」という河野さんは今年2月に起業したばかり。同社では介護事業者向けのシステム開発などを手掛けており、河野さんは「タブレット端末を使って高齢者にとって分かりやすいシステムを作って行きたい」と意気込む。

具体的には、高齢者向けにゲームの要素を取り入れたり、同級生や家族とコミュニケーションが取れたいるできるツールを開発する方針という。さらに、ヘルパー達が作成している介護記録についても、手書き風に書いて保存できる端末を開発し、データベースとして保管することも検討している。

これに対し、高橋さんは現場の経験を踏まえて、介護現場のIT化が必要と訴えた。高橋さんによると、介護現場では利用者の起床時間や体操の結果、食べ物や飲み物を摂取した量、会話した内容などをA4版の紙1~2枚で細かく記録しているため、「その場で記入できる端末であれば使いやすい」と応じた。丸さんも高齢者に楽しんで貰うため、テレビゲームやパソコンを活用を考えた経験に言及しつつ、「定型文や上書き保存した日時を明確にすれば、システム開発は可能」と語った。その一方で、丸さんは「高齢者でも若い方や認知症の弱い方は可能だが、重度な方、マヒのある方にどうアプローチすれば良いのか(が課題)」と指摘した。

インタビューでは3月11日に発生した東日本大震災の影響も話題となった。今シリーズでは「直後のガソリン不足でデイサービスに苦労した」「計画停電の影響で入浴時間を変更した」といった声が出ており、丸さん、高橋さんの会社も福島から高齢者を受け入れるなど影響を受けた様子。高橋さんは「(環境の変化は)認知症の人に大きなストレスになる。どれだけ自然な形で、過ごしやすい形で受け入れるかを工夫した」と話した。

さらに、自らが管理する事業所に福島県から高齢者を受け入れている丸さんも「最初は帰宅願望があり、我を忘れてしまうことがあった。介護職員(のプロ)として徹底して話を聞いて、ここが良い所と分かって貰って楽しんで貰うよう工夫しており、今は笑顔が絶えない」という。ただ、今後については方針が決まっておらず、特別養護老人ホームに受け入れて貰うことも想定しているが、来年2月まで受け入れを継続する方針という。

一方、システム開発を手掛ける河野さんも「1~2週間はプロジェクトがストップした」と振り返った。

さらに、介護業界に入った動機も議論となった。

昨年1月まで不動産業界で働いていたという高橋さんは人とのコミュニケーションを求めて介護の仕事を選んだとのこと。高橋さんは「不動産を介して長く人と付き合えると思ったが、もっと直接的に関わることを考えて、今の会社に行き着いた。会社の説明を聞きに行った時、『自分のやりたいことはこれだった』と感じた」と発言。入った後も「これで仕事で良いのか」と感じるぐらい楽しかったらしく、「人と喋るのが好きということもあるが、そこ(=人との付き合い)が仕事になるのが新鮮」と語った。


制度の知識、現場でも共有を

その後、介護現場で働く上での資格も話題となった。

現在は介護福祉士、社会福祉士、訪問介護員(ヘルパー)1~3級などの資格があり、介護福祉士は3年以上の実務経験を経て国家試験をパスするか、専門学校などの養成施設で資格を取るなどの手法がある。2007年の法改正では実務経験者に対して半年の実務研修を課したり、養成施設卒業者に対して国家試験を義務付けたりする中身を盛り込んだが、今回の介護保険法見直しでは実施時期を来年4月から3年延長した。

しかし、介護資格士は名称独占資格のため、業務独占資格の医師や看護師とは異なる。このため、丸さんによると、「『ここまでしかできないならば…』ということで、介護福祉士から看護師になる人が増えている」という。

最後に、話題は制度改正に対する介護現場の認識に移った。

高橋さんは「利用者に直接関わっていると、(病気や薬など)利用者の知識は付けなきゃいけない。それと同じように管理者になった時、事業所を守るために必要な知識として、介護保険法は知らなきゃならない」と指摘。さらに、「『自分の取り入れた知識を100%分かれ』と職員に言うのは難しいと思うが、大事な部分だけでもピックアップしながら、職員の会議や勉強会の場で、最低限知らなきゃならない所を教えている。(分からないという職員に対しては)最低限だけ噛み砕いて伝えて行く」と話した。

丸さんも、介護職員が全員で話し合って制度が分かるように努力したり、外部セミナーに参加して自己啓発に努めたりしているという。丸さんは職場全員に制度改正を徹底させたい理由として、「介護報酬の単価が分からず、どういった(サービスを)提供しているのかか分からずに働くのは止めましょう(という思い)。本気で生き残らなきゃならない企業は(当然のように)やっており、一般企業と福祉企業の大きな違い」との認識を披露した。

さらに、今回の法改正では労働法規に違反して罰金刑を受けた事業所に対し、自治体が指定を取り消せる規定が創設された点を引き合いに、「1日8万6400秒を如何に無駄にせずに過ごすのが積み重ねであり、一介護職員で終わってしまうのか。一介護職員の中でも利用者のために本当に法律も分かって法令を守るのか(が大事)。いい事やっても法令違反になると悲しいので、みんなでより良い介護(現場)を作って行きたい」と述べた。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】