タイプ
レポート
日付
2011/9/8

第22回「介護現場の声を聴く!」

第22回目のインタビューでは、介護職員の交流促進などを目的とする「一般社団法人介護維新会」代表理事を務める関口貴巳さんに対し、維新会の取り組みや介護職員の待遇改善策、制度運用の自治体間格差などを聴いた。

__
インタビューの概要
<インタビュイー>
関口貴巳さん=「一般社団法人介護維新会」代表理事

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年8月29日に収録されたものです。


要 旨


職員が辞める理由は…

インタビューは介護維新会の取り組みから始まった。介護維新会は以下の目標を掲げて今年5月に発足した組織。

・介護職が気軽に交流でき、熱く夢と希望を語り合い、みんなでその夢と希望を応援することができる相互支援ネットワークを構築する。
・介護職の人間力を磨く訓練を行うことにより、自らの持つ潜在的な可能性を引き出し、より魅力ある人材を育成する。
・情報発信の場として、また人材教育の場として介護事業所を運営することにより、自らの行動をもって介護の魅力を伝える。
・他の団体とのネットワークを築き、連携することにより、更なる魅力あふれる業界への発展に寄与する。
・介護職の社会的地位の向上を図り、新たな人材が参入できる環境を築く。

 (→「介護維新会」のウエブサイトはこちら)

関口さんによると、「(介護業界で働いた)15年間で介護観ができ上がって来る。世間では『3K』(きつい、汚い、給料が安い)と呼ばれている中で、(自分としては)モチベーション高くやっているのだが、世間が(何故)ネガティブに捉えるのか」との疑問を抱き、そのうちに「働いている介護職員が世の中にネガティブ発信しているのではないか」「介護報酬が低いなどの要因があるが、僕達自身に問題があるのでは」と考えるに至ったという。

その問題とは、内向きな職員の体質。関口さんは職場の人間関係に悩んでいる職員の多さを指摘しつつ、「それ(=仕事)以外の要因で事業所の飲み会で愚痴を言い合い、介護ではない部分で当初の志を忘れてしまう」と指摘する。

勿論、職場の人間関係に関する悩みや愚痴は何処の会社・組織でも起こり得る話。しかし、関口さんは「介護業界の場合、離職率(の高さ)に結び付いている。愚痴がエスカレートし、職場を辞める。介護業界を離れる原因を生み出している」と話す。

施設系のサービスから介護業界に入った関口さんも在宅系事業所を何カ所か転職した経験があるとのこと。現在、関口さんの経営する会社(「ハートバンク株式会社」「ハードビジョン株式会社」)では離職者が殆ど出ていないというが、近隣の事業所では年中行事のように人が入れ替わっており、関口さんは「他の事業所に行く人もいるし、別の業界に転職している。特に男性は別の業界に転職している」「介護が嫌になるのではなく、周りの原因が影響してモチベーションが下がっている」と述べた。

離職率の高い原因を人間関係に求める関口さんの発言は財団法人「介護労働安定センター」の介護労働実態調査からも裏付けられる。先月に発表された同調査では2009年10月~2010年9月までの離職率が17・8%と、前年同期比よりも0・8ポイント悪化したことが話題となったが、この資料に「直前の介護職を辞めた理由」を問う設問(複数回答可)があり、「法人や施設・事業所の理念や運営の在り方に不満があった」(24・5%)、「職場の人間関係に問題があった」(23・4%)という回答が上位を占め、一般的に指摘されている「収入が少なかったため」(20・3%)という回答を上回った。さらに、「早期離職防止や定着促進のための方策」を聞いた設問(複数回答可)では、「職場内の仕事上のコミュニケーションの円滑化を図っている」という答えが64・1%でトップとなっており、人間関係で悩む職員が多い様子が見て取れる。

実際、関口さんも人間関係の構築に苦労した経験を持つ。関口さんの経営する会社でも以前は大量退職も経験しており、その場合の理由は「給料が安い」「介護の仕事が嫌」ではなく、「職場の雰囲気が悪い」という反応だったとのこと。「あなたが何を考えているか分からない」とストレートに言われた経験もあったという。

このため、関口さんは自分自身の意識改革に取り組み、経営者としての自分を作り上げるととともに、働く職員の目線に立った上での経営・運営理念を示し、それを自らアウトプットすることにしたという。

同時に、介護維新会を発足させた理由としても、関口さんは「単なる飲み会が愚痴を言う場ではなく、夢を語ったり、思いを聞いて貰ったり、仲間と交流したりする場に変わってくれればいい」「モチベーションを上げるため、僕達の内面を磨いて行く場があればいい」と説明した。


「百人飲み会」に160人

介護維新会は主な活動内容として、「飲みニケーション」と銘打った介護職員による交流会と、「魅力アップセミナー」と題するセミナーの開催という2つを掲げており、2つのイベントを隔月で開催している。

このうち、「飲みニケーション」は今年2月の経験が基になっているという。介護職員の交流を深めるため、関口さんが今年2月に東京・渋谷のクラブを貸し切りにして「百人飲み会」を企画すると、ブログで告知しただけなのに、約160人の申し込みが来て120人に参加して貰った。

関口さんは「毎月勉強会があったり、市町村が主催したりして、介護技術を学ぶ場は凄く多い。知識や技術は学ぶ機会があるので、それなりに勉強してスキルアップしている」と指摘。その一方で、関口さんは予想以上の反響が見られたことで、「気軽に参加でき、熱を共有する場が欲しいのかな…」と感じたという。そこで、人間関係などでフラストレーションを溜めた職員の交流の場を作る必要があると判断し、介護維新会を立ち上げる一因となったという。

その後、百人飲み会を来月に大阪で開くほか、北海道、山形、島根、愛媛、福岡の各道県からオファーが来ており、島根では「介護職員同士が結び付き、島根では介護維新会がきっかけとなって一つの団体ができ上がっている」とのこと。

関口さんは「全国の同志と結び付けられるのが魅力の一つ」「単純に(飲み会は)楽しい。何か特別大きな理由は要らない。そこに行って楽しいと感じて頂いて、次に繋がる時に『前に一緒に飲んだ仲間と飲みたいな』と(思えばいい)」と話し、職員同士の交流の意義を強調した。

もう一つの魅力アップセミナーは介護職員の内面を磨くことを想定しており、将来的にはシリーズ化して年間を通して介護維新会の理事が話すことを想定している。関口さんは「(セミナー後の)懇親会も意味がある。仲間を探す。熱を共有する。熱を拡散する場として活用して(欲しい)」と期待感を示した。

同時に、こうしたコミュニケーションの結果として、関口さんは新たなビジネスの発想や活動の場が生まれることも期待している。「一番の理想形はビジネスマッチング。事業に役立って貰うとか、地域で維新会をきっかけに小さくても団体ができて(参加者が)活躍できれば嬉しい」と語った。

その反面、「維新」という看板を標榜しているため、「古い物を壊して新しい物を作る」と誤解される時もあるとか。しかし、関口さんは「(これまでの)良い所は残しながらも、新しい所は変えて行くべき。変えて行くのは介護職員」と訴えた。さらに、介護業界には様々な団体が乱立し、業界としての意見が集約しにくい点を引き合いに、介護は(業界として足並みを揃えるのは)これから。色んな団体が出て来ている中で、拾いにくいかもしれないが、声を上げる土台は出来つつある」と指摘した上で、「(明治維新で幕末の)坂本竜馬がやったように、色んな団体をくっつける役割を果たせたら面白い」との考えを披歴した。

このほか、5年後の夢として、介護維新会で介護事業所を運営する希望も持っている。関口さんによると、主なターゲットは介護職員の中でも高い志を持って生き生きと輝いて働いている人、もしくは「そうなりたい」と思っている人。「そこの事業所に行けば生き生きと働いている人を見て貰って、『こういった事業所が運営できるんだ』『生き生きと輝いている人がいるんだ』と直接見て貰う現場が欲しい」と話した。

今後は事業所を運営する際の資金、理想とする介護サービスの姿などを詰めて行くとしており、関口さんは「介護維新会の理事だけでなく、(参加する)職員の意見を取り入れたい。どういった事業所、どういう職員像が理想的なのか考えたい」と力を込めた。


キャリアアップ要件は有難迷惑?


インタビューでは介護報酬の在り方も話題となった。

2000年の制度創設後、介護報酬は3年に1回見直されており、2003年はマイナス2・3%、2006年は2・4%(前倒し実施分を含む)と大幅減。2009年は3・0%と増えたが、次期改定は医療機関向けの診療報酬の見直しと同時に迎え、2012年度予算編成の焦点になると見られている。

関口さんは過去の介護報酬改定について、「生かさず殺さずの報酬単価。やりたい介護サービスができない」と厳しい状況を吐露。さらに、介護職員給与の方向性についても、「この先(の給与)に不安があるので辞める(職員がいる)のは事実。経営努力で給与水準が上げるべきだ」としつつも、「(経営努力以上の部分は)介護報酬。報酬の引き上げを考えて行かないと」と話した。

その一方で、国・地方の財政が厳しい点を念頭に、関口さんは「『介護保険だけ報酬を上げろ』と言って良いのか。介護給付の中で処遇交付金を報酬の中に組み込んで行くとか、限られた財源でもやれることはあるのでは」と述べた。

ここで関口さんが言及した処遇交付金とは、2009年度第1次補正予算に盛り込まれた「介護職員処遇改善交付金」。2011年度まで3年間の時限措置として創設され、平月額平均1万5000円を引き上げることを目的としており、交付金を存続するかどうかが2012年度予算編成の焦点となっている。さらに、もし存続する場合でも、国費率100%の現在の仕組みを踏襲するか、自治体や利用者の負担増を伴う介護報酬に組み込むかが論点となっている。

関口さんの会社の場合、独自の人事評価制度を設けているため、どれぐらい職員の給与が上がったのか個人差があるとしつつも、「(これまでの)介護報酬(改定による増減で)比べたら、単価が下がった分、売り上げはそのまま。処遇改善交付金で給与に反映できているが、なくなったら起業した当時の水準にならない」と危機感を露わにした。

同時に、関口さんは介護処遇改善交付金の「キャリアパス要件」に苦言を呈した。交付金を受ける事業所は「介護職員の職位、職責、職務内容などに応じた任用要件や賃金体系を定めており、その内容に関する根拠規定を就業規則などで整備・周知している」という要件を満たす必要がある。さらに、これらが困難な場合には職員の技術向上と能力評価、事務所での資格取得率向上支援に関して、目標と実施方策を定めることが義務付けられている。

一方、関口さんはキャリアアップ要件に反対という。関口さんによると、国のキャリアパスモデルは「上位資格を取りなさい」「取らないと給料が上がりません」「長く勤めている人には給与を上げなさい」という内容。しかし、関口さんの会社は独自の評価・人事制度を作っており、面接でも「経験、資格、年齢、性別は関係ありません。人柄、利用者に貢献できているか(が重要)。必ずしも上位資格を持っていると偉いという訳ではない」と言っていたため、キャリアアップ要件と必ずしも中身が異なるという。

しかし、最終的には処遇改善交付金を受けるため、これまでの評価制度を崩す必要に迫られた。関口さんは「上位資格を取って行くのは当たり前だが、(国から)『やりなさい。やらないと交付金を上げないよ』と言われちゃうと、独自の取り組み、会社の良さを消してしまう」と、政府の対応を批判した。


地域主権は良し悪し


インタビューは制度運用を巡る地域格差に話が及んだ。

介護保険制度は2000年の第1次地方分権改革と導入時期が重なり、「分権の試金石」と言われた。実際、制度の運用や保険料の設定などの判断は市町村に多くが委ねられており、先月末に閉会した今年の通常国会では地方の事務を国の法令で縛る「義務付け・枠付け」の見直しの一環で、▽指定居宅サービス事業者に関する指定権限などを都道府県から政令指定都市、中核市に移譲する▽サービス事業者の法人格要件や地域密着型サービスの要件を条例に委任―などを盛り込んだ法律が成立している。

しかし、関口さんは自治体ごとに制度の運用が異なる点に苦労しているという。

例えば、デイサービスの間、外出を認めるかどうかの判断。国の通知は認めない考えを示しているが、市町村によって判断が異なるという。関口さんは「デイサービスに来た高齢者を一日缶詰しているのが介護保険制度なのか」と疑問を呈した。その上で、「(地方分権は)善し悪し。介護保険は全国何処で受けても一律のサービスと言っているが、実態は各自治体によって違う。利用される方の目線で、もう少し柔軟に制度を作って頂きたい」と注文を付けた。

一方で、利用者は都道府県や市町村の境とは無関係にサービスを選択できる。さいたま市に拠点を置く関口さんの事業所でも近隣の上尾、川口両市に住む利用者も散見され、関口さんは「市町村境、県境に住んでいる人は越境してサービスを受けるし、営業活動もできる。送迎で来れる距離であれば利用する側は関係ない」と語り、利用者による実際のサービス選択は自治体の論理とは無関係であることを強調した。

なお、その際に関係して来るのが「地域加算制度」。これは地価や物価などの地域格差を考慮する制度で、東京23区の場合は2009年4月の介護報酬改定を通じて上乗せ分は12%から15%に拡大している。関口さんによると、上尾市の住民が上尾市内のサービスを受ける場合と比べると、さいたま市内でサービスを利用する方が介護報酬が高くなるという。

最後に、一連の政策動向について、関口さんは「現場で働いていた頃、(政治や政策に対する)意識を持ったことはない」と振り返りつつも、「経営者となった今では気になる。何をするにせよ、制度ビジネスをやっている以上、介護保険なくしてはできないという感覚」と述べた。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】