タイプ
レポート
日付
2011/10/20

第28回「介護現場の声を聴く!」

第28回目のインタビューでは、訪問介護などのサービスを全国で展開している「株式会社やさしい手」の巡回事業部三鷹店事業所責任者の佐藤美智子さん、適合高齢者専用賃貸住宅センチュリーテラス船橋支配人の田島諭さんに対し、「サービス付き高齢者向け住宅」の需要動向、医療・介護の連携の在り方などを聴いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>
佐藤美智子さん=「株式会社やさしい手」巡回事業部三鷹店事業所責任者
田島諭さん=「株式会社やさしい手」適合高齢者専用賃貸住宅センチュリーテラス船橋支配人

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年10月5日に収録されたものです。


要 旨


サービス付き高齢者住宅の動向


第28回目のインタビューでは、今年4月に成立した改正高齢者居住安定法に盛り込まれた「サービス付き高齢者住宅」が話題となった。

これまでは高齢者向けの賃貸住宅として、高齢者の入居を拒否しない「高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)」、高齢者向けにバリアフリー化などに配慮している「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)、高専賃の優良物件を認定する「高齢者優良賃貸住宅」(高優賃)などの制度が存在した。さらに、高専賃のうち、食事・排泄・入浴介護や食事提供、健康管理のサービスを実施するなど一定の基準をクリアした住宅に関しては、「適合高齢者専用賃貸住宅」と位置付けられており、田島さんの勤める施設もその一つ。

田島さんによると、建物は今年1月にオープン。60歳以上の高齢者のうち、自立から介護の要介護度の重い人が入居しており、4階建てで全41室。夫婦で入居できる部屋を備えている半面、18平方メートルの1人暮らし用の部屋が1~2階に20室あり、部屋にトイレは付いているが、風呂とキッチンが共用。食事を摂るスペースが1階にある。田島さんは「(1人暮らし用の部屋は)ワンルームマンション。介護が必要な方向けなので、一人で調理や風呂に入るのが難しい」という。

また、現時点の入居率は約半分。普通の不動産と同様、市全域に折込チラシを全戸配布したり、食事付きの内覧会をPRするチラシを新聞に織り込んだりしているらしく、田島さんは建物やサービスの狙いとして、「終の棲家を目指す。医療との連携でターミナル(=終末期)が一番重要になって来る」と強調した。

さらに、高専賃の建設傾向としては、売却された社員寮を改修したり、団地を潰して高専賃を建てたりするケースも散見されるものの、田島さんは「どちらかと言うと、船橋近辺で知っている範囲で言えば新築近隣に同じ高専賃を立ち上がっているため見学したが、やはり新築」と話した。

一方、佐藤さんは改正介護保険関連法で制度化された「24時間定期巡回訪問介護看護」に言及した。佐藤さんは「既存で利用している居宅事業所と、接点のない事業所ではトークの内容が違う。利用している既存の事業所であれば、利用者の様子、サービス内容の提案・変更など利用者向けの内容報告」と発言。その上で、「24時間訪問介護ならではと思うが、(現在は)夜間早朝夕方の利用がメインで、介護保険の単位数よりも割り増し。要介護度4~5の方が7割以上占めている。単位数ギリギリで利用している人が殆どなので、巡回型の訪問介護を利用すると単位費用が増えてしまって、利用するのを差し控えてしまう」と語った。

さらに、24時間訪問介護看護の業務実態として、21人のスタッフが巡回するルートを設定しており、「一日中誰か派遣されている」とのこと。さらに、ローテーションは「前月の中旬か下旬ぐらいにはスケジュールを組んでいる」といい、重介護度の利用者が連続したり、1日5~6軒も続いたりすると腰が痛くなるため、スタッフの健康管理に留意しているようだ。

と言うのも、佐藤さんによると「腰が重くなって事務職に移った人もいる。なかなか治らない」とのこと。実際、田島さんは「(高齢者が)ふらついた時に支え、痛めることが多いが、たまたま(腰は)大丈夫」と話したが、佐藤さんは介護業界に入った直後、「最初に痛みが激しく、施設の勤めができなくなった」という。このため、佐藤さんは「余り重介護度のルートが重なると『疲れているから』という声も上がって来るので、満遍なく振り分けたり、腰に負担の掛からない介護の仕方をレクチャーしたりする」という。


訪問看護は早目に利用した方が…

医療・介護の連携も話題に上った。今年6月成立の改正介護保険関連法(施行は来年4月)では、医療職しか認められていなかった痰の吸引が一定の研修を経た介護職にも解禁されることとなった。しかし、医療と介護の線引きは今も曖昧で、線引きの例として、田島さんは「認知症(のケア)は介護」、佐藤さんは「医療が必要な方は訪問看護」と挙げた。

さらに、佐藤さんは「(看護師、介護福祉士の)両方の資格を持っている人はいるが、(看護か介護の)どちらか(の事業所)に所属する。どちらかの仕事しかできない」と指摘。このため、同社の介護サービスを利用している人であっても、医療サービスのニーズもある人に対しては、「私達も(訪問看護事業所と)連携を取りながら利用者のケアを行っている」と述べた。

しかし、医療(看護)と介護の縦割りの中で、訪問看護を利用できない実態も散見されるとの事。佐藤さんは「予防という観点では早目に訪問看護を利用されながら訪問介護も平行して利用する方が(良い)」と述べつつも、「訪問看護は介護保険の中で使えるが、1回当たりの点数が凄く高く、利用する人が少ない。ギリギリでとてつもなく病状が悪くなってしまって、訪問看護や24時間訪問介護を使うよりも、早い段階で予防という観点で使った方が良い」と話した。

一方、田島さんの勤める高齢者住宅では介護保険の対象サービスに加えて、介護と看護を融合させたサービスを展開しているため、「医療処置に関しては提携している所(=医療機関)が訪問診療で対応し、こちらの判断できない場合には提携先に連絡を取って判断を仰いだり、必要であれば来ていただいたりする体制を整えている」と紹介してくれた。

さらに、痰の吸引解禁に関しても、「医療連携先に関しては色々と指導を頂くことが多い」と強調。その上で、「医療、介護で手を組みながら、態勢が上手く行けるのでは」「『介護の先に医療がある』というデンマークみたいな考え方になれればという思いはある」と期待感を示した。

このほか、離職率の問題も話題となった。「財団法人介護労働安定センター」の介護労働実態調査によると、2009年10月〜2010年9月までの離職率が17・8%と、前年同期比よりも0・8ポイント悪化しているが、佐藤さんは「今の事業所は定着率が高い」と説明。その上で、数年経った段階で違う事業部に異動することで、様々な部署の仕事を学ぶ形を採っているという。


震災時は近隣から避難民

3月11日に起きた東に本題震災の影響も話題となった。田島さんは当時、船橋の施設で勤務しており、「想像以上に揺れた。建物は壊れることはなかったので、電車が止まったのでスタッフが缶詰状態になった」と振り返った。

さらに、船橋市近辺では液状化が見られなかったが、隣の団地から住民が避難して来たほか、スタッフが階段で施設内の安否確認に赴くなど対応に追われた様子。その後、家族への連絡が難しくなった上、液状化被害の酷かった千葉県浦安市から「家に住めないので暫く受け入れてくれないか」という打診が来たという。

ただ、たまたま震災発生時にはレクリエーションの時間帯だったため、入居する高齢者が1階に集まっており、大きな混乱はなかったようだ。

一方、佐藤さんは当時関西で勤務しており、震災の影響は直接なかったという。会社全体としてはフランチャイズとして宮城に店舗があるため、東京、大阪から職員を派遣したことを明らかにしてくれた。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】