タイプ
レポート
日付
2012/1/12

第37回「介護現場の声を聴く!」

第37回のインタビューでは、介護講師などを務める「LLCかいごにあ」代表の坂井雅子さん、高齢者住宅の建設などを手掛ける「元気悠遊株式会社」で福祉事業推進室長を務める平山玲子さんに対し、2012年度に予定されている介護報酬改定の評価や、人間関係に起因した職場のトラブル対処法などを聴いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>
<画面左から>
坂井雅子さん=「LLCかいごにあ」代表
平山玲子さん=「元気悠遊株式会社」福祉事業推進室長
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2012年1月10日に収録されたものです。


要 旨


プラス改定と言っても…


今年最初の放送は年末に決着した診療報酬、介護報酬が話題に上った。

2012年度政府予算編成では、医療機関向けの診療報酬、介護事業者向けの介護報酬が同時改定され、与党や関連団体を巻き込んだ攻防が展開された結果、診療報酬は0・004%(薬価を除く本体はプラス1・379%)に。一方、介護報酬については1・2%(うち施設は0・2%、在宅は1・0%)となった。

このうち、介護報酬は3年に1回改定されており、2000年の制度創設後、2003年に▲2・3%、2006年に▲2・4%(前年改定分を含む)、2009年に3・0%という改定率となっており、2回連続の引き上げ。今年度末で期限切れを迎える「介護職員処遇改善交付金」を報酬本体に組み込んだ上で、プラス改定を維持するとともに、行政刷新会議の指摘などを受けて、在宅に予算を配分する形となった。

しかし、平山さんは2006年改正の影響が大きかったとした上で、「プラス改定と言っても、事業所に入って来る収入はプラスになっている方向性はない」との感想を披露した。

さらに、介護職の講師として現場職員に接する機会の多い二人によると、介護報酬改定や制度改正を他人事のように受け止めている現場職員が多いという。

坂井さんは「余りピンと来ていない職員の方が多い。調べているかと言ったら、そうでもない。(講師の受講生は)経験1年目(の職員)だが、受け持っている限りでは(制度改正の話題が)殆ど出ない。給料がどうなるかは食い付くが、それ以外は調べてどうしようかというと、そんなに聞かない」と述べると、平山さんも「(報酬を)請求している事務職員とか、相談員、ケアマネージャーは(制度改正を)知らないと、家族に説明できないし、報酬を請求できないから勉強するけど、現場の職員は知らないことが多い」と応じた。

しかも、勤務先の種類や職種でも関心の度合いは異なるという。

坂井さんは「(早朝・夜間などで報酬体系が変わる)デイサービス(職員の)方が関心はあるかもしれないが、現場の介護職員、特に施設で働いている人はピンと来ていない」「現場職員は関心がないかもしれないが、経営者は見ている。入って来る数字は変わるし、経営方針を変える。(改定結果を見て)経営者は考えなければならない」と指摘。平山さんも「それぞれ働いている事業所の収入が変わるとか、サービスの提供の仕方が変わるということになると、現場職員も『こういう理由で変わるから、合わせなければいけないのね』と感じるが、施設だとサービス自体は変わらないので、現場の職員は余り感じない」と述べた。

このほか、サービスごとの配分額など介護報酬の詳細に関しては、昨年に公表された「介護事業経営実態調査」(速報値)でデイサービス事業所の経営収支が良かった点を念頭に、平山さんが「今回、打撃を受けるのはデイサービスと言われている。加算は包括報酬になってしまうとか、提供している時間数が変わる」との見通しを披露した。

同時に、介護報酬改定に対する現場の反応として、平山さんは「手で計算している人はいない。市町村ごとに違う地域加算があるので、介護用ソフト(を使う)。地域で入って来る報酬も違い、ソフトの中で設定できる。電卓を叩くよりも面倒臭くない」と発言。さらに、これまでの勤務先で、平山さんは事務スタッフによる補助を受けられなかったため、「訪問介護もデイも特養も老健(=老人保健施設)も(報酬を計算)できる。老健の通所リハビリが一番ややこしい」と語った。


イケメン男性職員の取り合いも


その後、利用者同士あるいは利用者と職員の人間関係に話題が移った。

二人の発言によると、利用者同士が接する時間が長い介護現場では、男女関係に発展するケースも少なくないらしく、坂井さんは以前に働いていた老健での経験として、赤の他人である女性を妻と思い込んでいる認知症の男性利用者の話題を紹介してくれた。坂井さんは「(その男性利用者が)同じ部屋のベッドで一緒に寝ている時もあった。夜勤巡回で空きベッドがあるので、『もしや…』と思ったら、赤の他人なのに男性が女性に夜這いしていた」という。

そこで、疑問に思った坂井さんが布団の中を覗いて話し掛けた所、男性は「何をするんだ」「俺の妻なのに…」という反応だったらしいが、翌日には二人とも普通に食堂で座っていたとのこと。

平山さんも訪問介護で勤めている時の経験として、「デイサービスで知り合った(利用者同士の)人達が4対4のグループ交際していることもあった。そのうちの1組は本当に仲良くなった」と語った。

さらに、デイサービス事業所に勤めていた時の苦労として、「60代の男性利用者が女性職員を好きになり、2人の(女性職員が)利用者の家に遊びに行ってしまうというとんでもない事態が起きた。女性がご飯を持って行くとか、三角関係になった。主任と『どうしたら良いのか』と本当に悩んだ。2人の(女性職員も)真剣に悩んでいた。結局、どっちも行かなかった」と話しつつ、「プライベートは自由だが、お付き合いするのであれば、(利用者が別の施設を)受けるか、(職員が)違う所に勤めるか。その人は私を誘って来たが、利用者さんという意識がある。(男性職員を好きになった女性職員の)回路が分からなかった」と振り返った。

平山さんは職員を巡る利用者同士の取り合いにも言及した。平山さんの語る経験談によると、軽度な認知症の女性利用者が20代前半の男性職員に恋したらしく、「(女性利用者が)職員のシフトを気にするようになった。出勤すると聞くと、朝から化粧。ラブレターまで書いていた。イケメンの男性職員は困って、『有り難うございます』と答えていた」と話した。

さらに、二人は経験談として、「介護の(職員同士の)職場結婚は多い。結婚式で何度もスピーチした。(その場合は)2階勤務だった人を3階にするとか(部署を変更する)」(坂井さん)、「(職員同士で)カップルになったとか、不倫とか…。(男性利用者が)他の女性と仲良くしており、奥さんが来るのにドキドキした」(平山さん)と、それぞれ紹介してくれた。


トラブルを授業で周知

こうしたトラブルの事例を坂井さんと平山さんは受講生に対し、積極的に話すようにしているという。

坂井さんは「受講生から凄く質問が来る部分なのだが、テキストに載せないし、少し載っていた部分も(授業では)スルーする。働く現場としては大事なことだし、そうした場合にどうしたら良いか、介護現場として知っといた方が良いので、オブラートに包んで話さないのはどうなのか。何処でも起きる話。『こういうこともある』と言っとかないと」と強調した。

実際、受講生は真剣に聞いているらしく、授業が終わった後には男女問わず、「もっと話を聞かせてくれ」という受講生が追って来るため、休憩時間にタバコが吸えなかったり、トイレに行けなかったりする時もあるとのこと。

さらに、坂井さんの講習を聞いた後、実際に生徒が事業所で実習している際、同様の事象に出くわしたため、感謝されたこともあるという。坂井さんによると、その生徒は実習したデイサービス事業所で、男性職員に女性利用者が恋する事態になった上、他の利用者達が声を掛けると嫉妬するようになったため、職員会議で女性に対する対応策を真剣に話し合う事態に遭遇したという。しかし、坂井さんの授業で、実習前に「こういうこともあるよ」と言っていたので、「学びになった」と感謝されたとのこと。

その上で、平山さんは「施設の中も普通の社会」、坂井さんは「(介護現場は)特別じゃない」と語り、職場の人間関係に起因するトラブルを実習段階から知っておく重要性を力説した。

【文責:三原岳東京財団研究員兼政策プロデューサー】