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第39回「介護現場の声を聴く!」

January 26, 2012

第39回のインタビューでは、東京都内でデイサービス、訪問入浴事業などを展開している「株式会社ケアサービス」取締役事業統括本部事業企画部長の小林航太郎さん、同社事業統括本部事業企画部グループマネージャーの菅谷俊彦さんに対し、介護保険制度外の上乗せサービスとして同社が実施する「湯灌サービス」やハウスクリーニング代行事業の需要などを聴いた。

インタビューの概要

<インタビュイー>
<画面左から>
菅谷俊彦さん=「株式会社 ケアサービス」事業統括本部事業企画部グループマネージャー
小林航太郎さん=「株式会社 ケアサービス」取締役事業統括本部事業企画部長
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2012年1月10日に収録されたものです。 http://www.ustream.tv/embed/recorded/19675504

要 旨

介護の「終着点」としての湯灌

第39回のインタビューは「湯灌」(ゆかん)と呼ばれるサービスの話題から始まった。

同社は主に東京23区でデイサービス、訪問介護、訪問入浴のサービスを展開しており、このうち訪問介護と訪問入浴は区の措置を受託する形で開始。デイサービスは2000年の介護保険導入と同時にスタートした。

従業員は昨年11月現在で1126人。2人の所属する事業企画部は昨年10月の組織変更で発足し、小林さんは「それまでの中心だったデイサービスから戦略的に多角化し、色んな事業展開を一歩離れた所から計画して行こうということで別部隊でやっている」と話した。


現在、同社が力を入れようとしているのが下の絵(ケアサービス提供)に紹介する湯灌サービス。


湯灌とは葬儀の納棺前に個人の体を清める儀式。菅谷さんが「(体を)拭く行為ではなく、シャワーで洗髪と整体をやる。ご遺族の前で一緒にやる。髪の毛を洗ったり、足の指先を洗ったりする。(服を脱がさず)体を見せない」とサービスの内容を説明すると、小林さんが映画「おくりびと」で話題を引き合いに出しつつ、「(映画は)納棺までで、整体、洗髪をやらない。(同社の湯灌サービスは)身支度する前に洗髪、整体をやる」と補足した。

元々、同社が湯灌サービスを始めたのは1990年。小林さんによると、「(今までは介護と無関係で)殆ど別々。介護はケアサービスとして商売できるが、湯灌サービスは何処かの互助会や葬儀社の下請けだった」という。

しかし、小林さんは「当社(の介護サービス)を使っている人が将来、(湯灌サービスを)使って頂く事を想定している。介護されている人に死をイメージさせることはタブー的な所があったが、分けて考えるよりも一体的に考えることはできないか」と語り、下の図(ケアサービス提供)で掲げる通り、今後は「人生の終着点」「介護の終着点」としてエンゼルケアを重視する考えを強調した。

菅谷さんも「あくまでケアプランでできることを介護に位置付けられて来たが、湯灌サービスは他界された後。(今後は)ライフエンディングノートを作成する予定で、生前準備に力を入れて介護からエンゼルケアまで心豊かな人生を送って頂くため、少しでも将来の不安を取り除いて頂き、今の人生を送って頂く価値観を提案したい」と述べた。


こうした考え方については、経済産業省の「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けた方策を検討する研究会」が昨年8月に公表した報告書でも示されてり、菅谷さんは「介護事業者のみならず、医療、法律、保健、葬祭、宗教、行政を含めて色んな業界が手を取り合って、亡くなる直前から亡くなった後のライフエンディングステージをサポートできる体制を作る報告書をまとめた。ケアサービスも世の中のために何か貢献できることはないかとうことで、生前準備を提案できるかなと(考えた)」と説明した。

その上で、小林さんは「エンゼルケアを葬儀社から独立されて個人でやっている人が多いが、介護とエンゼルケアを両方やっている会社はない」「葬儀社の紹介もできるし、葬式をする前に我々のサービスとして湯灌サービスをさせて頂き、その後は葬儀社に任せて葬儀をして頂く流れが出来る」と語り、介護事業会社が介護の「終着点」として湯灌サービスを展開する意義を説明するとともに、「我々の場合は胸元やお腹にドライアイスをやったり、お化粧が崩れて来るので直したり、荼毘に付されるまでは(ご遺体の)メンテナンスをやらせて頂いている」と強調した。

さらに、小林さんが自らの祖母が亡くなった時の経緯を引き合いに、「(サービスを提供している地域ではなかったため、湯灌を)できなかったが、提供してくれる葬儀社だったら我々もやった」と述べた上で、「利用者だけでなく家族(にとって)もいい。自分らしい死に方という訳じゃないが、『最期はこうして終わりたい』というイメージして貰う。団塊世代には『自分らしく』という需要は多い」と説明。これに対し、菅谷さんも「葬儀社が家族に説明するかしないかで分かれる」と応じ、潜在的な事業ニーズの存在に言及した。

実際、同社は一般向けに「ライフエンディングセミナー」と銘打って、湯灌サービスの説明会を2回開催したところ、いずれも好評だったとのこと。小林さんは「実際にサービスを利用されている人も来たし、家族や若い人も来た」と話したほか、「(新たな事業分野として)何項目か考えている。介護という所から枝分かれ。そこから想像して行くのが一番」と話した。

その後、話題はハウスクリーニング代行業に移った。

近年は独居高齢者による孤独死が増えているが、「民生委員の人とか、警察や役所との遣り取りが多い。(葬儀は)無縁仏とか合同でやる」(小林さん)、「亡くなった後の事務手続きがある。加入した会員証、保険も全て」(菅谷さん)といった形で、亡くなった後の事務処理も課題となる。

そこで、同社は2010年から亡くなった高齢者の自宅や遺物を清掃・整理するハウスクリーニング代行業を本格的に始めた。

小林さんによると、「元々は介護サービスをやって行く中で、亡くなった人の布団の供養をやっていた。寺に布団を収めてお焚き上げという儀式で燃やしていた」というが、「布団以外にも故人の私物をどう処理して良いか分からない。寺で供養して頂きたというニーズがあり、一部屋丸々、家一軒という規模になって来た」という。

そこで、同社は産業廃棄物処理業者の資格を取得し、新しくビジネスとして立ち上げて、そこからスムーズにどんな要望でも受けられるようになったという。小林さんは「コンプライアンスという点で見ると、産廃業者の資格が必要。そこは想像していなかった。違うことを始めると、こういうことが必要だと分かって来て、これを取ると『次にこういうことができないか』(という話になる)」と述べた。

ハウスクリーニング代行業の具体的な作業の流れとして、菅谷さんが「基本的に家族が遠方にいる場合、全ての遺品を確認して貰う」と説明。すると、小林さんは「故人の思い出の品が(自宅や部屋の)至る所にある。一つ一つカテゴリー化して判断して貰う。中にはお金が出て来る時もある」と応じつつ、「家族によっては亡くなった方への思い入れがあり、凄く大切に思われていた家庭だと簡単に捨てるよりも、亡くなった後も供養したいという思い入れの方が多い」と意義を強調した。


上場のメリットは?

話題は会社の沿革や上場するメリットに移った。

同社は1960年、「サンセルフ福原」という会社名でスタートした。

小林さんによると、「最初は官公庁の夜勤の布団乾燥から始まった。ビルの当直の布団乾燥から初めて、(福祉事業として)各区の寝たきり(高齢者向け)布団乾燥を始めた」という。その事業では布団を回収してトラックの荷台で強制乾燥しており、小林さんは「(同様の機械は)幼稚園でやっているのを見たことがあるが、(園児が)昼寝して場合によってはおねしょするので、天日干しよりは熱風で消毒してしまった方が(早い)」と語った。

その後、同社は訪問入浴事業に進出した。その経緯について、小林さんは「(布団乾燥の)特殊車両を作っている会社から声を掛けて貰って訪問入浴を始めた」と発言。訪問入浴事業としては、「寝たきり(の高齢者)の家まで行き、簡易型の浴槽があるので、ベッドの横に置き、水道から水を借りて瞬間湯沸かし器で車から湯を沸かし入れている」と紹介してくれた。

さらに、同社は2006年、ジャスダックに株式を上場した。当初から創業者は「独立して株式会社を作る以上、株式を公開する」という目標を掲げていたらしく、介護業界で株式公開した会社は現時点で少ないためか、名刺を見て「上場しているの?」と聞かれる時は多いとのこと。

しかし、小林さんは上場のメリットして「現場に関しては、どうこうということはない」と述べた。

その一方で、小林さんは運営サイドのメリットとして、「優良企業してやって行くため、しっかりコンプライアンスが見られるので、そういった意識が(会社で)高まった。(不正を犯して市場から退出した)大手の問題から『これで良いのか』と見直すきっかけになった」と強調した。

小林さんによると、上場前は数字の取り扱いが必ずしも万全とは言い難く、「今日の利用者は何人か?」「先月の利用者は何人だったのか?」という数字すら明確に掴んでいない時もあったとのこと。

しかし、小林さんは「上場を目指して行く中で、今まで感覚でやっていたことも体系立てて数字で見て行かなければらならないし、それを第3者に開示しなければならない。コンプライアンスも(ある)。上場の立ち上げの人は何日も寝ないで毎晩のように遣り取りして、やっと審査を通った」と語り、上場のメリットを説明した。

近年、力を入れているのはライフエンディング事業に加えて、昨年に制度化された「サービス付き高齢者向け住宅」。

サービス付き高齢者向け住宅は従来の高齢者専用賃貸住宅(高専賃)、高齢者専用優良賃貸住宅(高優賃)などを一元化したのが特色。高齢者の住まいの受け皿として期待されており、菅谷さんによると、業界としては「(国の補助金は)運営業者に出ないが、オーナーに出る。魅力的な話」と受け止められている。

同社もさいたま市に2施設をオープンさせており、3月から3店舗目をオープンさせるという。

菅谷さんによると、既存の施設は部屋に風呂が付いておらず、介助の面を考えて共用設計にしたが、新設の施設は風呂が付いており、介護保険上の特定施設としての適用を受けているので、介護保険の範囲内でサービスを受けられるという。

菅谷さんは「旦那さんが要介護。奥さんが自立でも夫婦で住める」と入居者の要件を紹介。小林さんも「学生のワンルームみたいなイメージ。夫婦で住む場合、2Kぐらい。(生活を)イメージしやすいよう家具を置いてモデルルームを公開中」と応じた。

その上で、小林さんは「(入居者の介護状態が)重度化しているので、今後は(看取りも)想定される。(今は看取りの)前例はないが、そういった所まで対応できる施設を整えてい」と発言。これに対し、菅谷さんも「その場で亡くなったケースは現時点でない(外見上は)普通の住居。当社だけでは看取りに対応できない。医療機関との連携。そこに医療を含めて、如何にサービスが整っているか(が大事)」と述べた。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】
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