タイプ
レポート
日付
2012/3/22

第47回「介護現場の声を聴く!」

第47回のインタビューでは、演奏や合唱を通じて高齢者に安らぎを与える「音楽療法」を展開する「株式会社 リリムジカ」代表取締役の管偉辰さん、音楽療法士として実際にサービス提供に当たっている梅田果歩さんに対し、介護保険外のサービスとして実施している音楽療法の効能や課題、介護施設への営業方法などを聴いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>
<画面左から>
梅田果歩さん=「株式会社 リリムジカ」音楽療法士
管偉辰さん=「株式会社 リリムジカ」代表取締役
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2012年3月6日に収録されたものです。


要 旨


介護施設に「営業」

第47回目のインタビューは音楽療法が主な話題となった。

東京都西東京市に本拠を置く同社は2008年に創業。大学4年生だった管さんが2007年夏、音楽療法士の柴田萌さんと出会ったのが契機だったという。

音楽療法士は日本音楽療法学会の認定する資格。しかし、管さんによると、学校卒業後に仕事としている人は極めて少なく、それまでに約40人の資格所有者も実際に生業としている人は殆どおらず、柴田さんが知人に相談しても「仕事にならないからいい」と答えたほか、大学の教員でさえも「止めときなさい」という反応だったとか。

そこで、柴田さんは会社を作ろうとしていたので、管さんは起業した経緯を「彼女がファイティングスピリットを燃やしていた。商学部出身の私は何も知らなかったが、面白いと思った」と振り返る。

昨年7月からは柴田さんが現場に専念するため、管さんが社長に就任して管理、営業、広報などを担っており、現在は月に30回、15カ所でサービスを提供している。

では、音楽療法とは何なのか。

昨年4月から同社で音楽療法士として働く梅田さんは「リトミック(=音楽教育の手法)は元々、幼児が中心。音楽を通して発達を促進する。これを高齢者に応用しようという取り組み」と話す。具体的には、同社の音楽療法士が特別養護老人ホーム(特養)や老人保健施設、グループホーム、自宅などに赴き、高齢者と一緒に歌や合唱、会話、楽器の活動を通して、生活の質の向上や健康維持を図っている。




【作成・提供:リリムジカ】

梅田さんによると、セッションを行う場合、「歌の伴奏となると、コードが出る電子ピアノやキーボードなど鍵盤楽器が主体になる。ピアノを持って行く時もあるし、(営業先の)ピアノを使う時もある」という。同時に、フレームドラムという太鼓を使ったり、よさこい踊りやソーラン節で使う鳴子を参加者に渡したりしており、梅田さんは「初めての人でも抵抗なく誰でも楽器に触れて使って貰いたいと思って、簡単な打楽器を持って行く」と話す。

その際には歌詞カードを持参するケースもあるし、ホワイトボードに貼り出して、みんなで歌えるようにしているという。


【作成・提供:リリムジカ】

こうしたセッションの実施に際しては、時間帯や演奏する曲などを記したプログラムを策定。その時には「昼食を食べた後1時半から45分間やる」といった形で大まかに時間が決まっており、参加する人が知っている曲や好きな曲を選んでいるという。

二人によると、良く演奏している曲は「東京行進曲」「星影のワルツ「」北国の春」など。梅田さんによると、昭和期の「りんごの歌」「青い山脈」は不動の人気らしく、「ズンドコ節」「千の風になって」「なだそうそう」なども人気があるとのこと。

しかし、実際に曲を選んだり、レパートリーを増やしたりする上での苦労もあるらしく、管さんは「70代の人がご存知の曲と、90歳の人がご存知の曲は全然違う」「レパートリーを増やす必要がある。仕事を繰り返す中でレパートリーは増えて行く。最初から全部知っている人もいない」と発言。梅田さんも「(曲のニーズは)施設や現場によって様々。ある人が『この曲が好き』と言ったら、その歌を準備する。皆さんは懐かしいというが、私にとって(古い歌)は新曲」「(利用者の間で)世代が違うので、レパートリーは練習。ユーチューブで聞いて弾く」と述べた。

また管さんによると、音楽療法セッションを施設で導入するまでには幾つかの段取りを経ている。まず、管さんが特養など介護施設を訪問し、施設長らに今やっているレクリエーションやアクティビティを確認した上で、リリムジカの提供するノウハウを打診。営業範囲は現在、北は栃木県宇都宮市、南は横浜市をカバーしているという。

その後は無料でトライアルのセッションを実施し、介護施設の利用者や入居者が継続を希望した場合、施設を通じて家族の同意書を取った上で、施設ではなく家族・利用者と契約する仕組みだ。同時に、施設職員と一緒に記録を作り、今後の介護に役立てるとともに、次のセッションに反映させている。

料金は個人セッションの場合、1回当たり3780円、グループは1890円から。契約した場合、音楽療法のセッションを月2回のペースで開催しており、サービスは介護保険外のサービスで全額が自費となる。管さんは「商売を始めた時はオプションの自費サービスについて、『そういうのどうなの?既にお金を貰っているし、これ以上プラスアルファで払って頂くのはおかしいのでは』という意識が(施設側に)あったが、考え方が少しずつ変わって来ている」と指摘する。


カラオケや演奏会との違い

一方で、近年はレクリエーションやアクティビティの一環で、カラオケ用の機器を導入したり、演奏会を開催したりする介護施設が増加しており、高齢者が音楽に触れる機会が増えている。

これに対し、管さんは「どっちも音楽を楽しむのは共通」と語りつつ、カラオケや演奏会と比べながら同社の提供する音楽療法の特色を強調してくれた。

【リリムジカ作成・提供のPDF資料3~4枚目を参照】

管さんによると、高齢者はキーの低い人が多いため、職員がカラオケのキー操作することが一般的というが、管さんは「(同社の)音楽療法の場合は人が演奏しているため、参加者が歌いやすいキーを音楽療法士が探して歌えるので、気持ち良い」という。

リズムについても、カラオケは一定で原曲通り。しかし、同社の音楽療法の場合、音楽療法士がタイミングを合わせるため、自然に合わせることが可能。

管さんは「高齢になると休符を待てない。休まなきゃいけない所を早く入って来るので、カラオケの場合はドンドンとずれて来る」と指摘した上で、「音楽療法は今、歌っている所に行ける。カラオケの場合は出来ない。その場その場の一体感は気持ち良い」と強調する。

カラオケの進行は職員だが、リリムジカの音楽療法は音楽療法士。記録も施設職員が自分で作成するが、音楽療法士が施設職員と相談しながら作成する相違点があり、費用面で見るとカラオケ機器を購入した場合には150万円だが、音楽療法は1回1890円で済むため、管さんはカラオケと音楽療法の違いに言及しつつ、「(2つの方法を)使い分けて頂きたい」と話した。

さらに、演奏会との違いも話題となった。

演奏会は聴くだけなのに対し、音楽療法は一緒に歌う違いがある。歌う曲についても演奏家が選ぶが、音楽療法は好みに応じて広げることが可能。

実施頻度に関しても、演奏会は施設サイドがアポを取った時だけだが、音楽療法は月2回の頻度で開催する。費用を見ても、演奏会は無償のボランティアから数万円だが、同社の音楽療法は定額という違いがある。

管さんは「ライバルであり、共存して行きたい関係。重度の人が多い時、地域の高齢者が一緒に付いて歌ってくれるボランティアがある。施設が介護する中で、全部を自分で完結するのではなく、ボランティアを活用しても良いし、外部のパートナーを活用して欲しい」と呼び掛けた。

管さんによると、東京で音楽療法を提供している会社とNPO(特定非営利法人)は片手で数える程度で、定年後の人や主婦が半ば趣味で実施しているケースもあるとのこと。管さんは「個人でやっている人が多く、ボランティアとか、音楽家が演奏しに行くことはあるけど、それが介護を受ける本人と現場のニーズが噛み合っているかと言うと、必ずしもそうじゃない時がある。利用者の聞きたい曲をやってくれるかどうか。話したかったり、歌いたかったりするのに、音楽を聴く事を強いられてしまう。施設の人が言えばいいけど、(ボランティアとして)タダでやって貰っているので(文句を)言えない」と指摘。さらに、「最初の2~3曲は有名な曲。その後は自作の歌を歌った」という施設長から聞いたエピソードを引き合いに出しつつ、「(施設から見ればボランティアは)恰好が付くけど、(演奏会の中身に関して)自由がない。上手い人ならばいいけど、そうじゃないと悲惨」と話すと、梅田さんも「ボランティアの場合、私たちみたいに定期的・継続的にやるのが難しい」と応じた。

こうした違いを踏まえて、管さんは音楽療法の特色として、グループで歌った際に音程がズレた時の対応を強調した。

管さんは「なるべく一人一人が『歌えた』という達成感を持てるような伴奏が大事。グループで音楽療法をやっていると、高い声が出る人とそうじゃない人、自分がずれている事に気付く人と、気付かない人がいる。みんなで歌う際、自分が完全に違う音程を弾いている場合、平均値に合わせる。絶対に皆さんを強制的に、『このキーで歌わせなきゃならない』ということはない」と力説。梅田さんも「(我々は)音楽を教えに行っている訳じゃない。楽しむ場を作るために音楽を使っている。その人が『楽しかった』と思って頂ければ何でもいい」と語った。

これに対し、管さんも「演奏家は(全体のテンポに合わせるのが)苦手な人は多い。楽譜通りに弾く人が多いけど、ズレた時にズレたキーに移れるかどうか。それは訓練」と指摘。梅田さんも参加者に強制しない形で歌い出しを合わせる方法として、「歌い出しが分かりやすいように自分の動きで(始まるタイミングを)示したり、歌詞を(実際よりも)一節早く読んでみんなで入れるようにしている」と紹介してくれた。


自信回復などの効果

音楽療法の効果も話題となった。管さんは「療法の中で見られる効果」「日常生活に関わる効果」の2つを挙げた。

具体的には、前者は「普段殆ど声を出さない人が歌う」「認知症の進んだ人がまとまった会話をする」「笑顔の見られなかった人が笑顔になる」といったケース。後者は「自信の回復」「他の入居者とのコミュニケーション増加」「健康維持に役立つ新しい習慣を持つ」といった事象だ。

管さんは「(普段話さない人が)音程やテンポを合わせて前奏を引いて上げることで、フッと歌ってくれる」「セッションで何人か参加しており、楽器を渡すと認知症の方が笑顔になる」といった事例を紹介。梅田さんも「一人一人の状態を見られるように立って、ピアノを引きながら参加者の様子を見て、小さな変化に気付くようにする。積み重ねなので継続的にやって行くことで、(利用者に)変化が生まれる。それを見るのは喜び」と話した。

その一例として、管さんが挙げたのが「大正琴」という楽器を習っていた高齢者のケース。この高齢者は認知症でグループホームに入った後、楽器を取る機会が無くなり、職員が「やって見ませんか?」と言っても「できない」断っていたという。

しかし、同社の音楽療法士とグループホームの職員が「大正琴が出来るようになったら自信が回復するのでは。セッションの中で触れる機会を作って見ましょう」という話になり、実行したとのこと。すると、日常生活の中で「やりませんか?」と急に言っても困難だが、セッションで何人が参加している中で参加者が楽器に触っていると、自然に大正琴に触るようになったという。さらに、毎日5分ずつ琴に触るようになり、「私は何でも弾けるわよ」と言うまで自信が回復。セッションで腕前を披露するようになったほか、別のグループホームに「巡業」するまでに至ったとのこと。

管さんはコミュニケーションが活発になった高齢者の事例も挙げた。

管さんは「施設の中で殆ど話さない入居者いるが、何回かやって行くと、美空ひばりとか歌謡曲が好きなことが分かった。その曲をたくさん使う事で、一緒に住んでいる人とコミュニケーションを取るのは悪い事じゃないと気付いた。それまでは(自室と)ヘルパーステーションを行ったり来たりしていた人が音楽を通して、一緒に洗濯物を畳むようになった」「在宅の現場は家族が一緒に参加。認知症が進んでコミュニケーションが円滑に行かないため、言葉数が減っていた人が音楽療法の最中にたくさん話すと、家族は喜ぶ」などと話してくれた。

さらに、管さんは「音楽療法が入ることで、一日5分の練習というパターンもある」「プログラムを前日に送ると、セッションの前日に出て来る曲を(参加者に)見せて、歌詞を筆ペンで書いて(練習するのが)習慣になっている」という。

その上で、管さんは音楽療法士と施設職員の間でコミュニケーションを取っている点を指摘しつつ、「(我々が)見ているのは療法の瞬間だけでなく、その方がどういう生活の上の課題を持ってて、どうやったら生活が豊かになるのか、健康を長く維持できるのか考えながら仕事している」

最後に、2人に現在の課題を挙げて貰った。

同社に入って約1年の梅田さんは「昔から音楽をやってて、音楽の知識・技術はあるので、介護の現場に入って行く中で、他の職種の知識の差を感じることがある。まだ分からないことがあるので、音楽療法士として活動して行く中で、音楽だけでなく介護などの知識は必要」と語った。

管さんは「私達はたくさんの介護現場で実践して行きたい」「段々と仕事を重ねて行く中で、(利用者が)音楽だけでなくオプションのサービスを選べるようにしたい。そのきっかけが音楽と思っている」との問題意識を披露した上で、課題として営業面と人材面の2つを掲げた。

前者について、管さんは「昔に比べると、お金を払う価値はあると思う人が増えているけど、見せ方や実績とか、どういう変化が起きたのかを伝える力が足りない部分があるので、工夫して行きたい」と発言。後者に関しては、「(創業者である)柴田の方法は完成しつつある印象。介護職員に対する音楽の研修が出来るようになっている。彼女のやって来たことをどうやってより多くのセラピストに伝えて行くのかがこれからの課題。今は研修(のプログラム)づくりに取り組んでいる」と語った。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】