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連続フォーラムから考える医療・介護改革~プライマリ・ケアの重要性、政策決定の分権化を提起~

March 20, 2014

研究員兼政策プロデューサー
三原岳


東京財団では2013年度、「医療・介護制度改革を考える連続フォーラム」 と銘打ち、制度改革に向けた考え方を提起するフォーラムを実施している。昨年5月、同6月、同10月に開催したフォーラムは現場の関係者や専門家をゲストとしてお招きし、2012年10月に公表した政策提言「医療・介護制度改革の基本的な考え方」に沿って、医療・介護制度の課題や改革の方向性などを話し合った(最終回となる 連続フォーラム は4月3日に開催予定)。

フォーラムでは提言で打ち出したプライマリ・ケアの重要性や政策決定の分権化などが話題となり、制度改正に向けた考え方を示すことができたと考えている。本稿ではフォーラムで出た意見や知見を整理するとともに、今後の方向性を考える一助にしたい。

プライマリ・ケアの重要性

提言ではプライマリ・ケアの普及と、患者・利用者の立場に立ってプライマリ・ケアを提供する「代理人」機能の強化、包括的かつ継続的なケアを一体的に提供できる「地域包括ケア・グループ」(CCCG)の創設、政策決定の分権化、保険者の再編などを盛り込んでおり、第1回と第3回はプライマリ・ケアの供給体制、第2回は報酬制度の観点で政策決定の分権化の重要性を主に考察した。

第1回のゲストは東京都多摩市を中心に医療・介護サービスを切れ目なく提供している医療法人財団天翁会理事長の天本宏氏、高齢化の進んだ戸山ハイツ(東京都新宿区)で高齢者の健康相談などを受け付ける「暮らしの保健室」を開設したケアーズ白十字訪問看護ステーション代表取締役の秋山正子氏、英国で家庭医(GP、General Practitioner)の資格を取得した澤憲明氏の3人。

天本氏は「地域全体を病棟として考える」「搬送医療から訪問診療への転換」「保健・医療・介護・福祉の複合型サービスの構築」を掲げつつ、天翁会の取り組みを説明。秋山氏は日常的な健康相談や予防医療の展開、多職種連携による生活支援サービスなど暮らしの保健室の取り組みを話した 。

さらに、澤氏がプライマリ・ケアの担い手として、GPが日常的な健康課題の90%に対応するなど、患者・利用者の代理人となっていることを紹介した 。いずれもプライマリ・ケアの提供主体として機能しており、東京財団の提言に沿って整理すると、天翁会はCCCG、暮らしの保健室と英国のGPは代理人を体現していると考えている。

日本の制度改革論議でも、こうした考え方を取りこむ動きが出ている。例えば、昨年8月の社会保障制度改革国民会議報告書は医療機関・介護施設のグループ化を提唱し、今年の通常国会で法改正が予定されている。さらに、英国のGPに似た存在として2017年度に「総合診療医」が制度化される ほか、2014年度診療報酬改定では「全人的かつ継続的なケア」を提供する主治医に対する加算措置が創設された 。

しかし、多くの医療機関や介護施設では相互の連携が不十分であり、制度的な課題としては医療・介護行政の分断が挙げられる。国レベルで十分な調整が取れていない上、医療は都道府県、介護は市区町村が計画を策定しており、両者の間で連携が取れていない。

さらに、総合診療医の拡大には治療行為・ケアごとに加算する出来高払いを中心に据えた診療報酬制度の見直しも必要になる。プライマリ・ケアでは患者・利用者の健康課題に対し、医学的なアプローチだけでなく、ストレスを感じている人に対して休暇取得を促すなど医学に依らない解決策も志向する。しかし、現行制度は治療行為やケアをやればやるほど収入が増えるインセンティブを内在しており、予防や疾病管理に力点を置く場合、患者・利用者を健康にするほど、収入を失うことになりかねない。

このほか、プライマリ・ケアを担う専門職の育成が遅れた ため、細分化された臓器・疾病別の専門医が医療供給の中心を担っており、代理人機能を果たす専門職の育成などの課題もある。東京財団では今後も、これらの論点について政策研究・提言活動を続けていきたいと考えている。

制度の複雑化をもたらす中央集権

提言では中央集権的な意思決定と複雑な仕組みが国民の当事者意識を失わせる点を指摘しており、その典型例として第2回は報酬制度に着目した 。

医療行為の単価を定める診療報酬は2年に1回改定されており、ほぼ同じ仕組みが採用されている介護報酬は3年に1回変更される。その際、厚生労働省は需要・供給動向、利害関係者の要望などを勘案して審議会で決定している が、現場の意向や利用者の意見を反映しないまま、業界団体の利害調整だけで制度が作られている結果、その体系は複雑化の一途を辿っており、自己負担を支出する患者・利用者は勿論、医療機関や介護事業所の経営者も分からない内容となっている。

第2回のゲストは東京都江東区を中心に医療・介護施設を経営する医療法人財団寿康会理事長で全日本病院協会副理事長を務める猪口雄二氏、東京都三鷹市を拠点に自費の訪問介護など独自のサービスを提供するNPO法人グレースケア機構代表の柳本文貴氏、医療経済学に詳しい多摩大学大学院医療・介護ソリューション研究所教授の真野俊樹氏の3人。

フォーラムでは猪口氏が報酬制度の複雑ぶりについて、「入院基本料は40種類ぐらいに分かれており、それぞれにオプションや加算措置、人員配置、施設基準が付いている。細かく複雑怪奇だけどエビデンスがない」と指摘。柳本氏も「複雑化で事務担当部門がコストとして大きくなっており、アリバイ加算と言える実態のない加算も多い」と述べた。一方、真野氏は国際比較を踏まえ、「日本の報酬制度はつぎはぎの限界が出ている。評価体制と診療報酬の新しい方向性の議論から始めることが必要」と語った。

こうした現行制度の弊害は2014年度報酬改定でも見られた。入居者を囲い込む不適切な事例を閉め出す必要があるとして、介護施設など同じ建物に入居する患者に対する訪問診療の診療報酬を大幅に引き下げたのである。

しかし、ここ数回の改定で在宅分野を優遇してきたことを考えれば、現場はハシゴを外された感覚になっている、しかも、こうした改定を重ねる完成形は何処にあるのだろうか。そもそもケアの課題や資源が地域や現場ごとに大きく異なる中で、中央集権による場当たり的な政策では対応が難しくなっているのではないか。地域実情に応じた政策が可能となるような政策決定の分権化を今後も研究・提言したいと考えている。

オランダから学ぶ日本の方向性

第3回はオランダからゲストをお招きし、日蘭の介護政策を話し合った。両国は介護保険制度を持っている点 、人口の老齢化で給付抑制を迫られている点などが似通っており、オランダの経験から学べる部分は大きいと考えて、公衆衛生や高齢者ケアに詳しいオランダのライデン・アカデミー(Leyden Academy)ディレクターのマリエッケ・ヴァン・デ・ワール(Marieke van der Waal)氏をゲストとしてお招きしたほか、オランダで満足度1位となった在宅ケア団体「ビュートゾルフ(Buurtzorg)」と交流している秋山正子氏、オランダの医療・介護政策を研究しているお茶の水女子大学准教授の大森正博氏にコメントをお願いした。

オランダが特別医療保険(AWBZ)という介護保険制度を創設したのは1968年。しかし、人口の長寿命化で総費用が増大しているため、マリエッケ氏によると、近年は在宅ケアやリハビリの重視、ナーシングホーム(日本で言う特別養護老人ホーム)の新規入居抑制に加えて、「社会支援法」(WMO)に基づいて地方自治体が提供する福祉制度に生活支援サービスを移行させている。

一方、オランダではGPや訪問看護によるプライマリ・ケアが普及しており、国民の満足度は高い。プライマリ・ケアを通じて費用抑制と国民の満足度を両立させているオランダから学べる部分は多いと思われる。

今後の研究について

3回に及ぶフォーラムを通じて、プライマリ・ケアや代理人機能の強化、医療・介護連携に向けた提供体制の改革、政策決定の分権化、制度の簡素化などの重要性を訴えることができたと考えている。

4月3日18時半から開催する第4回フォーラムでは、在宅を中心に医療・介護・福祉サービスを切れ目なく提供する「地域包括ケア構想」を体現している自治体関係者や現場の医師をお招きし、その取り組みを伺うとともに、先進事例を全国に普及させる上で、各地域の主体的な取り組みと住民参加、それを支える政策決定の分権化が必要な点を訴える予定である。

さらに、2014年度は「保険者」の在り方について政策研究・政策提言を行う予定である。2012年10月の提言では地域を軸に保険者を再構成する考えを掲げており、保険者の再編成だけでなく、「どのような機能と役割を保険者に期待するべきか?」という点も研究し、利用者や納税者本位に立った制度改革を目指したいと考えている。

    • 元東京財団研究員
    • 三原 岳
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