タイプ
レポート
日付
2013/2/6

医療研究会「日本における総合診療医の可能性について」<Page3>

簡単な総括と今後に向けて

 

東京財団は昨年10月、政策提言『医療・介護制度改革の基本的な考え方』を発表し、この中で患者の代理に機能を果たすべき存在として、病院や診療所、介護施設などを包括化する「地域包括ケアグループ」を提案した。今回の研究会は提言の具体化を目指す第一弾になる。

以下、研究会の議論に加えて、日々の研究活動で得た知見なども交えて、簡単に総括したい。

現在、患者や利用者の代理人を果たしている存在としては、介護保険制度のケアマネージャーや成年後見人などが挙げられる。一方、医療ではプライマリ・ケア(初期包括ケア)を担う存在として、一般的な病気を全人格的に診断したり、患者の家族関係や生活面まで配慮したりできる存在として、「総合診療医」「家庭医」「総合医」などと呼ばれる医師が存在する。

しかし、現在は臓器・疾病別に細分化された専門医の育成に力点を置いており、日本専門医制評価・認定機構によると、日本プライマリ・ケア連合学会の認定資格を取った医師は232人に過ぎない(2011年8月現在)。

その一方で、多死社会の到来や医療・介護サービスの不足、財政難の中で脚光を浴びつつあり、厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」が「総合診療医」の資格を確立させるとしている。東京財団としても、先に提案した提言の「地域包括ケアグループ」や代理人機能を考える上での一助になると考え、総合診療医に求められる役割や機能、その育成策や課題などを話し合った。


(1)育成システム


一つ明らかになったのが育成システムの課題である。

まず、地域医療の現場を持たない大学病院の医局にとって、総合診療医を育成するインセンティブはない。

さらに、若手医療者を受け入れる面でも課題がある。2004年度の新型研修制度の導入後、以前よりは地域医療や総合診療に期待する関心が増しているというが、総合診療医を体系的に育成・養成するコースが確立していないため、総合診療医の道を選ぶのに二の足を踏んでいる若手・中堅が多いようだ。

このほか、本人にとって適切なケアを提供する上では医師だけでなく、看護職や介護職、ケアマネジャー、薬剤師などによる多職種連携が求められるが、他の職種を理解するカリキュラムが想定されていないことが研究会の議論で浮き彫りとなった。同時に、研究会では総合診療を知らずに開業した医師に対しても、学び直しの機会が必要との声も出ていた。

これらの点を考えると、プライマリ・ケアや総合診療を根付かせる上では、関連する制度改正を並行させる形で、国や大学、関連学会が一体となって総合診療の定義付けやプライマリケアの意義を証明するデータの収集、担い手となる医師や関連職種の恒常的な育成などに取り組む必要があると思われる。

一方で、「神の手」に代表されるような専門医志向が国民やメディアの間で強いのも事実である。このため、総合診療医の機能や意義、身に付けるべき専門的なスキルやメソッドなどを関連学会や関連団体で詰める必要があるだろう。同時に、一般的な認識を改める上でも、総合診療医が自ら地域でロールモデルを見せることで、草の根レベルで総合診療医の重要性に気付いて貰うことも大事なのではないだろうか。


(2)専門医との関係


第2に、総合診療医と専門医の関係である。

研究会に参加してくれた孫氏や若手在宅医の説明によると、100程度の一般的な症例を把握し、実際に専門医に送るのは数%程度に過ぎないという。

つまり、適切な役割分担が可能になれば、専門医の負担が減る事を意味するため、研究会メンバーからは「専門医にとっても良い話」といった意見が出ていた。

しかし、その場合のネックになる要素として、研究会ではスムーズな情報伝達が話題となった。

現在、在宅医に対して診療報酬を手厚く配分する「在宅療養支援診療所」について、2ヵ所以上の医療機関が連携するケースが増えており、夜間帯などには普段接していない患者を診察することになるが、担当医同士の情報共有は紹介状のフォーマットをやり取りする程度にとどまっているという。

さらに、医師が在籍している介護老人保健施設に関しても、研究会メンバーから「往々にして病院で働けない医師が多いので、今は夜中に呼び出されても、施設に来ないまま『病院に運べ』と言うだけだ」といった声が出るなど、施設同士の情報共有や連携が上手く行っていない点が指摘された。

これらの点を考えると、「関係機関で情報共有を如何に進めるか?」「電子カルテの整備を大規模に進めるべきか?」といった点に加えて、「細分化されているサービス供給体制を利用者本位に沿って、どう統合するか?」「責任主体の無い連携が果たして良いのか?」といった点が重要になって来ると思わる。

今後、東京財団では様々な人達の知見を集めつつ、社会保障の将来像について、社会全体で合意点を見出す「東京財団イニシアティブ」を実施する予定である。今回の論点についても詳細を研究するとともに、その在り方を世に問うことで議論を巻き起こして行きたいと考えている。

※なお、総合診療を担う医師の名称としては、「家庭医」「総合医」「総合診療医」「プライマリ・ケア医」などがあるが、今回のリポートは厚生労働省検討会の議論に沿って「総合診療医」で統一した。しかし、固有名詞などについては、その限りではない。

※この議論の後、厚生労働省検討会は2017年度から総合診療医の専門教育をスタートすることを決めた。


【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】