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医療研究会「日本における総合診療医の可能性について」 <Page2>

February 6, 2013

3.意見交換

(1)教育システムの課題


▼現在の医師養成システムで足りないのは人間を包括的に診る見方。日本プライマリケア連合学会では、後期研修プログラムでは患者中心の医療技法がメソッドとして確立している。しかし、体だけじゃなく、心や社会的側面を診る手法が重要。実際の診断からフィードバックできているかが大事だ。

▼現在、大学では予防医療とヘルスプロモーションは殆ど教えられていない。患者との対話についての教育は漸く始まった。「良いコミュニケーターであるべきだ」という考え方は医学部に入って来たが、地域ケアや公衆衛生に近い手法は殆ど教えられていない。実際の診療にどう実践するかが課題。

▼多職種連携の教育は昭和大学などで始まっている。医学生、看護学生、薬学生が学生の頃からチーム医療を勉強している。

▼日本の教育は多職種同士で交流が少ない。他の職種に関する教育システムも縦割りになっている。

▼指導医は総合診療の手法を学んだことが無い。何となく実践しながら「体だけ診るとダメ」「社会的ファクターを見るべき」といった形で学んで行くが、理論やメソッドとして教育していない。総合診療が上手く行く理屈をプログラムとして教えることが大事。

▼日本プライマリケア連合学会の後期研修プログラムの場合、達成すべき学習目標が20個ぐらい挙がっており、患者中心の思考や全体的なアプローチや技法を叩き込まれる。

▼プライマリケアの推進という点では、地域の中核病院が進んでおり、むしろ大学が遅れている。杉並区の民間病院では外来を外出しにしており、健保組合と組んで検診センターを持っている。健診センターに受診する人でフォローできる人に家庭医療を提供している。検診は診療報酬じゃないので、自由に対応できる。

▼育成過程に一貫性が必要。医局としては、自分の弟子にならない人が自分のローテーションに入ると厄介。しかし、今でも3ヵ月ごとに新人が来ると、職場に今日に緊張感を保てる。組織全体で重要性を認識できれば、それぞれが身内として育てる事になる。

▼自治医科大学を出ると、全部県に行ってしまう。県ごとに研修が違うので、体系立った育成が難しい

▼成功モデルが示されたり、総合診療が医局として確立したりしていないので、学生が集まらない。「あやふやな医師になれない」との声。大学に講座を作り、診療部門を外に出す拠点ができて欲しい。

▼大学教育の中身を変えなければならない。

▼広域自治体が金を出して大学病院を拠点に、研修病院が補完する仕組みが必要なのでは。今の大学病院だけでは研修経験を積めるだけの患者数が足りない。

▼今までコースが無かったし、若い方が将来を描けない。何処かでシステムを思い切って作って行くべき。組織の長が本当に育てる気にならないと。

▼各大学が指導医を増やすロールモデルが必要。開業医以外のキャリアパスが見えない。総合診療医になっても研究ができる講座やコースが少ない。

▼現在、専門プログラムが100~150ぐらいある。専門試験と筆記試験、実技試験、ポートフォリオを40項目学ぶ。これから各地で指導医になれば良いけど、まだまだ数が少ない。

▼2004年度に研修システムが変わって、色んな専門科を経験できるようになり、総合診療に興味を持つ若い研修医は増えている、しかし、その受け皿が今はない。

▼日本プライマリケア連合学会が主催する夏季セミナーに参加している学生は増えている傾向。若手は地域医療や総合診療に関心を持っており、以前よりも参加者が増えている。

▼ロールモデルが近くにないとダメ。実際、初期研修まで専門医志向だったが、ロールモデルを見て変わった。

▼もっと診療情報を地域でデータ化するべき。データが集まると若い人も論文を書けてキャリアアップになる。

▼医学部教育は患者本位の視点が欠如している。学生が暴露されることはない。夏期休暇で地元で研修活動をやっている大学もあり、最近は「学位なんか要らない。その代わりに専門医になりたい」という学生が多い。

▼今の開業医は大学や病院で疲れた人が開業している。彼らに危機感を持って貰い、「GPを学ばなければいけない」と思わせれば良い。

▼総合診療の指導者は多く、地域の医師を如何に使うか。地域の医師を指導医として使い、大学と協力しながら育成するべき。大学に金を出すのはナンセンス。

(2)インセンティブの課題


▼診療報酬上のインセンティブが健康管理に付かない事が問題。

▼診療報酬だけでは解決しない。健康管理を報酬に組み込むと、逆に不要な診療が増えかねない。出来高払いにしていることが一番問題。海外ではベストミックス的な仕組みになっている。

▼総合診療医は金銭的なインセンディブが無いし、訴訟リスクがある。医学生が総合診療医になりたいと思うインセンティブを入れないと、制度を作れない。

▼実は、在宅療養支援所の価格インセンティブは高い。厚生労働省が診療報酬で誘導している。

(3)専門医と総合診療医の関係


▼総合診療医の診断能力は専門医よりも高い。

▼患者がどの専門科か分からないので、たらい回しになるか、違う専門の先生に誤診される。クリニックでも専門医の先生が増えているので、「内科」と掲げとしても、消化器内科や循環器内科など細かい差異がある。

▼総合診療の底上げや能力面の担保が無いと、専門医を志向する国民の意識が変わらないし、制度的な信頼も得られない。

▼雑誌で売れる医療特集は病院ランキング。国民の専門医志向は強く、総合診療医のランキングに関するニーズは低い。

▼大学の総合診療科は不要なのではないか。総合診療医をプライマリケアの専門家とするべきだ。100個ぐらいの症状に専念すれば、能力をブラッシュアップしやすい。

▼病院の総合診療科は要らない。日本で必要と思われたのは家庭医や総合診療医が育っていない分、患者が大病院に行くので、振り分け外来を作ったに過ぎない。大学病院や大病院に総合診療医を置くと、宝の持ち腐れになる。開業医や診療所は「自分の所じゃない」と専門家に手渡すが、大学病院で各科が同列なので患者を手渡さない。その結果、それぞれの専門家を信用しなくなり、信頼関係ができない。

▼この点は救急も同じ。専門家との協力体制が殆ど出来ていない。

▼地域の医師会と組みつつ、基礎自治体が総合診療医育成の講座に関する費用を出すプランは面白いのでは。

▼診る能力だけ見れば、開業医の方が高い。専門医は細かい所が目に行ってしまい、診断できない。

▼総合診療医は診断だけでなく、コモンディジーズと言われる一般的な疾病については治療する。1週間で500人ぐらい診たとしても、専門医に送るのは数%程度。

(4)総合診療医に求められる機能


▼専門医の誤診率が話題になった事がないのでは。大学病院でも誤診は避けられない。専門医と称する人が見逃すのは大きな問題。

▼「Common disease(コモン・ディジーズ)」と呼ばれる一般的な病気の専門家が地域医学の専門家。コモンディジーズの中でも、稀に起きる症状を疑う力が必要。診断能力をキチンと議論する必要がある。

▼総合診療医は診断学の専門家。専門医は治療学。外科医は誤診が無い。初診は内科から回って来る。治療医が誤診する。

▼政治的妥協案で中途半端な総合診療医や家庭医を作ると、中途半端な事が起こり得る。

▼どの学会も移行期や暫定専門医などを気にしているが、新しい制度を考える時には、「ある年度から先が総合診療医」という形でガラッと制度を変える必要がある。過去の人と合わせようとすると、1949年に医師免許がスタートしたが、帝国大学を出たら貰えた。レベルを担保した総合診療医ができない。

▼家庭医や総合診療医の診断結果が指標として表に出て来ない。治療アウトカムの質を担保する事が必要。日本プライマリケア連合学会が3年間の後期研修プログラムを実施しているが、学会だけでは人数が足りない。総合診療医は全体の指導者になって、数万人規模で育てる。アカデミックな担保は大事なので、指導者を生み出す。学問として研究者を作ることも必要。

▼総合診療医を採用すると、誤診率が下がるようなデータを示す事ができれば、国民は諸手を挙げて賛成するのでは。

▼海外では、家庭医が多いほど疾病率や入院率が低いデータがある。糖尿病診断のアウトカムも専門医が診るよりも高いというデータがある。

▼高齢化で認知症、糖尿病、がんなど慢性疾患が増えれば、専門医のたらい回しが増える可能性がある。この点こそ総合診療の重要性を指摘する一つの切り口になる。

▼現在の圧倒的なニーズは内科。総合内科をベースに、例えば泌尿器科などマイナー系の病気や簡単な外科を診られる医師が増えなければならない。総合内科をベースに在宅で診られる医師が必要。

▼総合内科的な知識が基本。そこだけだと総合診療医ができないので、外来や診療で経験する。その一方で、理屈でフィードバックを掛ける必要。経験が理論として確立すれば、それほど無理な話ではない

▼マネージャーや教育者とのしての能力が必要。日本プライマリケア連合学会の専門医として後期研修で資格を取る時はリポートを提出しているが、実際に指導できる人は少ない。

▼ジョブトレーニングをディベートでやって行く指導医が少ない。エビデンスをロジックとして組み立てるかが大事。二度と同じ手術はない。納得して論理を立てて行くか。日本の場合、一人の指導者が4~5人集めて、講義的なスタイルが多過ぎる。頭の中をチェックする方法が必要。物の考え方を積み上げていく思考スタイルが必要。

▼専門医もオペを若い人に任せて口だけで手術できないと、一人前の外科医じゃない。

▼「コンビニ受診するな」と言われがちだが、逆に家庭医は「(健康問題について気軽に訪ねて貰って)コンビニ受診して欲しい」という考え方だ。

▼「見付ける能力」については、開業医の方が高い。専門医の方が細かい所に気が行ってしまうので、診断能力は叶わない。手前で振り分ける能力は総合診療医の方が上。

(5)地域包括ケアと総合診療医


▼地域包括ケアのシステムを三大都市圏でどう整備するのか。医師育成の話ばかりになるけど、訪問看護師やヘルパーなどコメディカルの育成も重要であり、彼らのマネジメントを総合診療医がやる。

▼救急受診が増えており、看取りと併せて入口と出口が課題。医師だけが増えても仕方がない。NPOも含めた総力で、地域包括ケアとして支えて行くべき。

▼施設の看取りが増えないと。施設で看取ることができれば、全体の需給状況は随分と楽になる。病院に運ばれると、管を突っ込まれて自宅に帰れなくなる。

▼病院に運ばれると無用な医療になるので、かかりつけ医が家族と話すことが重要。

▼老人保健施設に医師が在籍しているが、医療・介護連携を促す障害となっている。往々にして、介護保険施設で働く医師は病院で働けない人。むしろ、契約的な方法で働く形が良い。それを改めれば、看取りの時だけに医師が来るなどの対応が可能になり、看取ることとできる。今は夜中に来ないまま、「病院に運べ」と言うだけだ。

▼今の特養や老健は社会福祉法人。一方、医療は医療法人なので連携できない。規制改革が重要だ。

▼24時間の在宅診療は現在、看護師と医師で対応。現在は30人ぐらい。多い診療所だと100人ぐらいの在宅患者に登録して貰っている。1人の医師だと十数人。グループで24時間対応。しかし、1人では疲弊するし、今の人数だから対応できる。何倍になると対応できなくなる。

▼現在は診療所が2つ組めば、診療報酬の「強化型」を取れる。常勤医が3~4人在籍すれば単独型でも同じぐらいの報酬を取れる。

▼しかし、担当医同士の情報共有は上手く行っていない。紹介状のフォーマットをやり取りするぐらい。

▼山形県で電子カルテのミニ版を国の補助金で整備し、現在も地域の医師会が使っており、荘内病院の救急に置かれている。普段は病院内で使わなくても、在宅から患者が運ばれて来ると、システムのデータを見て処置できる。実際、がん在宅死がゼロだったのに、5年間で十数%になった。地域医師会の訪問加護ステーションが緩衝役になって力になった。

▼がんのレジデントを取ったら、在宅のことを殆ど知らない。専門家もジェネラリストの事を知っていないとレベルアップしない。

▼一般国民は専門性を求めており、メディアも煽っている。総合診療医のニーズは皆無。

▼プライマリケアを巡る状況を見ると、がん緩和ケアと同じではないか。がん緩和ケアも以前、地位が低く、志を持っている医師が地域で細々とやっていた。しかし、患者側の要求と政策がマッチして飛躍的に進んだ。その意味では、がん対策基本法は有効だった。まだ専門性は低いが、時代の波が来たので5年間ぐらいで研究会に多くの人が来るようになった。デファクトスタンダードを作れば一気に動く。

▼がん対策基本法は厚生労働省だけじゃできなかった。議員立法として実現し、底上げの役割を果たした。プライマリケアに関しても、象徴的な立法が必要なのでは。

▼日本発のエビデンスを集めていると遅くなる。海外の事例を集める必要がある。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】


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