タイプ
論考
日付
2013/4/25

出来高払いの弊害を考える ― 介護報酬の複雑化から見える問題点 <Page2>



では、どのようなサービスについてサービスコードが増えているのだろうか。制度創設当初と2012年の件数変化をサービスごとに比較したのが図3であり、療養病床、訪問介護、一時入所することで医学的なケアを受ける短期入所療養介護(療養病床)の増加が顕著であることが分かる。同時に、療養病床と訪問介護に共通するのは「社会保障費を増大させる要因」として批判されている点である。

まず、療養病床については、退院の見込みがない高齢者の長期入院(所謂、社会的入院)が介護費用を増大させているとして、2006年成立の医療制度改革法で2011年度末の廃止方針が決まった*7。これを受けて、厚生労働省は2008年度、療養病床の転換促進策を強化し、その結果として経過措置のサービスや加算減算措置の増加を通じて、サービスコード数が大幅に増えたのである。

一方、訪問介護に関しても、生活援助サービスを中心に効率化の必要性が指摘されている*8。このため、2012年度改定では(1)身体介護の時間区分に「20分未満」を追加、(2)サービス提供責任者として2級ヘルパー*9を配置している場合には10%の減算、(3)サービス付き高齢者住宅*10など同じ建物に所在する事業所が30人以上にサービスを提供した場合、10%の減算-といった改正が実施された。これらの制度改正を見ると、加算減算措置の追加やサービス体系の細分化を通じて、サ-ビス利用者や事業者の選考を変更することで、社会保障費を抑制しようとしている思惑が見て取れる。


◇図3 サービス類型ごとに見たコード表の増加 ≪拡大はこちら≫


 (出所)厚生労働省資料、介護給付費単位数等サービスコード表を基に筆者作成。
 (注)2000年制度創設時から存在するサービスのうち、2012年度時点でコード数が300件を超えたサービスを抜粋



同様の構図は医療機関向けの診療報酬についても言える。リハビリテーション充実加算、患者サポート充実加算、看護職員夜間加算など、診療報酬には介護以上に複雑な加算減算措置が数多く設けられており、2年に一度の改定時に新設や増減が行われる。こうした改定を通じて、厚生労働省は病院や診療所の行動を在宅医療の充実や平均在院日数の削減などに誘導することで、社会保障費を抑制しようとしているのである。

その一例が在宅医療分野だろう。近年、厚生労働省は在宅医療のテコ入れを図っており、2006年度から在宅医療の拠点となる診療所を「在宅療養支援診療所」*11に指定するとともに、診療報酬で優遇している。この結果、図4の通りに制度創設から5年で指定件数が一気に増えた。これは「自分の家で最期を迎えたい」という患者・利用者のニーズだけでなく、社会保障費を抑制する観点から在宅医療の充実を図る厚生労働省の政策が背景にある。2012年改定でも在宅療養支援所の報酬を引き上げており、一連の誘導策が在宅療養支援診療所の増加に寄与したのは間違いない。

在宅ケアへの誘導や社会保障費の抑制路線を否定しているわけではない。歳入の46%を国債発行に頼る中、政策的経費の約4割を社会保障費が占めている現状を考えれば、社会保障費の抑制は必要不可欠である。しかし、政策決定過程に患者・利用者の視点が欠落しているのではないだろうか。

実際、診療報酬は中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関)、介護報酬は社会保障審議会(同)介護給付費分科会を舞台に、業界団体や地方自治体の代表など利害関係者を中心に決定されており、制度を運用する側の視点が中心となっている*12と言わざるを得ない。この結果、様々な政策判断と利害調整を通じて、報酬制度が複雑化の一途を辿っているのである。


◇図4 在宅療養支援診療所の増加ペース ≪拡大はこちら≫


(出所)厚生労働省資料を基に筆者作成



複雑化がもたらす弊害

最後に、こうした複雑化がもたらす弊害や、報酬体系の簡素化・包括化が必要な理由を考える。第一に、制度を複雑にした結果、誰も全体像を把握できていない可能性である。政治家や業界関係者、メディアは報酬の増減しか興味を持たず、政策立案者も利害調整に追われてパッチワークを積み重ねた結果、複雑な報酬体系が生まれている。しかも、報酬や人員・施設基準の法的根拠についても、その多くは大臣告示や役所の通知に過ぎず、民主的統制やガバナンスという点では心許ない。

そもそも、報酬による誘導でコントロールする中央集権の限界を示していると言えるのではないだろうか。在宅を中心に生活圏で医療・会議サービスを切れ目なく提供することを目指す厚生労働省の「地域包括ケア構想」は方向性として正しいが、その実現に向けた課題や資源、高齢化の進行状況などが各地域で異なる中で、報酬やサービス体系、施設・人員基準などを中央集権で細々と一律に決める必然性を感じられない。

むしろ、現場・自治体の裁量権を拡大し、政策決定権限を分権化することが必要なのではないだろうか。さらに、出来高払い制度を基に報酬・基準を細々と作って現場を縛り付けるのではなく、制度を分かりやすく簡素にした上で、サービス提供者や利用者が節約を意識できるインセンティブ設計が必要なのではないだろうか。

第2に、人員・施設の要件とリンクしている加算減算措置がサービス提供者の内部コストを増やしている結果、現場の活力を削いでいる可能性である。加算措置を獲得するには人員配置や施設変更、計画書の作成、会議開催などが義務付けられており、例えば介護職員処遇改善加算を受けるには職員のキャリアアップを支える賃金体系の整備、教育・研修の実施といった要件が細々と定められている。

このため、要件やルールを守ることに関心を持つ余り、サービス利用者のニーズに対応しにくくなっているのではないか。さらに、サービス提供者としても基準や通知、Q&Aに対応するだけでも膨大な労力を伴う。何よりも2~3年の報酬改定の度にシステムを更新しなければならず、こうした間接部門に割かれている自治体や業界関係者の時間、金銭、人員のコストは決して軽視できない。中央主導による一律の制度ではなく、現場・自治体への権限移譲、ケアの質評価や情報開示*13、住民による参加・監視などを通じて、患者・利用者の評価が反映されやすい仕組みを構築していくべきではないだろうか。

最後に、複雑な仕組みが患者・利用者の当事者意識を失わせ、適切なサービス利用を妨げる可能性である*14。そもそも、介護保険制度は本来、自己選択と自立支援を掲げて創設された経緯があり、「地方分権の試金石」としての側面も喧伝されていた*15。しかし、冒頭のたとえで言う「お任せセット」を注文する客の心境は本来の趣旨とはかけ離れた姿と言わざるを得ない。制度が複雑になった結果、サービス提供者への「丸投げ」が横行し、サービスの自己選択や住民の参加意識を阻害しかねない状況となっている。

さらに、当事者意識を失った中で、患者・利用者は適切にサービスを使う感情を持ちにくくなる。増大する社会保障費が国・地方の財政を圧迫している現状を考えれば、社会保障費の抑制は避けて通れないが、政府主導の抑制路線*16は単なる数合わせに陥りがちであり、その弊害は報酬の複雑化という形で表面化している。しかし、こうした手法はサービス利用者や現場に不満感を与えるとともに、無用な摩擦や思考停止を起こす。こうした状況で報酬を引き上げたとしても効果があるとは思えない。むしろ、現場や自治体に裁量を与えつつ、報酬を包括払いに切り替えることで、社会保障費を節約できるインセンティブづくりを進めるべきであろう。

もちろん、報酬の包括化・簡素化と併せて、サービスの提供主体に応じて細分化されている介護関係サービスの整理統合が必要になる*17。さらに、包括払いや管理料スタイルをメインにした*18場合、どんなに重度な患者・利用者を受け入れても収入が変わらなくなるため、必要なケアを施さない「過少診療」やサービス提供者が患者・利用者を選ぶ「逆選択」が起こり得る。こうした事態を防ぐためのガバナンスとして、地方自治体や現場に対する責任と権限の移譲、サービス提供者に関する情報開示やケアの質評価、成績払いや出来高払いとのミックス*19、ケア提供に関する住民参加*20などをパッケージで考える必要がある。

東京財団では今後も研究活動を継続し、サービス利用者や納税者の観点に立った制度改革を提言・実現していきたいと考えている。


(参考文献)
 ▽ 澤憲明「これからの日本の医療制度と家庭医療 第7章、『明日の医療制度』構築における課題」『社会保険旬報』2012年11月
 ▽ 厚生省編『厚生白書(平成12年版)』2000年7月
 ▽ 東京財団『医療・介護制度改革の基本的な考え方』2012年10月
 ▽ 柳本文貴「介護保険、報酬の抑制はせめて美しく」『シノドス』、2012年3月




*7 2006年に成立した医療制度改革法では、療養病床のうち介護型を2011年度に廃止して老人保健施設などに移行すると定めていた。この後、2011年に成立した改正介護保険法で、療養病床の廃止期限は6年延長された。
*8 例えば、2011年11月に実施された行政刷新会議の「提言型政策仕分け」では「軽度の対象者に対する生活支援は自立を促す観点で保険給付のあり方を見直すべき」と指摘しており、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)も2013年1月の建議で、「要支援者に対するサービス提供の実態を見ると、訪問介護は生活援助サービスが大半を占め、中でも掃除がその半分以上を占めている。要支援者に対するこうしたサービスを公的保険の対象とすることには疑問がある」との考えを打ち出している。
*9 2級ヘルパーは廃止され、2013年度から「介護職員初任者研修」に変更された。
*10 2011年に成立した改正高齢者居住安定確保法で、高齢者専用賃貸住宅(高専賃)などの枠組みを一本化する形で創設された。原則25平方メートル以上の床面積、トイレ・洗面設備、安否確認・生活相談サービスの提供などの基準を満たした住宅を登録する。
*11 2006年度に創設された仕組み。「24時間連絡を受ける保険医・看護職員を事前に指定し、連絡先を文書で患者に提供している」などの要件を満たすことが必要。
*12 業界関係者以外の顔触れとして学識者が含まれているが、患者・利用者の代表は極端に少ない。
*13 情報開示の仕組みとしては、2006年度に創設された「介護サービス情報公表システム」などが存在する。
*14 生活と繋がっている介護サービスと比べると、高度で専門知識を伴う医療は患者との情報差が大きい分、医療従事者に対する患者の「信任」に依る部分が大きい。しかし、適切な医療サービスを受けるには患者サイドの当事者意識が必要な点は同じである。例えば、在宅を中心とした地域包括ケアを実現する上では、「適切な医療サービスを受ける」「むやみに救急車を呼ばない」といった対応が不可欠になる。
*15 介護保険制度創設に際して、2000年の『厚生白書』は「住民のニーズに応え、地域の間で切磋琢磨することで、介護サービスの基盤が充実していくことが期待される。まさに地方分権の試金石といえよう」と期待感を示していた。
*16 2006年7月に策定された「骨太方針2006」では国・地方の財政再建に向けて、2011年度までの5年間で、国・地方の社会保障費の自然増を1兆6000億円抑制する考えが盛り込まれ、民主党に政権が交代する2009年度予算まで国費ベースの自然増を毎年、2200億円抑制する手法が採用された。
*17 介護保険の場合、保険外まで含めて似たようなサービスが乱立気味となっている。高齢者の住まいで見ると、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、療養病床、グループホーム、小規模多機能型居宅介護といった保険適用サービスに加えて、保険外でも有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅、宿泊付き通所介護(通称、お泊りデイ)などがある。
*18 既に一部の病院では2003年度から「包括払い」(DPC)と呼ばれる仕組みが導入されており、検査代や薬代を含める形で入院1日当たりの報酬を支払い単位としている。在宅療養支援診療所でも管理料スタイルの診療報酬が導入されているほか、介護報酬も一部で包括払いの仕組みが導入されており、通所、宿泊、訪問サービスを柔軟に提供する「複合型サービス」の基本報酬は1カ月の定額で設定されている。
*19 英国の診療報酬は医師の士気と医療の質を確保するため、高齢者の割合などを用いた人頭払いに加えて、健康の改善度合いや患者の満足度に基づく業績払いが混合されている。
*20 医師不足や自治体病院の閉鎖を受けて、住民が地域医療を支える動きが少しずつ広がっている。千葉県山武地域では「地域医療を育てる会」というNPO法人が中心となり、住民が地域医療の在り方を考える座談会などを開催している。