タイプ
論考
プロジェクト
日付
2014/12/22

農地集積に向け土地制度の再考を

高齢化・地価下落を見据えた国土保全の仕組みが必要

東京財団研究員兼政策プロデューサー
吉原 祥子

農地中間管理機構(以下、「機構」という)による農地集積事業が2014年4月からスタートした。農水省は今後10年かけて農地の8割(現状5割)を担い手に集積するため、毎年13~14万haの転貸を目指しているが、今のところの実績は約500ha(14年8月末)に留まっている。
 
農地集積が進みにくい背景にはさまざまな要因があるが、土地の登録制度(登記)そのものに起因する問題を見逃してはならないだろう。近年、所有者がわからない土地や未登記農地の権利関係の調整が難航し、遊休農地の解消や土地改良事業の実施などにおいて障害となる事例が各地で報告されている。とりわけ農家ではない親族が農地を相続した場合、権利移転登記をしないケースが少なくないと言われる。農地の物理的な「管理放棄」とともに、「権利放置」の問題が拡大していると言えよう。
 
そもそもわが国における権利登記は、所有者が第三者への対抗要件として任意で行うものであり、義務ではない。だが、地域で遊休農地解消等の土地利用を進めるにあたっては所有者の合意が必要であり、権利関係が特定できなければ、たとえ放棄地であっても利用は困難だ。
 
なぜ相続登記が放置されるのか。表は土地の地目別の平均価格を比較したものだが、農林地と宅地では桁違いの差があることがわかる。一方で、司法書士への委託費や親族間の連絡調整など相続に伴うコストは、土地の資産価値に関係なく発生する。そのため、資産価値の低い土地の相続登記では、コストが資産価値を上回ることになってしまう。

表  国土の地目別面積・地価
東京財団「国土資源保全プロジェクト」では、先代が相続登記をしていなかったために二代前まで遡って名義変更手続きをすることになった場合のコストを50万円と設定し、地価のとりわけ安い森林について試算を行ってみた。その結果、登記コストが資産価値を上回ってしまう面積割合は個人保有森林の25%に上るという結果を得た。
 
こうしたケースでは採算や手間の面から登記名義を書き換える動機に乏しく、死亡者名義のまま放置され続ける可能性が高い。時間の経過とともに法定相続人は鼠算式に増え、やがて利用も円滑な権利移転も困難な「死蔵資産」(デッドストック)になるおそれがある。農業就業者の高齢化と田畑価格の下落傾向が続く農地においても、同様の構図はあてはまるだろう。
 
もとよりわが国では、土地の所有・利用実態を把握するための情報基盤が十分とは言えない。目的別に様々な台帳(不動産登記簿、固定資産課税台帳等)があるものの、制度間の整合性は形式的なものにすぎず、国が一元的に把握できるシステムは整っていない。土地の一筆ごとの基礎情報を調べる地籍調査は、進捗率が5割に留まっている。何よりも前述のとおり不動産登記(権利登記)が任意となっている。登記後に所有者が転居した場合も住所変更の通知義務はない。一方で、土地所有権は現象的には行政に対抗し得るほど強く、利用規制についても、農地の膨大な違法転用事例に見られるように、徹底されているとは言い難い。
 
現行制度のままでは、今後、相続の増加に伴い土地の所有者不明化が拡大していくことは避けられないだろう。「権利放置」の状態は、法的に踏み込んだ解決策が講じられない限り自然消滅することはない。農地台帳の整備や農地集積を進めていく上で、地元関係者による地権者との交渉や手続きに深刻な影響を及ぼすことが懸念される。
 
今年5月に成立した改正地方自治法では、認可地縁団体が保有する不動産について、団体名義への所有権移転登記の手続き促進策として、公告制度の利用を可能にする特例が盛り込まれた。各地における農地集積の取り組みを支えていくためには、こうした仕組みの適用範囲の拡大をはじめ、土地制度の観点から法的措置のあり方を幅広く検討していくことが必要ではないだろうか。
 
こうした問題は農林地に限ったことではなく、災害復旧や空き地・空き家問題などにも共通するものである。人口減少時代の国土保全のあり方にかかわる課題として、土地制度の仕組みから根本的に捉え直す必要があろう。省庁横断での踏み込んだ議論が求められる。
 
(2014月12月19日付け『全国農業新聞』より転載)