タイプ
その他
プロジェクト
日付
2008/1/16

元市長の目から見た欧州の地方自治の現場報告

はじめに

今回の現地調査は、初めての英仏の基礎自治体の調査ということもあり、現地調査の数とヒアリング対象が十分でない点があります。

以下の気づきの点が、特異な事例なのかそれとも共通の特徴なのかという点については、更に追加調査をする必要があると考えますが、佐賀市長在任中に関係のあった佐賀市議会議員を初めとした地方議会議員・首長及び自治会長を初めとした多くの住民と比較して、感じたことをお話いたします。

まず、主に二つの町について調査したことの一部をお話します。

イギリスのウエストン・スーパーメアー・タウンカウンシル

人口71,000人のパリッシュ(注1)を訪問しました。
  • 選挙によって、25人の議員が選ばれ、その中から市長が選ばれますが、市長は、一年交代の儀礼的な役割しか果たさないポストです。議長が実権を持っているようでした。
  • 議会は年4回で、幹部の議員は毎月会合を開いています。
  • 議員の皆さんが、「議員は無報酬で自分の住む町に貢献すべき」とのお考えでした。リーダーカウンシラー(議長)であっても年収6,000ポンド(約125万円)です。
  • 話を伺った議員は、知識、経験、教養も生活力もある人ばかりで、地方自治を支える階層が存在している印象をうけました。
  • 市長は、黄金色に輝く鎖の飾りを身につけており、昼食会場であった食堂のあるカレッジの中ですれ違う学生は、市長に対して挨拶をしていた。若者にとっても敬意の対象となっていました。
  • 市長は、元海軍に勤務していて、数学を教えていた方です。別の男性議員も、海軍勤務の経験があり、公に対する奉仕の精神が感じられました。両名とも、教養と経済力が感じられました。
  • 政策の策定は、制度上は議員が作ることになっていますが、実際には、政策のドラフトは、事務局長が作り、議員の意見を募って修正を行っています。
  • 事務局長は、30代ぐらいの女性で、学生時代にパリッシュを学び、民間でマーケット&プロモーションをやっていて、1988年からパリッシュで働いているとのことでした。
  • 事務局長の選定は、議会、実際には市長による面接などによって行われ、30~40人の候補者から選ばれているとのこと。こういう仕事は、現職の事務局長が辞めないとポストができないので、倍率も高くなるとのこと。





フランスのメネルブ市

人口1,157人のコミューン(注2)を訪問しました。
  • 市長及び議員の選挙は、市長候補が作成する市長候補を含む15名の議員候補のリストを出してそのリストに基づいて一人ひとり可か不可かを記入する選挙を行います。当選した議員の中から4人の助役を選任します。
  • 議員は無報酬で、市長には税引きで月収1,200ユーロ(約18万円)、助役には月収550~600・ユーロ(約9万円)の報酬が出ますが、市長でも助役でもない市議は無報酬。議員は基本的に他に仕事を持っています。
  • 市長は、元国会議員で、落選後の1995年から市長を務めています。映画「エマニュエル婦人」のプロデユーサーなどの経歴も持ち、ワイン農場のオーナーでもあります。
    ・議会は1ヶ月に1回行われており、とくに委員会のようなものはなく、それで間に合わない時は、市長と助役による会議があり、そこで決定します。
  • 30畳ほどの広さの議場に、20人ほどが座ることの出来るテーブルがあり、傍聴席として、イスが20脚ほど並べられていました。議会のないときは、ここで打ち合わせをしたり、結婚式を行って有効に活用しているそうです。
  • 政策を策定する際の案は、議員がアイデアを考えて、それを事務局長が具体化していきます。
  • 事務局の業務部は5名で行っており、その内訳は、事務局長1人、受付2名、会計2名です。事務局長は、大学で公務員法、都市整備計画法、建築関係法を学んできた経歴を持っていました。
  • インターネット上に、国全体のコミューンの記事があって、行政職員何々市、何々市募集という形で、どういう職域の人を募集しているという情報があり、地方公務員は、そういったものを見て就職をする仕組みでした。





イギリスのロンドンのサットン区議会傍聴

人口184,400人のロンドン市の南西部に位置する区(Borough)を訪問しました。
  • 午後7時から議会開催。
  • 図書館に隣接した議会棟があり、折りたたみの机を使って議員席を設けている。ひな壇は一応あるが、簡易なもので、通常は、図書館のホールとして使用しているそうです。
  • 傍聴した議会では、議員同士の議論が活発に行われており、執行部の発言の機会は限られていました。





元市長として感じたこと

今回の調査で日本の実態を振り返って思うことが二つあります。

(1)二元代表制は日本に合っているのか?
まず、日本の地方自治制度が採用している二元代表制というものが、日本の文化やこれまでの歴史にあっていないのではないかということです。

私が佐賀市長をしていた時は、法律の趣旨を徹底して守り、議会との根回しは一切行わない市政運営を行いましたが、多くの首長と議会は実質的に一体化してしまい、チェック機構としての役割を果たしていないと見受けられるところが沢山あります。

議会と執行部が一体となってしまうと、殆どのことが水面下で調整されてしまい、どのような議論が行われたのかが住民にわかりません(一体化しているかどうかは、議案が何回否決されたかである程度判断できると思います)。

どうして議会と執行部が直ぐに一体化してしまうのか、その理由がわからなかったのですが、今回の英仏の議会の運営を伺って納得の行くことがありました。私が二年間出向していた島根県のある町の集落や佐賀市の自治会の運営の仕組みとかなり似ていたのです。

都会ではどうかわかりませんが、いわゆる村や地域の寄り合いが議決機関でもあり執行機関でもあります。江戸時代の幕府や各藩も、英明な君主が登場したとき以外は、重役の合議制であったと思います。日本の地方の意思決定の文化は、執行部と議決機関が一体であるということではないでしょうか。

しかし、敗戦後に制定された日本国憲法では、第93条第二項において、「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」と定められてしまっていますので、憲法を改正する際には、その地方自治体の住民の判断で、議員の中から市長が選ばれる制度を選択することも可能なように措置すべきではないかと感じています。

なお、その時には、経営管理の訓練を受け、できれば企業で経営を経験したこともあるプロの事務局長制度が必要となると思います。

(2)自治体のリーダーとは?
二つ目に感じたことは、リーダー層がいなくなってしまった日本の民主主義は、とても運営が難しいということです。訪問した英仏の自治体には、教養もありある程度の資産もあり、かつ地域社会に対して無償の奉仕の精神を持った一定のグループが存在していました。

ウエストンの市長さんに「どうして議員報酬を貰わないのか。」と質問したときに、大変不愉快な顔をされて、「どうして報酬を貰う必要があるのか。」と答えられたのを思い出します。また、日本の議員の報酬は1000万円を越えるところが沢山あるとお話したら、皆さんびっくりされていました。

誤解を恐れずに言えば、英仏の二つの町では、エリート階級が存在しているということになると思います。日本にもこの名残はありました。

私が市長をしている時に感じたことですが、何十人もいる自治会長の中で、非常に見識に優れリーダー役を務めていた方が少数いらっしゃいましたが、その方たちの多くは、元地主の家柄の方や資産家の出身でした。 佐賀の平均的な学歴や教養からは一歩ぬきんでた存在でした。

しかし、そのような方たちはまもなくいなくなられます。

エリート層の存在しない日本の民主主義は欧米のものとは異なるものであり、戦前の日本は道を誤り戦争に突入して言ったのではないかとの反論はあると思いますが、それでも、日本は団体競技において良いキャプテンがいない状態で強敵と戦うものではないかなという思いが頭から離れませんでした。

以上取り留めのないことを書きましたが、この経験を日本の地方自治制度をよりよいものにしていく提案の作成に生かして生きたいと思います。第二弾の調査は、北欧のスウェーデンに我孫子市の福嶋前市長と犬山市の石田前市長のお二人が調査されます。お二人は議員経験者でもあります。国家公務員を経験して市長になった私とは、また違う目でヨーロッパの制度を見てこられると思います。ご期待下さい。

(注1)

◇パリッシュ(Parish)の歴史◇
パリッシュは、もともと教会の教区に起源を持つもので、時代とともに次第に地方自治体としての機能が与えられてきました。

「1894年 地方自治法(Local Government Act 1894)」により、1897年に初めて法的な法人格が認められ、パリッシュ議会や住民総会制度が創られ、宗教上の教区から地方自治体として位置づけられました。

「1972年 地方自治法(Local Government Act 1972)」では、地方自治制度をすべて都道府県に相当するカウンティ(County)と市町村に相当するディストリクト(District)の二層制とし、基礎自治体数の減少と広域化を進めましたが、一方で、住民の主体的な参加を前提とした自治体内自治体とも言うべきパリッシュの設置を認めたことにより、都市部でパリッシュが増加しました。

英国には、8,500のパリッシュが存在すると言われている(NALC=全国パリッシュ協会 2001年度データ)が、「1997年 地方自治・レイト法(Local Government and Rating Act 1997)」で導入された住民自らがパリッシュの設置を請願できるという制度により、住民の請願によって創設されたパリッシュもすでに180以上になっており、パリッシュは増加傾向にあると言われています。

◇パリシュとは◇
パリッシュは、国務大臣の指示か、基礎自治体の申請や250名以上かつ選挙民の10%以上の住民署名による基礎自治体の申請を受けて、国務大臣が決定するかのいずれかの方法で設置できることになっています。

パリッシュの規模は、人口数十人というものから、今回視察した英国最大のパリッシュであるウェストン・スーパー・メーアのように七万人以上という大規模のものまで千差万別であり、パリッシュがある地域とない地域もあり、活動内容も様々です。

パリッシュには、公選で議員数5名以上のパリッシュ議会(Parish Council)と、住民総会(Parish Meeting)があります。

選挙権は18歳以上、被選挙権は21歳以上であり、議長の任期は4年で、無給となっています。

有権者が150人以下の場合、議会の設置義務はありませんが、約8割のパリッシュが議会を設置しています。

パリッシュ議会は、年一度の定例会とその他年3回の会議を開催する他、年1回以上の全有権者が参加できる住民総会を開催することが義務付けられています。

パリッシュには、常勤もしくは非常勤の有給職員が置かれ、議案・議事録の作成、議決事項の執行、会計、施設管理、議員への助言、住民や外部への情報提供など多岐にわたり、またパリッシュ職員の長である事務局長は一般公募からパリッシュ議会が任命することになっています。

パリッシュは、課税権を有しますが、直接的な税金の徴収は行わず、地方税(Council Tax)の課税・徴収を行う基礎自治体が一括して徴収を行っており、毎年、パリシュは必要予算額を基礎自治体に報告し、プリセプト(Precept)と呼ばれる課税徴収命令を発行することになります。

(注2)

◇コミューン◇
フランスの地方自治は、州にあたるレジオン(Region)、県にあたるディパートメント(Department)、市町村にあたるコミューン(Commune)の三層制をとっており、コミューンは最も基礎的な自治体です。コミューンには、日本のように市町村といった区別はありません。

その歴史はフランスの自治体の中でも最も古く、中世の都市コミューンや、農村の司祭の管轄区域であった教区(Paroisse)にまでさかのぼります。

議会に住民公選制が導入されたのも1831年と最も早く、1882年には議長かつ執行機関の長であるコミューンの首長が議員の互選で選ばれるようになりました。

コミューンの数は36,565(1999年)と極めて多く、コミューンの平均人口も約1,500人であり、約9割が2,000人未満とその規模は極めて小さいです。

人口30万人以上の都市は、パリ(212万)、マルセイユ(81万)、リヨン(45万)、トゥールーズ(40万)、ニース(35万)と5つしかありません。

コミューンの議決機関であるコミューン議会(Conseil Municipal)は、名簿式2回投票制の住民の直接選挙によって議員が選出され、任期は6年です。

被選挙権は18歳以上に認められています。

議会は、少なくとも年4回開催され、財政や組織、財産の管理、公共サービスの提供など、コミューンの利害に関するすべてのことについて審議することができます。

市長にあたるメール(Maire)は、議員の互選により議会によって選ばれ、議会の議長や執行機関の長であると同時に、コミューンにおける国の代表者でもあります。助役(Adjoint au Maire)についても市長同様議員の中から選ばれます。

市長は、自治体の長として議会の決定を執行し、議会から委任された権限を行使するとともに、職員の任免、財産の管理などの固有の権限を行使する他、コミューンにおける国の代表として、戸籍事務、司法警察、選挙人名簿の作成、就学義務の履行監視等を行います。

◇公職の兼任(Cumul)◇
公職の立法機関や執行機関の兼任は第二共和政の頃から行われており、1980年代半ばには、欧州議会、国、州、県、コミューンの5つのレベルで公職を兼任する人もいました。

しかし、いくつもの重要な職務を本来求めている水準で行うことは難しいと、1985年法で、「国民議会議員、上院議員、欧州議会議員、州議会議員、県議会議員、パリ市議会議員、人口2万人以上のコミューンの市長、人口10万人以上のコミューンの助役は2つまでしか兼任できない」とされました。

されに2000年法で「州議会議員、コルス議会議員、県議会議員、パリ市議会議員、コミューン議会議員は2つまでしか兼任できない」ほか、「市長、県議会議長、州議会議長、州議会議員は互いに兼任できない」とされました。

しかし、現在でも、国民議会議員が大都市の市長を兼ね、または州(県)議会議員を兼ねることができ、そういうケースは多くあります。