タイプ
その他
プロジェクト
日付
2010/4/21

事業仕分けこそ議会の仕事:中尾修研究員

中尾修研究員講演概要

現在、各地方議会に招かれ、地方議会改革のこれからについて講演させていただいている。

残念ながら、未だ地方議会の置かれている現実の実感が乏しく、危機感を共有できないところが多い。

国は政権交代し、半年が過ぎた。原口一博総務大臣は、二元代表制下で地方議会の仕組みを変えようと検討を始めた。

二元代表制下での地方議会が信頼されない根拠は何なのかを確認しておく必要がある。今変わらなければ、多くの地方議会議員は退場を余儀なくされる。そこまで地方議会は追い詰められていると自覚していただきたい。

ここに掲載するものは、これまでの講演内容を抜粋し、2回に分けて掲載する予定だ。参考になれば幸いである。
 

議会が市民の前に登場する―議会報告会―

議会改革の背景を説明させていただきます。議員も首長同様に選挙で選ばれています。これを二元代表制と呼びます。市民は選挙によって二つの意思を作ります。議会は首長と民意をめぐって競争します。多くの首長は自ら積極的に市民と向き合う機会をつくっています。自らのマニフェストの実現や行政の円滑な運営のためには、常に市民の関心に耳を傾けなくてはなりません。首長は民意がどこにあるのか探し続けています。

議会も同じことをしない理由はありません。議会が市民と向き合うことは、当然のことです。注意してほしいことは、議会という機関として実施することです。議員個人の活動ではありません。(議員個人の活動を否定する意味ではありません。)重要なことは、議会が自治の機関として民意の吸収に努めることです。本来、民意の吸収は、議会の得意技のはずです。議員は市民の日常生活の近くにいる存在です。様々な議員が多様な民意を市民の生活の中からすくい上げなければなりません。首長は優秀でも一人です。ひとりの首長が、市民と向き合う活動を精力的に展開しても限界があります。膨大な行政事務の処理に追われる日々は少なくありません。しかし、議会が、その構成員である議員の活発な活動から発見した問題や市民の関心について議会で議論することが、民意の形成に深く関与することです。その役割は自治にとって重要です。この認識の転換が地方議会改革に必要です。

具体的には、議会が市民の前に登場することを意味します。いままで議会が機関として市民の前に登場するということはありませんでした。地方議会の存在自体が問われている現在、市民の信頼を得ることが、まず要となります。市民に議会を自治体の意思決定機関であると認識していただいて、各種の改革が始まります。これまでの議員個人の活動を軸とした市民との関係では、議会の顔や声が見えてきません。まず、議会が自治体運営には必要であるという認識をしっかり持ってもらうことが重要です。そのためには、議会が物理的に市民の前に現れなくてはなりません。

首長と議会の関係‐提案に対し是々非々‐

二元代表制の仕組みの趣旨通りに適切に運営している議会は少ないです。二元代表制の仕組みの本質的な特色は、議案に対して多数派・少数派に分かれることです。首長との距離で与野党の構成を築くのではありません。首長の人格が立派で好意を抱いている、また選挙応援や協力を一生懸命に手伝ったから、首長提案に反対できないと主張する議員が少なくありません。しかし、それは市民には全く理解できません。有権者は二つの民意を示す権限を持っていて、それを首長と議会に対して行使しています。議員を選んだのは、市民であって首長ではありません。市民と向き合わず、首長のご機嫌ばかり気にとめていると、市民の信頼は得られません。その具体的な行動の一つは、議案に対して是々非々で臨むことです。これは大きな視点でみると、首長と議会の間に緊張感が維持でき、自治体運営が健全に行われます。首長と議会で緊張感を失った自治体運営は、二元代表制の趣旨と異なります。

議会基本条例の本質は市民参加

2006年の5月に、北海道栗山町で全国初の議会基本条例を制定したときは、法律に根拠がありませんでした。憲法にある地方自治体に与えられた条例制定権から直接条例化に持ち込みました。総務省は、北海道庁を通じて、条例について問い合わせをしてきました。

第29次地方制度調査会が2009年6月16日付の答申に議会基本条例について言及しています。抜粋しますと、「議会の活動理念とともに、審議の活性化や住民参加等を規定した議会基本条例を制定するなど、従来の運用の見直しにむけた動きが見られるところであり、引き続きこのような自主的な取り組みが進められることが期待される。」

これは国が議会基本条例の制定に期待をすることを正式な文章で認めた証左です。答申の骨子や下書きをしているのは、総務省の官僚です。この数年間に大きく霞が関の認識も変わってきました。この答申で大事なことは、「審議の活性化や住民参加を規定した議会基本条例」という文言です。市民参加を得た議会基本条例に期待をするということです。

3月議会を終える、2010年3月末で、議会基本条例は100を超える自治体で制定されることが確実視されています。来年の統一地方選挙までには、その倍を超えると予測をしております。これは分権時代を生き抜く地方議会としての必要アイテムであります。必要な武器であるといっても過言ではありません。

地方分権の流れが明確になってきました。しかし、地方分権のイメージがわかない議会や議員が少なくないです。地方分権を一言で説明すると、法律に禁止規定のないものは、それぞれの自治体の判断でできるということです。では、自治体のどこで判断するのか。それは自治体の意思決定機関である地方議会です。しかも、市民の参加を得ながら議決することが重要です。

地方議会は悩み苦しむことが求められている

国会と地方議会、両方とも議決することが役割です。でも、違いがあります。国会と地方議会の違いを明確に認識しなければなりません。多くの市民は、国会議員も、都道府県議会議員も、市区町村議会議員も、議員という名称の影響で、ひとくくりで認識しています。同じような認識を持っている議員もいます。議院内閣制の国会議員と二元代表制の地方議会議員の立場とはまったく違います。市民が特定の議員の活動について、まずいぞと思う場合は、その議員に辞めていただく権限を持っています。議会を解散する権限、首長をリコールする権限、条例を50分の1で提案する権限を持っています。市民には自治の運営に対しての直接請求権があります。前我孫子市長で東京財団上席研究員の福嶋浩彦(中央学院大学教授)の「自治体は直接民主制をベースにした限定的な二元代表制」との説明が端的に示しています。

地方議会議員は、選挙で選ばれています。市民から自治体経営に携わるよう信託されています。ですから、その都度、その都度、市民が言った通りだけは動けないとの批判も当然あります。財政事情や多様な意見を勘案して、厳しい判断を首長に迫らなければなりません。議会、そして議員一人ひとりは、悩みに悩み抜いて、原案を修正したり、否決したりする必要があるわけです。それが地方議会に求められていることです。

議員定数は市民との対話で決める

市民との対話の具体的なイメージを持たない議会は少なくありません。少し角度の異なる視点から説明しますと、2009年7月から裁判員制度が導入されました。司法に一般市民が直接参加し、判決だけでなく量刑にまで関与することになりました。「裁判沙汰」などという言葉があるように、多くの国民にとって、裁判は日常生活から一番遠い存在でした。一流大学の法学部を卒業し、司法試験に合格した専門家集団であった法曹界だけで裁判が終始していました。それでは、いわゆる市民感覚とことなる判決や量刑が下される、そしてそれが司法への不信につながると危機をいだき、改革しました。極刑を下すか否かの判断を無作為で抽出された市民が担っています。
では、地方議会はどうでしょう。地方議会議員はその数、活動範囲において、市民にとって最も身近な存在であるはずです。しかし、地方議会議員は選挙で選ばれたことで全権・白紙委任されているという誤った認識で健全な自治体運営ができるでしょうか。市民参加があって議会があります。市民との対話が議会には不可欠です。

議会は機関として議会全体の意思を表明する目的で市民を向き合うことはありませんでした。任期の4年間にはいろいろなことが起きます。議案も可決も否決もあります。修正権の行使もあります。その様々な議決を議会の行動として、少なくとも1年に一度は市民に説明する責任はあります。議会の動きを市民に説明する義務があると考えなければ、地方議会はますます市民から遠い存在となります。仮に、首長提案を原案通り可決している議会においても、議会として市民に説明する必要はあります。

近い将来、地方自治法改正で地方議員の定数についての上限制限は撤廃となります。地方議会議員の定数に関して、法的根拠がなくなります。これは地方議会議員にとって絶好のチャンスです。市民と向き合い、話し合いによって、その自治体で必要と思われる議員数を決めることができます。決めなければなりません。この法改正は目前です。地方議会は待ったなしの状況にあります。

理不尽な選挙と議員の正当性

首長も積極的に市政報告会やタウンミーティングを開催し、市民と向き合うことに注力しています。自治体内の各所で実施しています。幅広い層の市民と向き合おうと努力しています。でも残念なことに、多くの市政報告会では、特に首長が当選回数を重ねてくると、首長の他に副長(副市区町村長)、総務部長、建設部長、福祉部長など行政幹部職員が発言することが珍しくないです。市民が聞きたいのは、首長のコメントです。残りは補助員ですよね。公務員は補助員です。市民は選挙のときに投じた一票に価値を見出したいのです。首長には選挙で選らばれた正当性がありますが、行政職員にはそれはない。だから行政幹部のコメントに関心は低いです。

首長と同じように地方議会議員には正当性があります。選挙という正当性です。選ばれた議員の皆さんが議会という塊となって出ていった場合には、首長の説明よりも議会の説明のほうが市民からの信頼感が生まれます。これはどこの町や市でも同じです。各地で議会報告会や意見交換会が解され、市民と向き合う機会が増えています。一つ明らかになったことは、初回は想定外のいろいろなことがあっても、2回、3回と続けるうちに、しっかりとした市民と向き合う制度として構築されています。それは議会が真摯に市民と向き合うことで、市民も議会報告会のルールづくりに参加するからです。ですから、自信を持って議会として一丸となって市民の前に登場してください。

地方議会の仕事は事業仕分け

そのためには、議会として、自治体が抱える問題の認識と過去1年間の議案処理を全議員の共通認識として踏まえる必要があります。丸腰で無防備で市民の前にでることは、市民の議会不信を増幅させるだけです。

北海道新聞2009年12月4日付の記事を紹介させていただきます。


北海道新聞2009年12月4日 東京財団研究員 中尾修

本来であれば議会の仕事。そもそも事業仕分けそのものが議会の仕事と考えることもできる。制度の改廃や補助金の取捨選択は首長サイドに任せていると、大なたを振るえず、一律何%削減になりやすい。本来は議会こそが市民目線で事業全体を洗い直すことができる代表機関のはずだ。仕分けメンバーに議員が入らない場合でも、いままでのような審議内容を続けていては太刀打ちできない。町づくりの計画全体を検証し、個別の利害にとらわれず、地域全体を見すえて、あれか、これかを議論することが求められる。政府の掲げる地域主権の下では急務だ。



行政刷新会議で実施した事業仕分けをテレビ等で見て、どのような印象を持ちましたか。賛否あると思います。しかし、ひとつ確かなことは、あの作業は本来、議会の仕事、議会がやるべき仕事だということです。

栗山町議会で実践したことを紹介します。19節補助金を全部出してくださいと町長/行政に要求しました。国・道の補助金、それから町自身が付けている補助金をすべて書面で提出させました。補助金の目的、開始年度、金額、そして推移を一覧表に落とし込みました。

この作業は、どの市区町村でもできます。明日からでもできます。そして、予算審査のときは、19節補助金に特化した審査日を1日設ける。これを実施すると、この補助金は目的を達成している、金額の根拠が不明確だ、惰性で実施しているなど意見が出しやすくなり、議論が活発になります。その結果、いくつかの補助金については、廃止の方向性を議会として示すことがきるようになります。今年度から廃止を要求する必要はありません。しかし、大きな方向性を首長や行政に示すことができます。

地方議会議員は、そろそろ自治体経営の視点で予算をみる必要があります。自らの居住している地域の予算や支援を受けている団体への補助金の有無や多寡を心配する時代ではなくなりました。補助金の目的と実施状況を見比べることや費用対効果、補助の開始時期や終了時期を見極めることが求められています。これからは、要らないものは要らないご明確に発言する議員が評価の対象となります。これは市全体、市民にとっても歓迎すべきことですが、実は首長にとってもありがたいことです。ですから事業仕分けは議会の仕事なのです。

議会基本条例「東京財団モデル」

東京財団は、議会基本条例の3要素を提示いたしました。その一つは、繰り返しになりますが、公式に市民の前に議会が登場することです。議会報告会なり、意見交換会なり、名称はなんでも構いません。議会が市民の前に登場することです。二つ目は、陳情や請願で、市民が議会で意見を述べたいというときには、その機会を約束することです。陳情・請願者に議会へ来ていただき、目的や内容を説明していただき、議員はその話を聞くことです。もう一つは、もう少しハードルが高いのです。議会として議案等の結論を出すときに、議員間でディベートをすることです。議会で公開の話し合いをする。結論を導く討議をするということです。議会の本来の役割としては当然ですが、これまでの多くの議会運営を見ていると難しく感じます。しかし、議決に至る経緯を明らかにすることは、意思決定機関としては健全なことです。この3つの要素が議会基本条例の必要要件と考えます。