どうする?これからの地方議会―統一地方選挙前に考える― | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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どうする?これからの地方議会―統一地方選挙前に考える―

March 23, 2011

対談:廣瀬克哉 法政大学教授、中尾修 東京財団研究員

東京財団では、2009年4月から行ってきた 「地方議会改革研究」プロジェクト の総括として、2011年3月11日(金)に記者懇談会を実施しました。「どうする? これからの地方議会―統一地方選挙前に考える―」と題し、廣瀬克哉・法政大学教授と中尾修研究員の対談方式で、今後の議会や議員のあり方や全国の議会改革の実態について議論が行われました。

その後、報告書 「議会基本条例『東京財団モデル』普及度合いの検証」 が発表され、東京財団が提唱する必須3条件を取り入れる議会が増える一方、必須3条件の義務化・明文化、しっかりとした運用については引き続き働きかけが必要だとの話がありました。懇談会には、全国紙・地方紙、雑誌などの記者20名が参加しました。

東日本大震災により、岩手・宮城・福島県では、統一地方選挙の延期が決まりました。震災後とそれ以前とでは、国を取り巻く環境は大きく異なっています。それまで盛んに議論されてきた地方議会の問題もいまでは息をひそめています。しかし、そんな時だからこそ、それぞれの地方で自らの足元をしっかりと見つめ直さなければならない時期だと思います。統一地方選挙まであと1ヵ月。記者懇談会での議論が多くの有権者に新たな視点を提供できれば幸いです。

記者懇談会中、地震が発生したため、その場で懇談会は中止とさせていただきました。足を運んで下さった皆様に改めてお詫び申し上げます。

○「議会基本条例『東京財団モデル』普及度合いの検証」は ⇒ こちら

記者懇談会の議事録

1.「減税日本」や「大阪維新の会」「日本維新の会」といった全国的な地域政党の風潮をどう考えるか

廣瀬 そもそも地域政党という括り方が本当にあっているのか。「日本維新の会」などは日本とかぶせているので地域政党ではないのではないか。「減税日本」にしても、東京などでも擁立しているので、地域固有の争点を取りあげる政党というよりも、首長個人の人気に向かって吹いている政治的な風を捉えるために帆を張っているという印象は否めない。その一方、「地域政党いわて」など、国政の争点とは違うところで地域に根ざした争点を立てることで町村政、市政、県政で連携をとっていこうとする動きもある。本当に注目すべきはそちらではないか。
おそらく瞬間風速は「減税日本」や「大阪維新の会」に吹いているが、長続きはしないと思っている。また、これらの政党は、首長個人政党という様相が強い。何期か続けて橋下氏が知事を辞める時に維新の会というのは存続するのか、河村氏が市長でなくなったときに「減税日本」は存在し続けるのかということを考えると、持続可能な政治の動きではないと考えている。

2.そもそも、河村市長や橋下知事が注目される背景には、首長対議会というものがある。この構造関係についてどう思うか

中尾 首長が議会を一つの行革のターゲットとして公約として挙げてくる前に、議会が2000年の分権一括法以来、自分たちの足元を見直して改革をしようというのが、宮城県の旧本吉町(現気仙沼市)に始まる議会報告会なり、議会基本条例の制定であり、本来の議会のあるべき姿を目指してきちっとした議会改革をしていく動きであったが、昨今の対立構造で、これが見えなくなっている。定数削減や報酬の削減だけが対決構造要因になっており、このことは非常に残念だと思う。(こうした問題で)対立軸が明確なことが議会本来(二元代表制)の姿をあぶりだしているかは、本質が違うと思う。

廣瀬 するどく対立しているように見える議会対首長のあり方は、多くの自治体で行われている根回しがしっかりと行き届いていて平穏無事な議会とは表裏一体の関係だ。平穏無事な議会は、そのプロセスにおいて個別に有力議員との取引関係などがあり、それを受けて多数会派が粛々と原案通りに可決するからにすぎないからだ。首長がその取引関係に乗らないと、全部肯定の裏返しとして、全否定になって「足を引っ張る議会」という構図になる。議会が建設的な議論と決着の場になっていないという点ではどちらも共通していて、どっちも議会と首長の本来あるべき姿ではない。どのような関係が良い関係なのかということがイメージできていないところに混乱の原因がある。

3.本来の議会、そして議員のあるべき姿についてどうあるべきか

廣瀬 これまでの議会は個別の利害を有力議員が首長にねじ込んでやらせる、反映させる。少数派は議場でせめて発散する場を持たせてもらって社会的ガス抜きをするというものだった。最後に議決することによって議会が決着をつけた形をとってはいるが、の部分だけ行使して形式的には満たしてきたが事実上の調整統合機能を行政に委ねてきて、何か失敗すると行政のせいにする。自分の責任を顧みない。それでも有権者も議員もそのことに何も疑問を感じてこなかったのがこれまでの議会。本当は決定の前の調整・統合機能を議会が持たない限り議会は仕事をしたことにならない。政策の修正能力は当然もたなければならない。今の議会はそれができていない。
合議機関が代表機関としてなぜ存在するかというとまず、多様な意見や利害を反映してそこに持ち出してくるという機能は大前提として持たなくてはいけない。しかし、すべての個別利害を叶えようとすると自治体は破綻するのでどこかで決着をつけないといけない。誰がどうやってどういうプロセスで決着をつけるのかというと選挙で選ばれて議決の一票を持っている人が議会による議論を経て決着をつけないと民主主義とはならない。

中尾 市民にとって国会議員も地方議員も棲み分けができていないのが現状。市民はいずれも物を頼む人だと思っている。議会内閣制と二元代表制、その違いの認識がまだ不十分である。地方議員は本来は地域の経営者であって縦系列の政党の所属という概念が強くあってはいけない。そこの割り切りが必要。地域の経営の一翼を担うという認識を持って議員を務めてもらいたい。

4.議会には、一箇所、二箇所は不満でも、総合的に見たら悪くないので議決してしまうという風潮があるがそれについてはどう思うか。また、議員同士の議論によって政策を修正するといったことは可能なのか

中尾 (栗山町の議会)事務局長8年間在任中に同数ほどの修正権の行使があった。首長原案を一部でも議会が修正すると首長・行政職員からアレルギーがでるのは確かだ。しかし、そのプロセスに市民参加を得て、さらにそこで議員が意見を述べてもみ合うということが目に見えて首長提案よりも一歩進化したものを提示すれば、それはそれで住民の中に議会への信頼が生まれてくる。議員だけでやってしまうと危ない。参考人なり公聴会制度なりを活用した中で修正権を行使していくことが必要。主権者はこういう要望を持っているという裏付けを議会が持つ。自信をもって原案を修正していく。そこが担保されないと議会だけが思った、考えたとなると無理が生じる。

廣瀬 原案通り可決するということは、何か起こった時には原案をつくった人が悪いとなる。判断した責任はあるが住民感情からすると誰がつくって提案したのかに注目がいく。議員は行政の側に問題があったということに非難する側に回れる。修正可決し、後で問題が生じたときにどう責任をとるのか。この時点ではこれがベストだったと判断をして間違いなかったのだと、いうところまで議論した上での修正でないと自信をもって修正案を提示できない。自治法の100条の2という部分に「専門的知見の活用」というものがある。専門家に調査を委託したり、報告してもらったりはできるがこれが毎年やっている議会は毎年一桁にすぎない。議員というのは、基本的にはプロとしての能力で選ばれたのではなく、政治的な姿勢なり、政策なり、有権者の支持で選ばれているのだから、原理的にいってプロである必要はない。アマチュアでいい。アマチュアが責任をもって専門的な政策について是非の判断をしようと思ったら当然必要な知識を借りなければならない。当事者の知恵としての住民の声とプロの専門的知見の活用をもっと積極的に使うべきだ。
「参考人招致」を年間やっているのは1800自治体のうち、200少々。「専門的な知見の活用」。こちらは10だけ。これを変えていくという姿勢を持つこと。自分のできないことをちゃんと頼りになる人の声に耳に傾けることでまずその知恵を使えということ。その知恵を使いながら、いろんな政策判断を重ねていくうちに目の付け所とか勘所が分かるようになり、経験則で身につく。そういうことができる議員がこれから問われている。

5.実際参考人の制度やパブリック公聴会などを制度として議会は持っているわけだけだか、なかなか活用できない背景、多くは活用していない原因は何か

中尾 われわれは選挙で選ばれ、住民から任されたのだからわれわれで決めようという意識が強い。しかし、今までの行政と違ってだんだんと予算を縮減する方向になると辞めていかないといけない事業が数多くでてきて、時に一般主権者に我慢を強いる条例改正や負担などが出てくる。そうすると、議員だけで決めるには審議の内容として穴があいているのではないかという恐れが議員の中に出てくる。これ聞いてみた方がいいなという意見が出てくる。自信がないという意味ではなく、全体としてこの問題に影響を及ぼす関係者に見解を一度聞いた方が間違いない判断ができる。自然とそうなってくるし、そうした議会が健全だ。

廣瀬 原案通り可決するのが当たり前だと思っていると必然性を感じないからやらない。極端にいえば時間の無駄と思っている。それが原因だと思う。自信がない、あるいはこのまま声を聞かずに決めてしまうのは有権者に対して申し訳が立たないという感覚が働いてくれば変わるということだと思う。自治体議会改革フォーラムで調べたところ、政策に関する当事者やプロの意見を聞いて判断しようとする議会は、1800議会の200少々というのが現状だ。

6.統一地方選挙が迫り、有権者側の視点から見て、どういう議員を選べばいいのか

中尾 主権者は議員を何かマイナーな要望も含めて地域要望を伝えて実現してもらう存在と捉えている傾向はまだある。この統一地方議会選挙では、町全体のことを考える議員を選ばないとその町、自治体間格差がますます広がる。首長提案にあまり間違いはない。ただそれを面に落とした時に10年のスパンで本当に必要なのか? というものは結構ある。自治体経営としては最後に息詰まるようなものもある。4年前は議会改革が票につながることはなかった。でも、この春の選挙では、今の議会をどう変えるかということを公約のマニフェストの頭に持ってくる議員がおそらく選択の余地に上る。

廣瀬 正直4年前は議会改革を公約に掲げても票にならなかった。当選した人に聞いても決めては「議会改革」ではなく、日常活動その他であって、議会改革は必要なことだから公約に入れたけれど、選挙にとってプラスであるという判断はなかった。他方、議会のあり方を改革しますというのは首長の選挙の公約でさえ追い風になる。追い風になると期待して掲げる首長が増えてきている。そういう風はある。しかし、その内容は定数削減と報酬の見直しがほとんどだ。基本条例決めますと書いてあるけれど中身について書いていない議会改革の約束だったらこれは眉つばもの。議会改革と書いてあるが定数削減を進めますということ以外について書いてないとこれは議会にコストをかけていてごめんなさい。仕事をしていない機関にコストがかかっているのだからコストを下げますというのでは、議会活動をちゃんとしていく改革課題ではないのでよろしくない。そのあたりが見極めのポイントになる。
何年かの間に色んな事業を展開して結果して自治体が傾くか傾かないかということに対する感性を持っているかどうかは、たとえば街頭で演説している候補者に、「今度のうちの総合計画の課題はなんですか。これまで通りでいけるの。どこか変えなくちゃいけないの」という疑問をぶつけてみてもらえると何らかのリアクションで判断できる。何も意見を返せなかったら枠外にして、そこについて何らかの判断をいう人の中から考えに合う人、説得力あるなと感じた人を選ぶ。そんなに多くの有権者は声をかけないが、有権者から投げかけられるかもしれないというだけでも議員は変わると思う。

7.全国的な議会改革の実態についてどう思うか

廣瀬 議会改革をやっているかどうかを聞くと50%を超えている。何らか改革を検討しているというのは多数派。一番ひどいのは定数2-3名削ってこれが議会改革でございますとして矛を収める。4年後にまた風が吹いたらまた2-3名削るかというのが最悪なケース。市民と政策をめぐるキャッチボールをしながら、是々非々で政策判断していくという議会もすこしずつ増えていて、トップランナーを走る議会がざっくりといって1%という感触だ。そこまではいっていないがそれなりに真面目に議会でどんな議論をしないといけないのか、住民に対してどんな説明責任を果たそうかということを検討し始めて、議員ひとりひとりの議案に対する賛否の公開というようにまずは開かれた議会をつくろうとよという姿勢の議会は10%からもう少し増えてきている。
残りは今議会改革をやってないと恥ずかしいので何かはやらないといけない。本音はしんどいことはやりたくない。格好がつくところまではしましょうかという、格好はつけたいが仕事増やしたくないという時に議会全体の決着として多数派のところでとどまりそうなのが4-50%。残り50%の議会は旧態依然の議会である。

中尾 全国各地の議会研修会に招かれているが、今のままにして欲しいというのは何となく伝わる。基本条例をこれからつくるという時に「初めから市民参加が必要か」「政策と政策で対峙するというのは今の議員及び事務局体制では、できるわけないと思」という質問が多い。できない理由を探すのは行政職の常套手段で、公選職の議員がそれをいっては良くないのではないかと思う。現実としては分かるが、やはりそこを乗り越えていかないと逆風が吹いているのにまだこのままでいたいというのは考えられない。もうすこし現状を見極めて前に進んでいただけるのを期待している。

8.議会基本条例が一種の流行になっている。3月末までに駆け込み需要も見られるが、このような全国的な流れについてどう捉えるか

廣瀬 4月までには議会基本条例の制定は基礎自治体の10%を超えるだろう。道府県議会では15本制定済みで32%に及んでいる。市議会でも10%超え、自治体全体でも10%くらいになっている。しかし、中身については落差がある。同じ名称の条例ではあるが、千差万別。議会基本条例が広がることがテコになって改革が進むというのは確かにある。この流れは節目ではあるが、完成ではない。ホップ、ステップ、ジャンプでいうと次はステップ。住民自治のあり方として多くの住民が納得するのがジャンプ。基本条例の制定はホップとしての意味はあるが、ホップで止まってしまう議会はあるので、厳しく検証しなければならない。

中尾 東京財団としては、条例の広がりに期待をしている。情報公開と市民参加を基礎とした私たちが示した3要件は必ずいれてほしい。がけっぷちの状態を議会本来の活動に専念するのであれば、市民とのかかわりを明確にすることが重要だと思う。今後も気にしていただくとともに私たちも推移を見つめるとともに、適切にくさびを打っていきたい。

<文責:大沼瑞穂>

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