タイプ
論考
プロジェクト
日付
2015/4/8

住民代表機関としての議会の役割 ―2015年統一地方選挙を前に考える―

東京財団研究員
中尾 修


二元代表制という地方自治の仕組みが理解されつつある。これは9年前の2006年に誕生した議会基本条例(北海道栗山町議会)がきっかけとなって全国に広がった改革の成果の一つであろう。
 
首長と議会は本来、機関競争主義で動いていなければならない。それぞれが民意と向き合い、それを裏づけに競争する。そうした機能が健全に動いているかどうかが住民代表機関としての根幹だ。
 
今日の議会は、改革によって民意と向き合うところまでようやくたどり着いた。議会は住民の代表機関だという考えが議員の中で整理されてきた。地方自治法上の参考人とか公聴会といった住民参加の仕組みを使いながら、機関として動くことが求められているという理解がやっと深まってきた。
 
住民参加の大きな一つが、機関(かたまり)として住民と向き合う議会報告会や意見交換会である。地域に出向いて議会の活動状況を住民に直接報告し、その活動に対する意見や行政に関する提案などを聞く議会報告会、意見交換会は、現在500から600の議会が実施している。住民と真摯に向き合おうとする努力を議会が試み始めた。これが議会本来のあり方であって、議会の活動である。議会報告会や意見交換会は、議員の個人活動から議会の機関としての活動に移る大きな起点となったことは確かである。
 

3分の1を超す議会が基本条例を制定

 
議会報告会という民意と向き合う取り組みの中で、議会基本条例が登場する。栗山町議会では2005年に宮城県の旧元吉町(現気仙沼町)に続いて議会報告会を行い、それを制度として確立してほしいという意見が各会場の住民から出た。そこでこの議会報告会を実施する条例を考えていた時に、札幌市職員の渡辺三省氏が考えた議会基本条例要綱(試案)が『北海道自治研究』に掲載され、これを参考に栗山町議会の活動に合わせた条例を2006年に作った。それから9年を経て、議会基本条例は570近くの議会で制定されている(2014年4月時点、議会改革フォーラム調査)。2015年度中に制定を予定している議会も含めると、全自治体の3分の1を超す700に達し、ここまで来ると議会の標準装備といってもよい状況になってきた。
 
東京財団では、2010年5月に「議会基本条例『東京財団モデル』」を発表した。当時は70から80の議会で基本条例が制定されていたが、住民の使い勝手のよいものになっていない条例がかなりあった。住民との直接対話である議会報告会の規定や、議会への住民参加といった条項を盛り込んでいない不完全なものが多かった。それに対し警鐘を鳴らす意味で、「議会報告会の開催」「請願者・陳情者の意見陳述」「議員間の自由討議」といった3つの必須要件を条例に盛り込むことを求めた。それ以降、この提言を参考にする議会が増え、今日もその要件を盛り込んだ条例づくりを目指す議会のサポート活動を実施している。
 

信頼される議会に向けた次のステージ

 
議会基本条例は、二元代表制の下での住民代表機関としての議会の役割を確認した。議会が行うべき仕事の範疇を確認し、地方自治法上の議会の権限を明確にした。条例の制定過程において、議員は議会のあるべき姿というものがこれまでやってきたものと異なる部分が多いと認識し、その改善策として議会報告会、意見交換会というアプローチを選んだ。しかし、議会報告会を行わなければならないと考えているけれども、「報告会を何のためにやるのか」は見えていない議会も出てきている。
 
条例を制定し、報告会は実施したものの、依然として住民の信頼を得られないといったジレンマがある。今の議会には、住民参加を進めて議員間で話し合っても、それを自治体の政策づくりのプロセスに乗せるところまでは確立されていない。首長提案に対しても、民意を背景に競争するステージまで上り詰めていないのが現状であろう。
 
議会が提案した条例の制定は徐々に増えてきているが、理念条例が多い実態にもある。条例の制定改廃や予算の修正、さらには議会が監視機能を果たすための権限として調査権を発動するといった、「政策提案」の機能と執行機関に対する「監視・評価」の機能がまだまだ十分に発揮されていない。首長提案の約90%が原案可決、議員提出議案が全体の約5%というのが現状で、ここをクリアしていかないと本格的な議会活動とはならない。
 
なかでも一番重要かつ困難と思われてきたものが、修正権を行使するということではないだろうか。首長からの提案が年間100件、200件、あるいは場合によって400件あったとして、すべてが完璧で住民にとって申し分なしとは言えないと思う。その場合は、利害関係による住民を参考人などの制度を通じて、要望を確認しながら修正を加えていくことが求められる。
 
修正権を行使した場合、その責任は100%議会が負うことになる。したがって、議員間の十分な議論によって結論を出す必要がある。議会が首長原案を修正するには、なぜ修正しなければならないのかという問題点と、それに対する確信を持たなければならない。任期4年間に一度も否決もなければ修正もない、すべて首長の原案どおりというのは住民から見て議会は何をしているのかということになる。
 
議会は議案審議において議員同士の討議があり、時に専門的知見の活用が入り、そして参考人の意見を入れて、最終的に議員が悩みながら最終表決を行う。そうした姿が見えてこそ、議会が信頼されるものとなる。本会議のインターネットなどでの公開も重要だが、委員会の公開も極めて重要になってくる。セレモニー的な最終決着の議場の公開からもう一歩踏み込んで、実質的な審議、議論がある委員会の公開こそ必要だ。
 

住民視点にもとづく「選択と集中」

 
首長は多くの職員と英知を集結して提案してくる。しかし、中には一人の担当者が作った案もないとは限らない。国が一つの方向性を示したものを丸呑みにしたものもあるかもしれない。議会としては、人口減少社会においてそれが予算上持ち堪えられるものなのか、10年、20年先にも必要なものかどうかを判断しなければならない。少なくとも向こう10年の財政推移を人口推計と見比べながら、どういった地域経営ができるかを把握していただきたい。かつての賑わいを戻せといった拡大路線は、今後受け入れられないわけであって、議会要望がその自治体の将来を潰したり、あるいはそれによって財政が不安定になるようなことがあっては本末転倒になる。
 
今、どの自治体も財源不足に陥っていて、行政サービスの縮減を考えざるをえない。となると、議会はマイナスの判定も行わねばならない。マイナス配分となると、一部の住民からの反発が生じる。議会は相当熟議して、関係住民と話し合って議会審議に当たり、結論を導き出さなければならない。
 
「選択と集中」というのはそういうことであって、その決定の結果は結局、住民が負担することになる。だから、住民も“眠れる議会”はまずいということで、もっと積極的に議会に関心を持つべきで、そのためにも選挙でこれはと思う候補者に一票を投じていただきたい。自治体議会の多くは、住民代表機関らしい構成になっていないのが現状であるが、投票率が下がればますます正統性が失われる。さらには投票行動だけで終わることなく、一票を投じた議員が4年間どういった活動をしているのかを、議会報告会や意見交換会に積極的に参加して見守っていただきたい。議員個人、議会の活動に関心を示していくということが必要である。
 

議会の機能強化が与える影響

 
これまでの地方行政システムは、議員に大きな期待をしなくても、首長の権限においてかなりのことがやってこれた。しかし、2000年の地方分権一括法の施行によって中央集権から地方分権へと移り、それぞれの自治体が自らの力で生きていかなければならない時に、やはり民主主義の装置としての議会が本来の仕事、与えられた任務を果たさなければならない。そうでないと、住民が納得いく決定ができない。長い歴史の中で議員は名誉職的な存在だった。だが、今では特別な人ではなくて、むしろ一般の市民感覚が求められている。仕事も単に優先順位をつけることではなくて、住民に負担を強いることへと変わってきている。人口が減少し地方が疲弊している今こそ、議会が活躍すべき時である。
 
人口減少はまず避けられない。それに伴って税収が減り、行政サービスの低下が始まっている。そうした厳しい時代にこそ政治文化を変えて、議論することが平常の状態にある議会でなければならない。立場の異なる人たちが集まり、そこには異論があって当たり前という感覚を持たないと、これまでと同じように感情的にぶつかり合うということだけに終始してしまう。これは日本人の弱いところだが、変わっていかないといけない。
 
議会事務局もまた充実しなければ議会改革が進まないことに、議会、議員はようやく気づき始めた。首長側が採用した職員を議会事務局に出向させるには、どうにも無理があって限界にきているので、事務局職員の独自採用を考える必要がある。東京財団では、2010年5月に発表した政策提言の中で、事務局職員の独自採用を勧めているが、現実にすぐ採用というのは難しいので、まずは定年退職者の再任用や嘱託といったかたちで、議会が独自に政策や修正案を出せる仕組みを作っていく。これならすぐにでもできる。
 
議会の機能強化は住民、首長、行政職員に影響を及ぼし、その相乗効果によって自治体全体の力量がアップする。議会が活性化しなければ、首長も行政職員も鍛えられない。鋭い質問を通して行政側を鍛えていくという、そうした緊張感のある運営を行っていく責務が議会にはある。
 
私が委員として参画した第30次地方制度調査会では通年制議会が議論され、地方自治法の改正によって導入できるようになった。条例化することで、議会が常時活動可能な状況になり、突発的な災害などが発生した場合にも迅速に対応できる。
 
通年制を活用して、多様な人材が議員に参入可能な議会運営の方法を探ることも大事だ。その一つとして、議会も夜間開催するなど、弾力的な形態に変えていくことも一つである。サラリーマンや女性、若い世代が議員になって議会に参加できる可能性を広げて行かなければならない。もう少し職種、年代別、性別などで多様な人材を増やさないと、近い将来に議会制度がもたなくなるかもしれない。
 

新人議員がやるべき第一の仕事とは?

 
今回の選挙で新たに選ばれる議員は、まず自らの自治体内にある国や県の施設、自治体の施設や民間の大型施設、工場、ショッピングセンターなどのすべてを見て歩くこと、これが第一の仕事である。どこにどういう施設があり、基幹産業がどういう構成になって自分の自治体が成り立っているかを歩いて見て回り、あるいは関係者から説明を受けて理解することが大切だ。地域の経営者としての自覚を持って、地域資源は何か、企業があるならばそこの労働者の正規、非正規率はどうなっているのかということにも関心を持ってもらわなければならない。
 
もう少し実務的なことを言えば、新たに選出された議員も早速、首長提案の議案と向き合うことになる。その際、関係する過去の議案審議の議事録・会議録を細かく検証しておくことだ。行政行為は継続性が重要であるとよく言われる。過去同様な問題に対し、首長、執行部がどのような見解(提案理由など)を示しているか、議会、委員会のやりとり(論点、争点)を調査しておく必要がある。すべての問題点は議事録・会議録にあると言っても過言ではない。新たな一歩はここから始まることを勧めたい。そろそろ執行側から貰うペーパーだけで判断することから脱却しないといけない。
 
日本人は全体としての調和を最優先に考える。しかし、それと“お任せ主義”はまったく別の問題である。住民は選挙で選んだ議員が熱心に議論し、地域経営に当たってくれることを願っている。まずは論点を明確にして話し合ってみることだ。水面下の調整ばかりでは、市民権は得られないことを痛いほどわかったはずである。新たに選ばれた議員に期待されるのは政治文化、議会「土壌」の改革である。