タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/5/17

地方議会改革の視点から統一地方選を振り返る

統一地方選挙を振り返って

―地方議会改革という視点から―

東京財団研究員
中尾 修

1 はじめに

2011年4月、統一地方選挙が実施された。総務省発表の資料によれば、2010年12月時点で想定された統一率は、約29%であった。戦後、GHQの主導により、地方選挙は統一して実施されることになり、当初の統一率は100%であった。しかし、首長の解職や議会の解散、自治体の合併などがあると、異なる時期に選挙が実施されることになり、その結果、統一率は低下の一途を辿っている。今回は、東日本大震災により、東北地方を中心に選挙が延期されており、実際の統一率は、2010年発表の数値より、さらに低いものとなった。

それでも、都道府県議会レベルであれば47議会中41議会、政令指定都市レベルであれば19議会中15議会、特別区レベルであれば23議会中21議会で、今回の統一地方選挙において選挙が実施された。

地方議会は、それぞれの有権者にとって身近な議会であり、その構成員である議員を選ぶ選挙は、本来は身近な政治家を選択する選挙である。したがって、その地域に根差した問題に対して、どのような立場を取るのか。どんな地域の問題を最重要として、どんな解決策を取るのか。そういう視点から、議員を選ぶ選挙であったはずである。そして、多くの人々が、統一地方選に際して、そういう視点から、選挙に参加することが求められていたと言えるだろう。しかし、実際には、そのような選挙ではなかったことがマスコミ報道からもわかる。

2 現政権の評価としての統一選挙

今回の統一地方選挙後半戦が終わった後のマスコミの論調を見れば、統一地方選が政権政党への評価と見做されていたことが分かる。

実際に、橋下知事率いる「大阪維新の会」が躍進した大阪府議会を除けば、多くの道府県議会が自民党系の当選者により過半数を占められた一方で、民主党系の候補者の苦戦が目立った。自民対民主の対立型選挙となった首長選挙でも、民主系の候補が苦戦し、東京の特別区の議会選挙では、民主党公認候補の当選率が50%を下回った。政令市の議会でも、札幌市を除けば、自民党公認候補の当選者数が民主党公認候補者のそれを上回った。

以上のような結果を見れば、今回の統一地方選挙が、現政権への評価を行う選挙であり、民主党に対して厳しい評価が下されたと言うことが出来るだろう。自分が住む地域の首長や議員に対して特に普段から関心がないゆえに、こうした結果となったと言えるかもしれない。本来地方選挙は、その地域の課題に対する解決策を考え、首長や議員を選択する選挙である。今回の結果は、いかに、住民が日頃の議員活動を見ていないかの表れだったともいえる。

3 大阪府議選と愛知県議選挙

ここで注目すべきは、全国的にも注目を集めた大阪府議選と愛知県議選の結果である。

大阪府議選は橋下府知事が率いる大阪維新の会が躍進し、定数109のうち57議席を獲得した。一方、大村愛知県知事が率いる愛知の会と河村名古屋市長が率いる減税日本が候補者を擁立して注目を集めた愛知県議選は、定数103議席のところ、その二つの勢力を合わせても18議席しか獲得できなかった。統一地方選挙前に実施された名古屋市議選では、定数75議席中28議席を得て躍進した減税日本であったが、その勢いは県議選までは続かなかったと言える。しかし、それ以上に、地方選挙が、地域の問題を如何に捉え、それをどう解決するのかを選択する選挙であるという側面に注目すると、愛知県議選と名古屋市議選の結果の相違が説明出来るものと考えられる。

名古屋市議選は、河村市長が主導的な立場を演じたことの是非はともかく、まさに市民の力によって成し遂げられたリコール請求が実現した結果として行われた選挙であった。そこで、従来の名古屋市議会のあり方に疑問を投げかけた減税日本の候補者が有権者から選択されたのは、ある種の必然であろう。そもそも、名古屋市議会の従来のあり方に問題がなければ、あれだけ多数の署名を必要としたリコールは実現しなかったはずだ。そこに、その問題を是正しようとする減税日本の候補者が現れれば、本来の二元代表制地方議会のあり方の議論はかき消され、有権者はそこに一票を投じることになった。

対して、愛知県議会では、減税日本の存在意義が不透明になった感が否めない。河村市長が国政を見据え、統一地方選挙後半戦と同時に実施された衆議院愛知6区補欠選挙に減税日本として候補者を擁立するに至っては、有権者から見ると、減税日本が名古屋市の問題に向かい合おうとするのか、国政への足がかりに過ぎないのか判然としなくなったと言えるのではないか。

一方、大村県知事率いる愛知の会は、独自の候補者を擁立する以外には、自民党系や減税日本の候補者を推薦した。大村知事自身、それ以前は自民党の衆議院議員であったことを考えると、愛知県の有権者から見れば、愛知の会は愛知県の課題に取り組むというよりは、自民党の別働隊のように見えてしまったとしても致し方ない。大村氏と河村氏が手をつなぎ、愛知県と名古屋市の関係の再構築を目指し、二人がそれぞれ県知事選と名古屋市長選を戦う限りは、両者は有権者から支持されたが、その主張や立場が愛知県や名古屋市という枠組みから外れた時には、期待が薄められた。

では、なぜ大阪維新の会は府議選で躍進したのか。それは、大阪維新の会を率いる橋下知事が大阪府と大阪市の関係をどのように考えるのかということを争点とし、大阪府として大阪市との「合併」を主張したからである。大阪府と大阪市の合併に対して、まさに大阪府議会において府議会議員がどのような立場を取るのか。その立場を選択する選挙で、その立場を鮮明にした大阪維新の会の候補者の躍進が際立った。同様の論理で、大阪市議選でも大阪維新の会の候補者が好成績を残したことが説明できる。大阪市と大阪府は、どのような関係を築くのか。そこで、両者の合併を明確に主張した大阪維新の会の候補者が大阪市の有権者に受け入れられたのである。主に減税を争点とし、国による減税まで主張した愛知。大阪府と大阪市、あるいは大阪府と府内の市町村の関係をいかなるものとするのかを争点とした大阪。この争点の選択において、愛知と大阪で、選挙結果が大きく分かれることになったと言えよう。

愛知と大阪の両選挙は、全国的に注目を集め、地域政党の躍進の舞台として一括りで語られることがあるが、そこで起こっていた有権者の反応は大きく異なる。そして、その反応の差の原因こそが、地方議会に求められる役割と考えることが出来る。その役割を忘れ、地方議会と国会のミニチュア版と据えて、地方議会の選挙を国政選挙の代替と見ている限り、地方で起きている選挙結果の背後にある真相を正確に把握することは出来ない。

4 地方議会改革へ向けて

ただ全体として、このたびの選挙が、現政権の批判につながる投票になったことはすなわち、これまでの地方議会の議員自身が、中央の政党間の政争に目を向き過ぎてきたという現実に裏打ちされているのではないか。地方議員は、後援会以外の地域住民に向き合い、地域に飛び出し、地域の課題に真摯に取り組む必要がある。そうした姿勢と取り組み実績があれば、どの政党に属していようが、あるいは無所属であろうが、一時の風で当落が左右されたりはしない。それぞれの地域にはそれぞれ地域の課題があり、それに目を向けずに、風を頼りに選挙を戦っても、地方選挙で当選することは覚束ない。地方選挙の苦戦の理由を中央の政権運営の不手際に求めるのは、地方分権が進む現在にあっては、敗戦の言い訳にしか聞こえない。

また、今後は、一人ひとりの議員としてもさることながら、それぞれの議会(機関)が「かたまり」として、如何に地域住民や地域の課題に向き合い、そして、首長を頂点とする執行機関と切磋琢磨していくのかが問われていく。もちろん、それぞれの議員が所属する政党などを基調として会派が形成され、その会派が中心となって運営される地方議会も存在する。しかし、会派同士が議論し、議会全体として如何なる姿勢を示すのかということは常に問われていくことに変わりはない。名古屋市議会や大阪市議会、愛知県議会や大阪府議会も、新たに議会で一定の勢力を占めることになった地域政党だけでは何も実現出来ない。議会内での勢力争いに終始し、会派間で政争を繰り広げていては、地方議会への不信感を募らせるだけである。また、安易に首長と同調し、首長の提案に全て賛成するようでは、いわゆるオール与党化した従来の多くの地方議会と変わらなくなってしまう。

名古屋市議会は、河村市長からの攻勢に対抗するように、議会基本条例を定めて、市議会や議員の役割を定め、地方議会改革を推し進めようと歩みを始めた矢先にリコールに遭った。議会解散後の選挙の結果、議員の構成が大きく変わる事態となったが、新たに名古屋市議会に議席を得た議員も、当然に議会基本条例の定めを遵守することが求められる。議会基本条例は、2006年に北海道栗山町議会が制定して以来、全国の地方議会で制定が広がり、現在約200の自治体議会で制定されている。この条例の中でも特に重要となるのが、東京財団「地方議会の改革プロジェクト」でも指摘した、請願や陳情提案者の議会での意見陳述の機会の確保・議員間の自由討議・議会報告会の開催の三点である。まずは、議会に住民が参加する機会を確保する。さらに、議員同士は常に討議を行い、議会としての立場を明確にするよう努める。そして、議会(機関)としての立場を議会報告会を開催して、住民に分かりやすく伝える。このような循環を常に意識して作っていく必要があるのだ。

今回の統一地方選挙で選挙があった議会の中には、名古屋市議会のように既に議会基本条例が制定されていた議会が存在する。制定された多くの議会基本条例には、新たに選出された議員に対して、議会基本条例の内容を周知する機会を設けるよう謳った条項が存在する。さらに、議会基本条例が遵守されているかどうか選挙後に確認する機会を設けることを謳った条項が盛り込まれている例もある。そのような議会にあっては、先人が定めた条例を尊重し、不断にその条例を見直し、その理念を実現すべく活動していく必要があるだろう。

もちろん、議会基本条例を制定することが目的化するのは本末転倒であり、「議会基本条例をまずは制定すべし」と言うべきではない。改革が進む地方議会では、住民と向かい合う取り組みの延長で、議会基本条例の制定に至ったところが多い。同じく、市民と議会が向き合う必要性を感じたからこそ、名古屋市議会も同様の条例を制定するに至ったのである。今回の統一地方選挙の結果、これから4年間、地域の住民と向かい合い、地域の課題に取り組むという責務を負った各議員は、その責務を果たすことを第一に考えて活動していく必要があるだろう。議会をあげて、その責務を果たすための活動を展開して欲しいと思う。

5 おわりに

東日本大震災で大きな被害を受けた陸前高田市の市議会は、議会基本条例を制定するなど、議会改革に一歩足を踏み出したところであった。気仙沼市議会も3月定例議会最終日に議会基本条例を可決する予定だったが、震災により会期を早め閉会したため、6月に変更している。選挙が延期され、さらには、震災の被害に遭った議員も多いことから、来たる議会がどのような議員によって構成されるのか今のところ予想も出来ない。それでも、地方議会は、最も住民に身近な議会として、常に住民に向き合い、地域の課題解決に向けて積極的に活動していくことが求められていることは繰り返し述べたとおりである。

震災からの復興という最大の課題の前に、議会改革は足踏みを強いられるかもしれないが、復興という課題と議会改革は両立し得ると私は考える。震災からの復興に際して、議会として何が出来るのか。それを住民と共に考えることが、今後、各議会に求められており、そのような活動を展開することが、まさに議会改革につながるのだ。もちろん、今回は震災の被害を直接受けなかった地域の議会も、災害の対応に関して、地域の住民と向き合い、議会として何が出来るのか不断に検討することが求められている。今回の統一地方選挙で選ばれた議員、そして、首長には、これまでの制度・仕組みを改めて検証し、震災後の新たな価値観を住民と形成しながら、地域経営者としての自覚を持ち、4年間を過ごして欲しいと思うところである。