タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/7/29

新大綱の実現を求める5つの提言

東京財団「安全保障」プロジェクト

昨年12月に策定された防衛計画の大綱は、様々な新機軸を打ち出し、日本の安全保障態勢を強化することを謳っている。もとより防衛計画の大綱は、中長期的な考え方と目指すべき方向を明らかにするものであり、これらを実行に移すためには、中期防衛力整備計画から各年度の事業に具体化し、あるいは、法令の整備や新しい政策指針の策定によって新しい制度を築いていくという手続きが不可欠である。逆にいえば、具体的に施策にしていくための努力を怠れば、新大綱が示す考え方は画餅に終わるのである。

東京財団「安全保障」プロジェクトでは、新大綱の下で実現することが急がれる施策について議論を重ねた結果、特に重要な政策分野として、?政府としての危機管理態勢強化、?日米同盟の維持強化、?積極的な国際協力、?防衛力の動的側面の強化、?新たな武器輸出政策の採用の5点を挙げ、以下のとおり提言することとした。

提言1 政府としての危機管理態勢を強化するため、以下の施策を講じるべきである

(1)より効果的な危機管理を可能とする枠組みの構築

新大綱が示すように「各種事態の推移に対してシームレスに対応する」ためには、政府、特に内閣の安全保障・危機管理機能の強化が必要である。この際、外務省、防衛省、警察庁、国土交通省、経済産業省などの省庁の垣根を超えて、切れ目のない任務を統一的な観点から企画・指導する仕組みを構築することが肝要である。短期的には、たとえば官房長官、官房副長官のライン上に、危機に際する情報の集約、関係各機関に対する政府としての意思の伝達、および各機関による活動の調整に関する機能を担う組織を仮置きすることなどが対応策として考えられる。中長期的には、国家としての危機管理を担う新組織に関する諮問委員会を総理大臣の下に作り、そのあり方を検討するとともに、制度として定着させる方策を明らかにしていくことが望ましい。

具体的には、官房長官もしくは政務の官房副長官(任期の長い参議院議員の中から適任者を選ぶことは有力な一案)の下に、政府首脳のスタッフ機構として、安全保障・危機管理に関する専門家集団を設置して、中長期的な国家防衛戦略や総合的な安全保障戦略の策定に取り組ませ、また、平素から多様な危機に際する政府としての対応について頭の体操をさせておくことが有益である。現実に危機が生起した場合、このスタッフ機構は、現業に埋没することなく、広く政府の対応全般を俯瞰するとともにやや長期的な視点から対応に関して助言することが期待される。

(2)情報機能強化の前提としての情報保全体制の強化

情報保全体制を強化することは、日本全体として情報を収集・分析し、活用する上での基礎となる。このことは、日米同盟上も重要である。卓越した情報能力を持つ米国から提供される情報を有効に活用しつつ、日本として適切な意思決定を行うことにつながるからである。

政府内の各情報機関が持つ情報を共有するためには、各機関が相互に情報を提供する相手の情報保全体制を信頼することが前提である。また、行政府と立法府の間において、情報を共有する上でも保全体制は重要である。国会議員の秘密保護義務を明確にするとともに、国会において秘密の情報に基づいた議論を可能とするため、国会における非公開会議を開催すべきである。また、立法府として、日本全体の情報及び情報保全に関する政策を確実にフォローするためには、情報に関する委員会を常設することも必要である。

政府横断的な対応であるが故に責任の所在を明確にしなければならない。例えば内閣官房副長官の下に、プロジェクトチームを設け、政府全体としての取り組み、関連各省庁において個別に取り組むべき事項、法的措置、行政措置、情報共有及び情報保全のためのハード・ソフト整備に関する事業などを早急に洗い出すとともに、これら措置の所掌を明らかにして、遅滞なく実行に移していかなければならない。

(3)情報通信態勢に関する意識の強化

東日本大震災対処で明らかになったことのひとつは、情報通信インフラの脆弱性であった。携帯電話などの通信インフラの破壊は、被災者の生活に大きな影響を及ぼしただけでなく、政府対策本部、現地対策本部、現地救援機関及び被災した市町村などの間の情報共有や指示・要請の伝達を困難にした。大規模災害や武力攻撃に際して、情報通信インフラに対するダメージを予測した上で、これを補完する態勢を整えておくべきである。防災無線網の活用、衛星通信による応急復旧、機動的な情報通信ノード(通信端末)によるネットワークの補強などの方策を講じておくべきである。また、自衛隊が構築する作戦用通信ネットワークを活用することも検討すべきである。特に首都直下型地震や東海・東南海地震に関しては、政府としての情報通信機能に対する被害が想定されることから、特別の配慮が必要である。政府首脳の意思決定に必要な情報集約や関係機関に対する指揮監督のために必要な機能を確保するため、政府としての情報通信ネットワークをバックアップし、あるいは通信インフラを臨時に再構成し、また、必要に応じて官邸を含めた政府機能を一時移転することなどの対策を予め検討し、予行しておくことが重要である。

提言2 日米同盟を維持強化する努力を続けるべきである

日米同盟が強固であることを国際社会に示すことができれば侵略を抑止する効果は大きい。この点、東日本大震災対処に際して米国が惜しみない協力姿勢を示したことを奇貨とすべきである。特に、原発対応を含めた震災後復旧・復興に際して日米両国が緊密に協力して、国際社会の信頼を回復できるか否かという点は、同盟の将来にとって極めて重要である。

普天間基地機能の辺野古地区への移転を含む在沖縄再編関連事業が、沖縄の負担を軽減する上で有益であり、かつ不可欠であるとの認識を広く共有することが第一である。同時に、嘉手納以南から基地が移転した後の跡地利用を含め、沖縄の社会・経済の将来展望を力強く描くことが重要である。

なお、朝鮮半島をめぐる問題をはじめとして、我が国周辺における情勢は予断を許さず、いわゆる伝統的軍事安全保障に関する配慮を欠いてはならない。日米同盟に関しても、かかる観点から、特に共通の戦略目標に関する議論を深めるとともに、共同作戦計画の策定や共同訓練に関する分野での施策を強力に推進していくことが緊要である。

提言3 平和創造国家を目指し、アジア太平洋地域の安全保障協力の増進と国際的な平和協力活動に積極的に取り組むべきである

新大綱の特色のひとつは、二国間・多国間の安全保障協力を重要視している点にある。とくに、アジア太平洋地域野安全保障環境の一層の安定化を我が国の安全保障の目標に初めて掲げ、地域雄安全保障に取り組むことを謳っている。2011年3月11日の東日本大震災は、「失われた10年」以来ともすれば内向きになりがちな日本人を覚醒させるものであった。同盟国である米国、中国、韓国などの近隣諸国をはじめとして、世界各国から差しのべられた援助の手を目の当たりにした日本国民として、自らが国際社会の一員であるということを思い起こさずにはいられなかったからである。また、これらの支援の背景に、震災の打撃を受けた後も、なお世界の主要国であり、依然として世界第3位の経済である日本に対する期待があることも読み取れたはずである。日本として、着実に復興することを通じて世界経済に対して寄与すると同時に、震災に際して各国から寄せられた支援に対しては、真摯な姿勢で応えなければならない。

菅首相は、日本のODAが一時的に減ることはやむを得ないとしても、復興後は現在よりも大幅に増額して世界に貢献したいとの意思を示した。だが、国際社会における日本の存在感と発言力を確保するためにも、日本の行動は急がれる。日本政府は、ODAに限らず、国際平和活動や国際災害救援活動への人的貢献を含めて、復興との両立を可能な限り図りつつ、この理念の実践を急ぐべきである。

これまでの防衛大綱は、我が国の防衛と国際貢献については目標に掲げていたものの、地域の安全保障については言及すらしていなかった。冷戦終結後の20年間アジア太平洋の安全保障環境が悪化していることと日本の地域安全保障に対する消極的な姿勢は無関係ではない。今後は、この反省に立って、地域の安定化に向けて積極的に取り組むべきである。地域協力や防衛交流の促進は、防衛力の強化と相まって我が国の安全保障・防衛の両輪をなす重要な施策であるとの認識を広く共有し、積極的に活動するとともに十分な予算措置を講じる必要がある。日本が地域の主要国として、率先して、2国間並びに多国間の防衛協力枠組みの制度化を促進し、多層的な協力体制を構築していくべきである。具体的には、日米同盟とASEAN地域フォーラム(ARF)などの連携を強化するとともに、日韓、日豪の連携を強化して地域のネットワーク化を進める。2国間防衛交流を進めるとともに、日米韓、日米豪、日米中など3カ国、多国間の協力枠組みの制度化を促進し、地域内のルールづくりにも関与していくことが重要である。地域の国々と連携して活動を行っていく一方で、東南アジア諸国等の能力向上の支援(キャパシティ・ビルディング)を積極的に行うべきである。地域外の国際協力活動に参加する際も、地域内の国との協力強化を念頭に活動するなど、地域戦略に基づいた取り組みが必要である。

国際テロ、海賊行為、大量破壊兵器の拡散、パンデミック(爆発的な感染症)などの温床となり得る世界の貧困地における開発支援活動とそのベースとなる治安維持活動の必要性が増しつつあり、日本がこれらの活動に積極的に関与することに対する国際社会の期待は大きい。また、国際的な災害救難活動においても軍隊の役割に対する期待は高まっている。東日本大震災後、自衛隊は、全要員の半分近くにあたる10万人以上を投入し、被災地や福島第一原発でさまざまな救援活動に従事した。また、米軍は、自衛隊の活動を支援するために、最大で人員約2万4千人、空母を含む艦船約24隻、軍用機約190機を投入して「トモダチ作戦」を遂行した。日米によるこうした活動は、国際災害救難活動における軍隊の役割の不可欠性を、軍事組織の非軍事的活用に慎重な日本人に対して実践により証明してみせた。

国際平和への貢献は、既に自衛隊の本来任務となっている。政府は、この分野での自衛隊の活動を活発化させるために、震災からの復興が完了することを待たずに、可能な限り予算と人員を確保すべきである。

提言4 より動的な防衛力を目指すために以下の施策を講じるべきである

(1)防衛力の緊急展開能力(拠点と機動展開能力)の強化

防衛力を動的なものとするためには、予め部隊展開の拠点となり得る基地・駐屯地を配置しておくこと、また、必要な拠点を緊急に開設する能力を保有することが重要である。その上で、部隊や補給品を輸送する航空・海上輸送力ならびに輸送を可能とする海上・航空優勢獲得能力を保有することが必要である。自衛隊は、東日本大震災に対応するために10万6千人の部隊を東北地方に集中したが、これを可能にしたのは、被災地近傍に網状に所在した駐屯地・基地である。陸上自衛隊の駐屯地(岩手、仙台、福島、郡山など)、海上・航空自衛隊の基地(八戸、松島など)は部隊活動の拠点となり、全国から集中する部隊を収容するとともに、さらに前方で活動する部隊の後方支援基地として機能した。

一方、米軍は、第7艦隊に所属する艦艇を支援拠点として活用するとともに、被災して麻痺状態にあった仙台空港の機能を速やかに復旧して後方支援基地として使用し、救援活動に任ずる部隊を支援した。米軍は、まずC-130輸送機が着陸できる最低限の滑走路(1,500m)を回復した後、C-130輸送機によって重機材を搬入して、3,000m級の滑走路を含め、航空基地としての最低限の機能を復活させた。その上で、航空管制や輸送端末地業務に必要な支援部隊約260名を配置して、被災地に対する救援物資および米軍部隊に対する補給物資の空輸基地とした。

現在、配備が薄い南西地域などの島嶼部に対する緊急展開能力は、拠点となり得る駐屯地、基地を配置するとともに、米軍が仙台で行ったように、インフラストラクチャーが不十分な地域に拠点を開設して運営する能力を整備する必要がある。

(2)複合事態に関するケース・スタディ

新大綱は、?周辺海空域の安全確保、?島嶼部に対する攻撃への対応、?サイバー攻撃への対応、?ゲリラや特殊部隊による攻撃への対応、?弾道ミサイル攻撃への対応などが連続的に、あるいは同時に生起するケースを想定して、複合事態に対応する態勢を整備すべきであると指摘している。有事に備える上で、このような複合事態に対処するケース・スタディを行っておくことは極めて有用である。考え得る範囲で最も困難なシナリオを前提として、自衛隊及び関係諸機関の対応と連携の要領を予め検討しておくとともに、各機関の能力にどの程度期待できるのか(逆にいえば能力の限界あるいは改善すべき問題点)を明らかにしておくことができるからである。また、これによって、具体的な対処計画策定の基礎を得るとともに、被害に関する予測(及び許容すべき被害の程度)に関する腹案を持つことができる。さらに、危機に際する対応策を予め準備しておくことで、意思決定が迅速になり、結果として、対応そのものが早くなることから、防衛力の動的な特性を助長することにもつながる。

たとえば、朝鮮半島をめぐる危機のシナリオについて検討しておくことには意味がある。休戦協定が破られる形で南北の戦争が再開することも考えられるし、北朝鮮国内でなんらかの内乱状態が別個に、もしくは戦争と同時に起こることも考えられる。このような事態になれば、半島から大量の難民が日本海経由で漂着することもありうる。また、韓国内にいる多数の邦人救出も行わなければならない。これと同時に、「周辺事態」として、米軍に対する援助作業も行われることになる。また、ミサイル攻撃、特殊作戦部隊等によるテロ、サイバー攻撃などへの備えも同時に行われなければならない。

このような状態になった場合に、複数の周辺国と連絡を取りつつ、国内の関係諸機関と自衛隊、海上保安庁などの動きを一元的に把握し、的確な情報管理、迅速な意思決定と指示を行い、それが必要な現場に到達するように、態勢を整えておかねばならない。このような事態のそれぞれ個別の対処は、法的整備が行われ、訓練、演習等が行われているものもあるが、それらが同時、もしくは時差を持って重なり合うような事態への対処が、早急に求められている。

提言5 新たな武器輸出規制政策を適用すべきである

新大綱では、武器輸出三原則等の見直しを明記するには至らなかった。しかし、「? 防衛力の能力発揮のための基盤」において、先進諸国の主流である国際共同開発・生産に参加することにより装備品の高性能化、コスト高騰に対応することが可能であるとして、「このような大きな変化に対応するための方策について検討する」と三原則等緩和の必要性自体には言及した。

「武器輸出三原則」は、冷戦期の西側諸国の結束を示す政策の一環であったが、「武器輸出三原則等」により、当初の政策の射程範囲が大きく変更された。冷戦期においても、その維持は困難で、昭和58(1983)年の対米武器技術供与以来、官房長官談話や関係省庁了解に基づき、その例外化を実施してしのいできた。

冷戦終結後の20年間東アジアの安全保障環境が一貫して悪化し、また、防衛費の増加が困難な厳しい財政状況の中では、武器の国際共同開発・生産とともに、日米同盟の深化、地域協力の増進、国際貢献の強化が欠かせないことは明白である。その目的の障害となるのが武器輸出三原則等である。冷戦終結後、国連平和協力維持活動(PKO)、対人地雷除去活動、弾道ミサイル防衛(BMD)システム共同開発、対テロ活動や海賊対処関連活動等について例外化の措置を取ってきたが、政府が個別の事項につきその都度例外化措置をとることには限界がある。

最近では、平成22(2010)年に、BMDシステムのうち、日米が共同研究を行っていた艦載型戦闘指揮システムソフトウェアの共同開発が中止された事例を挙げることができる。平成22年にBMDシステムの欧州配備が決定されたため、米国は、日米が共同開発する上記ソフトウェアシステムの欧州売却を予定していた。しかし、現行政策上、それは、武器輸出三原則等の例外化措置が必要であり、日米の交換公文締結、日本の閣議決定を含む長期に亘る手続を経なければならない。米国は、長期に亘る煩瑣な手続を回避するため、単独開発に踏み切った。日本は、日米同盟を傷つけたのみならず、友好諸国の安全保障向上に貢献する機会、および軍用ソフト開発を通じて民生技術の水準を向上させる好機をも失ったことになる。

さらに、新大綱が示すようにPKO等の国際協力分野でより積極的になろうとすれば、たとえば途上国に対してPKO能力を付与するために武器を含む様々な装備を供与することも視野に入れる必要がある。このような点を考慮すれば、日本としての選択肢は限られている。最もわかりやすいのは、武器輸出三原則等の速やかな終了であろう。日本はすべての輸出管理レジームに参加する「ホワイト国」であり、欧米諸国に比肩する厳格な輸出管理法-「外国為替及び外国貿易法」(昭和24年法律大228号)(「外為法」)-に基づく「武器」輸出管理を実施する国である。本来は、国連決議と外為法、そして日本独自の制裁法に基づく武器や汎用品等の管理で、国際の平和と安全遵守に貢献するには十分であると考える。しかし、それでは指針として不明瞭ということであれば、新しく以下の原則に基づいて、武器輸出管理を行うべきであろう。

1. 平和国家の理念に基づき、国家として武器等の輸出・技術移転を厳しく管理・規制する。
2. 国際紛争の当事者(おそれのある場合を含む)に対する武器等の輸出・技術移転は行わない。
3. 人権侵害が行われている国・地域およびその当事者に対する武器等の輸出・技術移転は行わない。
4. 武器等の輸出禁止・制限に関する国連決議その他の国際取極に従う。
5. 人道的な目的での輸出・技術移転、他国の平和構築能力建設を助長するための輸出・技術移転、兵器の国際開発等の国際的な技術協力に関しては、1~4を踏まえて個別に判断する。



[注:この原則において、武器とは「その形状、属性等からもっぱら軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」をいい、「外国為替及び外国貿易法」(昭和24年12月1日法律第228号)の「輸出貿易管理令」(昭和24年12月1日政令第378号)別表第1の(1)の項に記載される貨物ならびに「外国為替令」(昭和55年10月11日政令第260号)別表の(1)の項に記載される武器に係る技術のうち、国連軍備登録制度の7つのカテゴリーの武器に小型武器(携帯式地対空ミサイルを含む)を加えた計8カテゴリーの通常兵器をいう。]