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日付
2010/3/4

東京財団ワシントンセミナー報告:日本の政権交代と日米同盟の行方(2)

2.防衛政策と政権交代




山口 昇・防衛大学校総合安全保障研究科教授
(東京財団安全保障研究プロジェクトリーダー)

防衛問題の専門家の登壇で基地問題への言及に期待を寄せる聴衆をよそに、山口昇・防衛大学教授は冒頭から「フテンマについては、もううんざりしているので話したくない」と会場を沸かせて本題に入った。
英語講演の再録動画はこちら


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長くて短い4カ月

 政権交代後の日本の防衛政策についてお話しする。私は、現在大学に籍をおいているので、今日は研究者としての私見を述べさせていただく。
 鳩山氏が総理大臣となってからほぼ4カ月。4カ月あればいろいろなことが十分できるといえるが、半面、何かをなすには短いともいえる。

 まずいろいろできる、という側面について。11月に行われた「事業仕分け」は、行政官にとっては恐ろしいものであった。というのも、これまで予算はすべて「closed room」で折衝されてきたからだ。それが公衆の面前で明らかにするスタイルとなった。その意味では、鳩山総理はこの4カ月で、民主党は新しいやり方で政治を進めていくのだ、ということをうまく国民に浸透させたと思う。

 しかし同時にこの4カ月は、多くの人々、特にワシントンと東京の両方で日米同盟を支えている人々を不安に陥れるのにも十分な時間だったといわねばならない。そしてこのことは、4カ月ではまだ何かをなすには短いと申し上げた部分にもつながっていく。
 どんな政権でも、発足後は落ち着くまでの時間が必要だ。長年野党だった民主党にとっては特にそうだ。官僚は、通常、政策情報を野党と共有したがらない。長らくそのような状況だったのだから、新政権が与党というものに順応していくのにはもう少し時間がかかると見るべきだろう。


スターターの骨

 普天間問題―。のどに刺さった骨のように気になる問題だ。昔、新婚旅行で長崎のしっぽく料理を食べたときのことを思い出す。しっぽくでは和洋中さまざまな料理が一度にテーブルに出てくるが、スターターとして食したスープに入っていた魚の骨がのどに刺さってしまった。メイン料理に行きつく以前に、のどの痛みで楽しめなかったという苦い思い出がある。

 現在の日米関係にも私はこの時と同じような感覚を持っている。日米同盟にはこれからなすべき多くのことが控えているのに、のどに刺さった骨のせいでそうしたメインディッシュにスムースに進めずにいるのである。

 日米両国は、民主党の公約にあるように、アフガニスタン問題で特に民生部門で協力していかねばならない。日本が本気でこのことに取り組むなら、米国としっかり協議しなくてはならないし、ソマリア沖の海賊問題についても同様だ。さらに民主党マニフェストでは、国連の平和維持活動(PKO)へのより積極的な参加も表明されている。スーダンやソマリアなどPKO活動は世界各地で展開されているが、中国が2000人近い規模で派遣しているのに対し、日本は50人に満たない。日本が米国と協力しながら国際社会に対してできることはまだまだいろいろある。


リアルな解決と理想の解決

 私は、こうした日米同盟によるメインディッシュの部分に早く進みたいと願っているが、当面は普天間が重要な政治課題となってしまった。日米同盟を扱う人々はみな、普天間問題には夢のような完璧な解決法はないということが分かっている。しかし、問題は、いわゆるニューカマー、つまり新たにこの問題に取り組むようになった人々が誰しも、ある種の理想的回答(マジックソリューション)を求めたがることだ。しかし、そのようなものは存在しないのである。この問題に完璧な解はないという事実を彼らが認識するには時間がかかるだろう。

 (自民党政権下で日米が合意した)現行案については、自分もかかわり相当な時間と労力を費やしたが、もし今もう一度同じことをせよと言われても「No」ということになるだろう。つまりそれほど莫大な協議と調整を、日米両国間のみならず、中央政府と地元自治体の間、日米の軍事・防衛関係者たちとの間で繰り返してきたということだ。それを思えば、民主党政権がこの件で現実的な認識を持つまでにはもっと時間がかかるだろう。しかし、この2カ月でずいぶん民主党も現実的な路線になってきているように思う。したがって全体的には私は日米の将来について悲観はしていない。

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 セミナーが行われた今年1月は、普天間問題が日米関係全般に影響を及ぼし始めた時期だけに、山口氏は丁寧かつ洒脱に日本の状況を解説し、最後もユーモアを交えて以下のように締めくくった。「私は現役時代ヘリコプター操縦士であったが、元来ヘリコプターパイロットというのは楽観的でなければできない。なぜか。昔、航空力学の教授がヘリは理論上飛ぶはずがないと言ったものだ。しかしその飛ぶはずがないヘリを私は40年間も飛ばしてきたのである。私は日米関係についても楽観視しているし、もし最悪の状態が来たとしてもその後は上昇あるのみ、前向きに考えている」。

 セミナーの聴衆の中には、現行案の詳細も、民主党連立政権内での力学も、日米安保条約が持つ非対称性とそこからくる互恵関係の微妙さをも、十分理解している専門家が多かった。それだけに、この場では普天間移転にかかわる具体的技術的トピックには入り込まずに、日米同盟に対する本質的な認識を再確認しようという雰囲気のようなものが、日米双方、そして、登壇者・参加者の双方で強く共有されていたと思う。この点については、山口氏が帰国後執筆した論考「日米同盟の管理をめぐるワシントンの『諦観』」が持つ危険」に詳しいのでぜひ参照されたい。




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       渡部恒雄・上席研究員兼外交安保問題担当政策研究ディレクター