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「ポスト円借款時代の日中関係マネージメント」 第4回研究会概要リポート

September 5, 2007

去る9月1日、第4回研究会が開催されました。第4回研究会は、「日中環境協力」について研究メンバーの染野憲治氏(環境省国民生活対策室長)の報告をもとに議論を深めました。以下にて概要を報告します。

日 時:2007年9月1日 9:00~11:30
場 所:東京財団会議室

報告概要

(1)中国の環境の状況

・大気汚染物質である二酸化硫黄(SO2)の排出量世界1位、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出量世界2位。
・全国七大水系(主要河川)のうち飲用に耐えるのは全体の41%、全体の27%は工業
・農業用にも利用できないほど汚染。
・国土の約3割が砂漠化・荒漠化。
・中国の環境保全投資は、現在GDP比約1%程度だが、環境汚染防止のためには、まずGDP比7%程度の初期投資と、その後に同2%程度の管理投資が必要との試算。

(2)日中環境協力の現状

・「日中環境保護協力協定」(94年締結)、「日中21世紀に向けた環境協力共同発表」(98年発出)、「日中環境保護協力共同声明」(07年発出)などの文章に基づき、協力を実施。

・代表的プロジェクトには「日中友好環境保全センター」(95年開所)、「日中環境モデル都市」などがあり、その他、「日中韓三カ国環境大臣会合」(99年より8回開催)や「環境と開発に関する中国国際協力委員会」などの地域協力枠組においてもプロジェクトを実施。

(3)ポスト円借款時代の展望

・日本では日中環境協力に対する必要性・方法・分野等のコンセンサスが未だない。
・日中間でも日中環境協力に対する方法・分野等のコンセンサスが未だない。
・このような状況での日本国内、日中間での議論はかみ合わないし、混乱しやすい。

(4)政策提言

・公害に苦しむ隣国への環境協力は激甚な公害を経験した日本としては責務である。

・また、中国の環境汚染の日本への影響(越境汚染問題)といった観点からだけでなく、中国の安定的で健全な発展は日本自身の安全・利益のためにも重要との観点から見ても、対中環境協力は、日本の国益に適うもの。

・中国は確かに既に目覚しい経済成長を遂げており、可能な限り環境問題には自力で対処すべきではあるが、問題は深刻かつ大規模であり、中国単独で全てを解決できる見込みは立たないと思われる。

・スキームとして、中国における環境投資の増加を扶助する仕組みが必要。また、それに伴い中国の制度整備が進むような働きかけが必要。例えば、環境資金供給を担う公的金融機関としての「公害防止事業団」設立に日本が協力(資金協力、専門家派遣等)してはどうか。

・中国のニーズがないプロジェクトの実施は効果が疑問。大気(酸性雨を含む)や廃棄物(リサイクルを含む)への協力は重要であり、さらに水質汚染・土壌汚染は越境性は低いが、輸出食品や中国在留邦人への影響にも鑑みれば、日本としても協力すべき分野。また、公害防止分野も併せて温室効果ガスの削減につながるものであれば、日本としてもベネフィットが得られる(コ・ベネフィットの考え)。

ディスカッションの概要

・中国は、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・砂漠化など、世界一流レベル(最低レベル)の各種環境汚染が揃っており、その意味で「環境汚染のデパート」と言える。

・日本の高度成長期における環境保全投資がGDP比約1%程度であり、現在の先進国でも1~2%程度の水準であるから、中国の環境保全投資が概ね1%という水準は見かけ上悪くはないが、むしろ、その投資の中身が問題である。環境保全投資として、いかなる投資項目を取り込んでいるか不明確であり、本当にGDP比1%水準の環境対策が行われているのかは疑問。

・中国の研究者ですら、GDP比2~3%の環境保全投資がなければ、現状維持すらできないと主張している者もいる。

・90年代の対中環境協力(ODA)は、「日中友好環境保全センター」にせよ「日中環境モデル都市」にせよ、日中両国の環境当局関係者を巻き込んだ技術協力で多年度にわたってフォローされていたので、きちんとした成果を出せた。しかし、2000年代に入ってからの円借款中心の環境プロジェクトは、案件数や援助額こそ多いが、環境当局の認知不足や日本の専門家が長期に入るようなスキームがないため、日本の環境協力としての印象が薄い。

・「土壌汚染は対日輸出農産物の安全のためにも協力すべき」という観点があるが、日本の農業関係者からは「中国の安い農産物が安全になることは、日本の農産物への脅威となる」という反論も起きかねず、敏感な論点。

・中国国内で環境問題への意識が高まらなければ、中国の環境汚染を本当に改善することはできない。そのためには、NGO支援や公衆の権利意識(環境権)の向上なども含めた環境教育や啓蒙活動など、長い目で見た意識改革の取り組みも必要。

(以  上)

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