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「農政改革を国民的議論に 〜農政フォーラムを終えて」

更新日:09/05/21

農政改革を国民的議論に 〜農政フォーラムを終えて


安井美沙子
東京財団政策研究部研究員


農政がやっと表舞台に出てきた――5月15日の東京財団フォーラムで会場の様子を眺めながら、私はそんな風に感じていた。東京財団で農政関係のイベントを実施したのは初めてだが、200名あまりの聴衆が、まさに身を乗り出すようにしてパネリスト達の話に聞き入っていた。


 


今ほど農政に一般国民の注目が集まったことはかつてない。農業といえばこれまでは、自民党・農協・農林水産省というトライアングルの中だけで議論が行われ数々の制度が作られてきた。肝心の生産者も消費者も置き去りのままだったのだから、多くの国民にとって農業が遠い存在であったとしても無理はない。

ところが、昨今の国際穀物相場の急騰や相次ぐ食品偽装問題や事故米等の事件を受け、食料安保や食の安全に対する国民の関心が高まるとともに、食の生産段階(すなわち農業)にも目が向き始めた。昨年末からの雇用不安を受けて、農業は新たに雇用の受け皿になるとの期待も高まった。

 理由はともあれ、農業にスポットライトが当たり始めたということは、農業を変えるチャンスが到来したということだ。石破大臣がフォーラムで、「農業がダメになったら日本はダメになる」と力強くおっしゃっていたが、今は幸いトップのコミットメントもある。農業は国民全体で真剣に考えるべき問題だ。農業に関係なくても、食に無関係で生きていける人はいないのだから。


減反の見直しと直接支払い
東京財団では日本の農業が抱える多くの課題の中から、まずは戦後農政を規定してきた最大の農業政策である高米価・減反政策に的を絞り、山下一仁上席研究員を中心に研究を進めてきた。なぜ、農地や農協などの問題より先に取り組んだか、その理由は3つある。

まずは、農地問題の方が真の改革の実現に時間が掛かること。日本では所有権絶対主義から私権を制限するための法律整備に大変な時間を要する可能性がある。また、農地の転用期待権を補償しなければならないという議論が出てくる可能性もある。

次に、減反を続ける以上、米農業の低収益は改善せず農地の耕作放棄が進展する可能性があること。改正農地法が今国会で成立したので、農地の規模拡大が少しは進むという観測もあるが、減反制度が残る限り、高収益の農業は実現できない。

最後に、経済が大不況に直面する中、保護貿易への戦いが喫緊の課題となっていること。わが国が貿易の自由化を進めようとすると農業が常に大きな壁となってきた。減反による高米価が是正されない限り、WTOやFTA交渉の進展は期待できない。

今回、フォーラムで報告した研究報告は次の通りである。

国際農産物市場は各国の政策によって左右される不安定な市場である。とくに食料価格が上昇すると各国とも輸出禁止等の手段に訴えて自国への食料供給を優先させる。食料安全保障とは、国際的な食料・農産物価格が高騰したり、海外から食料が来なくなったときに、どれだけ自国の農業資源を活用して国民に必要な食料を供給できるかという主張であるが、このとき農業生産に不可欠な農地資源が存在しなければ飢餓が生じる。しかし、高米価政策と減反政策によって、我が国の零細な農業構造が固定化され農業依存度の高い主業農家に悪い影響を与えたのみならず、国際競争力の低下、食料自給率の低下、食料安全保障に不可欠な農地資源の減少を招いてしまった。

減反(生産調整)という価格維持カルテルを段階的に廃止し、米価を需給均衡価格まで下げれば副業(兼業)農家は耕作を中止する。一方、一定規模以上の主業農家に耕作面積に応じた直接支払いを交付し、地代支払能力を補強すれば、農地は主業農家に集まり、コストは大きく下がる。国内の需給均衡価格が国際価格を下まわるようになれば、米を輸出することが可能になる。また、週末以外も農業に専念できる主業農家は農薬・化学肥料の投入を減らすので、環境にやさしい農業を実現できる。

農業を保護するかどうかが問題ではない。関税による価格支持か直接支払いか、いずれの政策を採るかが問題なのである。EUは先んじて農政改革を行い、WTO交渉に積極的に対応している。これまでどおりの農政を続け座して農業の衰亡を待つよりは、直接支払いによる構造改革に賭けるべきではないだろうか。


減反の見直しについて石破大臣は、「(今後、少子化・高齢化に伴い米の消費量が減るので補助金予算)2000億円を倍にしないと価格は維持できない。一気に廃止すると価格が下がる。その間に解がある。誰に払うか。どれが米の将来にとって一番いいのかという議論を進める必要がある」との見解を示された。生源寺先生のおっしゃる「選択制」がいいのか、民主党の戸別所得補償がいいのか、それとも条件不利な中山間地は別途、国土政策、或いは社会保障政策の一環としての補償を考えるのか――引き続き議論していく必要がある。

「食料自給力」の向上に向けて
但し、減反の見直しと直接支払いだけですべてが解決するわけではない。農家の高齢化、農業所得の半減、耕作放棄地の増大等、衰退しきった日本の農業を産業として強くするために何をすべきか。

「消費者も生産者もwin-winの関係になれる政策を作らなければいけない。生産者と有権者と正面に議論する。」と石破大臣は意欲的だ。確かに農業が低収益構造のままで担い手がいなくなり、農地資源が減少したら、食料安全保障は崩れる。「消費者の選択によって数字が変わる食料自給率を政策目標にすべきではない。自給率はシンボリックな政策目標であって、大事なのはむしろ自給力だ」との大臣のコメントには説得力がある。つまり、農地資源の減少を食い止めることが先決だということだ。

農地の問題は前述のように一筋縄ではいかないが、今後しばらくは農地法の更なる改正の方向性とゾーニング強化の可能性について検討していく予定である。また、今回発表した減反廃止と直接支払いに加えて、中山間地の取扱いについても方向性を示していきたいと考えている。

 ◆第25回 東京財団フォーラムの報告はこちら

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