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論考

コーク(Koch)兄弟についての考察 宮田智之

更新日:11/06/08

はじめに
 
カンザス州ウィチタには、エネルギー・コングロマリットのコーク・インダストリーズ(Koch Industries)がある。同社を経営するチャールズ・コーク(Charles Koch)とデイビッド・コーク(David Koch)の資産はそれぞれ二二〇億ドルに達し、二人は共に『フォーブス(Forbes)』誌の世界長者番付(二〇一一年版)の十八位に入っている*1

このように世界的にも大富豪のコーク兄弟は、現在、アメリカ政治を賑わす対象である。二〇一〇年夏のジェーン・メイヤー(Jane Mayer)による『ニューヨーカー(New Yorker)』誌の記事以降、リベラル派はティー・パーティー運動に資金を提供しているとの理由でコーク兄弟を執拗に攻撃している*2

確かにティー・パーティー運動の最大の特徴が明確な指導者不在であることを考えれば、こうしたリベラル派の批判はコーク兄弟の影響について過大評価していると言える。しかし、これほどまでにリベラル派が執着するコーク兄弟とは、果たしてどのような人物であるのか。本稿ではコーク兄弟の政治思想や保守派の政治インフラとの関係、そして最近の動向などについて明らかにしたい。

1 コーク一族の政治思想
(1)ジョン・バーチ協会とフレッド・コーク
コーク・インダストリーズは、オランダ系移民の息子であるフレッド・コーク(Fred Koch)により一九二七年に設立された。フレッド・コークは、効率的な石油精製プロセスの開発により注目を集めたものの、それを脅威と見なした国内の大企業が妨害を繰り返す。その結果、フレッド・コークは活躍の場を海外に求めざるを得なくなり、最終的にソ連に行き着くことになる。

スターリン(Joseph Stalin)支配のもと工業化を推進していたソ連において、フレッド・コークは、一九二九年から三年間、一五の石油精製所建設に携わる。このようにソ連はフレッド・コークに対して大きな経済的機会を提供したが、その一方で同国での体験はフレッド・コークの政治観に決定的な影響を及ぼす。後にフレッド・コーク自らが述べているように、ロシア人の同僚がソ連は世界の未来であると自信を持って語っている姿を見て、共産主義に対する激しい敵意を抱くようになる*3

フレッド・コークは、第二次大戦後も共産主義への敵意を堅持し、間もなく右翼団体ジョン・バーチ協会(John Birch Society)の創設メンバーとなる。ジョン・バーチ協会のメンバーは、共産主義者がアメリカ政府の中枢に浸透していると批判したが、フレッド・コークも同様の主張を行うとともに、ムッソリーニ(Benito Mussolini)によって共産主義者が徹底的に弾圧されたイタリアの過去を賞賛した。また、盛り上がりつつあった公民権運動を強く軽蔑し、アメリカを乗っ取る共産主義の計画において黒人が大きな位置を占めていると警告を発することさえあった*4

(2)リバタリアン党とコーク兄弟
一九六七年にフレッド・コークは、心臓病により世を去る。フレッド・コークは、二人の息子にコーク・インダストリーズという莫大な富を残しただけでなく、政治観においても多大な影響を及ぼした。

確かにコーク兄弟は父親のすべてを受け継いだ訳ではなく、チャールズ・コークはジョン・バーチ協会の一部に批判的な態度を示すこともあったとされる。しかし、父親の共産主義への敵意はコーク兄弟の中で政府に対する極度の不信感へと受け継がれ、ニューディールに始まる連邦政府の拡大という流れを自由への根本的な脅威であると考えるようになったのであった。

当然、このような思想は、F・A・ハイエク(Friedrich A. Hayek)にも通じるところがあった。実際、コーク兄弟は当時の多くの保守主義者と同様、中央政府による計画が全体主義に繋がると説いたハイエクの『隷属への道(The Road to Serfdom)』からも多くを吸収していたと言われている。また、コーク兄弟は企業家で、急進的な思想家でもあったロバート・ルフェーブル(Robert LeFevre)の信奉者でもあった。ロフェーブルはアナーキストという表現こそ嫌ったものの、国家の廃止を提唱する人物であり、一九五六年にコロラド州スプリングスにおいてフリーダム・スクール(Freedom School)という、小さな教育機関を設立した。ここは、ニューディールを恐ろしい過ちと見なす人々の溜まり場であったが、チャールズ・コークはフリーダム・スクールを財政的に支援したと言われている。

こうして、莫大な富を持つリバタリアンの兄弟が誕生する。一九七〇年代、コーク兄弟はコーク・インダストリーズを成長させる一方、誕生したばかりのリバタリアン党に入党し、熱心な党員として活動する。そして、一九八〇年大統領選挙ではデイビッド・コーク自身が同党副大統領候補に選ばれる。

順調に見えたリバタリアン党員としての活動であったが、1980年大統領選挙では人生で初めての大きな挫折を味わう。同年大統領選挙でリバタリアン党が得票率一パーセント足らずという惨敗を喫した事実に加え、選挙戦中、他陣営から徹底的な嫌がらせを受けたことで、コーク兄弟は純粋な政治活動に幻滅を抱くようになり、リバタリアン党からも離れる。しかし、大きな挫折を味わったものの、コーク兄弟は政治活動から完全に手を引いた訳ではなかった。すなわち、その後、二人はより広い意味での政治活動に一層のめり込んでいき、自らの財団を主体に自由市場や経済的自由を推進する活動を本格化させるようになる *5

2 コーク兄弟のフィランソロピー
(1)保守派の政治的インフラストラクチャーの支援
コーク兄弟は、チャールズ・コーク財団(Charles G. Koch Charitable Foundation)、デイビッド・コーク財団(David H. Koch Charitable Foundation)、クロード・ランブ財団(Claude R. Lambe Charitable Foundation)を所有しており、これら財団は合わせて、「コーク財団」ないしは「コーク家族財団」と呼ばれている。

一九七〇年代、保守派内部ではリベラル派に比して、アイディアを具体化するための「政治的インフラストラクチャー(以下、政治インフラ)」が脆弱であるとの危機感が広がる。これにいち早く応えたのが、サラ・スケイフ財団(Sarah Scaife Foundation)、ジョン・オーリン財団(John M. Olin Foundation)、リンド・ハリー・ブラッドレー財団(Lynde and Harry Bradley Foundation)、スミス・リチャードソン財団(Smith Richardson Foundation)をはじめとする、いわゆる「保守系財団」であった。過去三〇年余り、これら保守系財団は保守的政治原則を掲げる非営利団体に対し資金を投下してきたが、コーク財団も保守派の重要な「弾薬庫」であり続けてきた*6

アメリカの財団について注意を要するのは、財団は選挙活動等に従事する団体に資金を提供することはできないという点であり、その支援先は内国歳入法501(c)3項に属する非営利団体(以下、501(c)3団体)に限られる。501(c)3団体とは、所得への非課税措置や大口の寄付を期待できる寄付金控除資格など税制上の多くの特典が与えられる代わりに、選挙活動への関与が禁じられ、ロビー活動についても厳しい制約が課されている。シンクタンクや法曹団体、そして人材育成団体などの大半は、501(c)3団体である。要するに、保守系財団が奨励してきたのは、保守派の選挙活動などの支援ではなく、政策立案や人材育成といった保守派の「土壌」を育てることであった。一方、この501(c)3団体としばしば比較されるのが、501(c)4団体である。501(c)4団体は、所得税の免除のみが認められる代わりに、選挙への関与など広範な政治活動を展開できる *7

(2)コーク財団の支援団体
(ⅰ)シンクタンク
コーク財団は、主にリバタリアン的思想を掲げる団体を中心に資金を投下しているが、このコーク財団の資金により成長したのがケイトー研究所(Cato Institute)である。

一九七〇年代半ば、コーク兄弟は同じくリバタリアン党員として活動していたエドワード・クレーン(Edward H. Crane)と交流を持ち、クレーンによるケイトー研究所の創設に協力する。その後も、ケイトー研究所はコーク財団の莫大な支援を受け続け、リバタリアン系シンクタンクとして台頭していくことになる *8

コーク財団は、ヘリテージ財団(Heritage Foundation)、マンハッタン政策研究所(Manhattan Institute for Policy Research)、競争力企業研究所(Competitive Enterprise Institute)、理性財団(Reason Foundation)などの保守系シンクタンクも長年支援している。また、一九八〇年代半ば頃から、各州で保守系シンクタンクが相次いで設立されていくが、コーク財団はアメリカ立法交流評議会(American Legislative Exchange Council)やステート・ポリシー・ネットワーク(State Policy Network)などへの支援を通して、州レベルの保守系シンクタンク台頭を支援している*9

こうした中で、近年、シンクタンクをめぐるコーク財団の支援において最も注目されるのが、ジョージ・メイソン大学にあるマルカタス・センター(Mercatus Center)である。マルカタス・センターは、ケイトー研究所やヘリテージ財団などに比べると知名度こそ低いものの、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)政権の経済政策に影響を及ぼしたシンクタンクの一つであり、『ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)』紙によると、同政権が削減対象とした規制の多くはマルカタス・センター所属の研究員により提案されたものであった。

このマルカタス・センターは、コーク財団と一体化した組織と言っても良い。そもそも同センター創設者のリチャード・フィンク(Richard H. Fink)は、コーク兄弟の右腕と呼ぶべき存在である。経済学者のフィンクは、若い頃よりコーク兄弟の支援を受け、現在はコーク財団及びコーク・インダストリーズの幹部も務めている*10

【コーク財団が支援する主な団体】
(出典:チャールズ・コーク財団の年次報告書、デイビッド・コーク財団の年次報告書、クロード・ランブ財団の年次報告書)

(ⅱ)人材育成及び大学関連
コーク財団は、人材育成を目的とした活動にも力を入れており、一九六〇年代にコーネル大学の経済学者F・A・ハーパー(F.A. Harper)が立ち上げ、現在はジョージ・メイソン大学にあるインスティテュート・フォー・ヒューメイン・スタディーズ(Institute for Humane Studies)を支援している。同スタディーズは、学部生や大学院生を対象とした市場メカニズム重視の講座を設けていることで有名である。また、コーク財団は、「コーク・アソシエイト・プログラム(Koch Associate Program)」を独自に実施している。同プログラムは、大学を卒業したばかりの若者に「パートナー団体」でのインターンシップを提供しているが、当然のことながら、そうしたパートナー団体はケイトー研究所などコーク財団の資金を受けている団体である*11

また上記の個別のプログラムの他に、全米各地の大学への寄付も活発に行っており、その恩恵を最も受けているのがマルカタス・センターなどの例からも明らかなように、ジョージ・メイソン大学である。なお、同大学の財団(George Mason University Foundation)のメンバーの中に、ナンシー・フォーテンハウアー(Nancy M. Pfotenhauer)という人物がいる。フォーテンハウアーは、インディペンデント・ウィメンズ・フォーラム(Independent Women’s Forum)を立ち上げた後、二〇〇八年大統領選挙ではジョン・マケイン(John McCain)共和党候補の上級顧問として活躍したが、コーク・インダストリーズのロビイストであった経歴もあり、元々コーク兄弟と関係の深い人物である*12

(ⅲ)法曹団体
コーク財団は、司法の場で既存のリベラルな政策を後退させるため、保守系法曹団体への支援を積極的に行っており、フェデラリスト協会(Federalist Society)やワシントン法律財団(Washington Legal Foundation)といった団体を長年支援している。また、ここ数年は資金を提供していない模様だが、著名な保守系弁護士であるクリント・ボーリック(Clint Bolick)のインスティテュート・フォー・ジャスティス(Institute for Justice)を援助していたこともある *13

3 ブッシュ、オバマ両政権下のコーク兄弟の動き
(1)ブッシュ政権への危機感
コーク兄弟は、リバタリアン党時代の挫折を経て財団を主体とした活動に取り組んだが、こうした活動が他の保守系財団とともに保守派の政治インフラの拡大に貢献したことは、最近のリベラル系フィランソロピストの動向を見れば明らかである。現在、ジョージ・ソロス(George Soros)らリベラル系フィランソロピスト達は、保守系財団の「成功」をモデルにリベラルの政治インフラ拡大を目的とした戦略的投資を盛んに行っている*14

しかし、興味深いことにコーク兄弟は本格的な保守政権であるはずのブッシュ政権下で財団活動の限界を痛感するようになる。すなわち、共和党政権においてもイラク戦争をはじめ財政的に無責任な政策が推進されていく状況に危機感を抱き、保守派の政治インフラの支援のみでは自由市場や経済的自由は保証されないと考えるようになる。

(2)コーク会合とAFPの立ち上げ
ブッシュ政権に対する危機感を抱く中で、コーク兄弟は保守派の政治インフラの支援に加え、エリート層の結集と草の根レベルの運動の立て直しという、新たな活動を始める。まず前者については、「コーク会合」という場を設けることで、自由市場の重要性を理解する企業家やフィランソロピストの組織化を目指していく。

二〇〇三年に始まったコーク会合は、完全非公開である。コーク兄弟の招待を受けた企業家やフィランソロピストのみが出席でき、出席者は数日間にわたり著名な保守主義者の講演を聞く。そして、会合の終わりに出席者は保守系団体への資金提供を約束すると言われている。ある出席者は、こうしたコーク兄弟の資金調達の巧さを称え、ユダヤ系ロビーのアメリカ・イスラエル公共問題委員会(American Israel Public Affairs Committee)にほぼ匹敵する水準だと述べている。ともかく、出席者の数は初回こそ十五名にとどまったが、第二期ブッシュ政権において徐々に拡大していき、会合自体も間もなく年二回開催されるようになる*15

コーク会合の開始とほぼ時を同じくして、コーク兄弟が手を入れたのが草の根レベルの運動の立て直しであり、経済のための市民の会(Citizens for a Sound Economy,以下CSE)の改革であった。CSEは、ケイトー研究所などと並び、コーク財団の莫大な資金を受けてきた団体であり、「より小さな政府、より低い税金、より少ない規制」を目標に掲げた。そして、右目標の実現のためには庶民を巻き込む必要があるとし、草の根レベルでの会員拡大を重視した。このCSEの影響力が広く知られるところとなったのが、ビル・クリントン(Bill Clinton)政権によるエネルギー税提案が葬り去られた時である。CSEは草の根レベルの動員力を生かして、連邦議会の前で反エネルギー税集会を繰り返し、これを廃案に追い込むことに成功する。

しかし、二〇〇三年頃、CSEは深刻な内部対立に見舞われ、団体としての活動が停滞する。そこでコーク兄弟は、CSEの一部を切り離し、501(c)4団体の繁栄のためのアメリカ人の会(Americans for Prosperity, 以下AFP)と、姉妹団体の501(c)3団体の繁栄のためのアメリカ人の会財団(Americans for Prosperity Foundation, 以下AFP財団)を創設し、会長にティム・フィリップス(Tim Phillips)という人物を据える。ただし、名称が変わったとはいえ、CSEの基本的な路線は受け継がれ、501(c)4団体のAFPが中心となり、草の根レベルでの会員拡大を目指している。

今日、AFPはティー・パーティー運動の主要団体の一つと考えられているが、このAFPと並んで、ティー・パーティー運動を支えるディック・アーミー(Dick Armey)元下院共和党院内総務(テキサス)のフリーダムワークス(FreedomWorks)もCSEを起源としている。フリーダムワークスは、CSEの残りのグループがジャック・ケンプ(Jack Kemp)のエンパワー・アメリカ(Empower America)と合併して生まれたものである*16

(2)オバマ政権への敵対心
コーク兄弟は、ブッシュ政権の「失敗」がオバマ(Barack Obama)大統領を生んだと極めて冷静に受け止め、イラク・アフガニスタン戦争や折からの金融危機により希望と変革を約束した若い政治家に期待感が集まったのは決して不自然ではないと考えた。

しかし、オバマ政権の誕生を冷静に受け止めたとはいっても、同政権に対するコーク兄弟の評価は前政権よりはるかに厳しく、それは敵対心と言っても良い。オバマ大統領について、チャールズ・コークは、「マルクス主義者と呼ぶつもりはないが、マルクス・モデルの一部を内面化している」と述べ、デイビッド・コークは「史上最も急進的な大統領である。これまでのいかなる大統領よりも自由市場のシステムや長期的な繁栄に対し多くの損害をもたらしている」と語っている。このような敵対心から二人は、オバマ政権の動きを何としてでも阻止しなければならないという信念を有している*17

コーク兄弟の敵対心は、政権発足直後から具体的な形となって現れる。「コーク兄弟によって細部に至るまで管理されている」という指摘があるほど、二人の意向を反映するAFPは、オバマ政権発足直後の大型景気刺激策に反対したのに続き、同政権が医療保険改革に本腰を入れ始めると、ペイシェンツ・ユナイテッド・ナウ(Patients United Now)という団体を結成し、三〇〇以上もの反対集会を各地で組織する。そして医療保険改革が大詰めを迎えた二〇一〇年三月には、連邦議会の前で「法案を潰せ」という大規模反対集会を開いている。またAFPは、オバマ政権のもう一つの優先課題である気候変動対策に対しても強硬に反対し、これまでに八〇回余りの反対集会を行っているが、会長のフィリップスに至っては、二〇〇九年一二月にコペンハーゲンで国連気候変動枠組み条約会合が行われた際、現地にまで赴き反対の声を上げている*18

これらAFPの一連の動きはCSEの路線を受け継いでいる証でもあり、クリントン政権のエネルギー税案に抵抗したCSEの動きを思い出させるが、AFPに対しコーク兄弟がどの程度の資金を提供しているか正確に把握することは困難である。501(c)4団体のAFPは姉妹団体として501(c)3団体のAFP財団を抱えているが、そもそも、法律上501(c)4団体や501(c)3団体には寄付者の氏名や寄付額について公表する義務はない。このような中で、コーク兄弟の資金をめぐり唯一追跡できるのは、コーク財団から501(c)3団体のAFP財団に流れている資金のみである。上記のとおり、財団の資金提供先は501(c)3団体に限られるが、個々の501(c)3団体への助成額は毎年財団が内国歳入庁(IRS)に提出する年次報告書の中で知ることができる。そこで、二〇〇五年から二〇〇九年までのコーク財団の年次報告書を見ると、コーク財団からAFP財団に流れている資金は、四六〇万ドル余りに達している。しかし、コーク兄弟の力の入れようを考えれば右額が全てとは到底言えず、二人の個人的寄付やコーク会合での出席者からの資金調達をはじめ、その他の経路による支援を含めれば、AFPやAFP財団に対する支援はかなりの額に達すると思われる*19

4 リベラル派の集中砲火とコーク兄弟
(1)コーク会合に関するリーク
ここのところ、リベラル派はコーク兄弟に対する攻撃が活発化させているが、実は二人に対するリベラル派の集中砲火が始まったのはつい最近の現象である。確かに、だいぶ以前よりリベラル派の一部はケイトー研究所やCSEなどの大口支援者であるコーク兄弟の動向を監視してきたが、リベラル派がコーク兄弟を日常的に攻撃するということはなかった。むしろ、かつては同じ保守系フィランソロピストでも、リベラル派の攻撃対象はリチャード・スケイフ(Richard Scaife)らであり、一九九〇年代にはクリントン大統領のスキャンダル探しを支えているとの理由でスケイフ叩きを盛んに行っていた*20

こうしたコーク兄弟を取り巻く状況は、二〇一〇年夏の『ニューヨーカー』誌上でのジェーン・メイヤーの記事を受けて一変する。メイヤーがコーク兄弟の家族構成からこれまでの活動、さらにはAFPへの深い関わりを詳しく分析した結果、リベラル派はコーク兄弟に執着するようになり、MSNBCのレイチェル・マドウ(Rachel Maddow)や『ニューヨーク・タイムズ(New York Times)』紙コラムニストのフランク・リッチ(Frank Rich)らが「ティー・パーティー運動を支える億万長者」という、コーク兄弟批判を一斉に開始する *21

そして、同年秋には、アメリカ進歩センター・アクション・ファンド(Center for American Progress Action Fund)のシンクプログレス(ThinkProgress)が、ついにコーク会合の詳細を暴露する。シンクプログレスは、翌年一月のコーク会合に関する招待状をホームページ上で公開したが、それは右会合に結集するコーク兄弟の豊富な人脈を世間にはじめて示すことになった。

招待状では、チャールズ・コークが作成した「我々でなければ誰が行動するのか。今でなければいつ行動するのか」という挨拶文とともに、付属資料として前回会合の出席者リストを掲載している。それによると、ジョン・チルズ(John Childs)、クリフ・アスネス(Cliff Asness)、スティーブン・シュワーツマン(Stephen Schwarzman)、ケン・グリフィン(Ken Griffin)といった金融業界の大物、アンシュッツ・エンターテイメント・グループ(Anschutz Entertainment Group)のフィル・アンシュッツ(Phil Anschutz)、アムウェイ社(Amway)創業者のリチャード・デボス(Richard DeVos)、ベクテル社(Bechtel Corporation)のスティーブン・ベクテル(Stephen Bechtel)、元大統領法律顧問(レーガン政権)のエドウィン・ミース(Edwin Meese)等、一五〇名の錚々たる人物が前回会合に出席している。これら出席者は、四日間にわたり、フォックス・ニュース(Fox News)のグレン・ベック(Glenn Beck)、アメリカン・エンタープライズ研究所(American Enterprise Institute)所長のアーサー・ブルックス(Arthur Brooks)ら著名な保守主義者の講演を聞いた模様である*22

現在においても、コーク兄弟をめぐるリベラル派の動きは続いている。二〇一一年二月には、コモン・コーズ(Common Cause)、グリーンピース(Greenpeace)、パブリック・シチズンズ(Public Citizens)、シンクプログレス、サーヴィス従業員国際労働組合(Service Employees International Union)の関係者がコーク兄弟に関する戦略会議を開き、その二ヶ月後にはシンクプログレスが二人に関する詳細な報告書を発表している*23

なお、こうしたリベラル派とともに、ホワイトハウスら民主党関係者もコーク兄弟の動向に神経を尖らせている。リベラル派のコーク兄弟批判が始まって間もなく、オースタン・グールズビー(AustanGoolsbee)大統領経済諮問委員(当時)がコーク・インダストリーズについて発言し、同社が法人税を回避している可能性があると示唆している。このグールズビー発言については共和党議員が猛反発したことで、その後、ホワイトハウスは失言であったと撤回しているが、少なくとも右エピソードはコーク兄弟がホワイトハウスの「要注意人物」リストに入っている証である *24

(2)コーク兄弟の反応
なぜ、リベラル派はこれほどまでにコーク兄弟に執着するようになったのか。それは、次の二つの理由があると思われる。一つは、コーク兄弟とAFP の関係を強調することで、ティー・パーティー運動の性格について自然発生的に生まれた庶民の運動ではなく、コーク兄弟らにより作られた運動であるという、否定的な印象を広めたいのであろう。もう一つは、コーク兄弟を徹底的に攻撃することにより、保守派内部で存在感を強めつつある二人を窮地に追い込みたいという思惑もあるかもしれない。

いずれにせよ、リベラル派の攻撃は、コーク兄弟にとって決して無視できるものではなく、二人は味方のメディアを活用しながら反撃を試みている。たとえば、保守系の『ウィークリー・スタンダード(Weekly Standard)』誌では、マシュー・コンティネッティ(Matthew Continetti)が「リベラル派政治の被害妄想」という長文記事を発表し、コーク兄弟に取り付かれているというリベラル派批判を行っている*25

同時に、リベラル派の攻撃により組織的に対応するため、コーク兄弟は危機管理コミュニケーション・チームを結成したとも言われている。この危機管理コミュニケーション・チームには、『ウィークリー・スタンダード』誌のマイケル・ゴールドファーブ(Michael Goldfarb)や、共和党有力議員の補佐官を歴任したロン・ボンジーン(Ron Bonjean)ら、コミュニケーションの専門家が入っている*26

むすび
 
反共主義者の父親の影響を受けて育ったコーク兄弟は、リバタリアン党という弱小政党での挫折を経て、まずは長年保守派の政治インフラの支援に取り組んだ。そして、ブッシュ政権に対する危機感からAFPやコーク会合を立ち上げたように、過去数年間で政治的アクティビズムを一層強めている。一方で、昨年以降、リベラル派はこうしたコーク兄弟への警戒心を強めており、二人に対する攻撃を繰り返している。

コーク兄弟が、今後もアメリカ政治を賑わす対象であり続けるのは間違いない。コーク兄弟の最大の目標はオバマ大統領の再選阻止であり、既に右目標に向けた活動が取沙汰されつつある。たとえば、『ポリティコ(Politico)』紙は、オバマ大統領の再選を阻止するためコーク兄弟がAFPなどに振り向ける資金として八八〇〇万ドルを用意する計画であり、既にコーク会合の出席者から四九〇〇万ドルの資金提供の約束を取り付けたと報じている。二〇一〇年中間選挙においてカール・ローブ(Karl Rove)の二つの団体(Crossroads GPS, American Crossroads)が七〇〇〇万ドルを調達し選挙情勢に多大な影響を及ぼしたことを振り返れば、八八〇〇万ドルというコーク兄弟の計画は物凄い数字である*27

本稿では言及しなかったが、最後に政治献金について簡単に触れると、近年コーク・インダストリーズの政治活動委員会であるコークPAC(Koch PAC)の支出が急増している事実も軽視できないであろう。コークPACの支出は一九九〇年の時点で皆無に等しかったが、二〇〇六年を境に急増し始め、二〇一〇年中間選挙では110万ドルを共和党候補にばらまいている *28

これまでの活動を振り返れば、コーク兄弟は長年続けてきたケイトー研究所やマルカタス・センターなどへの支援により自由市場を擁護する政策の専門家を鍛え上げながら、草の根レベルを盛り上げるAFPなどへの支援、さらにはコークPACによる政治献金など様々な方策を駆使してオバマ大統領の再選阻止を目指してくることは確実である。そして、この二人の兄弟に対して、リベラル派が一層攻撃の手を強めてくることも容易に想像できる。


*1:(http://www.forbes.com/wealth/billionaires#p_2_s_arank_-1__-1),accessed on April 29, 2011.
*2:Jane Mayer,“Covert Operations: The Billionaire Brothers who are waging a war against Obama,” The New Yorker, August 30, 2010.
*3:Matthew Continetti, “The Paranoid Style in Liberal Politics: Left’s Obsession with the Koch brothers,” The Weekly Standard, April 4, 2011.
*4:Mayer, “Covert Operatios.”
*5:Ibid.,; Charlotte Curtis, “Man Without a Candidate,” TheNew York Times, October 16, 1984.
*6:宮田智之「政治インフラの形成と財団」久保文明編『アメリカ政治を支えるものー政治的インフラストラクチャーの研究』(日本国際問題研究所、二〇一〇年)一九—四二頁。
*7:阿部斉・久保文明『国際社会研究Ⅰアメリカの政治』(放送大学教育振興会、二〇〇二年)一五三—一五四頁。
*8:Shawn Zeller,“Libertarian to the Core,” The National Journal, May 4, 2002.
*9:チャールズ・コーク財団(Charles G. Koch Charitable Foundation)の年次報告書(二〇〇二年から二〇〇九年まで)、デイビッド・コーク財団(David H. Koch Charitable Foundation)の年次報告書(二〇〇二年から二〇〇九年まで)、クロード・ランブ財団(Claude R. Lambe Charitable Foundation)の年次報告書(二〇〇二年から二〇〇九年まで)。年次報告書は、助成財団の情報を収集している財団センター(Foundation Center)のホームページにおいて入手可能である。(http://foundationcenter.org/findfunders/),accessed on April 29, 2011.
*10:Mayer, “Covert Operations.” ; Shawn Zeller, “Free Market Crusaders,” TheNational Journal, January 11, 2003.
*11:Sally Covington, Moving a Public Policy Agenda: The Strategic Philanthropy of Conservative Foundations (Washington D.C.; National Committee for Responsive Philanthropy, 1997) p.9; (http://www.philanthropyroundtable.org/article.asp?article=1526&cat=141),accessed on April 29, 2011.
*12:チャールズ・コーク財団の年次報告書、デイビッド・コーク財団の年次報告書、クロード・ランブ財団の年次報告書;(http://www.gmu.edu/depts/development/volunteer-leadership/boardvisitors.html),accessed on April 29, 2011.
*13:チャールズ・コーク財団の年次報告書、デイビッド・コーク財団の年次報告書、クロード・ランブ財団の年次報告書; People for the American Way, Buying a Movement: Right-Wings Foundations and American Politics (Washington D.C.; People for the American Way, 1996) pp.17-18.
*14:宮田、「政治インフラの形成と財団」
*15:Continetti, “The Paranoid Style in the Liberal Politics.”
*16:Mayer, “ Covert Operations.”;(http://www.alternet.org/news/148598/tea_party_inc.%3A_the_big_money_and_powerful_elites_behind_the_right_wing's_latest_uprising/),accessed on April 29, 2011.
*17:Continetti, “The Paranoid Style in the Liberal Politics,”
*18:Mayer, “Covert Operations.”
*19:チャールズ・コーク財団の年次報告書、デイビッド・コーク財団の年次報告書、クロード・ランブ財団の年次報告書。
*20:Robert G. Kaizer and Ira Chinoy, “Scaife : Funding Father for the Right,” The Washington Post , May 2, 1999.
*21:Frank Rich, “The Billionaires Bankrolling Tea Party,” The New York Times, August 28, 2010.
*22:(http://images2.americanprogressaction.org/ThinkProgress/secretkochmeeting.pdf),accessd on April 29, 2011.; Kate Zernike, “Secretive Republican Donors Are Planning Ahead,” The New York Times, October 19, 2010.
*23:Kenneth P. Vogel, “The Battle to define the Koch brothers,” Politico, March 28, 2011.; Tony Carrk, The Koch Brothers: What You Need to Know about the Financiers of the Radical Right, (Washington D.C.: Center for American Progress Action Fund, 2011)
*24:Kenneth P. Vogel, “The Kochs fight back,” Politico, February 2, 2011.; Glenn Thrush, “Treasury analyzes Goolsbee remark,” Politico, October 6, 2010.
*25:Continetti, “The Paranoid Style in the Liberal Politics.”
*26:Vogel,“The Kochs fight back.”
*27:Kenneth P. Vogel and Ben Smith, “Koch’s plan for 2012: raise $88M,” Politico, February 11,2011.
*28:(http://www.opensecrets.org/pacs/lookup2.php?strID=C00236489),accessed on April 29, 2011.

■宮田智之: 東京大学アメリカ太平洋地域研究センター助教
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