タイプ
その他
日付
2007/11/14

第2弾「札幌八行」(硬粒種とうもろこし)(1/5)



「食のたからもの取材レポート」第二弾は、「札幌八行(硬粒種とうもろこし)」を取り上げます。明治以来、北海道の開拓事業を支えた主要作物として、また観光の火付け役として、大きな役割を果たしてきたとうもろこし。しかし、今やその生産量は激減し、ほぼ100%を輸入に頼るようになってきています。生産状況の変化とその背景について、北海道出身の農村ライター・長尾道子氏が取材しました。


――――――――― <目次> ―――――――――
1.なぜ、たからものなのか
2.どうやって作られているのか

3.どこに残っているのか

4.人物ファイル/5.どこで味わい、買うことができるのか
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■English Version→  Eight-Rowed Corn


1.なぜ、たからものなのか(歴史的背景と危機的状況、他の在来種との比較)



開拓を支えたとうもろこし

 とうもろこしの起源に関しては、出現場所によって大きく年代が異なるが、その中心地とされている中央アメリカやメキシコ南部、南米ペルー、ボリビア、グアテマラなどでは、紀元前から人々の食料として栽培されてきた。しかも人工交配などの技術まで得ていたとされ、コロンブスが1492年に新大陸に上陸したときには、北はカナダから南はチリ南部まで、すでに200~300の在来的な品種が存在したと言われている。
とうもろこしが日本に最初に入ってきたのは16世紀、ポルトガル人によってとされているが、本格的な栽培の始まりは明治初年に北海道開拓史がアメリカから導入したものと言われている。稲作のできない北の地で、主食ないし主食を支える穀物食材「かて」として栽培されていった。その頃北海道に入ってきた品種の中でも、北米型フリント種(硬粒種)の「札幌八行」及び「ロングフェロー」(以下、八列とうもろこしと記載)は、北海道の気候風土に適したものとして、明治38年に優良品種の認定を受けたものである。
明治25年、札幌市内の重延テルさんが自宅で栽培したものを繁華街まで持ち運び、火鉢で焼いて通り客に売ったのが、札幌・大通りの夏の風物詩「焼きとうもろこし」始まりと言われている。また、詩人・石川啄木が「しんとして幅廣き街の/秋の夜の/玉蜀黍の焼くるにほいよ」と詠ったのは明治41年。詩人の心を捉えたのは、札幌の繁華街に広がるとうもろこしの焼ける香ばしいにおい…。このとうもろこしはまさに八列とうもろこしのことである。八列とうもろこしは、食料としてだけでなく心情的にも北海道の開拓期を支えた貴重な作物なのだ。

 大正の終わりから昭和初期のころの食生活を聞き取りした「北海道の食事」によると、冬の昼食にはどこの家でもとうもろこし粥の鍋をストーブの上にかけ、家中がその香りで満ちていたとある。特に道東十勝地方は北海道でも寒さの厳しい地方。冷害多発地帯のために稲作は進まず、お米は購入するものであった。そのため、購入したお米をできるだけ食べのばすことがお母さんたちの大仕事だったのである。ご飯に加える「かて」としては、裸麦、大麦、いなきびなどをはじめ、じゃがいも、うずら豆や金時豆、とうもろこしなどがあったそうだが、ここで言うとうもろこしとは「八列とうもろこし」のこと。秋に収穫したものを軒下などに干して乾燥させ石臼などで挽き、粉状にしてお米に混ぜて「トウモロコシ粥」にして食したと、以前、十勝管内鹿追町で聞き取りした際に80代の女性が懐かしそうに話してくれた。

 北海道でもお米が作られるようになり、日本が豊かになったことで生産が途絶えてしまったかに見えた八列とうもろこし。開拓時代を経験した人々からは懐かしい思い出の味として、また、ほのかな甘みを持つこの品種を新たに愛する人が全道各地にいて、その人たちが強力なリピーターとなって、細々と生産・販売されてきた八列とうもろこし。この取り組みを知った北海道スローフードフレンズは、北海道の開拓に、また観光の火付け役としても貢献した八列とうもろこしを途絶えさせてはならぬと、現在生産している三笠市の及川農園と「札幌八行」について取り上げ、平成16年1月の北海道新聞にその活動が紹介された。その際には、一週間で100件以上の問い合わせがあり、そのほとんどが「種を手に入れるにはどうしたらよいか」というものであった。中には「あの味をもう一度味わって死にたい」、「病気の親が札幌八行を食べたがっています」というものもあり、改めて八列とうもろこしが北海道民の忘れられざる味として浸透していることがわかったのである。

 北海道の主食としての役割はほぼ終えたが、現在は様々な原料として重宝される重要な作物となっている穀物用とうもろこし(八列とうもろこしも含む)。残念ながら国内の生産は、ほぼないに等しい。農林水産省の統計(?とうもろこし)によると、ほぼ100%輸入に頼り、年間約1,600万トン強(世界の総生産量のほぼ3%、流通量のほぼ25%に相当する)を米国(9割以上)やアルゼンチンなどから輸入している。その量の3分の2は家畜飼料用に、3分の1はコーンスターチやブドウ糖や水飴などの原料(うち7割)として、蒸留酒やビールなどの発酵原料(うち3割)として使用されている。開拓から100有余年の間で自国生産はほぼ途絶えてしまったが、食スタイルの変化により、とうもろこしは姿を変えて私たちの食卓や生活に確実に浸透し、今や欠かせないものとなっているのである。