タイプ
その他
日付
2008/2/5

第8弾「在来大豆」(2/5)


2.若い活気を求める農村と、農的暮らしを求める都市の若者


全国には、300種とも言われる色も形も味もさまざまな地大豆が残っているという。だが、数年前まで、豆腐屋の店頭でも、国産大豆といえば、改良品種である九州のフクユタカ、東北のエンレイといった品種しか目にすることはなかった。各地で細々と守られてきた地大豆は、投機作物に夢中になる商社や大手問屋から黙殺され、ひっそり消えてゆこうとしていた。ところが、近年、この希少な地大豆が、その味わい深さ、香の良さから、ふたたび注目され始めている。

この地大豆を掲げ、自分の食べる大豆を自給しようと呼びかけるのが、NPO『トージバ』が主宰する『大豆レボリューション』。2004年に始めた頃は、集まる人も多くなかったが、次第に人数も増え、今や都市の若者を中心にした会員が200人、種蒔き、雑草とり、収穫、脱穀、味噌作りなど年間を通じて畑に通っている。

どれも、首都圏からの参加者が通えるくらいの距離にある大豆畑で、現在、受け入れ先になってくれているのは、千葉県香取郡神崎町の『こうざき自然塾』、東京三鷹市の『吉田農園』、代表の渡邉尚さんが始めた千葉県の『雑<ザッツ>農道場』。そして今回、同行した同じ千葉県の『みやもと山』斎藤さんである。都市化の狭間にぽつんと残された緑の農村で、33代めだという農家。母屋は築200年である。
駅前で待ち合わせをすると、参加者30人ほどのうち、七割が若い女性ばかりである。職業も、証券会社、IT関係、調理師、映画館のアルバイトといろいろ。IT関連だという20代の女性は、「週末、これに参加するのを楽しみに、何とかハードな仕事場を乗り切った」と言う。中には、近く、農業を始めたいという女性もいた。

大豆畑は一反ほど。育てているのは、小糸在来という地大豆で、味も香も豊かな大豆である。斎藤さんと古くからの付き合いである『大豆トラスト』の会員たちと、約20人との共同作業。『大豆トラスト』の会員は年齢層も少し高く、集合時間も早かったのが作業は終わりかけている。この日は、収穫だったが、素人とはいえ、斎藤さんや渡邉さんたちの指導のもと、50人近くで望めば2時間仕事。ただ、収穫そのものは、思ったより、ずっと大変だった。中には片手で抜けるものもあるが、湿った畑では、両手で引いてもなかなか抜けない。普段、都会暮らしでは使わない筋肉を使う。抜いた大豆は、膝で押しながら、ひもで束ね、よく乾燥させるために、4人がかりでぎゅうぎゅう押し固め、畑の中央に堆く積み上げる。

約1カ月後、一月中旬の底冷えのする日、今度は脱穀機にかける。集まったのは20人ほど。野積みにした大豆から、脱穀機の故障を防ぐため、太い根の部分を折って、脱穀機にかけると、緑がかった豆が袋に集まる。弾けて散らばった大豆も、虫食いなどは鳥に残して拾い集める。

年間行事の最後のイベントは、自分たちで育て、収穫した大豆で味噌作りだという。斎藤家の古い味噌蔵には、幾つもの味噌桶が並ぶ。
そして、斎藤家の集いのハイライトは、旧家の庭先で供されるおいしいバイキングの食事。地鶏に無農薬の野菜、米に大豆サラダ・・色どりも素材もいい昼食は、地ビールや地酒、オーガニックワインなどのアルコール別料金で、たったの500円。
「収穫の手伝いは助かるよ」と言うが、援農と呼ぶには農家の手間も相当なものである。そんな斎藤さんが、集まってくる若者たちに投げかける視線は暖かい。格差社会と囁かれる中、今の若者の労働環境は、農家が季節労働者として出稼ぎに出た時代より、待遇が悪いという。「そんな都会の若者たちに何か、ボクなりにできることはないかとね」。

『トージバ』の代表、渡邉尚さんも、念頭にあるのは農家の応援だけではない。かつて「満員電車に揺られて会社に通い、おかしくなりそうだった」という自身の経験から、しんどい都市の若者たちのために何かしたいと考えるようになり、「上司相手に冷や汗かくより、畑でいい汗かこう」と呼びかけた。都会に暮す若者たちも、日本の食を取り巻く騒動に漠たる不安を抱き、どこかで本能的に農のある暮らしを求めている。そんな彼らに、おいしいものを通じて人と交流し、一息つける場をつくろう。都会人のための湯治場のようなということで、始めた『トージバ』の活動、『大豆レボリューション』。大都市近郊の農家と農村に、若者たちが活気をもたらし、一方で、都市の若者たちは、農家との交流を通じて自分なりの農とのかかわり方を見つけていく。畑で尻餅をつき、泥だらけになって、参加者たちがはしゃいでいるところを見ると、人工空間に住む彼らには、大豆畑は、単純に癒しの場にもなっているようだ。
 
渡邉さんたちは、始めて5年だが、若者たちの変化を肌で感じている。来年からは、もう規模を大きくするのはやめて、同じような活動をしたいという各地のオファーに応えて、全国に地大豆作りを広げる手伝いをしたいという。