タイプ
その他
日付
2008/2/19

第9弾「麹」(2/5)


2.どこに残っているのか


さて、ひとことで「麹」と括られてはいるものの、この言葉が表すものは、微生物としての麹菌から、食材としての米麹や麦麹、豆麹までを含む場合があるので混乱を招きやすい。「麹」に関連する言葉をまずは整理する必要があるかと思われる。

●種麹=麹菌の種(胞子)のこと。麹菌は、湿気の多い東南アジアおよび東アジアにのみ生息するカビの大群。日本の麹は、「散麹(ばらこうじ)」と呼ばれるタイプのもので、麹カビを蒸した穀物(米、麦)や大豆の粒に種麹を播いて繁殖させる。
 ちなみに、醸造業界では、種麹のことを「もやし」とも呼ぶ。一説によれば、これは、麹菌が繁殖していく際に、芽を出し、白っぽい菌糸を出していくさまが、木々の芽吹きに似ている
ことから、その芽吹きの様子を表す「萌える」と言う言葉を語源として、「萌やす(萌やし)」→「もやし」になったとのことである。

●麹=蒸した米、麦、豆などに種麹(麹菌の胞子)を振りかけて、麹菌の増殖に適した温度管理を行って繁殖させたもの。麹菌の繁殖が進むにつれ、酵素の働きにより、穀物は糖やアミノ酸に分解される。
 麹は、使用される麹菌と穀物の種類の違いによって、その性質もさまざまに分かれる。たとえば、酒造りの際、精白の高い酒造好適米を用いて吟醸酒を醸すための麹と、精白の低い一般米を用いて普通酒を醸すための麹とでは、別の種類の種麹が選択される。
 あるいは、味噌作りの際に使用される麹は、生産エリアの気候風土によって、米、豆、麦の選択肢が異なる。東北、北陸、関東、関西地区では、米麹の使用が一般的だが、愛知・岐阜・三重の東海三県では豆麹が、九州地区では大麦が伝統的に用いられることが多い。
 種麹が繁殖することで完成を見る「麹」は、それぞれの特性に応じて、日本酒、醤油、味噌、みりん、酢、焼酎、甘酒、漬け物などの醸造物に使い分けられていく。

これら種麹のそれぞれの性質、適性、用途を把握した上で、醸造業界各社へと種麹を頒布するのが、種麹屋と呼ばれる人たちである。

日本における種麹の使用は大変に古く、酒の神様と呼ばれた坂口謹一郎博士の著作『日本の酒』(1964年)によれば、と記されている。

種麹屋の起源としては、今から600年近く前の室町初期に、お寺の行事に奉仕するための神人(じんにん)には、幕府から酒麹役(しゅきくやく)、すなわち麹を造ることに対する税金を免除されるという特権が与えられ、これがきっかけとなって京都における「麹座」が成立し、洛中洛外における麹の製造販売の特権を保有したという。

また、京都で350年ほど前から続いているといわれる「菱六」という種麹屋さんでは、足利幕府の免許の判型を今でも商標として使用しているのだそうだ。

種麹の製造・保有には、先祖伝来の特殊技能が必要となり、それらは各家の門外不出の情報となっているため、異業種、新参者の参入は極めて難しいといった業態となっている。それゆえに、現在、種麹を商う業者は、北陸に一軒、九州に二軒といった具合に全国でも十数軒しかないという稀少な存在だ(MAP参照)。

そのうちの一社が、今回取材に伺った北陸唯一の種麹屋「石黒種麹店」。会社組織としての創業は、明治28年だが、江戸時代中期より家業としての製麹業は続けられてきたそうだ。所在地は、富山県北西部に位置する南砺市福光新町。お隣の石川県と同様に、加賀百万石由来の豊穣な食文化と山海の幸に恵まれ、麹を用いた保存食や清酒の製造などもいまだ盛んな土地である。江戸時代の建物だという趣のある商家には、一人、また一人と、甘酒を買い求める人たちが、ひきもきらずに立ち寄っていく。甘酒は、飲用だけでなく、厳寒期のうちに漬け込むかぶら寿司のために使用されるものだ。