タイプ
その他
日付
2008/4/9

第12弾「雪菜」(1/5)


「食のたからもの取材レポート」第12弾は「雪菜」をお届けします。雪菜は、カブのトウ立ちしたものを晩秋に植え換え、雪の下で古葉の栄養素を吸って伸びた芽の部分だけをいただく、固有の風味と食感をもった野菜です。豪雪地帯の冬の貴重な栄養源として多くの手間をかけて栽培されてきた雪菜にも、近年の異常気象や後継者不足といった問題は迫ってきています。東京財団・研究員の島村菜津氏が山形県米沢市に取材しました。








――――――――――― <目次> ――――――――――――
1.なぜ、たからものなのか
2.どうやって作られるのか
3.どんなところに残っているのか
4.どこで買うことができるのか/5.人物紹介

6.マップ カブ菜やカブのトウ(在来種)と漬け物文化

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■English Version→  Yukina


1.なぜ、たからものなのか


高貴なる漬物


現代の日本で、店先に並ぶ漬物にはさまざまな添加物がほどこされている。甘味料のステビアや甘草、着色料・・・本来、漬物は、塩分や味噌などを加えて、重石をしてやることで、もともと野菜に付着している強い乳酸菌を増やし、うまみを引き出し、保存性を高めるという古来の知恵だった。ところが、近頃は、重石も使わず、化学調味料を加えた即席の漬物が出まわり、本来は保存食であるはずの漬物に、時に保存料のソルビン酸などが加えられている。

その一方で、各地には、その気候と土壌でこそ育つ、さまざまな在来の野菜の味を生かした、添加物など一切、入らない正統派の漬物を守り続ける人たちもいる。

カブの歴史は大根より古く、8世紀頃には、中国経由で伝わったと考えられているが、日本には、冬場の貴重な栄養源として、カブのトウ立ちしたものを漬け物などにしていただく地方がある。その極みとも言えるのが、山形県米沢市の上長井地区で作り続けられてきた雪菜のふすべ漬けであろう。みずみずしい食感と、ほのかな甘みがあり、後味にはさわやかな辛味がくる。噛みしめれば、降り積もる雪の気配を感じるような深く、デリケートな味わいは、他に類を見ない。

雪菜は、カブのトウ立ちしたものを、晩秋に植え換え、雪が積もるのを待ち、雪の下で、古葉の栄養素を吸って伸びた太く白い芽の部分だけをいただく贅沢な野菜だ。雪で日光が遮断されることで白くなるのだが、これを軟白野菜と呼ぶ。同じ雪菜と名のついた菜っ葉は他の地方にもあるが、雪の下で育てられるのは、これだけである。

雪菜は、昭和5年、東京に進出する際に改められた名で、もともと、地元では「カブのトウ」だとか、「長岡菜」などと呼んでいた。そうしたことから、地元では、400年ほど前に、上杉家が、越後から米沢に持ち込んだとされる遠山カブ(上長井遠山地区に由来)に起源をもつという説と、明治以後、中国から導入された「体菜」が、在来の菜っぱと自然交雑した「長岡菜」の系統であるという説を、ともに信じてきた。長年、正確なところは不明だったが、2004年、山形大学農学部の江頭宏昌助教授による遺伝子鑑定によって、「遠山カブ」にも、「長岡菜」にも極めて近縁であることが証明された。江頭助教授は、遠山カブに何らかの別種が交配し、これがさらに明治以後、長岡菜と血を混ぜたのではないかと推測している。

雪菜は、そもそも豪雪地帯の貴重な冬の青物として、この地に導入された。その栽培は、上長井地区の約150戸の集落と極めて限られた地域に集中しており、今でも、うち約100戸で自給的に作り続けられている。だが、そのうち出荷まで手がけるのは、わずか11戸だけになってしまった。その理由としては、栽培にとても手間がかかること。苦労して育てても質のよさをとれば、落とす部分が多く、4分の1ほどの歩留まりになってしまうこと。昨今の異常気象の影響などが考えられる。

しかし、効率ばかりを重視する現代にあって、雪菜の味わいは、ますます希少である。雪の下から掘り起こされて姿を現すその新芽は、透き通るような黄緑色をしている。生産者のひとり、吉田昭市さんは、ある客に「身体にいいんですか?」と問われた時、こう答えたという。

「雪の下で育つのですから、栄養価は、成分表にしてみれば、大したことはないのですが、私は、雪の下でも育つというその生命力だけで、もう説明は充分だと思うのです。」
在来野菜研究の先駆者、青葉高氏は、この雪菜を「野菜の芸術品」と呼んで賛美を惜しまなかったという。雪菜も、ふすべ漬けも、季節限定。旬の12月末から2月末までの短い間にしか味わうことはできない。雪菜は、生でもしょりしょりと歯切れがよく、ほのかな甘みや苦みがあり、これもまた、他の野菜には置き換えられないおいしさである。

(写真左)雪菜   雪の中で古葉の栄養を使い、新しく育った芽である。
(写真右)遠山カブ 白く、肉質は硬く、甘みがあり、保存にむく。