タイプ
その他
日付
2008/5/21

第15弾「フナ寿司」(3/5)


3 どのように作られているのか


 春に獲ったフナを塩漬けにし、夏の土用の頃を目安に炊いたご飯に再度漬け直し、正月の頃にご馳走として取り出す。これが、フナ寿司の一般的な製造法であるが、微妙に(あるいは大きく)塩漬け期間や塩の種類、分量、塩漬け期間の長短、漬け込むご飯の硬軟、米の種類、醗酵期間は異なる。

 今回の琵琶湖周辺取材では、一般家庭、旅館、製造販売業と、それぞれに異なる形態のフナ寿司を見せていただくことができ、興味深かった。

 フナ寿司作りは、毎年の気候や獲れたフナの大きさ、質の違いによっても、塩加減や漬け方の加減は変わってくるし、作り手の狙いによってもそれぞれの工夫は異なる。そこをひと括りに語ることはできないので、家庭編、旅館編、フナ寿司専門店編、それぞれの製造法を分けてご紹介させていただく。

●守山市 荒木貞夫さん(個人宅で製造)の場合

 今年2008年のフナ漁は、3月中旬。昔は、5月、6月の梅雨時には、産卵期の雌ブナが自然と田圃にあがってきたが、今ではそういうことも起こらなくなったので、早朝、竹のさしあみを琵琶湖のヨシ帯近くに仕掛けてフナを捕る。ヨシは、魚が産卵のために立ち寄る、魚のゆりかごのような場所。近年、ヨシが減ってしまったことで、フナの稚魚も育ちにくくなってしまった。

 獲ったフナが新鮮なうちにウロコを獲り、エラを外し、内臓を取る。その後、塩漬け。
「塩が強すぎると、漬けても骨がいつまでも硬いまま残って、その塩梅が難しいなあ。」
塩漬け後、プラスチック製の大きなポリバケツに漬けられた魚から水分が出て、水があがってくるので、桶の上には石を乗せて重石をするが、「重石を積みすぎると醗酵が進まなくなるし、逆に軽すぎると醗酵が進みすぎて酸っぱくなってしまうから、その加減が難しい。」

 夏まで塩漬けにしておいたフナを、8月の土用中に取り出して、炊いたご飯に漬け直すが、この時はご飯5升につき、塩400グラムを混ぜる。
 約半年後に取り出すのが一般的だが、荒木さんの場合「2年漬けないと、骨までは柔らかくならない」と感じるので、取り出すのは翌年の冬から春にかけて、とのこと。

  

  


●中川茂巳さん・勝江さん(民宿経営)
  
 湖北の長浜は、琵琶湖の中でも水温が一番低いエリア。フナ漁は、4月下旬から5月上旬にかけて。前日に網をしかけておき、翌日の早朝、船を出してフナを獲りに行く。
「時間が早すぎると、魚はかかっていないけど、時間を置きすぎると、獲れているフナの身がいたみます。」

 フナの漁獲高が減ってきてからは、県の指導により、網の目も以前より大きなものに替えて稚魚を保護。全長22?以下のフナは捕らないようになった。
 フナを船からおろしたら、早速に、ウロコ、エラ、内臓 の処理をし、きれいになったエラのところから塩を詰めていく。塩漬けは、陽気にもよるが8月から9月頃まで。
その後、ご飯に漬け込む。ご飯だけで塩は混ぜない、とのこと。

「昔は、古いご飯を使ったほうが美味しい、なんて言い伝えもあったようですが、あれは、多分、お米が勿体なかったから、そんなふうに言われたんやろね(笑)」と勝江さん。
「新しいご飯を柔らかめに炊いて、フナがかくれるくらいたっぷりと漬け込むと、美味しくつけ上がるように思います」

 漬け終えた桶の中は、「缶詰を開けるのと同じこと」と考えているので、一斉に取り出して、あとは醗酵が進みすぎて味が変わらぬよう、冷凍保存する。
「酸っぱいのが好き、という方もおられるけど、うちは、お米の様子で味見をして、ちょうどいいな、という味になったら全部取り出しますね。フナ寿司は、臭いとよく言われますけれど、あれは容器の匂いがうつって臭い、ということもあるので、うちは、容器の清潔さにも気を配っています」
  

  

 


●喜多品(製造・販売業) 18代目・北村篤士さん真理子さん談

 フナは、昔からつきあいのある地元の漁師さんに頼んで届けてもらう。平成14年、15年と二年続いた不漁の時には、「フナ寿司が作れなくなったら、どうしよう」と頭を痛める日々が続いた。平成16年度は、予約だけを受け付けて、販売自体は、休止。以前は、25cm以上のフナだけを原料にしてフナ寿司にしていたが、今では、もう少し小さなフナも使って、小さなサイズのフナ寿司も販売。価格を抑えて「フナ寿司の入門編」として、味わって貰っているという。

販売店の奥にある「蔵」では、伝統的な木桶での漬け込みを今も守り続けている。塩漬け期間は、約2年以上。塩漬けを経て、塩抜きをする段階で水洗いのあと、一度、フナを日に干す。その後、ご飯に漬け込むが、喜多品では、フナ寿司の特有の臭みが出ないよう、ご飯は「二度漬け」と呼ばれる独自の方法を用いる。

「うちの自慢は、まずは、お米の良さです。漬け込み用のご飯には、近江米のこしひかりを『いなき干し』(天日干し)にしたものを使用しています。ご飯に漬けたら、まずは1年置いて、そのあともう一度きれいなご飯に取り替えて漬け直しますから、フナ寿司の完成までには3年前後の時間をかけます。取り出す時期は、ご飯の艶、醗酵の具合で見極めますね」

塩付けの蔵は、北側に。その後、ご飯に漬け直したフナの桶は、醗酵のための温度が必要となるため南側の蔵に置く。
「家族4人だけの小さな商売を守って、昭和30年代以前の製造業の姿でやっていけたらいいな、と思っています」。