タイプ
その他
日付
2008/6/4

第16弾「菜種油」(5/5)


6.人物ファイル



■宮佳子さん、宮茂さん

宮佳子さんが大きな影響を受けたのは、NHKの名アナウンサー鈴木健二氏の「青森塾」。3ヶ月に一度、全部で7回ほどの講義、4年で約700人の弟子たちを輩出した内容の濃い勉強会だったが、これを通じて青森の歴史と文化の深みに圧倒された。宮さんはその第一期生。2003年、「菜の花トラスト」を始めた時も、鈴木氏は何かというと様子を見に来てくれた。

塾で教わった教訓は「自分は何も知らない人間だということを知りなさい」。そして「口はひとつで、耳二つ、つまり、しゃべるより聞け」「交渉ごとは、先にしゃべった方が負け」などなど。

そんなわけで、3年前、補助金を得て始めた無焙煎一番しぼりの菜種油作りは、スローだが、格段に進歩。昨年、にわかにそのおいしさがマスコミにも注目されるようになった。だが、宮さんはあくまでも謙虚。「ましてや、自分は素人ですからね。」
青森塾では、「下手だったら、丁寧に」とも教わった。

また、副会長として、トラスト運動を支える夫の宮茂さんは、静岡県清水の出身。もともと大手石油会社に勤務、仕事で下北半島へやってきた彼も青森塾の一期生。塾をきっかけに、地域のために何ができるかと考え始めていた13年前、横浜町で「菜の花プラザ」という直売所を立ち上げる話があり、世紀の転職。現在も店長。

トラストの畑では、地元の小学生たちに農作業を体験させたり、2006年からは、会員から参加を募って『夜観菜会』と称し、夜の菜の花をライティング、今年は、八戸のイタリア料理屋『オステリア・デリ・ボルゴ』の料理長、滝沢英哲氏を迎えて、地元食材を使った食事会を開いた。トラストの会員は、横浜町民、それ以外の県内、県外が3分の一ずつ。「運動は、あと3年で10周年を迎えるんです。そろそろ、プレミアムオイルの企業への転換を迫られているのかな」。

搾油担当の28歳、息子さんに期待がかかる。





●『菜の花トラスト in 横浜町』
TEL 0175-78-2011
FAX 0175-78-2091
URL  http://www.h4.dion.ne.jp/~natane/



■野坂充 横浜町長

昭和26年、横浜町生まれ、父もかつて町長を務めた。議員を経て、町長となって4年目。実家は精米所、3年前から民宿『菜の花館』を経営。こちらは奥さんが切り盛りする。

「やはり、じゃがいもや長いもとの連作体系の中で、菜種というものを続けているのが、長い目でみれば正解だと思うのです。長年の積み重ねで、土壌はできあがっていると思うと、何とか町で全面的にバックアップしたいのですが・・・」と菜の花の町づくりには、積極的。実家の耕地の一部も、原料が足りないというトラスト運動に提供した。

ところで18年間この町は、菜の花作付面積が日本一だったが昨年からは、合併によって地域が広がったことで、北海道の滝川町に一位の座を奪われた。それでも、海を見下ろす丘陵地帯に菜の花が咲き乱れる様子は、まるで極楽浄土。

「横浜町は、ホタテやナマコも有名です。ナマコは、正月用に出る全国でも一番と言われるほど質が高いもの。それに、町に残る神楽は無形文化財ですよ。」一番、好きな場所で写真をとりたいと言うと、鎮守の森が美しい「八幡神社」に案内してくれた。菜の花を楽しみ、トレッキングや海水浴に訪れる人たちが、必ず立ち寄る人気の直売所「菜の花プラザ」を平成6年にオープン。町が9割を出資し、農協や漁協と共同経営。 

「今のような時代に、どこで、どう作られたかが目に見える食品は、本当に貴重。大きな意識改革が必要だなと感じています。しかし、消費者も少し変わってきたのかな。平成19年度には、『菜の花プラザ』の地元で作られた産品の売上げが、前年に比べて15%も伸びたんです。」

●「菜の花フェスティバル in よこはま」の問い合わせは横浜町役場(産業建設課)
TEL 0175-78-2111
FAX 0175-78-2118


■澤谷昭四郎さん、昭さん、久美子さん

澤谷家が、この地で養蜂を始めて昭さんで3代目。長いこと勤め人だった昭さんは、横浜町の無農薬の菜の花で蜂蜜を作れば差別化もできるのではと、地元に戻って実家の養蜂を継いだ。

澤谷養蜂園では、いろいろな蜂蜜を作っているが中でも「菜の花生はちみつ」は、しっとりと舌触りもよく、ほどよい甘さがやみつきになる。これは、加熱してないことで、結晶した蜂蜜。加熱すると半減する消化によいというジアスターゼも豊富だそうだ。他にも、加熱した従来の「菜の花のはちみつ」、下北半島の国定公園で集める「とちのはちみつ」、地元上北郡の森の「アカシヤのはちみつ」、今年からは、地元の家々がよく防風林として植えている「うつぎの花のはちみつ」も始めた。また、ヨーロッパでは、人気の高い巣蜜や蜜蝋を使ったキャンドルも作っている。石油でつくる普通の蝋燭よりも、地球に優しい。それに「蜜の種類によって色も香りも違うので、アロマセラピーでは人気なんですよ」と久美子さん。

「安い中国産などに対抗するには、質の高さしかない。この横浜町の自然と共存する新しい蜂蜜、そして高品質のものを作っていきたい」と昭さんは言う。

菜の花の時期には、畑のすぐそばの静かな木陰に、蜂箱を並べている。「蜂は、農薬にもデリケートですから。一度巣箱の周りで、いっぱい死んでいたことがあったんです。あれは、お米の農薬ではないかと思います。とにかく、ここで無農薬の菜種が作り続けられてこその私たちも仕事ができるのですから・・」と久美子さんは心配そうだ。
下北半島の冬は蜂たちには酷なので、11月下旬から4月まで、千葉県に蜂箱を運んで、蜂たちは、そこで越冬するそうだ。


●澤谷養蜂園 
青森県横浜町字中畑40-6
TEL&FAX 0175-78-2995
URL http://sawaya-yoho.jp/



■安田大三さん、村瀬行信さん
 
油の9割以上が添加物も多い混合油、サラダオイルという現状の中で、ずっと菜種油一筋でやってきたのが埼玉県熊谷市にある米澤製油。
1976年、この米澤製油と生活クラブ生協をつないだのは、東京都目黒区の油問屋・安田油店の安田大三さんだった。安田さんは、その生活クラブ生協などとともに、幾度も廃止されそうになった菜種の作付に関する補助金の必要性を国に陳情し続けてきた。安い外国からの油に比べれば、価格競争では太刀打ちできない国産だが、少なくとも0,05%からもう少し自給率を戻したいと奮闘してきた。
また現時点で、日本が菜種油の原料を大きく依存しているカナダでは、その7割を、すでに遺伝子組み換えナタネが占めている。こうした状況にも危機感を覚える消費者と小さな製油会社が提携、米澤製油では、遺伝子組み換えでないオーストラリア産の菜種をブレンドし、さらに手に入れやすい価格にした製品を販売するようになった。今年からは、「大地の会」でも扱い始めたという。
安田さんは現在、米澤製油の東京出張所を兼ねつつ、菜種畑を校庭に作った地元の小学生たちに、油のことを教え始めた。

現在、米沢製油三代目社長、米澤祥さんのもとで働く村瀬行信さんは、長年、大手の製油会社でも技術指導を行ってきた専門家。「脱酸する苛性ソーダ、ガム質をとるリン酸、それに漂白する活性白土といった合成化学物質は、細心の注意を払って、普通の製油会社でも使っているし、即、危険だということではないんです。しかし、ここでは、カネミ油症事件の時、『そんなおっかない油を作るんじゃねんぞ』というおばあさんの教えを守って、これを一切使わないことに決めたんです。」
実際、これほどトレーサビリティーを確立した工場も珍しく、ここでは工業の排水まで、きれいに浄化してから流していた。
「無から市場を作り上げてきた」安田さんによれば、米澤製油の油は、あくまでも「素材の味を引き立てる油、あらゆる料理に向く油」だ。



取材・文:島村菜津
撮影:堀口宏明